《泥水をはねて前進すんだ/雪解けで走る川のように/凍る不安もかっさらって》……一曲目の“なだれ”から、その凛とした歌声のカッコ良さと、ピアノとドラムというシンプルな構成に痺れる、日食なつこのサードアルバム『アンチ・フリーズ』。コロナ禍という困難な状況の中、決して凍りつくことなく、滔々と流れ続けることを選び取った彼女は、今年に入ってから、「音楽」という名の「夢」を見続けるための「旗」のような一曲と称する“音楽のすゝめ”、n-buna(ヨルシカ)にアレンジを依頼した色鮮やかなサマーチューン“真夏のダイナソー”など、明確な意志と強度を持った楽曲を次々と発表してきた。
その彼女は、フルアルバムとしては『永久凍土』以来、実に約2年半ぶりとなる本作で、果たしてどんな「音楽」を目指したのか。そして、この「アンチ・フリーズ」という言葉で、彼女は何を世の中に訴えかけようとしているのか。今から約7年前に発表した“水流のロック”が、ここへきてSNSなどを介して話題を呼ぶなど、これまで以上に多くの注目を集めているであろう本作『アンチ・フリーズ』について、日食なつこ本人にじっくりと語ってもらった。
『アンチ・フリーズ』 – 日食なつこ
INTERVIEW:日食なつこ
時代とリンクした、前作からの反動と制作環境の変化
━━フルアルバムとしては前作『永久凍土』から約2年半ぶりとなる、サードアルバム『アンチ・フリーズ』が完成しました。
日食 サードアルバムと言いつつも、こういう状況なので、割とイレギュラーな作品になったとは思っています。コロナ禍という期間の中で、イレギュラーにやれることをやりきったという。なので、「やってやったぜ!」っていうような気持ちが、今は大きいですかね(笑)。
━━(笑)。楽曲的なバリエーションも、かなり富んだものになりました。
日食 そうですね。それぞれの曲を作った時期も割とバラけているというか、コロナ禍の前にリリースした曲も何曲かあったりするので、「これ、作品としてまとまるんだろうか?」という気持ちもあったんですけど、並びを工夫しながら、なんとかまとまったかなっていう(笑)。それこそ、「対コロナ」みたいな曲も実はすごいたくさん書いていたんですけど、それらを今回は敢えて外したんですよね。
みんながつらい思いをしているのに、さらにつらい思いをさせるようなアルバムにしなくてもいいんじゃないかって思って。だから、“真夏のダイナソー”であったり、1曲目の“なだれ”のような、聴いていてちゃんと気分が「上へ上へ」と行くような曲にベクトルとして寄ったものになりました。聴いてくれる方々にとって、メッセージ性よりも鑑賞物として、良い意味であまり負担をかけないアルバムになったかなとは思います。
━━既発曲もありますが、基本的にはコロナ禍のアルバム制作となったわけで……やはり、だいぶ勝手が違いましたか?
日食 やっぱり、スタジオに入って他のミュージシャンの方々と一緒に音を出せないっていうのが、いちばん大きなネックとしてありました。だけど、それができないから止まろうじゃなくて……私はもともと、「ひとりで完結する音楽」をずっと目標にしてやってきたところがあるんですね。ピアノがあれば、たとえ停電していても、自分で伴奏ができるし歌も歌えるっていう。
だから、バンドメンバーがいないからやれないっていうつもりは最初からまったくなくて。むしろ、この状況の中でできることを積極的にやっていこうと思ったんです。たとえば、リモートでレコーディングしたりとか、これまでやったことのなかった打ち込みをゼロから始めてみたり(※M10“ワールドマーチ”のプログラミングは本人が担当している)、敢えて今、海外のアーティストさんとコラボをしてみたり。今じゃないと多分やるタイミングがないよねっていうことを、バラエティパックで詰め込んだみたいなアルバムにはなっているかなって思います。
━━状況を逆手にとって、これまでやってなかったことをやってみた?
日食 そうですね。だから、これまでよりも雑多な感じのアルバムにはなっているのかもしれないですけど、どの曲にも通じるのが、コロナ禍だからって止まるわけではないよっていう「アンチ・フリーズ」のメッセージで。それは全部の曲に一本筋として通っているというか、そこで一枚のアルバムにまとめられているのかなっていう気はしています。
━━そう、「心を凍らせてはいけない」という「アンチ・フリーズ」のメッセージが、かなり効いているように思いましたが、この言葉は、いつ頃どんなふうに思い浮かんだのでしょう?
