年の<フジロック・フェスティバル’14>と、今年2月の東京公演(即ソールドアウト!)での熱演も記憶に新しいトロちゃん(トロ・イ・モワ)ことチャズ・バンディックが、「踊れる」サイド・プロジェクト=レ・シンズ(Les Sins)として帰ってきた。英語の「Lesson」をフランス語風にもじったこの名前は、チャズが初めて夢中になったエレクトロ・ミュージックだという「フレンチ・ハウス」へのオマージュでもあるそう。

10年のシングル“Lina”に始まり、カリブー/ダフニとして知られる盟友ダン・スナイスのレーベル、〈Jiaolong〉からの“Fetch/Taken”(12年)、“Grind/Prelims”(13年)といった12インチ作品を不定期でリリースしてきたレ・シンズは、「チルウェイヴ」の先駆者とも称されたトロちゃんよりもBPMを速め、テックハウス、ヒップホップ、グライム、そしてジャングルやドラムンベースにも接近したストイックなサウンドを展開。DJとしての顔も持つチャズの音楽的引き出しの多さを見せつけ、クラバーにもファンの多いプロジェクトだったが、この度完成した1stアルバム『マイケル』では“Why”のような「歌もの」も取り入れ、徹頭徹尾キャッチーなフックとビートとメロが満載、80年代〜90年代のポップ・ミュージックへの愛に溢れた超気持ちEダンス・レコードに仕上がっている。

トロちゃん名義の3rdアルバム『エニシング・イン・リターン』とほぼ同時期に制作されただけあって、どこか共通点も多い『マイケル』だが、本作を「東京の雑踏の中で流れている音楽」だと説明するチャズ本人に各収録トラックのエピソードや、最近の音楽のシーンやトレンドについて、さらにはトロ・イ・モワとレ・シンズ、それぞれの役割などをじっくりと訊いてみた。彼もまた、ここ数年のEDMの異常な盛り上がりには違和感を覚えているようだ。

Les Sins – “Why feat. Nate Salman”

Interview:Les Sins(Chadwick Bradley Bundick)

日本は居るだけで本当に楽しいんだ。
新鮮で、未知な部分が多くて、エネルギッシュな場所としてね

――これまでも単発的にシングルやEPをリリースしてきたレ・シンズですが、なぜこのタイミングでフル・アルバムをリリースすることに決めたのですか? 『エニシング・イン・リターン』リリース時のインタビューでは、「ダンス・ミュージックに対する興味が今までで一番高まっていた」とおっしゃっていましたが、両アルバムはほぼ同時進行で制作されていたのでしょうか。

曲数がかなり溜まってきていて、そろそろリリースすべきだと思ったんだ。トロ・イ・モワのアルバムを作っている途中でこのアルバムの制作もスタートした。『エニシング・イン・リターン』を作り終え、インストゥルメンタルなダンス・アルバムを作りたいというのは心に決めていたんだ。

――今回、〈Carpark Records〉のサブ・レーベルとして設立した〈Company Records〉からのリリースですね。このレーベルの立ち上げに至った経緯を教えていただけますか。

〈Carpark Records〉がサブ・レーベルを作らないかと話を持ちかけてきたんだ。僕がいつもリリースすべきだと思う新しいバンドを(レーベル側に)紹介していたから、「君の気に入ったアーティストだけを集めたレーベルを作ってみたらどう?」と提案してくれたんだ。だから、そうしたのさ。

――今作『マイケル』のプレスリリースでは「東京(特に銀座)の雑踏の中で流れている音楽」と述べていますが、あなたはこれまでに4回ほど日本=東京に訪れていますよね。具体的に、どんな場所や景色、シチュエーションに強くインスパイアされましたか?

日本では東京でしか過ごしたことがなくて、東京の街しか見られてないんだ。日本の他の都市を見て回れてないから、残念ながらまだ何とも言えない。<フジロック・フェスティバル’14>には行ったけどね! あれは最高の経験だったよ。とはいえ、あれもフェスティバルの会場周辺にしかいなかったから、街中を歩き回ることはできなかった。でも日本は居るだけで本当に楽しいんだ。場所とか建物にはあまり詳しくないんだけど、まさにその感覚に例えていたのさ。新鮮で、未知な部分が多くて、エネルギッシュな場所としてね。

――『エニシング・イン・リターン』では三味線の音色をサンプリングしていましたが、あれから日本の伝統音楽やポップ・ミュージックなどは聴かれました?

そうだね……。正直なところ聴いてないかな(苦笑)。でも、好きなJ-POPのアーティストはいるよ。エンターテインメント性の高いアーティストが多いと思う。あのホログラムの女のコ(おそらく初音ミクのこと)とかね。あれはすごく面白い。ただし、日本のポップ・ミュージックはそれほど詳しくないんだ。

Toro Y Moi – “So Many Details”

――“Why”ではバークレーのヴォーカリストであるネイト・サルマン(Nate Salman)を起用していますね。日本のファンへ彼の魅力を教えていただけませんか。

彼とは『エニシング・イン・リターン』の制作中に知り合った。曲に新たな“顔”を与えるために、ヴォーカリストと一緒にやろうと決めていたんだ。彼と組むことを希望したのは、彼の持つ声が素晴らしいからさ。彼の歌声を心底気に入っているし、彼はものすごく将来性のあるアーティストだと思うよ。

――大阪出身のビートメイカー/DJであるSeihoがリミックスしたヴァージョンの“Why”は聴かれましたか? ぜひ、あなたの率直な感想を聞かせてください。

聴いたよ! 最高だと思う。マキシマリストでね。彼のファンだから、ぜひリミックスを試してほしいと思ったんだ。それに僕の音楽に慣れ親しんでいる人々に彼のサウンドを聴いてもらうのは、面白いかもしれないって感じたんだ。

――“Talk About”のヴォイスはナズの“One Love”からサンプリングしたと聞きました。他にも“Bother”や“Bellow”、“Call”といったトラックにもヴォーカルの断片を散りばめていますが、差し支えなければ各曲のサンプリング・ソースを教えてください。それとも、あなたや友人の声を加工した素材もあるのでしょうか?

“Bother”は僕の声をサンプリングしたんだ。“Bellow”も僕の声だね。他のトラックはアカペラを探し出してきた。アカペラが入っているレコードとかを聴いて、ネタを見つけてくるのが好きなんだ。

Nas – “One Love”

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