――今回はそんな新作『ダブル』に「影響を与えたかもしれない曲」というテーマでプレイリストを作っていただきました。みなさんは小さい頃や学生時代、プレイリストを作るのは好きでしたか?
山崎 私は小学生の時に、友達と3人でインチキラジオ番組を作っていたんですよ。そこに音楽のコーナーもあって、当時流行っていた光GENJIをかけたりしていましたね。その後、中学になると当時使っていたラジカセを窓に向けて、毎朝の車の音や鳥の鳴き声を録っていましたね。「この日ってもうないんだな」「それを残さないといけないんじゃないか」と思って。当時はかなり心配されました。「趣味があぶない」と。
――(笑)。戸川さんと窪田さんはどうですか?
戸川 僕はあまり記憶にないですね……。何かあればいいんだけど(笑)。
山崎 でも、今回私が選んだ空気公団の“たまに笑ってみたり”は、最初に聴いたのは戸川さんのプレイリストだったんです。初めて会った時に、「こういう曲を作ってるんです」と渡された曲で。
――ああ、なるほど。
窪田 僕の場合はTVのオープニング・タイトルがすごく好きで、小さい頃夕方に色んなアニメやドラマの再放送などをよく録っていましたね。『新オバケのQ太郎』とか、『ジャングル黒べえ』とか、『マイティ・ハーキュリー』や『あしたのジョー』もそうでした。今はYouTubeでも観れますが、その頃の主題歌って音楽的にも高度だったりするんですよ。
――メンバー間でプレイリストを渡して、情報交換をすることもありますか?
一同 (口々に)全然ないです(笑)。
窪田 僕らはサウンドのお手本をトレースするような作り方ではなくて、曲の主人公やその曲が持っている景色を共有して作るんです。元ネタ史上主義のようなものって、どうなのかな? と思う部分もあるんですよ。
――だからこそ今回のテーマも「新作に影響を与えた“かもしれない”曲」ということなんですね。では実際に楽曲について聞きたいのですが、山崎さんの1曲目は空気公団のはじまりの曲、“たまに笑ってみたり”。山崎さんのリストはすべて空気公団の楽曲です。
山崎 曲を作る時は、まず自分たちの既存曲に注意して作ります。それもあって「この曲がなければ(新作も)なかったな」と思って選びました。私は曲も人みたいだと思っていて、生まれたら言葉を覚えさせて、服を着せて外に出す、という風にしたい。最初に聴かされたものは、戸川さんのヴォーカル入りでした。戸川さんが歌詞もつけていて。
戸川 そうだったっけ?! (笑)。
山崎 でも、「この歌詞じゃない方がいいのかな」と思って、私が歌詞とタイトルを変えたんです。
―― 一方、戸川さんが選んだのはベン・フォールズ・ファイヴ。ファーストの曲ですね。
戸川 あえて言えばですが、この曲は全体的にひずんでいる雰囲気が“ベン・フォールズ・ファイヴ”に似ていると思うんです。ロバート・スレッジのまるで歌っているようなベースが好きで聴いていましたね。
Ben Folds Five – “Jackson Cannery”
――なるほど。続く窪田さんのダリル・ホール&ジョン・オーツは、新作で言うとインスト曲“不思議だね”に似ているように思えました。
窪田 そうなんです。“不思議だね”は英語が乗りやすい歌メロがあるものをインスト化してみようと作ってみたら、結果的にダリル・ホール&ジョン・オーツやトッド・ラングレンのようになりました。
Daryl Hall & John Oates – “One On One”
――山崎さんの2曲目、“ビニール傘”はどうでしょう?
山崎 この季節(梅雨)にCDを出すのは初めてなんですが、「それならビニール傘が必要だ」という理由で選びました(笑)。過ぎていく日々に色々なことを思うのは今でも変わらなくて、2~3階建ての喫茶店の窓から外を見ていて、ぽつぽつと雨が降り始めた時に傘が広がっていくような風景とかを、自分の中に取っておくんです。
――続いて、戸川さんの2曲目はアイズレー・ブラザーズですが、これは“失ってしまった何ものか”に影響を与えたかもしれないということですね?
