前回、lyrical school(以下リリスク)のminanにインタビューしたのは2022年7月、ちょうど日比谷野外音楽堂での旧体制リリスク最後のライブの直前だった。「先のことはまだ考えられない。とにかく今は野音に集中しています」と語っていたminanは、その後メンバーとともにアイドル史に残るであろう素晴らしいライブを披露し、ひとりグループに残る決断をした。

その後も、minanは走り続けている。ソロでのライブを行なった。新曲“Last Note”をリリースした。“all-rounder”のMVを異なるヴァージョンで2本出し、初めて映像監督も務めた。BSよしもとの番組『新宿音響ラボ』がきっかけで、お笑い芸人のBPM128とコラボ曲を作った。そのアーティスト活動の領域は広範に渡り、そうしているうちにリリスクのオーディションは終わり新体制のメンバーが固まった。

12月中旬、このインタビューは2日後に新体制メンバーの初顔合わせを控えているというタイミングで行われた。約半年ぶりにじっくりと話したminanは、「ついに始まりますよ」と、緊張を楽しむようなスタンスで語ってくれた。いま、彼女は新たにプレイングマネージャーとしての立場でリリスクに携わっている。“立場が人を変える”とよく言われる通り、約半年ぶりに話すminanは、完全に次のモードへと突入していた。新体制のお披露目ライブは2月12日(日)。いよいよ新たなストーリーが始まる。大きな変化の真っただ中にいる彼女を捉えるべく、話を聞いた。

INTERVIEW:minan(lyrical school)

走り続けるminan、新体制のリリスクとネクストモードについて語る interview221220-minan-lyricalschool-4-1

──ソロとして、新曲“Last Note”をリリースされました。この曲はどういった形で制作が始まったのでしょうか。

minan 昨年のEPでやりたいことを全部やって色んなことを詰め込んだので、今回は割とストレートに「ライブで盛り上がる曲を作りたい」という軸だけKさんにお願いしたんです。前回のEPを作った時にA&Rの細田さんから「最近のKさんは若手のヒップホップの人たちとカッコいい曲を作ってるから聴いてみて」と言われて、聴いたらめちゃくちゃカッコいいなと思って。ぜひ一緒にやりたいですということでお願いさせてもらいました。

──タイトルがまさにそうですが、フレグランスから着想を得ているんですよね。

minan そうです。私が香水が好きなので、コンセプトをラストノートに設定しようと思って。香りがトップからラストに変わっていくという時間の経過を表現したいなと。ラップ部分の歌詞は私が書いて、サビの歌詞はKさんにお願いしました。

──レコ―ディングでKさんからのラップや歌のディレクションはあったんですか?

minan それが、実は今回レコーディングの時にKさんがご一緒できなかったんです。 ブースの中でけっこう一人で迷子になりました。元々Kさんがビートの上にハナモゲラで英語っぽい詞を乗せて歌ってくださっていて、その音感を元に私が日本語詞のラップを乗せたんですよ。Kさんが仮歌で出してくださってる発音のニュアンスを何とか日本語で表現したくて頑張ったんですけどけっこう苦戦しましたね。

──以前もリリスクの“The Light”でLIl’ Leise But Goldさんの仮歌をなんとか再現したいと悪戦苦闘されていました。聴いたものを丁寧に真似して自分のものにしていくというのがminanさんの表現の基本としてありますね。

minan そうです、再現したがりなんです(笑)。

──Kさんは同じレーベルメイトですよね。最近の音楽性の変化に驚いたんですが、何かきっかけがあったんでしょうか。

minan Kさんは、いま(リリスクを担当しているA&Rの)細田さんが担当されているんですよ。

細田 Kさんのイメージで“Only Human”は当然強烈なのですが、今はプロデューシング、トラックメイキング、コンポージング、更にはA&R的なセンスも含めてサウンド・クリエイターとして突出していて、それは彼の“Day ‘N’ Night feat. MADz’s”や“Touchdown feat. VILLSHANA”などを聴いてもらえれば手に取るように分かると思います。しかも制作のスピードが恐ろしいほど早いんです。

