歌詞とはアーティストの紡ぐ言葉の芸術。歌詞に込められたメッセージを理解することで、音楽はより一層味わい深くなるものです。そんな歌詞文化を盛り上げたいという想いからこの度始動したのが、シリーズ『リリックラウンジ』。

第2回目のゲストには、シンガーソングライター一十三十一が登場! 彼女のバックボーンが垣間見える制作スタイルや、歌詞の世界観に秘めた思い、昨年発売されたDorianプロデュースのアルバム『ECSTASY』についてなど、幅広くお話を伺った。

(取材協力:リリックスピーカー)

Interview:一十三十一

【インタビュー】リリックラウンジVol.02、一十三十一の描く歌詞の世界。Dorianとの制作秘話、独特の制作スタイルを語る interview180509-lyricounge1-1200x1800

——はじめに、アルバムの制作スタイルについて訊かせていただけますか?

『CITY DIVE』から『The Memory Hotel』までのアルバムはコンセプチュアルに作っていたんです。アートディレクターの弓削(匠)さんと一緒に、アルバムの脚本から作っていって。脚本をしっかり作ってそれを曲に割っていき、それぞれの場面のサントラを作っていくという手法をとっていました。映画のサントラという考え方ですね。

『CITY DIVE』は東京から横浜を、夜の7時から朝の7時までデートするっていう設定。その映画のサントラが『CITY DIVE』なんです。

『Surfbank Social Club』、『Snowbank Social Club』は、『波の数だけ抱きしめて』『私をスキーに連れてって』『彼女が水着に着替えたら』のホイチョイ・プロダクション3部作へのオマージュとして、それぞれシーズナルなアルバムになっています。これも脚本を作って、曲へ割って、そのサントラを作る発想で制作しました。

一十三十一『Snowbank Social Club』 MV

——その時代へのあこがれを感じますが、実際にあこがれがあったのでしょうか?

この世界観へのあこがれは、私の小さい時にまでさかのぼるもので。両親が北海道で「Big Sun」というトロピカルアーバンリゾートレストランをやっていたんです。それはまさに、鈴木英人さんが描かれた、山下達郎さんのアルバム『For You』のカバーアートの世界観を具現化したようなお店で、私が生まれた1978年から14年間やっていました。札幌の冬は気温がマイナスになるのですが、うちだけは常夏だったんです。お店の外にも中にもフェイクの巨大なヤシの木があって、スタッフみんな年柄年中アロハを着て。良い音楽がかかっておいしい食事ができる場所で、時は80年代、ピカピカの車に乗って、イケてる大人たちがオシャレして遊びにくる所謂デートスポットだったんです。

【インタビュー】リリックラウンジVol.02、一十三十一の描く歌詞の世界。Dorianとの制作秘話、独特の制作スタイルを語る pickup180509-hitomitoi1-1200x1599

【インタビュー】リリックラウンジVol.02、一十三十一の描く歌詞の世界。Dorianとの制作秘話、独特の制作スタイルを語る pickup180509-hitomitoi2-1200x900

【インタビュー】リリックラウンジVol.02、一十三十一の描く歌詞の世界。Dorianとの制作秘話、独特の制作スタイルを語る pickup180509-hitomitoi3-1200x900

私、そこに行くたびに「大人ってなんて素敵なの」って思っていました。それがまさにホイチョイな感じだったわけです。子供の頃はそれが日常であり、同時にあこがれでもありました。『Surfbank Social Club』をつくる頃、小さい頃のそのあこがれを確信したんです。子供の頃にあこがれていた大人の年代に差し掛かり、ついに満を持してホイチョイへのオマージュを作ろうと思って。原点回帰ですね。ただ、世界観へのオマージュであり、詞や曲調は今のものにアップデートしたものです。

一十三十一 『Surfbank Social Club』MV

——80年代へのオマージュとしてバランスが絶妙だなと感じています。

『CITY DIVE』を作った時はシティポップなんていうジャンルがなく、かなり手探りなものでした。もっと遡ると、私の音楽は今思えばもっと実験的なものだったんです。色々な要素を好きなだけ盛り込んだような。なので、『CITY DIVE』は2002年のデビューから2012年までのその実験期を経て、色々試みてみた先のアルバムでした。北海道なのに常夏という、うちのトリッピーな「Big Sun」もリアル体験であり、私の原風景。なので、ウソすぎる印象ではないのだと思います。

——昨年発売されたアルバム「Ecstasy」はどういったコンセプトで作られたのでしょうか。

「一十三十一に夏のアルバムを出してほしい」というのを周りから言われてましたし、私もそろそろ夏に出したいと思っていました。シティポップ界におけるTUBEみたいな立ち位置というか(笑)。そこで、今度は、最近やっていたコンセプチュアルな方法ではなく、プロデューサーを一人立てて、二人きりで限りなく自由に果てしなく気持ち良いものを作りたいなと。

それで、Dorianにお願いしたんです。Dorianと夏に出すということ以外はほとんど自由に考え、まずは「夏の大人の訳ありリゾート」っていうミステリアスなざっくりテーマで進めました。

それまでに描いてきたような湘南方面に代わって、今回の舞台は実際にありそうでなさそうであるかもみたいな、敢えてアブストラクトにしました。色々断片的なイメージはありますが、例えば「外国から見た熱海」みたいなイメージもあります。ラグジュアリーでエキゾチックで神秘的、そして訳ありリゾートっていう設定で(笑)。

【インタビュー】リリックラウンジVol.02、一十三十一の描く歌詞の世界。Dorianとの制作秘話、独特の制作スタイルを語る interview180509-lyricounge3-1200x1200

——『Ecstasy』の中で思い入れのある曲の歌詞は?

