――今回は、そんな2人に「理想のポップ・ソング」というテーマでプレイリストを選んでもらいました。順番に選んだ理由や楽曲に感じる魅力、思い出を教えてください。まず、Avec Avecさんの1曲目はバート・バカラック。これは超クラシックですね。
Avec Avec 選び方が色々あるので、今回は自分のルーツや、好きなメロディーとハーモニーの曲を選びました。僕の中ではポール・マッカートニーとバカラックがポップスの中心なんです。今回の“ポテサラ”にはブラジル音楽の要素も入れていますけど、バカラックはティン・パン・アレイ後のアメリカンポップス本流の中でブラジル音楽を独特な形で消化してて。それに、メロディーが美しくて、曲がスタイルになっているのがすごい。中学生のときに家にあったものを聴いて「わぁ……」と思って、その後バカラック風ポップスを集めでプレイリストを作ったりもしたんです。
Burt Bacharach – “Raindrops Keep Falling On My Head”
――2曲目のXTCはどうですか?
Avec Avec XTCは大好きなんですけど、この曲はたぶん、初めてこの人たちが曲の中で「ポップ」について語った曲。「俺がポップと言えばそれがポップ」みたいな歌詞ですけど、インタビューでも「イギー・ポップもビー・ジーズも俺にとってはポップだ」って言ってて、それにすごく共感するんです。僕はその後、自分のルーツにもなるビートルズをちゃんと聴くことになるんで、XTCの方が先だったんですよ。次の熊谷幸子さんは、実は最近知った人です。この人は南アフリカのイーストロンドンで生まれて、横浜で育っていて、メロディーに独特の民族音楽の雰囲気がある。『世界ウルルン滞在記』のエンディングテーマ(“Bahia〜バイーア〜”)もやっていますけど、これはその前のもっとポップな曲ですね。
XTC – “This Is Pop?”
――元ネタがロジャー・ニコルスの“Don’t Take Your Time”なんですよね。
Avec Avec そういう確信犯的なところもあって、すごい転調もするのに、でも「ポップ」。あと、歌詞に荒井由実さん的な女の人独特の視点があって、これは僕には書けないと思います。一方、アンドリュー・ゴールドは中学生の頃に親が好きで聴いていた曲。当時は米西海岸~AORの人として聴いていましたけど、XTCを聴いた後に改めて聴くと、どこかイギリスっぽさがある。そこが「本来は存在しないはずの音楽」という感じで好きなんです。最後のギルバート・オサリバンは、みんな知ってる曲なのに「サビ」がなくて、本当にすごい。実は一回、『めぞん一刻』のOP曲にもなっているんですよ(24話)。僕にとってはジェフ・リンやトッド・ラングレンとともに好きなメロディーメイカーの一人ですね。
Andrew Gold – “Never Let Her Slip Away”
Gilbert O’sullivan – “Alone Again”
――じゃあ続いてSeihoさんのリストを見ていきましょう。1曲目はロジャー・トラウトマン(ザップ)の“Computer Love”。
Seiho 僕にとっては電子楽器に目覚めたきっかけでもある曲。もともとザップの作品も家にあったんですけど、小2か小3ぐらいの頃、父親が2パックのレコードを買ってきたときにロジャーのサンプリングが使われていることを教えてくれたんです。2曲目のモニカ・ゼタールンドは、「時代性を背負っている」という意味で好きな曲。この人は「スウェーデン人が黒人音楽を黒人っぽく歌うのは意味がない」と言われて、その後ビル・エヴァンスと“Waltz for Debby”(にスウェーデン語詞を自作した“モニカのワルツ”)を作るんですよね。この曲には、子供ながらに切なさを感じました。ドラッグとお酒と、名誉とお金と――。そういうものが静かな曲の中からちょっとだけ漏れてて、聴くといまだに泣きそうになる。
Zapp & Roger – “Computer Love“
Monica Zetterlund – “モニカのワルツ(ワルツ・フォー・デビイ)”
――ブラウンストーンの“If You Love Me”はどうですか?