minan “Last Note”もめちゃくちゃ制作スピードが早かったです。

──ソロ活動自体は秋くらいから活発になってきた印象ですが、その前に、野音が終わって以降はどのように過ごされていたのでしょうか。

minan 実は、野音が終わって「あー終わった、羽伸ばそう!」という気持ちになかなかなれなかったんですよね。旅行も別に行ってないですし、友達と会ったりしていつもと変わらずに過ごしていました。旧体制についても、「一区切りついたな」という達成感や開放的な気持ちよりは「終わっちゃったな」という寂しい気持ちの方が強かったです。そうこうしているうちに、9月後半くらいからソロ活動でバタバタしはじめたり新メンバーのオーディションも始まったりしたので、もう次に向かって進み出さないといけない状況にもなって。

──ソロでも活発に活動をされているし、立ち止まらずに走り続けていますよね。

minan そうですね、立ち止まってる感は全くない。でも、お休みだ!という感じがないのはありがたいですよ。私、一回立ち止まっちゃったらもう次動くスイッチを入れられないと思う。

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──グループの活動から離れている数か月間、世の中のアイドルグループをちょっと俯瞰して見たりすることはあったのでしょうか。

minan 改めてアイドルグループをそんな視点では見ていなかったかも……。ずっと個人的に推している人たちはいますけど。トップアイドルの皆さんたちを見ていると、たった2~3年でここまで生まれ変われるんだなってびっくりする。2~3年ってアイドルやっているとすぐ過ぎちゃうじゃないですか。その間に正しい努力の仕方をしていたらこうなるんだなって、いちファンとして感動しながら見ています。自分たちもリリスクの中でそれを実現するにはどうすればいいんだろうって、新体制が始まるまでに考えを固めているところです。

──オーディションを終えられていよいよ活動開始とのことですが、新体制のリリスクはどのようなグループになりそうですか?

minan 今まで十数年間、メンバー変更もありながら作ってきたリリスクの根底にあるものは変わらないです。もちろん新たなメンバーが入るし男の子も加わるので最初はびっくりする方が多いかもしれないですが、「なんか全然別物になっちゃったじゃん」とは思わないでほしい。ちゃんとリリスクとして貫いてきたものはこれからのメンバーでも変わらずに作れるなと感じていますし、むしろその辺を面白がって見てほしいです。

──前体制のリリスクは、歌とラップのスキルをどんどん磨いていくことで究極的にはヒップホップに追いつき追いこしていくというダイナミズムがあったと思うんですが、今後もそういった側面は引き継がれるのでしょうか。

minan パフォーマンスのスキルも勿論大事ですが、最重要視はしていません。オーディションの時もプロデューサーのキムさんは「新メンバーにはまず個性を求めてる」と言っていて。『L.S.』という前体制のラストアルバムは、“アイドルのヒップホップ”というフォーマットで、メンバーそれぞれの個性をより強く打ち出せないかと試みた作品だったので、その延長に今回の体制のスタート地点を設定しました。中には、今までずっとヒップホップを聴いてきて自分でビートメイクしてラップを乗せられちゃう新メンバーもいますし、一方でこれからリリスクに入ってきっと自分のペースで自分の強みを見つけて磨いていくんだろうなってメンバーもいます。共通しているのは、それぞれがリリスクに入った上でまだ伸びしろが見えるメンバーたちを選んだということ。とはいえ、みな一生懸命なので、スキル面に関してもすぐに成果を良いパフォーマンスで示せると思います。

──オーディションで、minanさんやキムヤスヒロさんはじめ皆さんの意見は割れることはありましたか?

