僕らは「固定概念を外す」っていう固定概念にとらわれた世代(SHINTARO KUROKAWA)
——MVは最終的にKUROKAWAさんの中でどういうイメージでまとまったんですか?
SHINTARO KUROKAWA やっぱり若者のアンセムというか。今まで音楽を通して得た個々の経験や想いだったり、「音楽が好きで苦労してきたんだな」といった足跡だったりを、うまくまとめようっていうのはありました。あとは曲が素直というか綺麗というか、さっき言ってたようにシンプルなだけに、やっぱビデオにもいろいろ入れない方がいいねって。例えば、今流行りのスタビライザーを使ったムーブの早い動画だったりとか、ドローン入れたりとか。今の主流のビデオで見たことあるようなものは、なるべく削ぎ落とした方がいいなと思いました。
KM 「Distance feat. Weny Dacillo,Taeyoung Boy & Lui Hua」
——音のシンプルな美しさと、言葉の泥臭さがうまく混ざり合って、とてもエモいMVですね。
SHINTARO KUROKAWA 今って脚色してるビデオがすごい多い気がするんですよね。そういうビデオも好きですけどこの曲にはそういう手法を使うべきじゃないじゃないなと思いました。
KM 今回はKUROKAWAさんに一任って形で、ビジュアルとビデオを全部お願いしてたんです。
SHINTARO KUROKAWA ジャケットに関しても、KMのパーソナルな部分を作りつつ、なおかつシングルを並べた時の戦略とかも提案させてもらって。
KLOOZ ニューヨーク行ってた時っすよね。めっちゃ朝早くに連絡きてて。
SHINTARO KUROKAWA そう。たまたまこの話が具体的に動き出した時、ニューヨークに2週間行ってて。アイディアがあふれてました。ジャケットは1枚目、2枚目、3枚目っていうのがはっきりわかるビジュアルにしようと。コンセプトや形式はいっしょにして、今回のアルバムというか作品群を、ジャケットでわかりやすく表現したいっていうのは意識しました。
——ジャケットを見て「アートディレクションが入ってるな」と感じました。
SHINTARO KUROKAWA もうちょっとカッコつけようと思えばできたと思うんですけど、音楽があまり詳しくない人にもわかりやすくっていうのもありました。
KLOOZ なるほど。KMも超気にいってたよね。
KM あと「パッと見で王道のヒップホップのアルバムには見えないようにしてほしい」って言いましたよね。紹介文にkiLLaとかBAD HOP を〜って書いてあるので、聴く人はトラップスタイルの音を予想すると思うんですよ。今回、スタイルとしてはそういうのもやってます。ただし、田我流さんとYDIZZYのファン層って全然違うし、アルバムを通して聴いた時にそのまま全員すらっと心に染み込むようなものを目指しました。10代の頃からメロディックなラップやミクスチャーバンド、アンダーグラウンドなダンスミュージックやエレクトロニカを好んで聴いていて。だから今のトラップスタイルにロックとかダブの要素を混ぜるのっておもしろいなと。だからその10代の頃にハマっていた日本語ラップの良さを、2018年に蘇らせたかったんです。
KLOOZ でもアルバムの曲は現行のトラップとかでは無いけど、ノリはトラップ。そのグルーヴを出せてるアーティストが多いんですよね。
——海外のアーティストと絡んだりもしている世代だからこそ、すんなり乗りこなせるというか。
SHINTARO KUROKAWA 僕らの時と違って吸収力が違いますよね。そもそも固定概念にとらわれてない世代なので。逆に僕らは「固定概念を外す」っていう固定概念にとらわれた世代だと思う。ヒップホップっぽくしたくないけど、そうなっちゃうというか。音楽やファッションなどの、ルールや形式上のものをすごい意識した世代なので、若い子たちはすごいなって思いますよ。
自分のスタイル、自分のアイデンティティを最大限に生かしたヒップホップをやってほしい(KM)
——若いといえばKvi Babaくんなんて1999年生まれですもんね。
KM あいつ、この名義で2年間やってダメでもハタチなんですよ。
一同 ハハハハハ!
