––––エイドリアンとはコラボ中どんな話をするんですか? なにか彼から聞いておもしろいエピソードがあったら教えてください。

ああ……おもしろい話はあるけども、それを一般とシェアするべきか否か? は僕としてもまだ確信が持てないなぁ(笑)。

––––(笑)。じゃあ、おふたりともスタジオではシリアスだった! ということで。

まあ、スタジオに詰めていた間、これはほんとの話だけど、僕達は概して真面目にやっていたからね。かなりシリアスだったし、ハードに作業に取り組んだっていう。

––––(笑)。

いやいや、マジな話だってば! スタジオではいつも長い時間過ごすことになったし、エイドリアンは11時頃に作業をはじめる感じで、そこからそうだな、僕達はだいたい午前1時半あたりまで、ぶっ通しで音楽作りに取り組んだっていう。

––––マジですか。

うんうん、そういう長いプロセスだったし……っていうのもエイドリアンのスタジオにある機材はすべてアナログだから、レコーディング・プロセスに普通より時間のかかることもたまにあったという。だけど、最終的にはそのおかげでより強力な結果になったんじゃないか、と僕は思うけどね。だから、僕達はこのアルバムをまとめるのに相当長く時間を費やしたし、労力もかなり注いだわけで、うん……それに、一緒に取り組んだものの、結局アルバムには収録しなかったってトラックもたくさんあるんだよ。というのも、今回はある特定の音の密度を持っていて、そして何らかのストーリーを語るような、そういったトラック群をアルバムに集めたからね。だから、このアルバム向けに本来僕達が傾けた労力のすべてが日の目を見るわけじゃないにせよ、今後のライヴ・セットの中でドロップできるような幅広いタイプのトラック群を集めることができたし、そうじゃなくてもいずれEPか何かの形でそれらは発表されるんじゃないかな。要するに、僕達にはこれからも基盤になるようなトラック/音楽パーツがたくさんあるってことだし、ほんとその意味では優れたプロセスだったと思うよ、っていうのも数多くのマテリアルの中からああして最高にベストなものをアルバムに選りすぐることができたし、と同時にアルバム未収録曲というエクスクルーシヴな「弾丸」を山ほど手にすることもできたわけで。それは、このプロジェクトをキック・オフするのにはいい状況だよ。

––––彼とは親子ほど離れていますがコミュニケーションは順調にいっていますか?

いいや、ジェネレーション・ギャップを感じたってことは一切なかったよ。だからまあ、この僕達の音楽作り/プロダクションのコラボ関係を成り立たせていたもののひとつというのは……エイドリアンは山ほど経験がある人だけども、僕には実はあまり今まで経験のなかった、そういうサウンド作りの側面に関わってきた人なんだよね、彼は。たとえばスタジオ内で……彼のスタジオにおける、あるいは創作過程における仕事の進め方だったり、彼の他のミュージシャン達との仕事ぶり––––彼らミュージシャンに対して何を求めているのか彼がちゃんと把握しているところだとか……たとえばどの場面でミュージシャンを引っ張ってくればいいかとか、アレンジに関する決断をどこで下さなければいけないかとか、彼には分かっているんだよ。で、僕はそれとはまったく違う音楽作りのメンタリティから出て来たし、なんというか……もっとこう、ダンス・ミュージック系のバックグラウンドから、しかもダンス・ミュージックの中でもより実験性の強い界隈から出て来た人間でもあるっていう。だからまあ、お互いに異なる側面を持ち込むってことだよね。そうやって、違うタイプのリズムやアプローチを使いながら、ベース・サウンドやサウンド、雰囲気や音波を作り出していくっていう。それにまあ、そもそも僕達ふたりの間にはクロスオーヴァーしている部分もたくさんあるわけだし。とは言っても、それと同時に、思うに……この2年半、一緒に作業していった中で僕達が気づいたのは、自分達はある地点に到達したって思いなんだ。だから、僕達はある種のソニック(音波)を手に入れたというのかな、それは僕自身の作品のそれとも、あるいはエイドリアンの作品とも異なるもので、それ自体で成り立っている独自の音波を作り出せる、そういう地点に自分達が達したのに気づいたんだよ。で、それは真の意味での達成だと僕は思っていてね。というのも今みたいな時代、自宅にホーム・レコーディング設備を構える人間はいくらでもいるし、アナログにつきものの七面倒くさいプロセスを簡単にしてくれるような(笑)、そういうプラグインも本当に色々と揃ってる。しかしそこで問題になってくるのが、そうやって作られたサウンドは得てして似たり寄ったりなものということで。要するにそれぞれの「音」に大した差がない状態っていう。だから、その意味で僕とエイドリアンが手にしたこのソニックにはすごい価値があると思っていてね、というのも、他とはかなり違う独特なものだから。うん、だから僕達の作品を聴く人達にも、「エイドリアン・シャーウッド」、「ピンチ」といった個々の構成要素ではなく、ふたつが合わさって生まれた何かだ、と感じてもらえたらいいなと思う。そうやって、既存の場ではなくて、始めからまったく新しい場所にある、かつ独自の個性として存在している、そういったものとしてこのコラボ作品を捉えてもらえたらいいな、と。

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