この企画は、普段から映画に関わる僕たち3人から始まります。僕たちは、学生時代に名画座に通い続けて、文字通り映画の力に魅了されました。そして今、こうして映画に関わる仕事をしている中で、ふと思ったことがあります。映画の作り手は常に挑戦しているけれど、映画の伝え手は何も変わっていないのではないかと。テレビや雑誌やウェブには、映画評論があり、監督や俳優のインタビューがあり、いつもと変わらない風景が広がっています。
そこに新しい風景を描きたいと思いました。どんなに難しい映画でも、どんなに面白い映画でも、どんなにつまらない映画も、すべてが「必要な」映画でした。
1本の映画でも見る人によって「想い」が違う体験をそのまま形にしたい。「なんだか分からないけど好き」な映画の理由を形にしたい。一人ひとりによって変化する映画の「答え」をそのまま表現したい。
今月の映画
『シェル・コレクター』
2016年2月27日公開
リリー・フランキーさん主演の『シェル・コレクター』は、沖縄に移り住んだ一人の貝類学者の物語です。盲目で一人で海辺に暮らしながら、貝を採集して生活する学者。ある時、貝で原因不明の病気を治したことがきっかけに、多くの人が訪れるようになります。人里離れた場所で暮らしていた生活が大きく変わったことで、自然や生き物の環境が少しづつ変化していきます。はたして、生き物にとって、人間にとって本当に適した環境や場所とは?
監督:坪田義史
原作:アンソニー・ドーア
キャスト:リリー・フランキー、寺島しのぶ、池松壮亮、橋本愛
製作国:日米合作
上映時間:89分
配給:ビターズ・エンド
今月のテーマ
僕達は10年以上前に高校を卒業して、東京へ引っ越しをした。
環境が変わることで、何が変わって、何が変わらなかったんだろう。
受験勉強真っ只中の学生たちへ。4月から社会人を迎えようとしている人たちへ。今居る土地から離れて、新しい生活が始まるワクワク感と緊張感の狭間で生活する人たちへ。この時期になると、卒業ソングが流れて、桜の咲く季節を待つ。その2つを繋ぐものは「引っ越し」です。おそらくそれは、多くの人にとって、一番大きな「移住」になるでしょう。
同じ移住でも一人ひとりに物語があるように、僕たち3人にとっても「想い」がありました。当時の状況を振り返りながら、引っ越しをキーワードに、映画『シェル・コレクター』にバトンタッチします。
今月の話し手
清野精人
岩手県出身。ライター。ロンドン、カンヌ、香港、東京国際映画プレス。2013年からロンドンで、日本映画を海外に紹介する雑誌『Gigan』をスタート。
ヤング・ポール
栃木県出身。映画監督・TV演出。作品として、日韓共同制作映画『BRAKEMODE』。成田稜主演、フジテレビNEXTオリジナル連続ドラマ『FLASHBACK』。小出恵介主演、フジテレビドラマ『それでも僕は君が好き』(1、2、4夜)など。
有坂塁
東京都出身。移動映画館キノ・イグルー主催者。無人島、美術館、博物館、テントなど様々な所で映画上映を企画。女性誌『Oggi』で、映画コラム担当。
次ページ:「僕は小さい頃に、絶対陶芸は継がないって決めてました。」