lyrical school(以下リリスク)が、7月24日の日比谷野音公演を最後に、現体制での活動を終えた。前身のtengal6から数えると実に12年、現体制となってから5年。ラップを取り入れる数々のアイドルグループが現れは消えていく栄枯盛衰の中で、リリスクは地道にスキルを蓄え、音楽性を拡張し、アイドルラップの定義を更新し続けてきた。今年4月にキャリア最高傑作との呼び声高い『L.S.』がリリースされて以降も、ツアーでライブを重ねますますそのヴァイブスを高め、フィナーレで最高のステージを見せてくれた。

アルバム『L.S.』で表現されていたアイドルラップの集大成としての形――それは、<それぞれの個が自らの魅力を最大限発揮し予測不能な着地点を皆で楽しむ>という、ある種のコレクティブに近いような自律した姿だ。そこには、極めてアイドルらしい<ゴールを決めて描いた完成形に向かい一人ひとりがパフォーマンスしていく>形態からの解放があった。

野音では、それが見事にパフォーマンスとして表現されていた。姫ドレスをまとい振り切ったキャラクターを見せたhinakoの例が分かりやすいが、てんで統一感のないバラバラな5人が自由にステージをぐるぐる動き回る。セットリストには新旧の膨大な数の曲を詰め込み、極力MCを排し、ひたすらにラップし倒す。普通ならもっと湿っぽく盛り上げそうなところを、クールにステージを去っていく。

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Photo by 沼田学

この5人の紡いできた物語は、いつだってそうだった。狙いすぎず作りこみすぎず、作為的なドラマ性を避けるように、ただただ真摯に音楽をやってファンと向き合う。現体制のリリスクが積み重ねてきた作業は、今の大方のアイドル像からいささか逸脱するようなストイックさがあった。そして面白いことに、その姿は<ラップ>というアートフォームが持つ特長そのものなのだ。ラップはメロディを歌いあげることなく、ただ淡々とリリックを積み重ねていく。その地道さ、作為的ドラマとの距離感をヒップホップでは<リアル>と言ったりもする。だから、現体制のリリスクはリアルだった。最後まで、最高にリアルだった。

このインタビューは、野音の前に収録されたものだ。リリスクの一つの到達地点である『L.S.』が完成するまでの道のり、そして“キング・オブ・アイドルラップ”のリリスクが見てきた景色と培ってきた信念。それらを浮き彫りにし残しておかなければいけないと感じ、公の場では初の座組みとなる3名にインタビューを打診した。今後もグループに残る決断をしたminan、リリスクの活動を司るプロデューサーのキムヤスヒロ氏、そしてビクターエンタテインメントでA&Rとしてリリスクを担当する細田日出夫氏。細田氏は、JAMの名でDJやライターとしても活動してきた人物……と言えばピンと来る方も多いだろう。ブラック・ミュージック愛好家の中では誰もが知る彼の協力によって、近年のリリスクは異次元のフェーズへと突入してきた。

読んでいただくと分かるが、今後のグループの展望についても触れることとなり、その話題のスコープの広さを考えてもこの記事は野音の後にお届けした方がいいだろうという判断に至った。立場の異なる3人の対話は、リリスクというグループの魅力を探る地点にとどまらず、ラップやアイドルといった大きなテーマの深い議論へと及んでいる。一つひとつの言葉に宿る、激動のアイドルラップシーンをくぐりぬけてきた重みと説得力をぜひ感じてほしい。

INTERVIEW:
minan(lyrical school)×キムヤスヒロ×細田日出夫(JAM)

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左から細田日出夫、minan、キムヤスヒロ

──現体制での最後のアルバムとなった『L.S.』、渾身の出来でした。作っていくプロセスで、これまでと変えたところはありますか?

