いわゆる東京インディーと呼ばれるシーンの中に存在しつつ、ポップなのにどこか異物感の残る独自の音楽性でマイペースに進んで来たミツメ。昨年の冬には曲の構成がこれまでになく親しみやすく、分かりやすくサビのある歌モノとして“エスパー”がスマッシュヒット。サブスクリプションのプレイリストにも頻繁にピックアップされるようになった。

ミツメ – エスパー

8月1日(水)にはミツメ流のサマーソング『セダン』をリリースするが、今夏の話題は何と言っても2013年の<ROOKIE A GO-GO(以下、ルーキー)>出演以来となる、メインステージへの出演決定が、さらに多くのリスナーに彼らの音楽と存在を認知させるタイミングになりそうだ。そこで、メンバーにとっての<フジロック>での経験や、2013年からの5年間、さらにはラインナップから俯瞰する今年の<フジロック>の方向性まで、様々な角度で話してもらった。

インタビュー|ミツメとフジロックを振り返る。ルーキー・ア・ゴーゴー出演から、5年を経てメインステージへ interview180723_mitsume_02-1200x800

Interview:ミツメ

——バンドによっては結成時の目標が「<フジロック>に出ること」というバンドもいるじゃないですか。ミツメが2013年にレッドマーキーに出演した時はいかがでしたか?

須田洋次郎(以下、須田) 結成当初は出たいって話はよく出てて、<ルーキー>に出られた時の嬉しかった記憶ははっきりありますね。

——ちなみに2013年のアクトで印象に残っているものは?

須田 ザ・キュアー(The Cure)が出てて。3時間ぐらいやってたのかな? 僕は最前に近い位置で半泣きで見てました(笑)。ザ・キュアーとタワー・オブ・パワー(Tower of Power)がすごく思い出に残ってるかな。

Tower of Power – Squib Cakes – In Concert

——それが初<フジロック>ですか?

須田 初めて行ったのは学生の頃ですね大学の頃、同じバンドサークルだったので一緒に行ったりもしていました。

——大学生の頃の強力な記憶はありますか?

川辺素(以下、川辺) アトムス・フォー・ピース (Atoms For Peace)。トム・ヨーク(Thom Yorke)の弾き語りがめっちゃよかった。

須田 あれはかっこよかったな。その頃は1日を狙いすましてみんなで「どの日にしよう」って決めて、日帰りでパーって帰ってくる感じでした。

nakayaan
 その年か忘れちゃったけど、モグワイ(Mogwai)もフィールド・オヴ・ヘブンで雨が降ってる中、気を失いそうになって見ていたのを思い出します。

Mogwai – 2006/08/04 – 02 – Glasgow Mega-Snake (Haldern Pop Festival)

——結構以前から行ってるんですね。

須田 10年前ぐらいから。ホワイトステージのベル・アンド・セバスチャン (Belle and Sebastian)とかほんとによかったなぁ。

Belle & Sebastian – The Boy with the Arab Strap live COACHELLA

——ミツメになってからはどういう場所になりましたか。

川辺 <ルーキー>に出てからはそんなに行てなかったのかな? 去年は行ったんですけど。

須田 しばらく夏は夏でなんだかんだ入っちゃったりとか。

川辺 レコーディングするとか自分たちのライブがあるとか、なかなか行けなかったんですよ。やっぱ1日行くだけでも次の日、もうヘトヘトで無理みたいな感じになっちゃうから(苦笑)、それを考えると「行けねえ……」みたいな感じになってた。

須田 <フジロック>も<SUMMER SONIC>も「この日行きたいな」って日は毎年あるんですけど、でも半分行けないのもわかってるから、深く見ないようにしてる部分もあって(笑)。

——なるほど。ちなみに2013年の<ルーキー>出演後につながりができたバンドは国内外問わずいますか?

川辺 Homecomingsは<ルーキー>で初めて会ったよね。

須田 同じ年の同じ日に出たんですよ。出演順が前後で。それでそこで話すようになって。森は生きているも水中図鑑も未だに近かったり、繋がりがあったりするというか。

nakayaan Homecomingはその時、メンバーみんなミツメのTシャツ買ってくれて(笑)。

須田 たまたまその日は、近いアーティスト、界隈というか、音楽性だったので話もあったし、お互い深夜ライブ見て、「お疲れ」っていう感じは、その日に関してはありましたね。

Homecomings “PERFECT SOUNDS FOREVER”(Official Music Video)

——2013年の<フジロック>で体感したことで、例えばより海外に行って見たいとか感じたことはありますか?

