――亀田さんとの作業はどうでしたか?
亀田さんには2曲いただいていますけど、最初に作業をしたのは“春の約束”ですね。今回のアルバムでは、ライブを念頭に置いた楽曲を書いてもらうようにオファーしたんです。特にこの曲は、「ライブの最後に演奏する曲がほしい」とお話して。ロックンロール的に(ビートが)転がっていくわけではない、どんな規模の会場でも演奏がはじまった瞬間に音が広がっていくようなタイプの曲を書いてもらいました。一方の“さようなら あたし”は、「ギター・ロックはあるけど、ベース・ロックってないな」という発想から始まった曲。誰もが真似したくなるベース・ラインを、「こうかな?」「いや」「まだテクニックが光っています!」と色々お話しつつ考えてもらいました。織田さんとの“crying”はNHK・BSプレミアムのドラマ『はぶらし/女友だち』(内田有紀主演)の主題歌ですが、1話の台本や全体のあらすじを読んでから、最初に私が言葉を送ったものから曲を膨らませていただいて、作詞に関しては2人で一緒にやっていった感じです。
――歌詞の面でも変化を感じる部分があれば教えてください。
今までは音数が多い曲ばかりだったので、そこに負けないように言葉を乗せていたんです。でも今回はメロディも一回口ずさんだら覚えてしまえるものが多かったので、そこは全然違いましたね。それに私、『K⁵(Kの累乗)』以降は脱力をテーマに生きているんですよ。それもあって今回の歌詞は切り口も違うし、乗っている言葉や漢字の少なさも変化しているんです。
――これだけ様々な方が参加していると、自分でも想像もしなかったことに出くわす瞬間もあったんじゃないですか?
(テイク数に関して)「みんな全然叩かせてくれないし、歌わせてくれないな」というのはあったと思います(笑)。私が「もっとやりますよ」って言っても、「もう上手く録れてるよ」と言ってくださることが多くて。それで、自分自身の中でもテイク数がどんどん減っていきました。一発勝負感がある中でどうリラックスしてやるかということが、制作中に少し分かってきたんです。それは自分にとってすごく大きなことでしたね。
――最初から、これほどバラエティ豊かな楽曲が揃う作品になると思っていましたか。
それは全然思っていなかったです。でも、最初の方に亀田さんとの“春の約束”を書いているんですよ。そこで楽曲面でも歌詞の面でもこれまでになく振り切ってしまったので、後は「何でもやってみよう」という感じで出来た部分はありました。
――さきほど、「今回の曲はライブを想定したものにしたかった」というお話をされていましたよね。これは『K⁵(Kの累乗)』を作ったことで芽生えた方向性でもあったと思いますか?
流れとしてはあったと思いますね。ご一緒した方々がライブを大切にしている人ばかりだったので、制作中にも「ライブのことを考えると」という言葉が自然に出ていたんです。私自身もライブを一番大切にしているので、だったら、ライブでも音を同期させずなるべく生演奏をしたくて(その場で演奏していない音を流す)、いかに生演奏でも再現性の高い曲を作るかということを一緒に考えながら作っていただこうと思って。
――今回『トリドリ』が完成してみて、どんなことが一番印象に残っていますか。
「最初に心配していたことなんて、何ひとつ気にしなくてよかったんだな」ということですね(笑)。今回は自分自身もリラックスして、フィーリングで向かって行ったところがあったので、完成したものを純粋に楽しく聴くことが出来たというか。それって初めてのことでした。
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