キムヤスヒロ(以下、キム) 今回は、過去作にあったようなアルバムごとのコンセプトやストーリー性を設定せずに作ろうと初めから考えていました。タイトルもグループ名を冠したものにしようと決めてたんですよね。その時点ではまだ今の体制が最後になるという話もなくて。この体制でやる音楽がかなり成熟してきたので、いよいよ次は一人ひとりの個性をどんどん際立たせていくフェーズだと思い作り始めたんです。元々、『BE KIND REWIND』からビクターさんにお世話になって、細田さんにも「リリスクの良さはグラデーションにある」と言っていただけてました。つまり、オールドスクールから最新のヒップホップ、ハードコアなものまで、それらを全部やれるような振れ幅がある点が長所だと。今作も共通してその点は意識しましたね。

──個性を際立たせていくために、作家陣にはどのようなオーダーをされたのでしょうか。

キム 作家さんたちにはほとんど細かいオーダーはせず、お任せでした。それぞれが今のリリスクを見て自由に作ってもらうことで、周りから見たリリスク像が浮かび上がってくると思ったので。メンバーもそれらに対して正面から受け止めていった。だから今回は曲も順番に届いて録っていく感じで、トータルとしてどんなアルバムになるか作りながら全然想像がつかなかったんですよ。

minan メンバーに曲が届くのも、レコーディングの前日の夜とかでしたね。翌日録りながら、また夜に次の日にレコーディングする曲が来るみたいな。バタバタと制作を進めていく中で、現メンバー体制終了の件が決まったのもアルバム制作の終盤くらいでした。

──ということは、終盤はメンバーの中でも作品に対する向き合い方が変わったんじゃないでしょうか。

minan 今後のスケジュールのこととか色々決めないといけないことも多くて、とにかくバタついてましたね。でも作家さんたちに体制のことを伝えてから録ったのは“LAST SCENE”だけで、それ以外は制作が終わってからです。

キム “LAST SCENE”も、タイトルだけは元々決まっていたんですよ。

lyrical school/LAST SCENE(Full Length Music Video)

──『L.S.』の素晴らしい進化ポイントとして、バラバラなメンバーの個性が極限まで出ていながら、それらが絶妙なバランスで保たれている点があると思うんです。皆が個性を殺すことなく自由にやっていて、それでバランスが崩れるのではなく作品としての魅力が高まっている。

キム 最近はメンバーも事前に作り込んできたもので臨むというよりは、その場で作家さんとレコーディングしながら一緒に作っていくという形になってきてますね。

──そういう作り方ができるくらいにスキルが身についてきているし、どんな局面でもヴァイブスをとらえてラップできるグループになってきたんでしょうね。

キム どんな曲でも、自分たちの方に寄せられる能力はついてきてると思います。

細田日出夫(以下、細田) (ビクター移籍後の)2年半での成長ぶりには驚くばかりで、一人ひとりの個性も著しく際立つようになりました。

minan でもメンバー自身は外から見ることができないので、なかなかそういった変化に気づけないんですよ。たとえば(“Wings”の)BBY NABEさんのレコーディングの時とかは、初めてご一緒する方だったのでどういうディレクションをされるのかどんなラップがハマるのか分からない状態だったけど、みんなその場でフレキシブルに対応していくんです。以前はあそこまでできなかったと思う。もちろんBBY NABEさんのディレクションが素晴らしいというのもあります。

キム コロナ禍でもリモートでライブやってきましたし、たくさんの場数を踏んで、ディレクションに対しての対応力がかなりついてきていると思いますね。個の力が非常に高まっている。

──それでいて、メンバーはみんな「頑張っている」という感じがなくてあくまで自然体で楽しみながらやっているムードが出ているじゃないですか。本当に、理想ですよね。ラッパーとしてのスキルはもちろんだけど、広い意味でのアーティストとしての表現力が広がっているんだと思います。