日食 あ、これはもう、『永久凍土』が終わってすぐでした。
『永久凍土』 – 日食なつこ
━━あ、そうだったんですね。
日食 『永久凍土』の頃って、正直結構根を詰めていたところがあったというか、自分的にも「頑張らなきゃ、頑張らなきゃ」っていうタイミングだったんですよね。どうにかして自分の音楽を聴かせたい、理解させたいってトゲトゲした頃だったというか、それを『永久凍土』という作品に全部注ぎ込んだんです。なので、作っている最中から、自分的にはちょっとしんどいところがあって……もう、早く次に行きたいっていう。
━━そうだったんですね。
日食 もちろん、ツアーとかは楽しかったんですけど、あのアルバムに込められた重すぎる主張みたいなものを自分自身がいちばん感じていたので、ここから早く次のフェイズに飛び立ちたいなってずっと思っていました。だから、ツアーも含めて『永久凍土』に関する諸々が完結した時点で、次はこれと真逆なやつを絶対やりたい、「永久凍土」━━ずっと凍っている大地を次は溶かさなきゃいけないっていうので、「アンチ・フリーズ」という言葉が思い浮かんだんですよね。
━━なるほど。コロナ禍の情況を受けたものではなかったんですね。
日食 そうなんです。もともとは自分のパーソナルなところから出てきた言葉で……それが結果的に、割と時代に即したものになってしまったという(笑)。そういうところはあると思います。
━━とはいえ、昨今の情況を見ていると、物事が滞ったり、人々の心もどこか凍てついたところがあるような……日食さん自身も、そういうことを感じる機会は多かったんじゃないですか?
日食 私は正直、この一年はめちゃくちゃ曲が書きやすかったんですよね。『音楽のすゝめ』のときのインタビューで話したように、コロナ禍になって、このまま東京にいたら、いろんなものに流されてしまうと思って、山奥に引っ越して。それによって、すごく曲を書きやすい環境が整ってしまったんです。もちろん、東京都内にいても、他人の言うことに紛らわされずに曲を書ける人はすごいたくさんいると思うんですけど、そうじゃない人というか、私と同じように他人の言うことに揺らがされてしまう人たちっていうのも、やっぱりいると思っていて……。
━━ちょっと意外でしたけど、日食さん自身、割とまわりの影響を受けてしまうタイプなんですよね。
日食 そうなんです。すごい影響を受けてしまうというか、実は超ブレブレなんですよね(笑)。なので、できれば、いろんなことを言う人たちが、まわりにいないほうが助かるっていう。で、私と同じようなタイプの人って結構いると思うんですけど、そういう人たちが東京の渦の中にいて、心をやられちゃうのはすごいもったいないというか、私がひとつ手本みたいなものになれたらいいなって思いながら、この一年のあいだ曲を書いていたところがあって。状況を見極めながら、臨機応変に自分の居場所を移していくっていう考え方が、もっとあってもいいんじゃないかっていう。それは音楽業界に限らずですけど。
━━実際、日食さんは、そうやってこのアルバムを作っていったわけで。
日食 もちろん、ジャンルにもよると思うんですけど、少なくとも私みたいなひとり完結型の人間は、自分にとって居心地の良い場所を目指して、どんどん動いていくべきなのかなっていう。今はそんなふうに思っているんですよね。
━━ただ、その結果生まれたのが、『永久凍土』のように個をつきつめたアルバムではなく、どこか外に向かって開かれたようなアルバムになったというのは、ちょっと面白いですよね。
日食 そうですね。そろそろ、そうなりたいなって思っていたところもあったんですよね。『永久凍土』の曲を書いていたのは27歳とか28歳の頃だったので、まだまだオラついていた時期というか、オラついても誰かが面倒を見てくれる年齢だったという自覚もあって(笑)。それで、ああいう感じのアルバムになったんですけど、それから2年ちょっと経って、いきなり拳を振り上げるよりも、言葉で相手をいなすぐらいのほうが、カッコいいなって思うようになったんです。
まあ、年齢的なところもあるのかもしれないですけど(笑)。そういう意味で、『永久凍土』のときにあった「痛さ」とか「トンガリ」みたいなものは、敢えてこのアルバムでは出してなくて。それよりも、ただただ流動体として、わーって流れていく気持ち良さとか、その気持ち良さの中にちょっとした皮肉があって、それがまた気持ちいいっていうような……そういう快感重視のアルバムにはなっているのかなって思います。
━━そう、「流動体としての気持ち良さ」と言えば、日食さんが7年前に発表した“水流のロック”が、ここへきて再注目されているような状況がありますよね?
