「顔を明かさない」「隠してる。不思議」って受け取られること自体が不思議

––––今回『わたし開花したわ』、『ONOMIMONO』、『演出家出演』と続いた回文のタイトルがなくなりましたね? 「幕の内」はノルマンディーの歌詞にも出てくる言葉ですが、アルバム・タイトル『幕の内ISM』について教えてください。

大胡田 回文は、「日本語/ローマ字/漢字」とやりたいものが3種類出来て、私が満足したというのはあります(笑)。ただ、今回のアルバムが出来た時に、もっとアルバムの内容を表せるようなタイトルをつけたいと思ったんです。「幕の内」は“ノルマンディー”の歌詞から取った部分が大きいんですけど、種類がたくさん揃っていて、日本っぽい雰囲気が出せるものってないかなって色々考えていて。字面も大事にしているので、最終的に『幕の内ISM』になりました。

成田 実は『演出家出演』の時点でも「今回、回文にする?」という感じだったんですよ。回文で意味を成立させるのって難しいし、大胡田も色々考えていたんだと思うんですけど。

大胡田 『演出家出演』も、わりとぎりぎりまで悩みましたね(笑)。

成田 (笑)。でも今回「幕の内」という言葉を聞いた時に、「アルバムの雰囲気をよく表してるな」と思ったんです。ただの『幕の内』じゃなくて『ISM』が付いているのも今の日本っぽいし。たとえばアートワークにしても、大胡田はパソコンを使って書いてるんですけど、イラスト自体は和のテイストなのに使っているものは西洋文化のもので、その辺りもオリエンタルな感じが出ていて面白いですよね。

––––アートワークにはどんなものからの影響が出ていると思いますか?

大胡田 アートワークはわたしが神様みたいなものや、浮世絵にハマっていた影響が出ていると思います。それで曼荼羅をイメージした部分もあるんですけど、あとは『幕の内ISM』というタイトルなのでバラエティ感を出して、外国から見た日本、オリエンタル感みたいなものを表現してみました。

【インタビュー】パスピエ、新作は結果的に日本の「オリエンタリズム」を意識したものに interview140618_passepied_jk

『幕の内ISM』アートワーク

––––また、“MATATABI STEP”と“トーキョーシティ・アンダーグラウンド”のMVでは徐々に顔出しも始めていますが、ライヴ以外では基本的に「顔出しをしない」という活動方法の受け取られ方については、どう感じていたんでしょう?

大胡田 そもそも私たちにはあまり隠している意識がなかったので、むしろ「顔を明かさない」「隠してる。不思議」って受け取られること自体が不思議、という感じでした。「他の人たちにはそう見えるんだな」って。

成田 僕らとしては、せっかく大胡田の書くイラストや面白い感性があるんだから、「そういうものを生かしたら面白いことが出来るんじゃないか?」というアイディアだったんですよ。せっかくやるなら一貫性があった方がいいんで、初期はアーティスト写真もイラストで統一したりしていて。そうやって結果的に正体不明になっていった感じだったんです。

パスピエ – “MATATABISTEP”

––––ところが今回、MVでの顔出しも始めて、回文タイトルではなくなって、外から見ているとバンドに変化が起きはじめているようにも見えます。大胡田さんの歌詞も言葉遊びが面白いものがある反面、前作、今作とよりメッセージが伝わるものを作ろうという気持ちが感じられる曲が増えたような気もするんですが、この辺りはどうでしょうか?

大胡田 それは、特に意識はしてないと思いますよ。歌詞に関して言うと、メッセージを伝えようというよりも、表現する対象が大きく変わってきた感じです。私がずっと触れてこなかった未知の存在=自然であるとか、そういうものについても書くようになって、それに合わせて歌詞や歌い方も変えて。それで今回、色んな種類のヴォーカルが入ることになったんです。

成田 でも僕から見ると、以前よりもコミュニケーションを取ろうとしている部分もあると思いますけどね。たとえばライヴでも、これは全員がそうなんですけど、来てくれるお客さんの反応を受けて楽しくなって、ステージでもっと動くようになったりして。それに、僕らはその瞬間瞬間を楽しんでもらうことを大事にしているので知名度は意識しないですけど、ライヴをさせてもらえる会場が徐々に大きくなったり、来てくれるお客さんの数が増えていると実感することはあったりして。だから、僕らが引っ張って、発信して、というよりは、そんな活動の中で自然と変わってきたんだと思うんです。このアルバムにしても、僕らの我を出すだけで出来たものではないんですよ。色んな人たちと会ったり、色んな経験をしたことが反映されて、結果的にこれまでの作品を並べると変化しているという感じなんです。

次ページ:どこに行っても違和感のないバンドになれたら最高だと思いますね