キム メンバーの個の力が上がっている分、作家さんが「この子もうちょっといけそうだな」と思って引き出せてる力も大きいと思います。昔だったら10テイクやって出せていたものが、2テイク目で出てくる。そうなると、そこから8テイクは他のパターンも試してみようとなるじゃないですか。昔は「もっと明るい声で」「もっと優しく」みたいなディレクションに対してメンバーは「明るく? 優しく?」ってなってたんですよね(笑)。そういった部分に噛みついていく力もついてきたし、勘どころも良くなったんだと思います。

minan あと皆さんの作ってくださる曲が、メンバーが気づかないくらいに段々と難しくなってきている気はしますね(笑)。気づかないくらいに、というのがポイントな気がします。

lyrical school/L.S.(Full Length Music Video)

──ビートはどんどん先鋭的になってきていますね。以前はここまでロウ(低域)が前面に出た処理はされていなかったし、いわゆるハイパーポップ的な尖ったフォルムもなかった。今の変化については、どのくらい意識したうえで舵を切られたのでしょうか。

キム まず遡って話をすると、今よりもっとリリスクの規模が小さくてアイドルシーンどっぷりの時、お客さんを増やしていくためには当時とにかく速い曲が必要だって周囲から言われた時期があったんですよ。「速い曲がないとライブで盛り上がんないです」ってレーベルやイベンターの方に言われたり。それでtofubeats君と話して“そりゃ夏だ!”っていう、当時ではけっこうハイテンポな曲も作りました。そこから当分の間、「シングルはとにかく早くてライブで盛り上がる曲を作ろう!」みたいな空気がなんとなくあって、こんな感じで続けていくとすごく息苦しいなぁと思うようになりました。そうやって、いつしか自分の中では一回(アイドルシーンでやっていく)芽を切っちゃったところがあるんです。もちろんいなくなったお客さんはいたけど、でもその代わりに新しいお客さんも来てくれた。だから、今いるお客さんのライブでの反応を意識した曲ばかり作家さんに作ってもらうのではなく、もう素直に自分たちが面白いと思うからやる、みたいなことを積極的にやっていくのがいいんじゃないかなって。

細田 私は以前に餓鬼レンジャーを担当してた時にリリスクと対バンしたりしてライブも見る機会もあったのですが、その頃はまだ今ほどメンバーそれぞれの個性の違いがクッキリとまでは浮き出ていなかったんです。それから『BE KIND REWIND』からビクターに移籍することになって、その時に聴いた“Enough is school”にとにかくビックリして。「なんだこれは?!」って痺れましたね。これはとんでもないことになってるぞと。

キム 前の体制ではできなかったですよね。元々は「ラップを聴いたことがない子を応援する」という発想でやっていたところ、2015年あたりから時代が変わってきた。つまり、物心ついた時から生活の中にヒップホップがあるhimeみたいな子が出てきたわけです。そんな中、現体制になった2017年でもう一度アイドルラップを定義し直さなければいけないと思いました。

──世の中において、ラップが大きく盛り上がりはじめた時期ですよね。

キム 同じくらいのタイミングで細田さんと出会ったのも大きいです。壁打ち相手ができた。「最近いい曲ありました?」「あれめっちゃ良いですよね!」っていう日常の会話も含めて。その時に今後の方向性を話していてイメージしていたのは、例えばデッサンを描きはじめる時に一番白いところと一番黒いところを決めると良いって教わったんですけど。端と端を決めると自然に、その間にグラデーションが生まれると。今後アルバムの中では、アイドルポップスとしてもっと極端な色を取り入れていこうと考えたんです。つまり、端っこの“鮮烈な黒”としてKMさんやLil Soft Tennisさんみたいな超エッジィな曲を攻めていきたいなって。

lyrical school/Find me!(Full Length Music Video)