日食 おかげさまで(笑)。でも、正直なところ、今になって、ようやく届くべきところに届いたなっていうのはあるんですよね。あの曲は7年前に出した時から、いろんな人に手をつけられて、どんどんポップに化けていく曲になればいいなと思っていました。ようやく、その流れに乗ったかっていう(笑)。割と私は、それをずっと待っていたところがあって。特に何かを仕掛けていたわけではないんですけど、そういう曲になるべき曲だなっていうのは、もう曲を書いている時点で思っていました。なので、あの曲は、勝手にひとり歩きしていってくれたらいいなって思っています。
日食なつこ – 水流のロック
━━そうやって、“水流のロック”で初めて日食さんのことを知った人も違和感なく聴けるところが、今回のアルバムのいいところだなと思いました。そもそも「アンチ・フリーズ」というか、凍ることなく、むしろ溶け出して流れていくのだというアルバムでもあるわけで。
日食 ああ、確かに。水属性なんですね、きっと(笑)。多分それが、自分の中での表現法として、いちばん使いやすいというか、今後もその系統の曲が出てきて、歴史が長くなればなるほど、水属性のアーティストとして、どんどん育っていきそうな気はしています(笑)。
国内外アーティストのコラボなど、ソロだからこそ動き続ける
━━(笑)。ここからは少し、アルバム『アンチ・フリーズ』の具体的な楽曲について聞きたいと思うのですが、いちばんポイントになる曲と言ったら、どの曲になるのでしょう?
日食 ポイントはやっぱり、1曲目の“なだれ”ですかね。今の話を受けてじゃないですけど、この曲は明らかに“水流のロック”の続きものとして、意識して書いたところがあったので。“水流のロック”には、実はベースも入っているんですけど、この曲は完全にピアノとドラムだけの構成になっていて……日食なつこの基本的なスタイルから、アルバムが始まるっていう。
━━ということは、割と最近作った曲なのですか?
日食 いや、書いたのは3年ぐらい前ですかね。歌詞も、もうめちゃめちゃ前に書いていて。だから、実はコロナ禍とか全然関係ない、めちゃくちゃパーソナルな曲なんです。
━━そうなんですね。《君が失ったきらめきも/もうじきに息を吹き返す/覚えているかいあの歌を》という一節など、今の情況とリンクして、結構グッときてしまったんですけど。
日食 そうであったら嬉しいですね。というか、基本的に私は自分のことだけを書いているというか、社会のこととかを考えて書いた曲は、私の場合、まずいい曲にならないんですよね。なので、すごくパーソナルなところというか、自分の手の内の中で曲を書いています。まあ、私は結構普通の人間なので、多分みなさんがこの社会で普通に感じていることを、結果的に私も感じているというか。だから、みなさんに共感してもらえるのかなっていうのは、ちょっと思うところではあります。
日食なつこ – なだれ Studio Footage
━━なるほど。その他にキーとなる曲と言ったら、どの曲になるでしょう?
日食 どの曲も、割と仕上がりが平等に良かったので、どれかな……6曲目の“HIKKOSHI”とかは、個人的に結構好きな曲だったりしますけど。
━━この曲のアレンジは、ちょっと新鮮で面白いですよね。
日食 そうですね。アレンジはホント大成功でしたね。みんなで車に乗り合わせて、これから引っ越しするぞっていう楽しさだったりワクワク感だけが、ちゃんと反映された曲になっていて。この曲はホントに、影がひとつもない曲というか、今までそういう曲もあんまりなかったし、こういう音でこういうアレンジでっていうのも今までなかったので、割とガラッと毛色の違う楽曲になったんじゃないかなって思っています。
━━今回のアルバムには、この曲をはじめ、他の方にアレンジを依頼した曲がいくつか入っていますが、その基準っていうのは、何かあるんですか?