minan 割れましたね! キムさんとそれ以外全員で割れたこともありました。キムさんだけ意見が違って、私とマネージャーとレーベルの細田さんと曲を作ってくださっているALI-KICKさんが同じ意見とか。

──そういう時はどうするんですか?

minan その時は最終的にキムさんが折れました。みんな同じゴールを目指して大事にしているポイントは合ってるんだけど、人を見る時の角度が違って意見が割れるというか。

──ちなみにminanさんが見る角度はどこなんでしょう。

minan 私は本当に直感なんですよ。最初にピンときた感覚を大事にしています。旧体制を見ても今まで自分の感覚は間違っていなかったと信じているので、勘は大事にしようと思っています。でも、最終まで残ってくれたメンバーはどの子も本当に良い子で。全員メンバーに入ってもらいたかったし、泣く泣く落としました。最終審査で一曲歌ってもらうんですけど、みんな真っ直ぐだし、一生懸命覚えてきて歌ってくれているというだけでもう泣きそうになっちゃって。

──以前、新体制ではプレイングマネージャー的な立ち位置で関わりたいとおっしゃっていました。

minan 今、私は運営のグループLINEに入れてもらっているんです。これまで運営側の連絡事項はメンバーには一切降りてきてなかったんですけど、それが初めて目に見えて分かるようになった。あぁこんなにも自分たちはお膳立てされてたんだなと。今までもそういったことはある程度は理解しているつもりでいたんですけど、事細かに全て見えるようになって改めて感謝しているし、そこにプレイングマネージャーとして関わるようになることで今後メンバーとは違う視点でグループを作っていくことになるんだなというのを実感しています。

──メンバーから遠い存在に見られてしまうという懸念もあると思うんですが、そのあたりについて考えていることはありますか?

minan 敬語禁止! 遠い存在に見られてしまうことは絶対に良くないので。まず明後日の顔合わせから、威圧的なオーラは出さない。そうじゃなくてもただでさえ見た目が怖いらしいので(笑)、 ふわふわしたキャラでいこうと思います。

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──珍しくひとりの期間が長かったし、いよいよグループ活動が始まるということでちょっとドキドキしますね。

minan この前、振付師の竹中夏海先生に「ひとりっ子期間、めちゃくちゃ充実してるね」って言われたんですよ。 確かにひとりっ子ってこういう感じだよね、すごく納得いく表現だなと思って。それで習い事たくさん詰め込まれてるみたいな(笑)。

──秋以降、習い事が増えてきましたね(笑)。その習い事の中の一つで興味深かったのが、“all-rounder”のMV監督です。まさにオールラウンダーとして、ついに映像制作までディレクションされました。

minan せっかく前作のEPで自分も制作に関わらせてもらう環境ができたので、だったらMVの監督もやってみようか? という感じで提案をいただいたのでやらせてもらいました。でもまったくの初めてだったので、そもそも「監督って一体何をしたらいいんだ?」というところからで。

──どのように進めていったのでしょうか。

minan まずキムさんと話しながら内容を決めました。物語のあるMVにするのかしないのかというところからですよね。でも、せっかくだからストーリー性やドラマ性があるものにしたいなと思って、そこで出てきたアイデアがロードムービーでした。ロードムービーだったら主人公たちには目的地があるから、構成も考えやすい。ロケーションの数も稼ぎやすいし、制作期間も予算もハマりやすかった。その上で“all-rounder”で私がどういうことを表現したかったのかもう一度考えると、普段生きることが大変だなと思っている人たちの心をほんのちょっとでも軽くしたかったんですよね。じゃあ結婚式に向かう男性3人がいいんじゃない? となって。結婚式は色々なことを考えるイベントじゃないですか。出席する側として、もちろん嬉しいしおめでとうって気持ちがあるし、それ以外にも自分の人生のことを深く考えるきっかけでもある。そんな中で結婚式から帰ってきて、ふとつけたテレビから“all-rounder”が流れてたら主人公はどう感じるのかなって。

