1961年8月13日から1989年11月9日までの10,316日、東西冷戦の象徴として存在していたベルリンの壁。そして2018年2月6日、壁が崩壊してからの日数が、存在していた日数と同じ10,316日を迎えた。これを記念してドイツ大使館は、日独のグラフィティアーティストに壁画の制作を依頼、そしてその監修を務めたのが「TokyoDex」というクリエイティブ・エージェンシーだ。そこで今回は、TokyoDexの創設者であるダニエル・ハリス・ローゼンにこの壁画が誕生した経緯やそこに込められた意図を語ってもらうとともに、TokyoDexが手掛けるさまざまなオフィスアートについてもたっぷり話を伺った。
Interview:ダニエル・ハリス・ローゼン
――2014年にもドイツ大使館のプロジェクトを手掛けられていて、当時偶然ここを通りかかった時に見たのを覚えています。ドイツ大使館と仕事をするようになったきっかけは?
TokyoDexは「This&That Café」というアートと音楽を融合したイベントを西麻布のSuperDeluxeで定期的に開催しているんですが、ドイツ人のアーティストが出演した時に、大使館の人たちが遊びに来てくれたんですよ。その時に大使館の人たちがイベントの雰囲気を気に入ってくれて、それをきっかけに何かいっしょにできないか、となったのが始まりです。
――今回のプロジェクトのコンセプトは?
10,316日、つまりベルリンの壁が崩壊してからの日数が、壁が存在していた日数に並ぶことを記念して、それをアートで表現しました。今回はドイツ人のユストゥス・“COR“・ベッカーと日本人のイマワンというアーティストがコラボレーションして、ドイツの過去が未来に出会うというコンセプトのグラフィティになっています。また今回は、コンセプトに合わせてキャンバスをデザインするところから始めました。そして左側からドイツの過去を断片的に表現しつつ、中央に向かって時代が進んでUnification(統一)に結び付くというイメージです。
――アーティストのふたりはどのように選んだんですか?
ベッカーさんはドイツ大使館の紹介なんですが、たまたま横浜に来ていて会いに行きました。横浜と彼の住むフランクフルトは姉妹都市らしいんですよ。30分ぐらいしか話せる時間がなかったんですが、依頼したら「いいよ」みたいな感じで引き受けてくれて。日本人アーティストに関してはいろいろな人を大使館の方に紹介したんですが、ベッカーと対照的な作品で面白いと思ってくれたのがイマワンさんだったんです。
――過去を描いている部分では、ベルリンの壁の象徴的なモチーフも取り入れていますね。
政治家がキスしている“Brother Kiss”という有名な作品があるんですが、それをポジティブなモチーフにひとひねりして、過去と未来がキスしようとしているグラフィティになっています。あとはすべてアーティストにお任せ……と思ってたんですが、今回は歴史に関わるものなので、デザインについて慎重になった部分はあって。そうしてしまうと作品として良くなくなるという境界線もあったので、いつものキュレーションとは異なる難しさがありました。
――2月7日、つまり壁の無い期間が存在した期間を超えた日には、ドイツからシュタインマイヤー大統領夫妻も訪れていましたが、反応はいかがでしたか?
大統領夫妻も素晴らしいと言って喜んでくれたのでよかったです。今回はまず大使館の壁にグラフィティを描くということ自体が大胆な試みですし、前回の純粋なアート作品と比べて政治的な意味合いもあったので、そのあたりを大使館の方々は気にしていたと思います。そういう意味では、どちらかとういうとイマワンさんの方が未来を描いているので気持ちは楽だったかもしれません。あとベッカーさんが描いている部分に大統領の顔がステンシルであるんですが、これも最初はみんな心配していましたけど、大統領も大使館の方たちも喜んでくれましたね。
――大統領も大使館の人たちもアートへの理解がありますね。
まず大抵の大使館はここまで近くに来られないですから。私たちのアートへの想いを理解してくれる姿勢は本当に尊敬しますし、いっしょに仕事ができて光栄です。また、こういう試みをすることで若者たちが興味を持ってくれたりしますしね。
――今回はいろんな意味でディープなプロジェクトだったんじゃないですか?
そうですね。あと、今回のように養生しながら変形したキャンバスに描くやり方はいろんな場所でできるなと思いました。普通は外壁に描けないですが、これなら現状復帰できますし、お店とかでもできるので。次はどうやってレベルアップするかを考えています。