——次は、グラスに映ったパスポート。これはまた違う日ですか?

【インタビュー】シシド・カフカが写真で振り返る2017年。一番大きかったことは意識改革? shishido-kavka_3

これは2月に(ランウェイの演出として)ドラムを叩きに行った<ニューヨーク・コレクション>の出国前に撮った写真です。モデルとしても一瞬だけランウェイを歩かせてもらって、シシド・カフカになってからのいろいろな経験が活きたと思うし、すごく貴重な経験をさせてもらいました。自分のドラムに合わせてモデルさんが歩くという経験だけでも面白いのに、まさかそれをニューヨークでできるとは思ってもいなかったので。

当日までにドラムのパターンを10個ぐらい送ったら、デザイナーさんはその中で一番激しいビートを選んでくれて「攻めてるなぁ」と思ったりとか、本当に面白かったです。音楽を好きな人が「新しい試みがしたい」と誘ってくれて、こういう経験ができるというのはとてもありがたいことだし、終わったあとにも「あのプレイびっくりした!」といろんな人が話しかけてくれたのが嬉しかったです。いいチャレンジになりました。

——では、この鯉と朝焼けの写真はどうでしょう?

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これは猫の話にも通じる、「ゆとりを持つことが大切」という写真ですね。鯉は確かライブで行った、和の雰囲気がある結婚式場の庭園にいたんだと思います。前だったら「ライブがあるから!」と言って出番までは楽屋から出なかったのに、「なんか気持ち良さそうだし、さんぽしてみようかな」という気分になって撮ったもの。

朝焼けは、撮影に向かうときにぼーっと外を見ていて撮ったものです。私はこれまで散々「力を抜いてやっていく」と言ってきましたけど、本当にやっと力が抜けたのは、最近になってからだと思うんですよ。5年経ってようやく、いろんなきっかけもあって、意識改革を本格的に行えるようになったというか。頭で分かっていたことに、やっと行動が伴ってきた感じがしていて。

そして、そういう風に物事を捉えられるようになってきたのは、すべてにとっていいことなのかな、と思います。たとえば、「ご飯がおいしいな、ありがたいな」「日差しが暖かいな、嬉しいな」みたいなことって、忙しくなると見えなくなったりしますよね。そういうものに対して心を止められるようになったのは、自分にとって大きな変化だと思います。たとえばデビューまでの下積み時代なんで、本当に凝り固まってしまって、毎日「どうしたらいいの!」って過ごしていたので。

——必死に夢を追っていたわけですしね。

そうですね。でもその方法もわからないし、熱意は持っているはずだけれど、それが本当に熱意なのかもわからない。どこが前でどこに進めばいいのかもわからないという状況で。そういう意味で、本当に心から「こういうのきれいだな」「今日は月が大きいな」って感じることは、ずっとなかったんですよ。朝起きたら家でゆっくりとしているのが怖くて「何かやらなきゃ!」って。

それで疲れてしまって、ひとつひとつの密度や精度が悪くなっていく。そういうことにも気づけないくらい、焦りで体を動かしていた時期が長かったんです。でも、これからはそういうところからも、今後の音楽や進み方について、いろいろ見つけられたらいいな、と。やっぱり、やっと力が抜けるようになってきたんですよ。

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——では、最後の2つに話を進めましょう。これは今回3ヶ月連続で配信リリースされる楽曲のうち、10月の“羽田ブルース”と、11月の“新宿サノバガン(SON OF A GUN)”のジャケット写真ですが、そもそも3ヶ月連続で、それぞれ違う人とコラボレーションして曲を出していくという今回のアイデアは、どんな風に出てきたものだったんでしょうか?

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一昨年に(多数のゲストミュージシャンを迎えてコラボレーションした)コンセプトアルバム『K5(Kの累乗)』を出して、そろそろもう一回やりたいという話をしていたんですよ。それでいろいろと作りはじめて、最初はもっと早くにまとめて出そうと思っていたものが、いろいろとあって来年になったんです。

それなら、せっかくできた曲はアツいうちに出して、みなさんに味わっていただきたいな、ということですね。またアルバムリリースの時期には、いろいろな心境の変化もあるかもしれないので。

——なるほど。そして今回は、作曲はすべて参加アーティストに委ねていますね。超豪華メンバーですが、この人選についてはどんな風に考えていったんでしょうか?

基本的にはいつもの当たって砕けろ精神で「ぜひご一緒したい」と思う方にお声がけしました(笑)。“羽田ブルース”でご一緒したクレイジーケンバンドの(横山)剣さんは、「あの声と一緒にデュエットができたらいいな」という気持ちがあって、剣さんも楽しんでくださるような気がしたんです。

それでお話をしたら、快諾して下さいました。打ち合わせの時には3つくらいファンク~R&Bっぽい曲をイメージしてくれていたそうなんですけど、私が会話の中で「昭和歌謡」「デュエット」という言葉を使っていたら、その帰りの車のなかで、グワァー! っと“羽田ブルース”のイメージが浮かんできたそうなんですよ。

大体の構成は剣さんに書いていただいて、後半の声が合わさるところは「これ面白くないですか?」と提案もしました。昔の昭和歌謡って、言葉は違っても2人で同じメロディを歌うパートがあったじゃないですか?

——ああ、カラオケなどで男女が一緒に歌うことになるパートですか?

そうそう! 男女それぞれの「私」と「あいつ」が一緒に重なる、みたいなパートです。後半部分はそういうアイデアでした。曲としては、クレイジーケンバンドさんらしさも醸し出しつつ、昭和の雰囲気もサックスなどでうまい具合に出していただいた曲になっていて、本当に楽しかったですし、剣さんと一緒に歌えたという感動がすごかったです。

——“羽田ブルース”は、ジャケットも昭和歌謡を意識したものになっていますね。

字体もそうですよね(笑)。これはMVもそうで、撮影チームがすごく感度のいい方々だったので、その雰囲気を面白がってくれて、よく見ると「羽田ブルース」の文字が昔の映画みたいに揺れていたりと、とても面白く作っていただきました。

——しかもこのMVでは、カフカさんがトレードマークだったロングヘア―を切る様子も収録されています。

髪は3年前からずっと切りたいと言っていて、それもなんとなく「MVの中で切りたい」と思っていたんですよ。そうしたらちょうど、剣さんが書いてくださった曲が男と女の別れ話で、「これはバッチリ合う」と思ったんです。女が髪を切る、失恋のストーリーにもなりますからね。

羽田ブルース MV/Short Ver.