細田 僕がリリスクが大好きなのは、まず5MCの女性ラップグループって日本はもちろんのこと世界を見渡してもいないわけですよ。遡るとグランドマスター・フラッシュ&ザ・フューリアス・ファイヴ(Grandmaster Flash & The Furious Five)やファンキー・フォー・プラス・ワン(Funky Four Plus One)とかから始まり、ラップが進化していくにつれてラップグループというのはせいぜい2人、3人になっていった。だからこそ、5人のMCが揃っていてしかもそれが全員女性だっていうのは、これほど面白い存在はないよねと思っていたんです。

──細田さんが以前担当されていたYA-KYIMも3人組でしたもんね。

細田 そうですね。しかし、そこで頭の余り柔らかくない人たちがよく言うのは「ラップは自分でリリックを書かないとだめだ」という批判ですね。たとえばウータン・クラン(Wu-Tang Clan)は同じフッドで同じ価値観を持っているので、5人それぞれでリリックを書いても違和感がないんですよ。でもリリスクは出自もタイプも違う。そういう人たちが5人でそれぞれリリックを書いていくとまとまるはずがないんです。セルフボースティングが基本だったら大人数でもなんとか成立するかもしれませんが、5人のMCでエンターテイメントを作っていく際に共通のメッセージを発信するためには、作家さんに書いてもらうというのが最も適切な手法なんです。そこで「自分で書かないといけない」と言うのは、ラップをエンターテイメントとして捉えられない人たち。そうではなく、リリスクを聴いてもらいたいのは「女性の5MCでもこんなに面白いんだ」とエンタテインメントとして捉えてくれる人たちなんですよ。サウンドクリエイターの方々はその辺りの面白さを分かって頂いていると思います。

──それは、音にも出ていますよね。KMさんはじめ最近の名だたるトラックメイカーの曲を聴いていると、リリスクと組まなければ絶対に引き出せなかったそのトラックメイカーの新たな魅力が出ています。

minan 自分たちでは「そうですね」となかなか言いづらいですが、そうだったら嬉しいですね。

キム KMさんは、こちらが考える「このパートは誰が歌う」という当て割りに対して、「もうちょっと違うのも試させて」って全然違う提案をしてきたりもするんですよ。最初は「大丈夫かな、この子にはこのパートは難しいんじゃないか」と正直思ったりもする。

minan 分かる。最初、すごく不安になるんですよね。でもやってみたら完璧にハマって、もうそれ以外あり得ないなって思う。

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キム そうなんですよ。それって凄いことだなって。

minan ちなみにKMさんに作ってもらうと仮歌でLil’ Leise But Goldさんの声が入ってくるんですけど、私いまだにそれを聴いてますからね(笑)。めっちゃ良い!

──え、Lil’ Leise But Goldバージョンの“The Light”聴きたい(笑)。

minan メンバーの特権です(笑)。でも最近は特に、作家さんたちも「こんなのアイドルだから難しくてできないかな」なんて思ってないんだなっていうのが伝わってきますね。私たちを尊重してくれてるし、真摯にぶつかってきてくれる。もちろん私たちも全力で応えるし。

──女性のクリエイターの割合も徐々に増えてきました。

キム そうですね。Rachel(chelmico)もvalkneeも、リリスクのことが元々好きで興味を持ってくれてるんですよね。二人とも最近のアイドルやポップスの曲に対して自分ならどうアプローチするかとか思うところイメージしていることもあるだろうし、そういう意味で「ずっとリリスクを見てきてて、今メンバーにはこういうことを歌ってほしい」というのと、実際にメンバー自身が「こういうことを歌いたい」というのがうまく合致しているというか。

minan うんうん、分かります。

キム Lil’ Leise But Goldさんはまた違っていて、あの人は自分自身をメンバーに投影してくれているところがある。“TIME MACHINE”は自分の話だよって言ってたし、“The Light”についても“記憶の中の渋谷”というのを自分事にして書いてくれてますね。でも、その後はメンバーに任せてくれていて。そう考えていくと、女性だからっていうよりも「リリスクのことを好きで、考えてくれている」という方がうまくいっている理由としては大きいのかもしれない。

minan 嬉しいですよね。

lyrical school/TIME MACHINE(Full Length Music Video)

lyrical school/The Light(Full Length Music Video)