KM 最初はDMが来たんです。その後半年くらい経っちゃったんですけど、聴いてみたら良くて。12曲くらい送ってきたんですよね。
KLOOZ それで”Feel The Moon”に。KMくんから「Kvi babaくんっていう面白いラッパーがいるんだけど」っていう話を聞いて、音源聴いたらめちゃくちゃ良かった。
——KLOOZさん的に、ラッパーとして意識した部分ってありますか? “Night Owl”とか。
KLOOZ 「KMくん、実はこういうのやってるんだけど」って送ったら、KMくんが「もっと良くなりますよ」みたいな感じでビートを変えて送ってきてくれたのが“Night Owl”。元からマキシ・プリーストのフックは使ってて、そのキーに合わせてKMくんが再構築してくれました。
——アルバムの中にはママとかパパの曲もあって、温かみが要所にありますよね。
KM “夜のパパ”の田我流さんは、最後の最後で参加してくれることが決まって。
KLOOZ ミーティングでこのビート良いじゃんってなった時に、「これ誰が合う?」っていうので田我流さんだと。そしたら奇跡的に“Mama feat.Kvi Baba”って曲もあって。
——あのリリックのインスパイア元は、忌野清志郎さんの “パパの歌”ですよね?
KLOOZ あーそれ言ってた!
KM 言ってましたねそれ! 忘れてた!
KLOOZ だいぶ大事だよ!
——フックのところも昼と夜が入れ替わって。
KM 田我流さんも仰ってました。
KLOOZ アルバムの最初の構築段階の流れではユース世代の色が強かったんですけど、この曲でもっと幅広い世代へ語りかけられるアルバムになったと思います。
——子供がいると、さらにグッときちゃいますよね。
SHINTARO KUROKAWA ベテランが入ってるのはすごい良いなと思った。リリックとか言い回しが浅くないというか、曲に厚みが出る。
——まさにアルバムの最後を締める曲でした。改めてアルバムが出来て、達成感はありますか?
KM まだあんまり……。そのまんま制作が続いてる感じですね。
KLOOZ 制作が早いので、本当に常に作ってる状況なんですよ。
——これを機により活発になると。
KM そうですね。
KLOOZ これからリリースするのもあるもんね。
KM 「今回やってみて、もっとこういうのもやりたい」とか出てきてるし。
KLOOZ Ace Coolも、自分じゃ出せなかったノリをKMくんのビートで出せたっていうのをすごい言ってて。新しい可能性が出てきていると思います。
KM 若手には変にUSを意識し過ぎたのもじゃなく、自分のスタイル、自分のアイデンティティを最大に生かしたヒップホップをやってほしいという想いがあります。背伸びしたかっこつけも若さの魅力とは思うんですけどね。ビルボードチャートとかで最新を知ってた方がアーティストとして良いと思うんですけど、ただそれに縛られ続けると、結局USが主流・源流になっちゃう。日本はそれこそBUDDHA BRANDとか、あの世代の人たちはUSを踏まえつつもすごいオリジナリティがあったと思うんです。日本のレジェンドたちが築いた日本語ラップというカルチャーと今の若い子のいわゆるUS感を融合して、新しいシーンができれば、日本のヒップホップはもっと聴かれるし、面白くなるんじゃないかなと。僕はそういうのが聴きたくてこのアルバムを作りました。僕自身がこういうアルバムを聴きたかったし、そういう人って実は意外と多いはず。日本人が素直に、日本人の感性のままヒップホップをやれば、単純に新しいカルチャーシーンができるんじゃないかなと思うし、作っていきたいです。
RELEASE INFORMATION
FORTUNE GRAND
NOW ON SALE
KM
価格:2,300円+税
品番:LEXCD18013
JAN:4560230527624
ジャンル:J-HIPHOP
仕様:国内CD1枚組
ジャケット
Dir / Shintaro Kurokawa
Artwork / Takashi Yamada
Tracklist
1. Movin’ Forward to 6 feat.KLOOZ , Lui Hua
2. Superstar feat. RENE MARS, ACE COOL
3. 24/7 feat. ACE COOL
4. Green Tea feat.Weny Dacillo
5. Distance feat.Weny Dacillo,Taeyoung Boy,Lui Hua
6. Mama feat.Kvi Baba
7. Don’t Know Why feat.Taeyoung Boy
8. Angel for the Devil feat.Lil Blue Steel, KLOOZ
9. Romance feat.Weny Dacillo,Hideyoshi
10. Night Owl feat.KLOOZ
11. Caddy Girl feat.KLOOZ,MABU
12. Sureta Angel feat.YDIZZY
13. Sorry feat.Lui Hua, ID
14, Ground Zero feat. Lui Hua, TOKYOTRILL, FUSER, LUNV LOYAL
15. Ego Trip feat.JIROW WONDA
16.夜のパパ feat.田我流
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interview&text by ラスカル(NaNo.works)
Photo by 加藤潤