一曲目の“Ecstasy”です。まずDorianからデモが上がってきて、すごく良かったのでトラックに忠実に、そこに何があるか探す旅を楽しみました。

今回のアルバムの歌詞は、これに取り掛かる頃にじっくり読んでみたかった、ギリシャ神話、古事記、源氏物語などといった古典文学や古典哲学を読みあさっていて。そういった神話的な、ロマンティックかつ普遍的なテーマと、現実的なことを融合させて、不思議な親しみやすさのある世界観が出来上がればいいなと思っていました。

現実的なインスピレーションは、日々のフレッシュな日記や詩を読み返すことで得ています。

脚本もなく、久々に自由に作れるからまずはDorianからあがってくるトラックを楽しみました。トラックを感じ、音楽の中に入って泳いでそこに何があるのかをじっくり見て、それに一番ふさわしい言葉を選んでいきました。日記の言葉から神話へ広げたり、その逆だったり、自由にやらせてもらいました。

アニミスティックなものをかけあわせて不思議な見え方にしたくて。ただただ現実的な恋愛じゃない風に着地させたかったんです。あとはこの音楽を神様にお供えする気持ちで作りました。

——なるほど。歌詞を考える時の生活の変化はありますか?

だいたい、全然ご飯を食べなくなります。その世界に入ると、消化にエネルギーを使うのが嫌で。そうするとどんどん心身が研ぎ澄まされて、神様に近づける感じがして清々しい。食べないでいると色々なことが刺激的になって、集中して描き続けられる。修行僧の様にみるみる痩せていくので、みんなから大丈夫? って聞かれるんですけど、終わったら普通の生活に戻るから大丈夫なんです(笑)。
それから、夢からのインスパイアもありますね。早朝起きた瞬間に夢の内容を書き出したり。制作中に見る夢は特に変ですね。

一十三十一「Labyrinth ~風の街で~」MV

——心配になってしまいますが……。どれぐらいの期間、そうしていたのでしょう?

冬の間です。すごく快適で、余分なものが削ぎ落とされる感じなんです。最高な時間を楽しませてもらい感謝しています。

——普段、どんな場所で歌詞を書いているのでしょうか?

家に、小さなボックスのようなスタジオがあるんです。家族には“ジェイル”って呼ばれています(笑)。

あまりに伝えたいメッセージや意味が出てきちゃうと、メロディやトラックとの距離が出てきてしまうから歌いながら作るんです。家族が寝た後も作れるように、そのスタジオの中で作ります。

歌詞自体はどこでも書きますね。ホテルのラウンジや大自然の中や旅先や移動中。書くところはいつも色々ですが、最終的にまとめるのはその“ジェイル”の中です。

——また『Ecstasy』に戻りますが、日記から言葉を選ぶと仰っていましたが、昔の日記から選ぶこともありますか?

今回はそこまで昔のものは使っていないです。『The Memory Hotel』の後の日記からの言葉を選びました。

私の事がもとになっていたり、古典作品をモチーフにしたりと、内容は完全にフィクション。また、ちょうどエリックロメールを十数作品続けて観たばかりだったので、ロメールの世界観にも影響されました。例えば、“Galaterie”は髭おっさんの恍惚ソング。まさにロメール!

一十三十一「Flash of Light」MV

——改めて、Dorian氏との制作過程はいかがでしたか?

Dorianの楽曲は、様々な音色や楽器が、美しい庭のように数学的に哲学的に整然と配置されていて、宇宙の摂理の中に飛び込んで混ざり合う感じ。とてもスピリチュアルな体験でした。

例えば、“Swept Away”というラバーズの曲が届いた時、この世のものとは思えない美しさで怖いくらいで。その辺の普段のイメージだけじゃ到底追いつかないと思いました。

——私は“Serpent Coaster”のコーラスを書かせてもらいましたが、その時に、この曲は「どん底な状況だけどそれを楽しんでいる気持ち」と言っていて。どん底でもそれを楽しんでいるというところが、“一十三十一”らしいと思いました。

その曲は気持ちが弱っている時の日記を参考にしているんですが、「落ち込みすぎて弱いという状況は、実は無敵で強い」という哲学に至った気持ちでした。谷底の川には全てのエネルギーが流れ込む境地というか。

例えば、コーヒー買ってそれを待っているという日常の中で、私の頭の中はこんなにぐるぐるジェットコースターのようだけど、すぐ隣にいるあなたは何も分からないでしょ? というのは、客観的にみるとフフフともはや笑える面白い状況かなって。

混沌としてますがいつものようにポジティブなメッセージです。リスナーと共有したいところはそういうところですね。手に届くファンタジーとして。

一十三十一『Ecstasy』試聴ダイジェスト

EVENT INFORMATION

hitomitoi clubsetで緊急出演決定!
エバーラスティングメロウ

2018.05.26(土)
START 15:00
江ノ島OPPA-LA
¥3,000
hitomitoi clubset (Kashif,Dorian)
やましゅた達郎

DJ:
nutsman
Tetsuya Suzuki(TOPGUN)
strawberrysex
okadada
ましゅ
gotez

詳細はこちら

RELEASE INFORMATION

Ecstasy

2017.07.19(水)
一十三十一
Billboard Records
HBRJ-1027
¥2,600(+tax)
[amazonjs asin=”B072JG9YH5″ locale=”JP” title=”ECSTASY”]

▼RELATED

【インタビュー】リリックラウンジVol.01、Seihoの描く歌詞の世界。物語の主題歌としてストーリーを紡ぐ?

一十三十一オフィシャルサイトリリックスピーカーオフィシャルサイト

取材協力:歌詞を楽しむ次世代スピーカー リリックスピーカー
interview&text by detroitbaby