キム 細田さんとカッコいい音楽や今後のリリスクの話をするのと同じように、Rachelやvalkneeとそういった話ができているのも大きいですね。あと映像作家の木村太一さんとかも、話聞いてくれたりとか。太一さんとはたまにって感じですけど、周りの人とリリスクの話や相談をするようになったことが、グループに与えている影響もあるかもしれないです。

──たとえばminanさんは、最近のトラックを初めて聴く時に「ちょっとヘヴィすぎないかな、ゴリッっとしすぎじゃないかな」とか思ったりすることはないんですか?

minan それは全然思わないです。逆に「嬉しい、こんなのやっていいの?」って思う。自分はどちらかというとメインのカルチャーを通ってきて、今もそういったものも好きだけど、リリスクが今やろうとしていることにはそれらとは違ったカッコよさがあると思うんです。私は、キムさんや細田さんと一緒にやっていけば間違いないと思っています。絶対にダサいことやカッコ悪いことはしない。だから、いつ売れてもおかしくないはずなんです(笑)。でも何かが足りないんでしょうね。それは悔しいですよ。

──あえて訊いてしまいますが、「もっとこういうことをやれば売れるんだろうな」と思うことはありますか?

minan まぁ……それはありますよね。キムさんとの会話でたまに「悪魔に魂を売る」っていう表現を使うんですけど(笑)。売れるために何か自分にとって絶対的に大事なものを捨てるニュアンスですかね。

──minanさんはブレない芯があって、良い意味で頑固じゃないですか。ここは譲れない、というのがはっきりしている。だから、それだけ「売れたい」とずっと公言していながら「絶対にこれはやらない」というのが明確にありますよね。それは、音楽性でもプロモーションでもあらゆる面において。

minan ありますね。人一倍強いと思う。でもそのせいで苦しむことも多いし……もっと馬鹿になってやればいいのにって。

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キム その自意識は、大事にして良いものなんじゃないかな。周囲の期待とか、さまざまな立場の人の思惑に板挟みになるからね。そもそも、アイドルビジネスの構造ってグロテスクなものになりがちじゃないですか。今までの自分達の活動への反省も含めて、プロデュースする側とされる側とか、選ぶ人と選ばれる人の間に力関係が生じた時のグロさに皆が気づきながらも目をつむってる部分がある。ここから5年から10年とかは、分水嶺だと思っています。だから、すごい基本的なことから自分が誠実だと思うことをやっていきたい。例えばアイドルが「結婚します」とか、プライベートなことをお客さんに伝えないっていう選択肢も許されるようになって欲しいと思ってるんですよ。もっと言えば、今だって本来は言わなくていいと思ってるんですけど。少し前まで「活動しながら結婚生活を送る」ことすらほとんど前例がないような世界で、身を切る思いでファンの方に報告した女の子もいると思います。

アイドルって職業は「トゥルーマンショウ」的なエンタメじゃないから、アイドルを応援する・してもらうっていう関係は一種のロールプレイだと思う。みんなもうちょっとそこに正しく乗っかってほしいなって。精神的にヤバい状態になってるアイドルにカメラ向けて「撮れ高」みたいなこと言ってる時代は、おかしいですよね。

minan 同じ時期に頑張ってたグループもどんどんいなくなってしまって。どうしてもアイドルというのは長く続けられない仕事というイメージが拭えなくて、それはやってる本人たちも感じている。私もグループをやっている中で、メンバーの誰かが卒業を考えてるんじゃないか、もう長くないんじゃないか、というのを常に不安に思ってきました。でも「それっておかしいじゃん?」と感じる時もあるんです。不安に思ってる私も含めて、皆、精神的に不健康な環境なのかもしれない。アイドルという職業に対しての認識なのか、システムなのかどこかに歪みがあるように思えます。そういう部分を新体制のリリスクではしっかり考えていきたいです。