──スタジオ版の方のMVもまたすごく良いフィールが漂っていて。

minan そうですね。1990年代〜2000年代の雰囲気のような、私が子供の頃にやっていたブラ ウン管のテレビで流れていた質感が、“all-rounder”を歌っている3人に一番しっくりくるなと思ったんです。3人同世代というのもあって。そんな雰囲気が出せそうな小物も、カメラマンさんやスタッフさんが準備してくださって、スタジオに置きました。

──valkneeさんとか、あの時代なレトロなアイテムをよく持っていますし確かにハマっていますね。

minan ですよね。例えばPUFFYのあの頃のMVとか、色々観てイメージを膨らませていきました。ちょっとゆるっとした感じというか。

minan(lyrical school)/all-rounder feat. Rachel(chelmico), valknee<Drama Ver.>(Music Video)

minan(lyrical school)/all-rounder feat. Rachel(chelmico), valknee<Studio Ver.>(Music Video)

──“all-rounder”の「なんとなくでいい」というリリックについて、以前minanさんがご自身のことを器用貧乏で悩んでいるとおっしゃっていましたよね。その後メッセージから一年経って、何かその辺りのスタンスで変わったところはありますか?

minan でも、最近、プロデューサーや竹中先生に「minanは結構変わってる人間なのに、自覚してないよね」って言われるんですよ。「なんか自分のことすごい普通の人のように思い込んでるみたいけど、あなたは変わってるからもっとそれを自覚したら見える世界が変わると思う」というようなこと言われて、それからずっと「どういうこと!?」って思ってるんですけど(笑)。分かった、じゃあそこから始めよう! と思っても、変だと自覚するってどうやればいいんだろう。

──どういうところを指して「変」と言っているんでしょう?

minan もちろん、褒め言葉で言ってくださってるみたいなんですけど。そういえばちょうど竹中先生がこの前わかりやすくストーリーズに上げてくださっていて、保存したのでそのまま読みますね。「minanちゃんは個人的には全然器用貧乏じゃないなーと思うので、それも相まって面白いです。確かに歌もラップも上手で文才もあって佇まいも美しくて一見なんでもできるように見えるけど、人間性がざらざらっていうか(褒めてる)、生地でいうとリブとかコーデュロイだなって思ってます。リブとかコーデュロイの人は絶対器用貧乏じゃないからね! 超聡明なんだからとっとと開き直ればいいのに、いつまでもできないところがまた魅力でもあるんですが」って。自分では、今のところハテ? って感じなんですけど、10年近くずっと私のことを見守ってくれている竹中先生がおっしゃってることなんで、とにかくそれを自覚してちゃんと武器にできるよう頑張ろうと決意しています。

──生地のたとえはもう少し詳しく聞いてみないと分からないですが(笑)、でもminanさんの芯があって譲らない頑固なところは、例えるならざらざらしているかもしれない。うーん、どうなんでしょうか。ざらざらポイントについては、ファンの方に訊いてみましょうか。

minan 確かに訊いてみたい。私のざらざらポイント、どこなんでしょう。教えてください!

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Interview, Text by つやちゃん
Photo by Miki Yamasaki

INFORMATION

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last note

minan(lyrical school)
2022年11月30日(水)より主要配信サービスで配信スタート

Produced by K
Lyrics:minan/K
Music:K
Arrange:K

詳細はこちら

lyrical school oneman live 2023 “NEW WORLD”

走り続けるminan、新体制のリリスクとネクストモードについて語る interview220114-lyricalschool

2023年2月12日(日)
Spotify O-WEST
OPEN 16:15/START 17:00
前売:スタンディング¥4,000-(税込)
※整理番号順入場 ※ドリンク代別途必要

一般発売日
2023/1/14(土)12:00〜

チケットぴあ受付
Pコード:233-655

チケットぴあイープラスlyrical school