社会現象になるほど大ヒットを記録した『カメラを止めるな!』で一躍注目を集めた上田慎一郎監督(以下、上田)。最新作『スペシャルアクターズ』は、役者集団と謎のカルト教団との手に汗握る闘いを描いたエンターテイメントに仕上がった。

そこでサントラを担当したのは、『カメラを止めるな!』で主題歌“Keep Rolling”とテーマ曲を手掛けて日本アカデミー賞優秀音楽賞受賞に輝いた鈴木伸宏(以下、鈴木)と伊藤翔磨(以下、伊藤)だ。今回、2人は初めてサントラの全曲を担当。バラエティ豊かなサウンドが、先の読めない物語にぴたりと寄り添っている。

そのサントラと映像の密接なコラボレートは、幼稚園の頃からの幼馴染みだという上田と鈴木の信頼関係があればこそ。また、鈴木と伊藤は『カメラを止めるな!』で共作して以降、「謙遜ラヴァーズ」というユニットを組んで作曲家チームとして活動している。それぞれに強い絆で結ばれた3人はどんな風にサントラを作り上げたのか、彼らに話を訊いた。

映画『スペシャルアクターズ』予告

鼎談
上田慎一郎 × 鈴木伸宏 × 伊藤翔磨

━━上田監督と鈴木さんは幼稚園の頃から幼馴染みだそうですね。地元にいる頃から一緒に何かやっていたのでしょうか?

上田 僕は中学の頃、毎日、放課後になるとハンディカムで映画を撮っていたんです。その時に鈴木に映画に出てもらったりしていました。バンドを一緒に組んだこともあります。あれ、なんていうイベントだっけ?

鈴木 <TEENS’ MUSIC FESTIVAL>っていうYAMAHAさんが主催しているイベントに出るためにバンドを組んだんです。僕の周りに音楽をやっている人がいなかったので、「ベースやってくれん?」ってお願いしました

上田 3ヶ月、指から血が出るくらいめっちゃ練習して出場しました。あと、2人で漫才のコンビを組んでM1を目指したこともありましたね(笑)。

━━映画や音楽だけではなく漫才まで(笑)。そこまで一緒にやっていて、鈴木さんが上田監督の作品の音楽を手掛けた初めての作品が『カメラを止めるな!』だったのは意外です。

上田 当時、鈴木はill hiss cloverっていうバンドをやっていたんですけど、オシャレな感じのロックで自分の映画に合う感じはしなかったんですよね。僕は30才までバイトをしていたんですけど、バイト先で出会ったバンドマンの音楽を自分の短編映画で使わせてもらっていて、それは泥臭い感じの曲だったんです。でも、『カメ止め』を作る時、トイレでふと、今回は頼んでみようかな、と思ったんです。

鈴木 「トイレで思いついたんだけど」って、電話がかかってきたんですよ。それで話を聞いたら、「今回は自分の好きなものを詰め込んで映画を作ろうと思ってるから」って。そういう時に声をかけてくれたのはすごく嬉しかったですね。

上田 そこまで短編映画を7本くらい作っていたんですけど、映画祭に入るにはこういうものを作った方がいいのか、とか、変な下心を持ちながら作っていたんです。けど、『カメ止め』は久々の長編で、自分の好きなこと、やりたいことを詰め込もうと思って作りました。

『カメ止め』上田監督×謙遜ラヴァーズ鼎談・前編|強い絆が生んだ、映画『スペシャルアクターズ』サントラ制作秘話 interview1101_specialactors_1733-fix-1920x1282
『カメ止め』上田監督×謙遜ラヴァーズ鼎談・前編|強い絆が生んだ、映画『スペシャルアクターズ』サントラ制作秘話 interview1101_specialactors_1727-fix-1920x1282

━━そういう作品で声をかけられるのは嬉しいですね。鈴木さんと伊藤さんは、どんな風に知り合ったんですか?

伊藤 ライヴハウスですね。お互い別々のバンドをやっていたんですけど、その時からお互いに相手のバンドが好きだったんです。で、ノブ(鈴木)が声をかけてくれた時は、どっちもバンドが解散していました。最初はユニットを組むとかじゃなくて、彼が手掛けている曲でギターを弾いてほしい、という依頼でしたね。

鈴木 伊藤はギター&ボーカルだったんですが、僕はギタリストとして彼をすごくリスペクトしていました。それで『カメ止め』のメインテーマを考えていた時、完成前の映像を見て直感的に「ギターがメインの曲にしたい!」と思ったんです。でも、自分はそんなにギターが得意なわけではないので、ギタリストとして彼に頼みました。そしたら、頭の中でイメージしていたものがしっかりと形になり、そこに手応えを感じたんです。それがユニットに繋がっていきましたね。

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謙遜ラヴァーズ – zombeat(映画『カメラを止めるな!』メインテーマ)

━━『カメ止め』が3人を結びつけたんですね。

上田 『カメ止め』のサントラではメインテーマと主題歌の2曲を依頼しただけだったんですけど、今回の映画が完成する前からフルスコア(サントラの全曲)を作ってもらおうと思っていました。

鈴木 僕は役者のオーディションの時からスタッフとして関わっていて、自然な流れで音楽を手掛けることになったんですけど、今作も伊藤と一緒にやりたいと思い、改めて声をかけました。

上田 今回の映画の作り方として、まずキャストを15人選んで彼らとのワークショップを経てゼロから物語を作っていきました。普通、映画を作る時は映像ができあがってから音楽を作るんですけど、今回、鈴木は脚本ができる前からキャストのことを見ていたんです。だから、作曲家としての映画との関わり方は通常とは違うんですよね。