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キム 逆に、「辞めまーす」ってもっとポップに言える環境を作るのも大事だと思います。ライトに辞めていつでも戻ってこられるようなノリだったらいいのにって。その方がメンバーも色んな挑戦もできるようになるし。

──改めて、今回の体制変更の最大の原因というのはどこにあったんでしょうか。もちろん、色んな背景が複雑に絡み合っているとは思うんですが。

キム 「これが理由」と一概には言えないですが、コロナ禍でメンバーが抱えていた集客面などの不安について、ちゃんとした会話ができていなかった点は大きかったかもしれません。むしろ僕はそのあたりは全く不安に考えていなかったんですよ。(最終的に決まらなかったので)伝えられなかったけど、大きなタイアップの話もいくつか来はじめてたし、新しいお客さんも増えていて期待を感じていたくらいです。そこでメンバーと認識の違いが起こっていた。

minan (キムヤスヒロ氏の方を向いて)だから、次はもっともっとメンバーとコミュニケーションとっていきましょうよ。もちろん言えること言えないことはあるとは思うけど、もっとこれまで以上に話していきたい。

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──今後のリリスクについて、具体的に決まっていることはありますか?

キム 今作で挑戦した個人にフォーカスしたやり方の、その次を模索していきたいです。曲ごとに参加してるメンバーがいたりいなかったり、ユニットとしてもうちょっとゆるくてもいいんじゃないかと思っている。実は、男の子も入れたいなって構想もあります。それは前からずっと考えていました。minanみたいに、各メンバーがソロもちゃんとやっていければいいしね。

──新たな展開ですね。細田さんはいかがでしょうか。

細田 まず非常に重要な問題として、社内外においてアイドルの画一的なイメージから抜け出せない人が本当に多いんですよね。固定化されたイメージを脱するのがかなり難しくて、そこに相当な労力がかかっている。これは簡単な問題ではないです。さらに、そこを抜け出せたとしても次の難しいテーマが“ラップ”ですね。ラップに対する抵抗がいまだにすごい。「ラップっていいよね」っていう人がまだまだ全然いないわけです。

──それは、たとえば社内でいうと上の世代に多いんでしょうか。

細田 いや、世代は変わらないですね。若い方でもラップに拒否反応を示す人は多いです。たとえば、去年あれほど話題になった“なんでも言っちゃって”(LEXの2021年作『LOGIC』に収録)とかでもかなり厳しい。ああいうのって、「良い曲だね~!」というものでもないじゃないですか。

──メロディがすごく良くてね、みたいなものじゃないですもんね。まぁラップってそもそもそういうものではないですが……。

キム どちらかというと、「面白がるような力が試される」みたいなものというかね。

細田 「今」が切り取られていて、それをいかに楽しめるかが大事な音楽ですよね。自分の好みとしてそれが理解できなかったとしても、「今の若い人はこれが音楽として面白いんだ」と感覚的に分かろうとする大人は稀にいますけど。でもそういう人たちは圧倒的に少ない。だから、結果で示すしかない。具体的には、サブスクリプションでの再生回数を持続させること。少しずつですが近づけてはいると思うし、粘り強くやっていくしかない。TikTokでバズるみたいなのは偶発的なものですからね。レーベル側は一回TikTokで跳ねるとそれだけでかなりありがたいのは確かですけど、でも一発当てたけど次どうしよう? って苦しんでるアーティストが山ほどいるんです。もちろんTikTokに向けて種をまいておくのは大事だけど、そこを中心に置くのは警戒しなくちゃいけない。

──minanさんはプレイイングマネージャー的な立ち位置で引き続きグループを引っ張っていくとのことですが、今後のリリスクの展望をどう考えていますか?

