Interview:KM、KLOOZ、SHINTARO KUROKAWA
ここ数年、楽曲のクレジットに、あるトラックメーカーの名前を見ることが増えた。その名はKM。トラックメーカーであり、プロデューサーでもある彼は、kiLLa、BAD HOP、KANDY TOWN、SKY-HIなど、メジャーアーティストへの楽曲提供やRemixワークに加え、AbemaTVのオーディション番組「ラップスタア誕生」でのトラックを手掛けていることでも知られる。
2017年の末には自身初となるInstrumental作品集『lost ep』をリリース。そしてとうとう、満を持して9月19日(水)に、KM本人名義のアルバム『Fortune Grand』が発売された。本作はKMがトラック制作からミックス・マスタリングまでを総合プロデュースし、MCのKLOOZがボーカルディレクションを担当。
そして客演には、RENE MARS、ACE COOL、Weny Dacillo、Taeyoung Boy、Lui Huaといった若手注目株のラッパーから、kiLLaのYDIZZY、そして田我流までが参加している。
サウンド、リリック、MV、ジャケット……すべてにおいて、国産HIPHOPの新機軸を提示するかのようなこのアルバムについて、KM、KLOOZ、そしてアートワーク&MVディレクターを務めたSHINTARO KUROKAWAの3人にたっぷり話を聴いた。
KMのビートはラッパーからすると、“余白”を残してくれてる(KLOOZ)
——まず、アルバムのタイトルにもなっている『FORTUNE GRAND』。これにはどういった意味合いが込められているのでしょうか?
KM そもそもアルバムを作ろうと思った時に、僕はプロデューサーなんで、歌い手さんを集めないといけないと。そこで「こんなイメージなんだよね」っていうのをKLOOZくんに伝えて、ACE COOLとかRENE MARSとか歌い手を選んで候補を出してほしいとお願いしたんです。あとは実際にデモが上がってきたら、「こういう歌い方の方が良いんじゃないかな」とか、ボーカルのディレクションもKLOOZくんにお願いしました。
KLOOZ 「レコーディングの方は俺に任せてよ」って言って。KMくんと連絡しあって、構成についても話し合ったり、コネクトさせてもらったりとか。
KM そうやってるうちに、2人でもいろいろできるねってなった。一応、今回のアルバムは僕名義でやってるんですが、そういう意味でFORTUNE GRANDっていうKLOOZとのプロデュースチームがだんだんと形作られていきました。
——〈FORTUNE GRAND〉は訳した場合、どういう意味なんですか?
KLOOZ 元々は自分を筆頭に立ち上がったレーベルで〈ForTune Farm〉っていうのがあって。Fortune自体は幸運や富って意味で、僕たちはTを大文字にしてるんですけどForTune Farmで“音楽のための場所”っていう意味にもなってて、ダブルミーニングのコンセプトがあるんです。それが先にあった上で、KMくんとは音楽でもっと世界を目指したいというか、世界に通用する音楽を作りたいねっていう想いから、壮大の意味を持つ“GRAND”にしたんです。
KM 最初、KLOOZくん間違えてましたよね。
KLOOZ そう。
一同 ハハハ!
KM FORTUNE “GROUND”でイベント打っちゃってた。
KLOOZ 言うの遅いんだもん!
KM 正しくはFORTUNE GRANDです。
——間違えずに書いておきます。今回、制作はいつぐらいから始まりましたか?
KM そもそもビートはすごい溜まってたんですよ。2017の4月ぐらいから……2016年もあるかな。そのころに作ってたビートを最初ラッパーに渡したんですけど、僕的に2016年のビートに飽きちゃってて。結局、ほとんどやり直したよね?
KLOOZ うん、やり直した。
KM ビートを渡して、アーティストには最初「それはタイプビートだと思ってくれ」みたいに言いました。明らかにそれを作った2016年の時より、僕の中でできることが増えていたので。そういった意味では、制作期間は今年5月からなので3ヵ月くらいです。ビートの原型はもうあったんでわりと全体の構想はスムーズに進みました。
——ではこの曲数、このメンツって固まったのはけっこう最近の話なんですね。
KM 8月に入ってからですね。しかも苦渋の決断で削ったりしてるんですよ。
KLOOZ そうだね。
KM 僕はマスターまで全部やるんですけど、いつも納期ギリギリまでやっちゃうんですよね。昨日は納得してても、朝起きたら「ちょっと違うな」みたいなことがけっこうあるので。
——以前、粗悪ビーツさんと対談された記事を拝見したんですけど、かなり細かくビートを調整する性格だと仰ってましたね。
KM そうです。めちゃくちゃ細かいんですけど、徹夜続きの時とかは前日に作ったビートを朝に聴くと、疲れもあってかスネアの音色が違って聴こえたりするんですよ。さらに納品日に聴いたら「ちょっとこれ不協和音だな」みたいな。本当にギリギリまでご迷惑をおかけしました。この場をかりて。
一同 フフフ……。
——「できることが増えた」っていうのは具体的にどんな部分ですか?
KM まずここ最近だと、kiLLaはマスタリングもやって欲しいっていう依頼が多くて。だからボーカルのマスタリングっていうのは、kiLLaとやったことで特に自信を持ってできるようになったんです。chaki zuluさんに教えてもらったことを咀嚼しながら試行錯誤でした。2016、2017年はすごく勉強した期間でしたね。kiLLaはけっこう連絡してきてくれて、中でもYDIZZYとかはいつも突然で。
——今回もYDIZZYさんは突然でしたか?
KM 今回もまた突然です。「なんか降って来ました」みたいな感じで連絡きて。
——田我流さんに関しては後ほど伺うとして、それ以外のメンツは、いわゆる今注目の若手がそろっていますね。
KM そうっすね。それはけっこうKLOOZくんが紹介してくれました。
——MVが公開されている“Distance”は、Weny DacilloにTaeyoung Boy、そしてLui Hua。
KLOOZ 今しかできないんじゃないかなっていう。
KM この曲のビートはいろんな人に聴かせていて、一番人気があったんですよ。「これやりたい!」って勝手にラップ録ってくるやつとかもいて。
KLOOZ とりあえず、Weny Dacillo(以下、Weny)とLui Huaも勝手に書いてたっていう。
SHINTARO KUROKAWA そういうパターンなんだ。書きやすかったのかね?
KM まあ僕はこのビートに一番時間かけましたね。というのもすごいシンプルなビートなんです。シンプルなのが一番難しい。
KLOOZ でもKMのビートはラッパーからすると、“余白”を残してくれてる感じなんですよ。無限の可能性というか。”Distance”のトラックは特にそれが強かった。
KM まあけっこう厳しいことも言いました。あれを録ったあたりから疲れが……。
KLOOZ Taeyoung Boy が最後に録ったんですけど、それが終わった時は2人ともホッとしたよね。肩の荷が下りたっていうか。
KM 俺もあとはKUROKAWAさんに任せようって。
SHINTARO KUROKAWA 聞いてなくてよかったなと思いました。あの曲はけっこうスケジュールが押してたのでヒリヒリしてましたから。
KM ヒリヒリしましたね〜。でもあの曲は奇跡的にできたと思うんですよ。一番早く書いたのがLui Huaで、Lui Huaは歌詞をその時点でWenyには送ってなかったんですけど、偶然2人のテーマが一致したという。
SHINTARO KUROKAWA そう聞くとすごいね。
KLOOZ すげー! みたいな。Wenyのレコーディングは鳥肌立ったっすね。「同じ空の下」っていうワードが出てきて、Lui Huaが「この声天まで届け」みたいなことを言ってて。
KM そうですね。そこはノーディレクションでした。