——『ディス・オールド・ドッグ』のジャケットには、収録曲のタイトルや現在のバンド・メンバーであるアンディ、ジョン、ジョーの名前以外にもさまざまな文字が書かれていますが、「VITRIOL」、「THE SAK」、「34128」、「5’10」というのはそれぞれ何を意味しているのでしょうか?

「VITRIOL」は英語の言い回しでフリーメイソンが使う隠語のようなもので、「THE SAK」は坂本龍一さんのこと。「34128」は僕が昔使っていたミキシング・ボードのチャンネル・ストリップ・ナンバーで、「5’10」は 僕の身長だよ。

——他にも、ジャケットに描かれている陰陽のマークが気になりました。あなたのソロ活動以前にやっていたメイクアウト・ヴィデオテープというバンドの最後のアルバム名も『Ying Yang』でしたし、よく陰陽のマークが入ったキャップを被っていますが、あなたにとってどんな意味があるのでしょう?

陰陽の考え方が好きなんだ。物事にはバランスが必要、というコンセプトとか。陰陽によって、僕の人生はいろんなことが左右されているんじゃないかって思うんだよね。例えば長い間ツアーに出て、その後はしばらく休むとか、曲を書いたらそれを演奏するとか……すべてをバランスよくやるっていうかね。

【インタビュー】マック・デマルコ、坂本慎太郎・坂本龍一・細野晴臣からの影響&最新作『This Old Dog』アートワークの秘密 interview_macdemarco_thisolddog1400-700x700
『ディス・オールド・ドッグ』

——今回のアルバムでは「CR-78」というドラム・マシーンが活躍してますよね。ブロンディの“ハート・オブ・グラス”のイントロや、あなたの好きなホール&オーツの“アイ・キャント・ゴー・フォー・ザット”でも使われていたそうですが、そもそもどうしてこのドラム・マシーンを買おうと思ったのでしょうか?

その通りだよ、僕が好きな曲で使われているからってのが理由だね。普段は本物のドラムを使うんだけど、ドラム・マシーンを使うのも好きなんだ。特に「CR-78」は面白い音が出るし、独特の雰囲気があるから好きなんだ。

——新作は全体的に、よい意味でデモっぽい雰囲気があると思いました。実際に“ディス・オールド・ドッグ”などはほとんどデモのままだそうですが、あなたはアルバムのリリース毎に、その作品のデモ・ヴァージョンも必ず発表していますよね? 結構珍しいと思うのですが、自分の中ではデモ・ヴァージョンも捨て難いという感じなのでしょうか?

今回はレコーディングのやり方も以前とは少し違って、曲を録り直したりする時間がたくさんあったんだ。前作ではいったん全部やってから、その後に少しやり直したりしてデモもきっぱり捨てていたから、なんだか新しい作業をまたやっているという気分だった。でも今回はもっとオープンにして、それぞれの曲を見直してから再度手を加えたり、オリジナルテイクを使ったりしたんだ。マイクが合ってないとかもあったりしたからね。それに、これまでは最初にレコーディングしたヴァージョンを使っていたけれど、今回はレコーディングを重ねて自分が一番いいと思うテイクを使うことができたから、とても気分がいいよ。今作には、デモのまま収録されている曲がいくつかあるよ。たとえば“ディス・オールド・ドッグ”とかは、初めて演奏したものをそのまま使っている。でも、今回レコーディングした曲でアルバムに入らなかったり、レコーディングが終わらなかった曲もいっぱいあるから、そういう曲を集めたアルバムを作るという可能性もあるかな。まだ分からないけど。

——今回のアルバムのデモ・ヴァージョンというのはなさそうな気がするのですが、逆に「ポリッシュド・ヴァージョン」とか、「アダルト・コンテンポラリー・ヴァージョン」を発表したりするのでしょうか?

いや、それはないね。リリースしたものをそのままにしておきたいね。

—最近はジェイムス・テイラーをよく聴いているそうですが、今回のアルバムの最初の2曲が“マイ・オールド・マン”と“ディス・オールド・ドッグ”なのは、ジェイムス・テイラーの『ワン・マン・ドッグ』というアルバムへのオマージュなのでしょうか?

そのアルバムは聴いたことなかったよ(笑)。知らなかった、チェックしないとね。オマージュって意味では、ジェイムス・テイラーはもちろん、ポール・サイモンなんかも聴いていて、昔のミュージシャンたちのスタイルというかアコースティックな印象が、もしかしたら僕に影響を与えていたのかもしれないね。以前はあまり聴いてなくて、最近聴き始めたばかりだからインスピレーションにはなったかも。

Mac DeMarco // My Old Man (Official Audio)

Mac Demarco – This Old Dog (6 Music Live Room Session)

——“ドリームズ・フロム・イエスタデイ”はボサノヴァっぽい雰囲気で、あなたは20歳ぐらいの時にもボサノヴァ・アルバムを作ろうとしていたそうですが、それは細野晴臣さんの写真をジャケットに使った、メイクアウト・ヴィデオテープ時代の『ボッサ・イエイエ』のことでしょうか?

うん、そうだよ。

——好きなボサノヴァのアーティストはいますか?

ボサノヴァは好きだし、それ以外のジャンルも喜んで聴いているよ。あまり詳しくはないんだけど、たとえばジョアン・ジルベルトとか、あとなんだっけ? そうそうアストラッド・ジルベルトとか。クラシックなボサノヴァを聴くのは好きだよ。実際、“ドリームズ・フロム・イエスタデイ”のコードは、彼らの楽曲からかなり強い影響を受けているんだ。なんて曲だったかはまた今度教えるよ。

——“ウォッチング・ヒム・フェイド・アウェイ”は、誰か知っている人がいなくなってしまうことについて歌っていますが、モデルがいるのでしょうか?

うん。父や家族のことをテーマにしたのが多いね。ほとんどは父親のことを歌っているんだけど、だからといってそれを前面に押し出しているわけじゃない。いろんな型のリレーションシップを、自分の中で理解する意味で作ったかな。

—そういえば最近のインタビューで「もうすぐ父親になる」と話しているのを読みました。それは本当ですか?

はは、それはないね(笑)。そのインタビューが出た日、たくさんの人からおめでとうコールをもらったんだ。その後ジョークで「睾丸をとる手術をするんだ」なんて話してたんだけど、いやいや、まだ父親にはならないよ。今はまだその時期じゃないけど、そのうちいつかね(笑)。

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ディス・オールド・ドッグ

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interview & text by 清水祐也(Monchicon!)
interpreted by Kiho Eguizabal