戸川 『ダブル』では、ゆかりさんがこれまでやっていなかったような種類の楽曲を色々と書いていると思うんですよ。そういう新しいドアを開けた感じの曲を、僕も作ってみたんです。
THE ISLEY BROTHERS – “SUMMER BREEZE”
――原曲のロナルド・アイズレーのヴォーカルと、山崎さんのヴォーカルは全然タイプが違うのが面白いです。
戸川 どんな曲でもゆかりさんが歌うと空気公団になるんだな、と改めて感じました。(曲の)語り部的な位置は崩さない人なんだな、と。この曲はGREAT3のファースト・アルバムに入っていて、そこから好きになったんですよ。
――窪田さんの2曲目はバリー・ホワイト。これも意外なチョイスです。
窪田 今回“僕にとって君は”のアレンジをしている時に、「バリー・ホワイトみたいだ」と思ったんです。弦楽器の感じもそうだし、リズムがタイトで、エモい感じがあるところもそうですね。70年代のバート・バカラックのライヴ盤を聴いたりもしていたので、そういうものもふいに顔を出したのかもしれません。作ってみてそう思いました。
Barry White – “Never never gonna give you up”
――山崎さんの3曲目は、空気公団の“それはまるで”ですね。
山崎 この曲は歌詞がすごく好きなんです。誰かと一緒にいて別れがつらい時に、明日(が来るの)を憎むというか。その気持ちを80%ぐらい描写することで表現できたと思っている曲ですね。『ダブル』は色んな要素があるアルバムですが、それが全体としてはうまく収まっているという意味でも、この曲に似ているのかなと思ったんですよ。
――なるほど。続いて戸川さんが選んだRCサクセションは、「“あなたの朝”を聴いた時の感覚と似ている」とのことですが、特にどんなところに共通点を感じるでしょう?
戸川 楽しいと悲しいの間のように、一言では言い表せない感覚が似ていると思うんです。RCサクセションは、大人になってから本当のよさが分かったような気がします。歌のすごさもバンドをはじめてから分かるようになったし、今聴くとギターも絵のようで芸術的ですね。
――そして最後は窪田さんのヴェルヴェット・アンダーグラウンド“Candy Says”です。
窪田 この曲は前作の『ホワイトライト/ホワイトヒート』でめちゃくちゃした後の3作目で、おとなしい雰囲気ですよね。でも刃物を持っているような感じが曲から感じられる。それは空気公団にも通じるものだと思っているんです。『ダブル』だと特に、1曲目の“変化する毎日”。世間的に“癒し”があると言われる曲でも、自分にはそんな風には思えないんですよ。
The Velvet Underground – “Candy Says”
――今回それぞれが選んだリストを見て、どんな風に感じましたか?
山崎 戸川さんや窪田さんがどんな音楽を聴いているかを、普段あまり知る機会がないんですよ。だから、「ふーん」という感じで。
戸川 負の感情なしに、それは僕も本当にそうです(笑)。
窪田 (笑)。こうして喋ると自分で納得する部分もありますし、2人が選んだものを聴いても「なるほどな」と思うところがありました。喋ることで腑に落ちたというか。
山崎 空気公団って、結成してから今まで「こんな感じにしたいんだよね」と音楽を持ち寄って曲を作ったことが本当に一回もないんです。「これを見て」と言って持ってくるものは、映像とか「この色にしてほしい」とか、そういうものしかないので。
――音楽でないものを共有して、音楽が生まれていくんですね。
戸川 たとえば、最近自分が好きで聴いている音楽を2人に言っても、まったく反応がないという経験を、もう何年もしてきているんですよ(笑)。
――今も、みなさんまったく否定していないですし…。
一同 はははは。
――空気公団は窪田さんが加入してから今年で10年、来年にはバンド結成から20周年を迎えます。初期の頃と比べて変わったところ/変わらないところはあると思いますか?
山崎 当時は手がかかる子供という感じでしたね。今は19歳なので、そろそろ立派な大人です。
戸川 レコーディングも昔に比べて早く進むようになりましたね。
窪田 自分が途中で加入して、その後ライヴをするようになって、現場で曲が変化していくのを感じました。最近でも花澤香菜さんのプロデュースをしたりと(“透明な女の子”を山崎さんがトータル・プロデュース。ジョイント公演も実現)、活動していく中で色んな人との出会いも広がってきましたね。
山崎 でも、空気公団にとって大事なのは音楽で、私たちメンバーはその後ろにいる人でいい。それはこれまでも、これからもずっと変わらずに、大切にしていくことだと思いますね。
RELEASE INFORMATION
ダブル
2016.07.06(水)
空気公団
¥3,056(+tax)
EVENT INFORMATION
空気公団『ダブル』LIVE TOUR
2016.10.09(日)
OPEN 17:00/START 18:00
京都・磔磔
ADV 1,500/DOOR ¥1,700
2016.10.22(土)
OPEN 19:00/START 20:00
台北・月見ル君想フ(台湾)
ADV 1,500NTD/DOOR 1,700NTD
2016.11.26(土)
OPEN 18:00/START 19:00
渋谷WWW
ADV ¥5,000/DOOR ¥5,500
text&interview by Jin Sugiyama
photo by Kohichi Ogasahara