日食 アレンジについては、“音楽のすゝめ”とか“真夏のダイナソー”……あと、この“HIKKOSHI”もそうなんですけど、曲が思い浮かんだ時点で、ある程度こういうサウンドにしたいっていうイメージがあったので、そこから人に相談して紹介してもらったり、自分の知り合いだったりします。たとえば、“HIKKOSHI”のアレンジをお願いしたガリバー鈴木さんは、昔、ライブを一緒にしたことがあった繋がりで。そのときから、「すごい良いベーシストさんだな」って思っていたんです。で、他のバンドでやっている曲もすごい柔らかい感じというか、オーガニックな感じでいいなって思っていたんですけど、それに合うような日食なつこの曲が無かったから、今までお願いできなかったっていう経緯があって。
━━前回の対談で話していたように、“真夏のダイナソー”のアレンジをお願いしたn-bunaさんも、確かそんな経緯でしたよね。
日食 あ、そうです、そうです。“真夏のダイナソー”に関しては、こんなに爽やかな曲は、久しく書いてなかったなっていうこともあって。だから、久々に毛色の違う曲が書けたなっていうときには、特にアレンジャーさんを慎重に選んだところはあるんですよね。
日食なつこ – 真夏のダイナソー
━━それ以外の、海外のアーティストにアレンジを依頼した楽曲は、どういう経緯だったのですか?
日食 これは完全に、プロデューサー氏からのアドバイスですね。最初に言ったように、こういう状況というか、どうしてもデータのやり取りが中心になるので、だったらいっそ海を越えた人たち━━とりわけアジア圏の人たちと一緒にやってみたらどうだろうっていう話があったんです。それで、プロデューサーが今、気になっているアーティストの方々をリストにしてくれたので、その中から「この方に、この曲のアレンジをしてもらったら面白そうだな」っていう人を何人かピックアップして、お願いしてみたっていう感じです。
━━実際のやり取りは、どんな感じだったんですか?
日食 いやあ、もう緊張しました(笑)。直接の面識があるわけでもないし、文化の土台も全然違うから、いきなり連絡を取って、こっちが言ったニュアンスがちゃんと伝わるんだろうかっていう不安がやっぱりあって。結果的に、どれも素晴らしいものになったので、すごく良かったなって思っています。
━━そう、シングル「真夏のダイナソー」のカップリングとして発表されている“泡沫の箱庭”などは、既に結構な人気曲になっていますね。
日食 そうなんですよ。“泡沫の箱庭”は、もう非常に人気の一曲になっていますよね。この曲のアレンジをお願いしたのは、Ruby Fataleさんっていう台湾のアーティストの方なんですけど、私がやって欲しかったことを、もうほとんど一発で仕上げてくれて。彼女のインスタグラムを見た時に、初めて顔を認識したので、この方がこのアレンジを作ってくださったのかっていう驚きもありました。
日食なつこ -「泡沫の箱庭」Lyric Video
━━あともう一曲、11曲目の“99鬼夜行”も、海外のアーティストが参加していて……これも、すごく変わったアレンジの曲になっていますよね。
日食 これは、まだ東京に住んでいたときに書いた曲ですね。この曲をアレンジするなら、真夏の熱帯夜を、そのまま音として再現したいなって思っていたんですよね。その頃は、西陽がガンガン射して、どんなにエアコンをかけても暑い部屋に住んでいて……そこでうだつのあがらない自分というか、もうこれで終わりなんじゃないか、《夢よさよならどこへでもゆけ/四半世紀後にまた会いましょう》っていう、歌詞のまんまなんですけど、ある種投げやりな気持ちを、そのまま書いた一曲というか(笑)。
━━(笑)。
日食 なので、その投げやりさと、東京の真夏の夜のうだるような感じっていうのを、うまく出していただきたいなっていう、割と無茶なオーダーをさせていただいて(笑)。これはBlood Wine or Honeyっていう香港のアーティストの方にアレンジしていただいたんですけど、それも非常にいい感じで返ってきて。そういうアーティストの方が、海を越えたところにいるんだっていうのは、やっぱりこういう機会じゃないと知り得ないことではあったので、今後もまた機会があったら、是非やってみたいなって思っています。
━━なるほど。そういった海外のアーティストが参加した曲も含めて、逆境の中でも立ち止まらない感じというか、まさしく「アンチ・フリーズ」を体現した一枚になりましたね。
日食 そうですね。さっき言ったように、もともとは自分のパーソナルなところから出てきた言葉ではあるんですけど、やっぱりこの時期に、凍って欲しくない人たちがたくさんいるなって思っていて。私から見ても、足元が凍り始めているような感じの人たちが結構いて……ホント、頼むから、そこで凍ってしまわないでくれっていう。そう人たちは、是非このアルバムを聴いて、ちゃんと流れていって欲しいなって思っているんですよね。
