──この作品に際して初めて知ったり、初めて本格的に向き合った曲もありましたか。
メンバーそれぞれに、色々あったと思いますね。でも長く一緒にやってきたこともあって、「原曲がどうであれ、4人でやればいいものに仕上げられる」という気持ちもあったんです。変に自信を持つわけではないんですけど、「quasimodeというバンドでこの曲をどう料理すれば楽しめるか」ということが、分かるようになった部分があるんですよね。たとえば“Calling You”は僕らの歴代の中でもテンポがもっとも遅いもののひとつです。聴かせるジャズというか、ある意味この曲が今回の作品を象徴しているのかもしれない。つまり、「踊らせることも出来るし、聴かせることにもチャレンジしたい、そしてメロディーを大切にしたい」。そんな僕たちの思いが詰まった曲なんです。これには色んな人と知り合って、音楽性が広がっていることからの影響もあると思いますし、昨今はクラブへの圧力が強まったり、大変なことになってきている影響もあるかもしれない。でも、やっぱり音楽は音楽ですし、サイクルがあるじゃないですか。だから、またバリバリにダンサブルなものをやりたくなる時が来るとは思うんですけどね。
──他にも今回制作してみて、平戸さんの中で改めて気付いたことはありますか?
レコーディングの時って何テイクか録るんですけど、結局最初の頃にやったものがいいんですよ。実は今回のアルバムに収録されたもののほとんどが、ファーストテイクです。もちろん、回数を重ねることでテクニカルな意味でのミスはなくなっていく。だけど、初めてバンドで合わせた時って、あらかじめ曲の道しるべが出来ていないじゃないですか? 「次はこうなるんだな」と予測出来る時よりも、どうなるか分からない緊張感の中でやったものの方が、経験としていいものが出来る事が多い。あとは、ただカヴァーするというだけじゃなく、今後の表現の仕方について多くの発見があったというか。今回はそんな作品になっていると思うんですよ。
──この作品を聴いたリスナーが、これからのquasimodeを想像できる部分もあると思いますか?
そうですね。今後の音楽スタイルであるとか、僕らが今後こういう風になっていきたいということについてのシークエンスが隠されたアルバムになっていると思いますね。
──ちなみに、平戸さんが今後試してみたい方向性というと、どういうものがありますか。
やっぱり僕はジャズが好きだし、元々九州でもピアノ1台でやったりすることもあったので、そういうスタンダードなものを大切にしたい。ただ同時に、基本的にアコースティックでドラムとパーカッションがいるquasimodeには向かないかもしれないけど、自分の中ではもっとエレクトリックなものをやってみたいという気持ちもありますね。ハービー・ハンコックの『フューチャー・ショック』(ビル・ラズウェルらと組んで、打ち込みやスクラッチ・ノイズを取り入れた83年作)じゃないですけど、そういう方向性でやってみたい。ただ、それって難しい面もあって、ダサくなってしまう危険性もある。でも、完全に打ち込みのトラックでやってみたい。そういう両極端なことをやりたいですね。あとは、これまでピアノ中心に弾いてきてしまったんで、シンセの勉強もしたい。とにかく、どんな音楽を演奏するにしても、僕らには基本的にジャズがあって、その上で、もっと色々な人と関わっていきたいですね。
──本国の〈ブルーノート〉でも、ヒップホップやR&Bと違和感なく融合するような新しいジャズが盛り上がっているところですね。
そうですね。僕もquasimodeを始める前の93年頃、まだジャズとヒップホップが結びついていない時にNYにいたんですけど、その当時から若い黒人の生活にはヒップホップが浸透していたし、今のシーンの状況は自然な流れだと思います。そんな中から、ロバート・グラスパーのような人たちが出てきた。僕は天邪鬼なんで、今盛り上がっているからこそ、この流れにはそれほど乗らずに、別のことをしたいという気持ちもあるんですけどね。だけど、ヒップホップが入ってくることでジャズがより多くの人に聴かれている今の状況はすごく喜ばしいことだと思います。やっぱり、メンバー全員がそうですけど、ジャズをより沢山の人に聴いて欲しいという思いが強いんですよ。僕らも自分の引き出しを更に増やして、それをみなさんに提供するという作業をしていきたい。そうやって自分たちが愛するジャズを、より広げていけたら最高ですね。
──では最後に、今後の予定を教えてください。
quasimodeとしては4月29日(火)に<JAZZ AUDITORIA 2014>に出演して、6月に東名阪ツアーが始まります。今はそれを、出来るだけいいものにしたいと思っています。
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