12年のアルバムデビュー以降、ヒップホップへの愛情を持ちつつ様々な音楽を取り込んで進化してきたニュータイプ・ラッパー、SALU。4月20日(水)にリリースされる通算3作目の新作『Good Morningでは、自身初のセルフ・プロデュースを敢行。先行曲“Tomorrowland”でタッグを組んだtofubeatsを筆頭に、SHINCO(スチャダラパー)、ケンモチヒデフミ(水曜日のカンパネラ)、mabanua、MACKA-CHIN(NITRO MICROPHONE UNDERGROUND)ら様々なトラックメイカーや、Salyuや中島美嘉、黒田卓也といった多彩なゲストと自身のスキルフルなラップ/歌を合わせることで、キャリア屈指の新境地を切り開いています。

そして、その大きなヒントになったのが、彼自身がラップや音楽を始めた頃の記憶。実際、《なんでそういやここにいるんだっけ/誰の人生を生きているんだっけ》という“All I Want”のリリックには、ふたたび原点を見つめた瞬間の彼の気持ちが、鮮やかに描写されています。そこで今回は、SALUさんに「自分のルーツが分かる10曲」の選曲を依頼。彼の思い出の原風景から、最新作『Good Morning』の魅力を紐解いてもらいました!

今回のアルバムは、今までで一番ラップだけじゃないことをやっている作品

SALUのルーツを辿る“10のプレイリスト” interview160419_salu_1

――新作『Good Morning』は初めてSALUさん自身がプロデュースした作品で、様々なゲストの方を迎えていますね。これはどんな風に考えていったものだったんですか?

14年に前作『COMEDY』を出した後、そろそろ「色んな人とやってみたいな」と思っていたところに、これまでプロデューサーを務めてくれたBACHLOGICさんが「次は自分自身でやったり、OHLDくんとやったらいいんじゃない?」と言ってくれて踏み切った感じです。今回新たに参加してくれた方は、みなさん「いつか出来たらいいなぁ」と思っていた人ばかりです。MACKA-CHINさんは、それこそ自分がヒップホップを聴き始めた頃からそう思っていたし、中島美嘉さんも彼女のデビュー当時からずっと聴いていて、トラックにラップが乗ったものを渡したら、ご自身で作詞もしていただきました。mabanuaさんとはメールでかなり密にやりとりしたし、ケンモチ(ヒデフミ:水曜日のカンパネラ)さんも、僕が伝えたことにすごく付き合ってくれて。tofubeatsくんとの作業も、最初に作ってくれたトラックに歌っぽいブリッジを入れたら、それに合わせて裏にtofuくんの声でコーラスを入れてくれたりして楽しかったです。今回のアルバムは、今までで一番ラップだけじゃないことをやっている作品だと思いますね。昔は「これってアリかな?」「セルアウトとか言われんのかな?」って色々考えていたのですが、今はもう「自分が感じたことを自分の口から出す」ことが大事だと思うようになったんです。

――タイトルを『Good Morning』にしたのはなぜだったんですか? Salyuさんが参加した“All I Want”のリリックにも、朝のモチーフが出てきますね。

それこそ、Salyuさんとの“All I Want”が一番最初に出来た曲だったんです。それまでも色々曲は作っていたんですけど、「次のアルバムはこれだ」と思える曲が1年ぐらいずっと出来なくて。でもこの曲が去年の6月に出来た時、やっとそう思えたんですよ。それまで色々悩んで、迷って……その時期が、自分の中ではずっと「夜」みたいな感じで。そんな自分に対して「やっと起きたな」という意味もあるし、周りの人やまだ出会ってない人に対する、「おはようございます。起きたんで僕はもう大丈夫です」という意味も込められているし。だから今回は、自分にとって「いい朝」という意味と「おはよう」という挨拶で「Good Morning」というタイトルにしたんです。

――さて、今回は「SALUさんのルーツが分かる曲」をテーマに10曲選んでいただきました。中でもKICK THE CAN CREWの“カンケリ01”は、SALUさんがヒップホップを始めた頃に出会ったものですね。

そうですね。それが札幌に住んでいた中学1~2年の頃で。父親がブラック・ミュージックを好きだったのでラップ自体は知っていたんですけど、日本語のラップを聴いたのはこの曲が初めてでした。僕は当時から音楽をやりたいとは思っていたけど、楽器が出来るわけでもないし、カラオケでもみんなの反応がよくないから「歌は無理だな」とも思っていて。でも、この曲はくだけた口語で、しかも歌っていることがカンケリで……。「何を歌ってもいいんだ」「これなら出来るかもしれない」と思わせてくれたというか。その時はカンケリがダブル・ミーニングで、含みのある言葉になっているとは全然気づいていなかったんですよ。

KICK THE CAN CREW – “カンケリ01” 試聴はこちら(スマホ専用サイト)

――エミネムも同じ時期に知ったという感じですか?

そうです。同じ中学の洋楽を聴いているような友達が「これ知ってる?」って聴かせてくれて。僕はのちに日本語を砕いて英語っぽくしていく作業をやっていくんですけど、その時にかなり参考にしました。エミネムが英語を砕いてラップしているのを参考にして、僕は日本語を英語っぽく砕いていったというか。

EMINEM – “Without Me” 試聴はこちら(スマホ専用サイト)

――ああ、なるほど。

次のドクター・ドレーは、自分の原風景と言える曲ですね。僕は小さい頃、これが流れているキャデラックで幼稚園に行くという謎の幼少期を過ごしていて(笑)。それから高校になってクラブに行くようになるんですけど、その時にDJをしていた先輩の家でかかっていたのがこの曲だったんです。で、「なんか聴いたことあるな」と思ったら、小さい頃から家にあったアルバムと同じジャケだったという(笑)。

Dr. Dre – “Nuthin’ But A “G” Thang (featuring Snoop Dogg)” 試聴はこちら(スマホ専用サイト)

SEEDAさんは、19歳の頃、ラップを一回やめて、1年ぐらいシンガポールでラーメン屋をやっていた時に毎日クルマの中で聴いていました。「日本にもこんな人がいるんだ」って思ったし、しかもそれが、僕がやりたいと思っていたことに近いことだったんです。

SEEDA – “AROUND MY WAY”試聴はこちら(スマホ専用サイト)

――「もう一度ラップをやりたい」と思わせてくれた曲だったそうですね。

そうですね。SEEDAさんがきっかけでシンガポールから帰ってきた部分もあるんですよ。

――その後、SALUさんがSEEDAさんにフックアップしてもらうことを考えると、すごい話だと思います。

ほんとですよね。僕はSEEDAさんのおかげでラッパーとしてデビューまでたどり着いたと言っても過言ではないし、そのプロデュースをしていたのが、それからずっとお世話になるBLさん(BACHLOGIC)だったという。

サラ・コナーの曲は歌詞もメロディも素晴らしいんですけど(パッヘルベルの“カノン”を使った楽曲)、TQがラップで参加していますよね。この曲は、ラップと歌の融合をやりたいと思った最初の頃の曲なんです。札幌でギャングスタラップを主にかけてた先輩が、プレイの最後の方にかけていた曲なんですよ。

Sarah Connor – “Love is Color-Blight”試聴はこちら(スマホ専用サイト)

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