川辺 インドネシア行ったのって2013年?

須田 3月なので、<ルーキー>出演はそのあとですね。

川辺 結構前から「海外行きたいね」って話とかはしてて。

須田 それこそ<フジロック>で海外のアーティスト見て、大学生の頃に強いインパクトを受けてたので、そこからの流れっていうのはあるかもしれないですけど、「海外でライブやってみたい」っていうのは。でもその2013年に関しては多分、自分たちがライブやったってことの部分以外は、たくさん3日間ライブが見れたっていう(笑)、大学生の頃とあまり変わらないような、楽しみ方をしてたと思います。

——では<フジロック>があったからこそ出会ったアーティストや音楽はありますか?

川辺 無くなっちゃったけど、オレンジコートのワールドな感じがすごいよかったんだけどな。欧米じゃない感じのバンドが出ていて、あそこは不思議でしたね。

須田 大好きだったな。タワー・オブ・パワーもオレンジコートだったし。あの時のライブは本当に良かったんですよね。

——逆に苦い思い出は?

須田 大雨ですね。何年だか覚えてないけど、本当に一日狙って行った日が3日間雨の中でも一番の大雨みたいな日があって、その時は大変でしたね。

川辺 温泉に入るときに関節が痛い! みたいな。冷えすぎてて。一日で泊まりは無しで日帰りだったんで厳しかったですね。

須田 車で。何人かで車2台ぐらいで一緒に行って。

——若いですね(笑)。

須田 もう今はできないですね(苦笑)。本当に白目剥きながら走ってましたからね、帰り。サービスエリアごとに停まって、運転交代してみたいなのをやって。

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——2013年の<ルーキー>以降の5年間はみなさんにとってどういう5年間でしたか?

川辺 5年間……(当時は)ライブを初めてまだそんなに時間が経ってなかったんです。まだ始めて3年とかで。そこからするとだいぶライブをたくさんやったんで、レッドマーキーでできるぐらいになったのかなって(笑)。

——じゃあ「5年もかかった」みたいな感じではなく?

須田 気づけば5年なんです。<ルーキー>の次の年って、出演権獲得の企画があるじゃないですか? その時ももちろん出たかったけど叶わなくて。その年以降は毎年「出れたらいいな」と思いつつ。同時に自分たちの制作もあるし、ライブもあるしツアーもあるしで、やることを続けてて気づいたら5年経ってて(笑)。だから5年というより、今年お誘いがきて「ああよかった。やっと出れるな」っていうのはあったけど、「<ルーキー>って何年前だっけ?」って会話になった時、意外とみんなはっきり認識してないというか、「3年だっけ? 4年だっけ? ああ、もう5年か」っていう感じの会話だったですね。

——2014年、2015年は東京インディーというムーブメントが来て、ミツメと同時期や後から出て来たバンドも活躍し始めたと思うんですが、その間、ミツメらしさが一番深まったのはどの辺りの時期なんですか?

川辺 別に変わんない、スタンスは全然変わんないです(笑)。

——(笑)。そのスタンスの変わらなさがすごいなと思っていて。でも音楽はちょっとずつ変わっていくじゃないですか。いい意味で自分のためにやってるというか、バンドがやりたいことにちゃんと向かってるんだなというか。

須田 そうですね。始めた時から自分たちにとって新鮮だと感じられる演奏やアレンジをしたいなというのが共通認識としてはあったので。だから自分たちにとって新鮮な音楽だとか活動内容っていうのはなんだろう? っていうのを続けていくっていうスタンスが変わらなかったから、結果、音楽が変わっていったりとか、ライブのツアーで行く場所が海外でちょっと新しいところに行ってとか、そういうのが増えて行って、結果として幅が5年経って広がることができたのかなと思います。

——最近アジアのリスナーが多くて、日本より動員が良かったりするという話も聞きます。

川辺 中国とか日本のインディー音楽に関して興味持ってくれてる人が結構いるなっていうのはあります。

須田 日本の文化に対して興味を持ってくれてる若い子の一定層が、今まで行ったアジアの国だとどの国でもあるなっていうのは感じますね。今振り返るとインドネシアが一番驚きでしたけど、最初だし、インドネシアにそういうのがあるって全く予想してなかったので。そこから台湾とか、タイとか行くとどこでもあって、このあいだも上海で初めて自分たちのワンマンツアーの中でワンマンライブをして、そしたら東京と同じぐらい人が集まってくれて。自分たちに対しての評価だけじゃないのかなとは思います。日本の音楽シーンとか文化に対して、憧れるというかリスペクトしてくれてる文化が脈々とあったからこそ、自分たちが行った時にその中で受け入れてもらえたのかなと思います。