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鈴木 撮影現場にも立ち会ってインスピレーションを湧かせたいと思っていたんですけど、撮影のタイミングで腰を痛めてしまって(苦笑)。でも、クライマックスの式典で大立ち回りをするシーンには絶対行きたかったんです。そのシーンの曲が出来たら走れる(サントラ制作にとりかかれる)と思って頑張って現場に行きました。そして出来たのが“レスキューマンのテーマ”です。

上田 “レスキューマンのテーマ”は劇中で主人公が見ている映画でも流れる曲なんですけど、この曲は「ハリウッド映画のテイストで」って頼んだんです。「『インディジョーンズ』とか『E.T.』みたいにオーケストラでフレーズが耳に残るような曲を」って。

鈴木 でも、オーケストラの曲って、これまで作ったことがなかったのですごく悩みましたね。頭の中でメロディーは浮かぶけど、そのメロディーを奏でている楽器が弦楽器なのか管楽器なのか掴みきれない。ベストな選択をするために、頭の中に浮かんだフレーズをいろんな音色で試す作業からスタートしました。

伊藤 僕はすごく映画が好きで、よく映画館に行っていたんですけど、自分が好きだった映画音楽はシンプルなコードが転調して行ったり来たりしているイメージがあって。自分たちでも工夫次第で、そういう高揚感がある音楽を作れるんじゃないかと思いました。根拠のない自信ですけど(笑)。”レスキューマンのテーマ”のBメロ的なパートは僕が、導入部のワクワクするメロディーはノブが思いついて、それを組み合わせたら映画音楽に近づいたんです。でも何か物足りなくて、サビのメロディーをノブが考えました。

━━そんな風にアイデアをやりとりして作り上げていくんですね。

上田 最初にこの曲を聴いた時に、どこか懐かしかったんです。僕はスピルバーグの映画とかをすごく観てきたので、聴いたことある気がすると思ってみんなで調べたんですけど、過去のサントラにはありませんでした。「こんなキャッチーなメロディーなのにこれまでなかったんだ」って驚きましたね。

鈴木伸宏,伊藤翔磨 – レスキューマンのテーマ

映画『スペシャルアクターズ』スペシャル音楽対談<前編>

インタビュー・後編はこちら

Photo by Madoka Shibazaki
Text by 村尾 泰郎

上田慎一郎
1984年生まれ、滋賀県出身。中学生の頃から自主映画を制作し、高校卒業後も独学で映画を学ぶ。2009年、映画製作団体PANPOKOPINAを結成。国内外の映画祭で20のグランプリを含む46冠を獲得。2015年、オムニバス映画『4/猫』の1編『猫まんま』の監督で商業デビュー。妻であるふくだみゆきの監督作『こんぷれっくす×コンプレックス』(15)ではプロデューサーも務めている。「100年後に観てもおもしろい映画」をスローガンに娯楽性の高いエンターテイメント作品を創り続けている。劇場長編デビュー作『カメラを止めるな!』は動員数220万人以上、興行収入31億円を突破し、2018年の最大の話題作となったことは記憶に新しい。本年8月16日に中泉裕矢、浅沼直也との共同監督作『イソップの思うツボ』が公開。主な監督作:短編映画『ナポリタン』(16)、『テイク8』(15)、『Last WeddingDress』(14)、『彼女の告白ランキング』(14)、『ハートにコブラツイスト』(13)、『恋する小説家』(11)、長編映画『お米とおっぱい。』(11)。

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鈴木 伸宏
1985年生まれ、滋賀県出身。ill hiss cloverのギターボーカルとして、2011年タワーレコードで行われたオーディション「Knockin’on Tower’s Door vol.1」にて、1000組を超える中からファイナリストに選ばれる。同年「Dance in the clover」で全国デビューを果たす。15年ill hiss clover活動停止以降は、楽曲提供を中心に活動中。19年上田慎一郎、ふくだみゆきと共に株式会社PANPOCOPINAを設立。『カメラを止めるな!』(18)で第42回日本アカデミー賞優秀音楽賞受賞。

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伊藤 翔磨
1986年生まれ、三重県出身。大阪芸術大学音楽学科卒後、門倉聡、℃-ute、SHE IS SUMMER、majikoなど、様々なアーティストのライブ、レコーディング、TV収録にギタリストとして参加、またコンポーザーとしてTVドラマ『探偵オブマイハート』(05)、TVCM 株式会社ベルコ『Art Bell Ange Nagoya』などに楽曲提供している。『カメラを止めるな!』(18)で、第42回日本アカデミー賞優秀音楽賞を鈴木伸宏らと共に受賞。

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RELEASE INFORMATION

『カメ止め』上田監督×謙遜ラヴァーズ鼎談・前編|強い絆が生んだ、映画『スペシャルアクターズ』サントラ制作秘話 interview1101_specialactors_jacket

『スペシャルアクターズ』サウンドトラックCD

2019.10.11(金)
鈴木伸宏/伊藤翔磨
RBCP-3341
Rambling RECORDS
¥2,500(+tax)

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INFORMATION

『カメ止め』上田監督×謙遜ラヴァーズ鼎談・前編|強い絆が生んだ、映画『スペシャルアクターズ』サントラ制作秘話 interview1101_specialactors_poster

映画『スペシャルアクターズ』

丸の内ピカデリー他全国公開中
配給:松竹

「カメラを止めるな!」で大旋風を巻き起こした上田慎一郎監督の「カメ止め」に続く長編劇映画第2弾映画。1500通の応募者の中からオーディションで15人のキャストを選び、企画会議、ワークショップを経て当て書きで脚本を執筆した。「緊張すると気絶する役者VSカルト集団」の闘いを描く、予測不能なエンターテイメント作品。

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