––––了解です。また今回はおそらく、エイドリアンが持っている大量のアーカイヴからヴォーカル・サンプルなどが使われていると思いますが、どういった経緯でこれらのサウンドを使うことが多いのですか?

うん、あれに関してはもう、僕はお菓子屋に連れてこられたガキみたいな感じだったよね! 彼のアーカイヴにはそれこそもう、プリンス・ファー・Iからリー・“スクラッチ”ペリー、それにジュニア・デルガド、ビム・シャーマンに……といった具合で。うん、そうだね、だから今回は〈ON-U〉の古典的なアーカイヴ〜カタログからちょこちょこと引っ張ってくることになったという。で、僕が思うに……エイドリアンの側としては、まあ「嫌々ながら」だったとまでは言わないけども、彼自身は今回のプロジェクトを新音源&フレッシュなアイデアだけに留めておきたかったみたいなんだよね。でも、僕としてはもう、あれらの旧音源に触れられるだけでもエキサイティング! みたいな。ってのも、あれらの音源は10代だった頃の自分がずっと聴いていて、しかも今だに共鳴できる、そういうものなわけだから。とは言っても、このアルバム独自のヴォーカル音源もあるんだけどね。さっき話に出てきた“Stand Strong”もそうだし、と同時に“Run Them Away”みたいに古いトラックを引用してみたケースもあって。もちろん、あの曲を僕達は完全に作り替えたわけだけど、あの曲のヴォーカル、ビム・シャーマンによるあのヴォーカルは実に素晴らしいものだからね。僕達はコーラス部を完全に歌い直したりなんだり、あの曲のすべてを作り直したわけで、だから部品はいずれも新品で、古い箇所はあのビム・シャーマンのヴォーカル・トラックのみっていうものなんだけど、うん……ああいった偉大なヴォーカリスト達、デルガドやビム・シャーマンといった人達はもはや世を去ってしまったわけだし、だからこそああいう、彼らの残したア・カペラにアクセスできるのは余計に特別だってことになるんじゃないかな。

––––エイドリアンにアーカイヴ音源を聴かせてくれ、とせがんだのはあなただったってことでしょうか。そうやってあなたがアーカイヴ使用をリードしたっていう?

まあ、お互いにってものだったと思うけどね。「試しにこれを使ってみて、どうなるか見てみよう」みたいな調子で、うん、多くは試行錯誤から出て来たものだし、このプロジェクト全体で色々と実験しながら、ひとつひとつのトラックをまとめていった、と。

––––今回のスタジオ作業で彼から学んだものはなんでしょうか? 

うん、彼からはほんとに多くを学んだよ。まあ……それがどういうものなのか、簡単に要約するのは難しいんだけども。だから、実に広いレンジにわたって彼から影響をもらった、みたいな。うーん……。

––––たとえばダブ・ミックスはいかがでしょうか?

ああ、ダブ・ミックスに関しては、僕は彼がどんな風にステレオ、それから色んなパーツを操ってミックスするのかを見せてもらったね。で、あのやり方だと、音楽のあらゆる面に真の意味で空間の感覚がもたらされるっていうのかな、それこそもう、「銀河級」って感じの次元の空間が。

––––(笑)。

で、僕はなんというか、真剣な興味と共に彼の作業ぶりを見守ったね。っていうのも、彼は常に音楽の色んなパーツを動かしているんだよ。それは非常にさりげない動かし方で、聴いていても感知しないかも? ってくらい微妙な動きなんだけど、実は音の中で何かが変化してるっていう。だから、たとえばそのトラックの中の他の音要素に気をとられて気づかないかもしれないけど、ハイハットが左から右に跳ね返っていくだとか、色んなことが音の中で起きてるわけ。それって聴き手の中に空間に対する意識を作り出す、そういう働きをしているんじゃないかと僕は思うんだよね。で、それによって心理的に影響されるというのかな、「自分は不思議な宇宙空間にいる」みたいな感覚が生まれるっていう。だから、うん、そこは間違いなく僕がエイドリアンとの共作を通じて覚えさせてもらったところだね、そういう、彼が本当に優れた手腕を発揮するところから学ばせてもらった。

––––逆にエイドリアンが現在のベース・ミュージックのクリエイターとして「教えを乞う」という場面はあったんでしょうか? もしあれば、それはどんなところですか?

まあ、彼にとってはこのプロセス全体を楽しむってものだったと思うけどね。たとえば、僕がコンピュータでリズムをこしらえて、それを彼に提示してみた時なんか……(笑)。たぶん、彼としてもちょっと混乱したんじゃないかと思うよ、「こいつ、一体どういう奴なんだ?」みたいに考えたと思う。というのも僕にはこう、とてもストレンジで、それこそ誰にも踊れないような、やたらと妙なリズムを作る癖があるし、そうなったら誰かに手綱を握ってもらう必要があるわけで。でも、僕が思うに、僕達はこのプロジェクトでは一貫しておおむね同調しながらやっていたし、僕達は……間違いなく同じ言語でコミュニケートしていたし、うん、そうやって最終的には両者が対等に共有する音楽空間が生まれたと思うし、エイドリアンにもそこは同意してもらえたらいいな、と思っているよ。

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