——面白いですね。お聞きしていると、この5年、バンド内部では悶々とした時期はなかったんですね。

川辺 お客さんが増えてくれたらいいなみたいな気持ちは常にあるんです。爆発的に行かないところは「どうしたらいいもんかね?」みたいなのはずっと話してはいるんですけど、それ以外に関しては内容的な部分では悶々としたりする部分は少なかったですね。

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——逆に海外で人が増えてるんだと考えれば、自分たちを変える必要はないですね。

川辺 そうですね。いろんな要素が組み合わさって「見に行こう」っていう人が増えるのかな? と。いろんなことして頑張れればいいのかな、と(笑)。

——ところで明らかに『A Long Day』とシングル『エスパー』以降、周りの雰囲気も変わって来たんじゃないかと思うんですが。

川辺 そうですね。それより前は宅録の延長でやってる部分も多かったんですけど、『A Long Day』が演奏することががっちりして来たのもあるんで、ライブで見てもらった時も、前よりちょっと迫力が出るようになったのかな? みたいのはあって。ライブでいうと『A Long Day』以降、ちょっと変わったかなと思いますね。

ミツメ – あこがれ

——『エスパー』はアー写が個人的には新鮮だったんですが(笑)。

一同 (笑)。

川辺 いわゆるかつてのブラー(Blur)とかオアシス(Oasis)のこと面白がってて。なんとなくそのイメージがあって、それっぽいのを撮ってみたりして。でもそのまんまは面白くないなって、やっていくうちにああいうのができて、「面白いね」ってなりました。

須田 質感がわけ分かんない感じ(笑)。

——あのアー写のインパクトと曲のキャッチーさがあって、加えてタイミング的にはサブスクリプションのプレイリストによく上がるようになって。

川辺 そうですね。Spotifyとかバナーに登場して、あのアー写でバナーが出て来て「なんだこれ?」っていう(笑)。それは強いなと思ってるんです。異物感みたいなところっていうのは一貫して4人で面白がって来たところではあったので、毎回そういうのができるといいなとは思ってるんですけど、前回のアー写は特にそれが強かったかもしれないです。

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——確かに。ミツメって聴いてるぶんには異物感は本当に微妙で。すごくその異物感が好きな人しかわかんなかったりするじゃないですか。

川辺 そうかも知れないですね。だからライブとなるとどうしようか? みたいな感じになるので、盛り上がるところはすごく激しくしてみたりとか。だからそういう部分で見に来たいと思ってくれる人が増えたらいいのかな? みたいな話はしてるので。ライブは違ってもうちょっと骨太だったりとか、そういうところはもうちょっと練習したりしてます(笑)。

——ミツメの出演する初日は以前ミツメのライブで共演したマック・デマルコ(Mac DeMarco)がレッドマーキーのトリですね。

須田 また一緒に(笑)。

——なんかフワ〜ッて出て来てくれないですかね(笑)。

須田 いやー? (笑)。

Mac DeMarco – “Still Together” – Pitchfork Music Festival 2013

——この日のレッドマーキーの流れはなかなかいいですね。

須田 そうですね。チューン・ヤーズ(Tune-Yards)とか今どういう感じなんだろうとか、気になりますね。

——ちなみにニューシングルの『セダン』はもうライブでやってるんですか?

川辺 やってます。

須田 翌週に発売なんで。

——あらゆる人にとっての夏のギターリフって感じがするんです。

一同 ははは。

——“エスパー”ともまた全然違っていて。

川辺 そうですね。“エスパー”より全然前にできて。去年のライブでもやってたんですけど、構造がはっきりしてる曲で、Aメロ、Bメロ、サビとCメロ的なものもあるし。あんまりそういう曲やってこなかったんで、アレンジをどういう風にしたらいいかね? って話で、二転三転ありまして。

——以前からそうですけど、ミツメの曲って静かな場所で聴かないと全体像が分からないぐらい、圧がないじゃないですか。

川辺 圧ないですね(笑)。

——だから音源はすごく静かなところで聴きたいんですよ。だからライブでどう変わるのかすごい楽しみです。

川辺 ありがとうございます。

須田 ライブはそういうのを考えながらやって来てるので、出し切るというか、集大成のようにできればなと思います。音数が少ないだけに苦労するところもありますけど、いざ演奏しようとすると音数少なく縦を合わせるってなかなか難しいことなので。

