――昇太師匠は3月16日の<千葉LOOK>で初めて人間椅子のライブを御覧になったそうですが。いかがでしたか?

昇太 あれくらいの会場は好きですね。お客さんとのその近さが良いというか……。やっぱ生は良いなと思いました。で、またね~、彼らが演奏しながらすごく気持ち良さそうだったんですよ。それを見ていたら、ちょっと憎たらしかったですね(笑)。まあ、僕も高座では気持ち良くやってるし。特に独演会とかはね。だから、自分もあんな感じなんだろうなあって思って見ていましたけど。

――バンドのライブも高座での噺も、生で見せる、聴かせるという意味では共通する何かがあるんでしょうね。

和嶋 絶対にどっか繋がっていると思いますよ。ステージがあって、お客さんがいるっていう仕事は。やっぱり、そこでの呼吸が必要なんですよね。あと、距離感もちょっと考えますね。会場が大きくなると遠くが見えないので、あんまりお客さんと慣れ慣れしい感じにしても後ろの方のお客さんは置いてかれるので。ちょっと壁を作るというか、舞台をちょっと高くする感じにするんです。で、小っちゃい会場だと、逆に舞台を下げるっていう気持ちでやるんです。周りの人としゃべっても大丈夫っていう感じで。で、それは僕、落語を見て、そのスタイル良いなって思ったんですよね。

昇太 それは本当、そうなんです。僕らも大っきい会場から小っちゃい会場まで仕事場はまちまちなんで……。大っきい会場の時は、1番後ろから見るんですよ。後ろから見始めて、徐々に前の方に目線をもっていくんです。で、小っちゃいところは、前から後ろにいくんです。

和嶋 あー、それ勉強になる!

昇太 勉強になりますか(笑)? でも言っていることは和嶋さんと一緒でね。小っちゃいとこだとなんとなく最初からひとつになれるんだけど、大っきい会場だと、特に落語みたいなちまちました芸能は、早く仲間にならないといけないんで。1番後ろの方からちょっとずつ前の方に気持ちをもっていくんです。

春風亭昇太×和嶋慎治(人間椅子)。唯一無二の個性を放つ2人の夢の対談 interview140426_ningenisu_14

――音楽のライブでも落語でも、お客さんを掴むってとても大切なことだと思うんですが。それはどういう瞬間に感じるものですか?

昇太 瞬間というかね……。これは年に1回あるかないかなんですけど、もう自分が神様みたいな気持ちになる時があるんですよね。客席を自分が思い通りに支配できるというか……。まあ、最近は数年に1回くらいですけど(笑)。でも、そういう時が本当にあって。その時はもの凄く気持ち良いです。

和嶋 その瞬間は、僕もわかります。本当に年に何回かあるかないかですけど(笑)。もう、パーフェクトなんですよ。例えば歌ったり演奏する時に、先に何やろうって考えているうちは全然ダメ。まあ、それが普通の状態なんだけど、それをやらなくてよくなるっていうか、すべてが流れるように、誰かが決めているかのように……。それこそ神が決めているかのように淀みなくいくんですよね。だからそういう時は、例えばノッていないお客さんっていうのが必ずいて、まあその人なりのノリ方でノッているんだと思うけど、通常の状態だとそういう人のことが気になっちゃったり、この人ノセなきゃならないとか思っちゃたりするんだけど。凄く上手くいっている時は、そんなことまったく気にならないんですよね。そういう時って、稀にあります。

昇太 それを経験しちゃうと、やめられなくなっちゃうんですよね。

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――和嶋さんにとって、昇太師匠の落語の魅力というと?

和嶋 それはやっぱり、常に楽しそうにやっているところかな。それと、古典落語を現代の人がやると何か足りなく感じちゃう時があるんだけど……。筋を追いすぎると、あんまりおもしろくなくなるというか。それよりも、そこにその人なりの可笑し味が出るのが表現かなと思うんだけど、そういう意味では古典を自分なりの可笑し味に解釈してやってらっしゃる方って実は少ないかもと思うんです。……偉そうなこと言ってすみません。だけど昇太さんには、その感じが凄いあるんですよね。もちろん新作落語もおかしいし、どんな落語をやっても昇太さんのカラーが最初っから出ている。それはもう天性のものというか、努力しても出せないものを持ってらっしゃる方だと思うんです。別の言い方をするなら、現代語で相手にわかるように言っている感じっていうのかな……。教科書にはならない感じの落語? でも、だからこそ生きている落語。そこが凄い好きなんです。

昇太 まあ、僕は新作も書くんだけど、イメージ的には古典はスタンダード・ナンバーで、新作はオリジナル・ナンバーっていう気持ちでやっているんです。で、スタンダードな曲って良いから残っているわけじゃないですか。それを他の人と違うように聴かせるっていうのは、けっこう難しいんだけど。でも、まあ新作を最初にやっていたおかげで、その方法論みたいなものは自分の中ではなんとなくできているみたいな気はするんです。ただ、それを全員が好きかっていったら、それはまた別の問題でね。だから結局は、僕が良いと思ってやってることを良いと思ってくれている人しか聞いてないっていうことなんだけど(笑)。でも、だからこそボクの落語を良いと思ってくれる人には、なるべくベストなものを提供したいとは思っているんですけどね。

和嶋 あと、さっき「花が咲いた」って言いましたけど、昇太さんにはたとえしゃべらなくても、歩いて出て来るだけでパーッて光る感じが凄くする。それって、ホントに素晴らしいことだと思うんです。

昇太 ありがとうございます(笑)。っていうか、綺麗な日本語で伝えるのが上手っていうのでいいのであれば、アナウンサーさんが落語やった方がいいと思うんですよ。でもそうじゃなくて、人間の体から出て来る“気”みたいなものが、絶対的に落語には必要だなと思っているので。だから、僕わりと人見知りの方なんで、普段は凄いしょぼしょぼなんですけど(笑)。高座に上がる時には、体をギュッてやって……。パッと気持ちを客席に向けて発射するような感じ? それは絶対に必要だなと思っているんです。

和嶋 それは、伝わっています! それと、昇太さんって勢い込んで同じことを何回もしゃべることあるじゃないですか。それで逆に、“あっ、言いたいんだ”っていうのが凄く伝わってくるというか……。言い換えれば、けっして台本を読んでいる感じじゃない。そこに春風亭昇太っていう人間が生きているっていう感じがして、凄い感動するんですよね。

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