minan こうなった以上、私はファンの方に「絶対今後のリリスクも聴いてね」とは言えないんです。でも「楽しいと思うから良かったらついてきてね」とは言える。メンバーは変われど、次の体制も10年以上続いてきたグループの根幹にあるものは変わらないです。これまでのリリスクの普遍的な楽しさを保証した上で、今までになかった新しい感動を皆さんに与えられるようなグループにしたいです。

──私は、リリスクはもっと多くの人に聴かれるべきだと思っているし、今後もそう念じ続けます。

minan 折れない心が大事ですよね。……折れない心。たまに折れそうになるけど、折れちゃいけない。うん、折れちゃいけない……。自分に今、言い聞かせています(笑)。

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Interview, Text by つやちゃん
Photo by ヨシノハナ

INFORMATION

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PLAYBACK SUMMER ver.1.3

2022.07.27(水)

Tracklist
1. Summer Trip
作詞:大久保 潤也(アナ)、MCモニカ(Byebee)作曲:大久保 潤也(アナ)編曲:大久保 潤也(アナ)
2. Pakara!
作詞:valknee 作編曲:バイレファンキかけ子
3. YABAINATSU(taken from the album “Wonderland”) 
作詞:大久保潤也(アナ) 作曲:上田修平、大久保潤也(アナ)
4. 秒で終わる夏(taken from the album “BE KIND REWIND”)  
作詞:大久保潤也(アナ) 作曲:上田修平 編曲:上田修平
5. 夏休みのBABY(taken from the album “WORLD’S END”) 
作詞:大久保潤也(アナ)/泉水マサチェリー(WEEKEND) 作曲:泉水マサチェリー(WEEKEND)
6. 常夏リターン(taken from the album “WORLD’S END”) 
作詞:Bose(スチャダラパー)/かせきさいだぁ 作曲:SHINCO(スチャダラパー) 編曲:SHINCO(スチャダラパー)
7. Last Summer(taken from the EP “OK!”) 
作詞:木村好郎(Byebee) 作曲:高橋コースケ 編曲:高橋コースケ
8. YOUNG LOVE(taken from the album “BE KIND REWIND”)              
作詞:木村好郎(Byebee) 作曲:坪光成樹/高橋コースケ 編曲:坪光成樹/高橋コースケ

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L.S.

lyrical school
2022.04.20(水)

Tracklist
1. -R.S.- music/arrange:ALI-KICK
2. L.S. lyrics/music/arrange:ALI-KICK, 大久保潤也(アナ)
3. Bounce lyrics/music/arrange:Lil’Yukichi
4. Pakara! lyrics:valknee music:バイレファンキかけ子, valknee arrange:バイレファンキかけ子
5. ユメミテル lyrics:ZEN-LA-ROCK music:MURO, grooveman Spot, KASHIF, ZEN-LA-ROCK arrange:MURO, grooveman Spot, KASHIF
6. LALALA lyrics/music/arrange:PES
7. バス停で lyrics:Rachel(chelmico)music:Ryo Takahashi, Rachel(chelmico)arrange:Ryo Takahashi
8.The Light lyrics:Lil’Leise But Gold music:KM, Lil’ Leise But Gold arrange:KM
9. Find me! lyrics:valknee music:Lil Soft Tennis, valknee arrange:Lil Soft Tennis
10. Wings lyrics:BBY NABE music:R.I.K., BBY NABE arrange:R.I.K.
11. NIGHT FLIGHT lyrics:マツザカタクミ music:高橋コースケ(TIENOWA WORKS)arrange:高橋コースケ(TIENOWA WORKS)
12. LAST SCENE lyrics:大久保潤也(アナ)music:上田修平 arrange:上田修平
“Pakara!” first appeared on the digital EP “PLAYBACK SUMMER ver.1.2”

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【リリカルスクール新体制メンバー募集開始】

新メンバーの募集は経験不問、性別不問の15~30歳が対象に。詳しくはHPから。

メンバー募集についてlyrical school オフィシャル HP