レ・シンズの音楽は、僕のためじゃない。
人々に踊ってもらうために作ってるんだ
――アルバム・タイトルを『マイケル』と名づけた理由は?
奇妙で面白いからだよ。それにみんな、『マイケルって誰?』と尋ねるだろうと思ってさ。どうやら効果はあったようだね(笑)。とにかく『マイケル』っていうのは楽しい名前だからさ。ポップ・カルチャーの中で『マイケル』と言うと、たくさんの有名人が思い浮かぶだろ? だから面白いと感じたんだ。
――“Sticky”はあえてヴォーカル部分をシンセのフレーズに置き換えていますよね? 個人的にはそのままマイケル・ジャクソンのヴォーカルに置き換えてもしっくり来るぐらい80’sフレーバーを感じたのですが、この曲のエピソードを教えてください。
いい質問だね。“Sticky”は80年代のダンス・トラックを目指していたんだ。だから家にあるシンセの音を取り入れて、純粋に楽しもうと思ったのさ。
――EDMが全盛期を迎えるいっぽうで、ダフト・パンク、ブラッド・オレンジ、カインドネス、etcといった連中が「生バンド」を軸にしたソウル/ディスコに回帰していますが、最近の音楽のトレンドやシーンについて思うところはありますか?
“トレンド”というものは、どの時代にもある。何を目指しているかによると思う。瞬間的に人気が出るようなサウンドを目指しているのならトレンドの波に乗ればいいし、よりユニークで自分らしさを出したいのならトレンドに逆らえばいい。レ・シンズは僕のサイド・プロジェクトだから、「突出した存在になりたい」とか、そういう願望は特にないんだ。ビートやトラックを作ったりして、ただ楽しみながらやっているだけだよ。でもトロ・イ・モワに関して言うと、今後もトレンドはあえて避けると思う。そこに重点を置いてやっているからね。
Blood Orange – “You’re Not Good Enough” (Official Music Video)
――では、ダンス・ミュージックにおいてはどうですか?
最近のEDMやメインストリームの音楽の傾向は、決して良くないと思う。僕は正直好きではないね。メインストリームのダンス・ミュージックに対して、誰か違うアプローチを生み出すことができれば、改善されるとは思ってる。でも、アメリカにおいては今、活躍しているプロデューサーの数が限られているんだ。だからその年にリリースされる曲は、ほとんど同じ人物にプロデュースされていて、すぐ飽きられてしまう。
――エイフェックス・ツインの新作『サイロ』はいかがでしたか?
まだ聴いてないんだ。彼の音楽は、僕にとっては少しクレイジーすぎるかな……。あまり入り込むことができない。僕好みのアルバムに出会えたら違うんだろうけどね。何曲か聴いたけど、僕自身が世間の波に乗り切れてないのかも(苦笑)。彼からインスパイアされたことは特にないしね。リチャード(D・ジェームス)の才能はもちろん認めるし、“生ける伝説”だとも思う。ただ、まだ彼に刺激を受けたことがないんだ。
――あなたはフォー・テットを非常にリスペクトしていますが、彼(キエラン・ヘブデン)のように他のアーティストをプロデュースする予定はないのでしょうか?
エレクトロニック・ミュージックのアーティストや、僕のようなソロ・アーティストのプロデュースはしないだろうな。プロデュースするのなら、バンドやシンガーソングライターと組みたい。実は、来年の2月24日にリリースされるアルバムのプロデュースを終えたばかりなんだ。彼の名前はキース・ミード(Keath Mead)っていう。すべてのトラックで僕はドラムとベースとキーボードを演奏し、彼はギターを弾いているんだけど、最高のサウンドに仕上がったよ。
――トロ・イ・モワとレ・シンズ、今後はそれぞれのアウトプットをどのように発展させていく予定ですか?
トロ・イ・モワは今後も僕の“顔”として、僕の“声”を発する場になると思う。パーソナルなプロジェクトだし、すべてにおいて僕の強い想いが込められているから。2つの大きな違いは、レ・シンズには何の縛りもないということ。レ・シンズの音楽は、僕のためじゃない。人々に踊ってもらうために作ってるんだ。僕がどんなストーリーを伝えようとしているのかなんて、リスナーは別に気にしなくていい。レ・シンズの音楽には特にストーリー性がない。これといったメッセージはないんだ。
――最後に、現在制作の真っ最中だというトロ・イ・モワの新作について、可能な範囲で聞かせてください。
まさに制作真っ最中で、いい感じの曲が出来上がってきている。まだ詳細は教えられないんだけど、すごくカッコいいサウンドだよ!
Les Sins – “Bother”
text&interview by Kohei UENO
インタビュー協力:Hostess Entertainment Unlimited