━━そう、音楽っていうのは、人を凍らせるものではないというか、むしろその逆の効果があるわけで……。
日食 それは、このコロナ禍で動けなかったときに、私の中で割と大きめに出た答えのひとつでしたね。以前、お話ししたように、去年の3月から丸半年間ぐらい、岩手の実家に戻ってピアノにすら触ってないような時期があって。アーティストではなく、ただの音楽ファンに戻っていたっていう(笑)。そのときに聴いていたものって、単純に自分がいい気持ちになれるものというか、決して理屈っぽいものではなかったんですよね。
━━以前話していただいた、“音楽のすゝめ”が完成する前夜の話ですね。
日食 ああ、そうです、そうです。まさに、そういう感じだったというか、今まで相当理屈を詰め込んで音楽を作ってきたところがあるな、と。それだけでは、聴き手も演り手も疲れてしまうから、次のアルバムでは、そうじゃないことをやりたいなって思ったんですよね。
━━日食なつこだからといって、いつもオラついてないとダメというわけではなく(笑)。
日食 そうなんですよ。『永久凍土』までの活動で、割とそういう像みたいなものが固まってしまったと感じていました。それを打ち破るために、髪をバッサリ切ったところもあったんですけど(笑)。
━━黒髪ロングを振り乱して、ピアノを弾き語る……ちょっと他人を寄せ付けないイメージがありました(笑)。
日食 そう(笑)。それが自分でも、ちょっとショックだったんですよね。まわりからは、そう見えているのかって思って。ホントは、そうじゃないんだけどな……っていうのは、やっぱりちょっとあって。
━━先ほどの、意外とまわりの影響を受けやすいところ含めて、実はそういう感じではないというか、その部分がだんだんバレてきているような気もします。
日食 や、バレてきてると思います。こないだのn-bunaさんとの対談じゃないですけど、私も所詮、ただの音楽ファンなので(笑)。それが自分の中でもバレてきているというか、黒髪ロングでキリッとしてなきゃいけないっていうのも、実は虚像であって……そうやって、何かを固定しようとするところから、どんどん逃げ続けるっていうのが、「アンチ・フリーズ」っていうことだなとも思いますし。
━━そうやって、ちょっと自由になってきたところが、このアルバムには、すごく出ているように思います。
日食 そうだと嬉しいですね。で、これを聴いた人たちも、それに気づいて、自分自身にも反映してくれたらいいのかなって思います。
━━そう、7月に一夜だけ開催された有観客ライブ<白亜>を観たときにも思いましたけど、日食さんの音楽は、「圧倒的」である以上に、その「楽しさ」が前面に出ているような感じがあって……。
日食 あ、それは良かったです(笑)。というか、それがいちばんですよね。「楽しかった」っていうのが残るのが音楽の本質だと思うので、そこさえちゃんと守っていれば、たとえ形がどんなに変わっても大丈夫なのかなって今は思っていて。
なので、このあとまたガラッと変わっていく可能性はあるというか、そこは自分でも予測がつかないところではあるので、今はこのまま自分自身を泳がせておこうかなって思っているんですよね。
━━「泳がせておく」……やっぱり、水属性のアーティストなんですね(笑)。
日食 そうですね(笑)。無意識に言っちゃうんですよね。でもまあ、私の曲は、むしろ逆境の中でこそ生きる音楽なのかなとは思うので、頑張るなら今というか、ここはひとつ頑張りどころかなのかって、今は思っている感じではあります。
PROFILE
日食なつこ
1991年5月8日 岩手県花巻市生まれ ピアノ弾き語りソロアーティスト
9歳からピアノを、12歳から作詞作曲を始める。高校2年の冬から地元岩手県の盛岡にて本格的なアーティスト活動を開始。緻密に練り込まれた詞世界と作曲技術は業界内外問わず注目を集め、『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』、『FUJI ROCK FESTIVAL』など大型フェスにも多数出演。演奏スタイルはソロからバンドまで 多彩な顔を持ち、ライブハウスやホールを軸に、カフェやクラブ、お寺や重要文化財などでもライブを行い、数々の会場をプレミアムな非日常空間に作り変えてきた。強さも弱さも鋭さも儚さも、全てを内包して疾走するピアノミュージックは聴き手の胸を突き刺さし、唯一無二の爽快な音楽体験を提供する。
INFORMATION
アンチ・フリーズ
2021年8月11日(水)
初回限定盤(354-LDKCD):¥4,200(+tax)
通常盤(355-LDKCD):¥3,000(+tax)
1.なだれ
2.真夏のダイナソー
3.ダンツァーレ
4.百万里
5.KANENNGOMI
6.HIKKOSHI
7.四十路(cluster ver.)
8.峰
9.perennial
10.ワールドマーチ
11.99鬼夜行
12.泡沫の箱庭
13.音楽のすゝめ