——こういういかにもライブとかでアッパーになることが想像できない曲ほど楽しみなんですよ(笑)。

川辺 それを「ライブでどう伝えられるか?」をいつも考えてるところではありますね。どうしてもエクストリームになりがちというか、歪ませてドーン! てインパクトを出す方が楽なんで。そうならないようにどうしたら雰囲気とか質感を伝えられるかなというのは課題ではありますね。最近だんだんね? ちょっとずつそういうゆったりした曲を演奏できるようになってきた感じなので、ライブで見てもらえると嬉しいですね。

ミツメ – セダン

——それこそマック・デマルコは歌がいい、楽器の音がいいので聴けるじゃないですか? 派手な音じゃなくても。

川辺 そうですね。どこか極まってる人っていうのはやってるのを自然に見てるだけで惹きつけられるものがある、その域で演奏できたらいいなと思いますね。初期衝動に頼らない感じで(笑)。

——ところで今年、絶対見たいアクトはありますか?

川辺 ケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)でしょ。

須田 アンダーソン・パック(Anderson .Paak)

川辺 俺ね、リキッドに見に行きました、深夜に。でもグリーンステージでやるんだと思ってびっくりしました。

nakayaan ドラムめちゃくちゃうまいからね、あの人。

大竹雅生(以下、大竹) 『NPR Music Tiny Desk Concerts』のやつすごい見てる。

Anderson .Paak & The Free Nationals: NPR Music Tiny Desk Concert

川辺 サカナクションは見たことないから見たいな。

nakayaan 同じ日にマーク・リボー(Marc Ribot)のバンド(※)も出るので、それは絶対見たいですね。本当かっこいいので。
※セラミック・ドッグ(CERAMIC DOG)

——後、ボブ・ディラン(Bob Dylan)の時、他のアクトは止まるそうです。

須田 その時間、被りがないんだ? (笑)。ボブ・ディラン好きなので楽しみですけど。

Bob Dylan Hurricane Live 1975

——でも行ってみて気分で考える感じですか?

川辺 行くと、見たいと思ってたやつ疲れて「もういいっす」みたいな。去年、絶対LCDサウンドシステム(LCD Soundsystem)見たいと思ったけどもうホワイトステージまで行けないと思って、結局エイフェックス・ツイン(Aphex Twin)見て終わるという(笑)。

——(笑)。今年の<フジロック>のラインナップを俯瞰してどんな印象がありますか?

川辺 ちょっと前とかって何度か<フジロック>に出てた印象がある人がまたヘッドライナーだなと思ったりした気がするんですけど、今年とかそういう感じしないですね。

須田 うん。エヌ・イー・アール・ディー(N.E.R.D)とケンドリック・ラマーが3つのうちの2つを占めてるっていうのはすごく象徴的なラインナップだなと思いますけど。ある意味、何年かしたら「あの時代っぽいな」ってなるんだろうなって。

Kendrick Lamar – Alright

N.E.R.D Lights Up the Stage with ‘Lemon’

——アジアからのお客さんも最近増えているので、日本の新しいバンドも注目されるのでは?

須田 日本のバンドが多く出る意味もそういうところから出てくるんでしょうね。いいことかもしれないですね。

川辺 先日、韓国のフェスに呼んでもらって。そういうフェスがアジア近郊で増えてくると、「<フジロック>に出てるバンドだから呼ぼう」みたいなところにも繋がってくるんでしょうね。

——では最後に出演者としての抱負をお願いします。

川辺 何言っても当日のその時間が全てなので(笑)、いい演奏をするので見に来てもらいたいですね。

須田 本当に初めてだったりとか、一回だけライブを見てという人も多いと思うので、録音物とはまた違う、自分たちも含めてライブならではの時間を楽しめればなと思います。

大竹 人の記憶に残るライブをしたいですね。

nakayaan ま、<フジロック>なんで、自分も見る側だとそうなんですけど、やっぱり気持ちいいライブにしたいですね。なんで自分も楽しみながらやりたいです。

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EVENT INFORMATION

FUJI ROCK FESTIVAL’18

インタビュー|ミツメとフジロックを振り返る。ルーキー・ア・ゴーゴー出演から、5年を経てメインステージへ music180706_fujirock_01-1200x675

2018.07.27(金)、28(土)、29(日)
OPEN 9:00/START 11:00/23:00 終演予定
新潟県 湯沢町 苗場スキー場
詳細はこちら

RELEASE INFORMATION

セダン

2018.08.01
ミツメ

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ミツメofficial site

ミツメTwitter

text by Yuka Ishizumi
photo by Kohichi Ogasahara