Seiho 最近もトーリー・レインズが“Say It”でサンプリングしていましたけど、僕も一時期ライブで“If You Love Me”をかけて、そこに当て振りしていた時期があって。SWVみたいな女性ヴォーカル・グループの中でも、あの3人の感じと……曲に切なさがあるのが好きです。次のホール・アンド・オーツは、ワム! もそうですけど、アメリカ映画とかではバカにされてしまう対象で。でも、だからこそ僕はSugar’sでは重要視しているんです。
Brownstone – “イフ・ユー・ラヴ・ミー”
Daryl Hall & John Oates – “プライベート・アイズ”
Avec Avec 僕らのデビュー作のときは、バード・アンド・ザ・ビーがホール・アンド・オーツをカヴァーしたアルバム『Interpreting the Masters Volume 1: A Tribute to Daryl Hall and John Oates(邦題は『プライベート・アイズ』)』を聴いて、「このアレンジいいな」って思ったりもして。Sugar’sにとって重要なアーティストですね。
Seiho 男2人であの感じ、というのもポイントです(笑)。
――そして最後はアース・ウィンド・アンド・ファイアー。その中でも“After The Love Is Gone”なんですね。
Seiho これは単純に母親が聴いてたものなんです。父親はどジャズのリスナーなんで、今回挙げたものはだいたい、どっちかというと母親のセンスです。この曲は何とも言えないコード進行をするし、広がり方がすごい。「細い道を進んでたら……めっちゃ広いところに出た!」みたいな感じがあるじゃないですか?
Earth,Wind & Fire – “AFTER THE LOVE IS GONE”
Avec Avec ちっちゃい宝石みたいなところから……。
Seiho 「宇宙!!」みたいな(笑)。黒人のバラードって、個人から直結して宇宙まで行ってしまえるのがすごいですよね。
――さて、今回「家族」をテーマにした最新アルバム『ママゴト』が完成しました。Sugar’s Campaignはコンセプトを先に考えて、音は後でついてくるタイプの人たちではありますが、今回選んでもらった曲の中で、今思うと新作に影響を与えたかもしれない曲はあると思いますか?
Seiho たとえば、 “HAPPY END”はロジャー・トラウトマンの影響があると思いますね。
Avec Avec あとは、“ポテサラ”でブラジル音楽の要素を見つめ直したのはバカラックの影響が大きかったし、熊谷幸子さんの女性目線の歌詞は“ママゴト”に影響を与えていると思います。他もずっと好きで、自分のメロディーに影響を与え続けているものですけどね。
――じゃあ、今回挙げた以外にも新作に近い要素を感じる曲を挙げるなら?
Seiho たとえば、結婚式の定番ソングにもなっているaikoさんの“瞳”。あの曲って、生まれてくる子供のことを歌っていますよね。そして女性って、生まれた段階で、自分が子供を産むことや、自分が産んだ子供がいつかお母さんになることまでを知っている。だからこの曲は、結婚をしてない女の子が聴いても娘の視点として泣けるし、お母さんが聴いても泣けますよね。その構造に「こんなにすごい曲があるのか」と思って。『ママゴト』は家族がテーマの作品なんで、この感覚はどうにかして抽出したいと思っていましたね。
Avec Avec 他にも家族をテーマにした歌は沢山聴いたし、映画やアニメも色々観ました。麻枝准さん(『CLANNAD』の脚本など)が書く話とか、手塚治虫の『火の鳥』とか、連鎖する運命を描いたものに影響を受けたんです。音楽的には改めて振り返ってみると、“ママゴト”はアラン・パーソンズ・プロジェクトやトレイシー・ウルマンっぽさを感じるし、“いたみどめ”にはオブ・モントリオールみたいな雰囲気があるかな、とも思います。
――リリース後には<あしたの食卓>と銘打ったリリース・パーティーも開催されます。デビュー作のリリース・パーティーは「デビュー20周年」を模して進んでいく面白いものになっていましたが、今回はどんなことがテーマになりそうですか?
Avec Avec まずは“レストラン-熱帯猿-”のテーマにもなっている「猿」や“HAPPY END”のテーマになっている「AI(人工知能)」ですね(笑)。
Seiho (笑)。あと、やっぱり「家族」というテーマは大切にしたいんです。僕らが今回、アルバムを作るときに考えたのは、父親や母親、おばあちゃんも、もともと「父親」「母親」「おばあちゃん」として生まれてきたわけではないということで。
Avec Avec じゃあ親はどうやって親になるのかというと、子供を産んだからではないと思うんですよ。子供がその人を親だと思って、初めて親になるというか。たとえ血がつながっていなくても、その人が親と思えば親子関係を築けることだってあるわけですし。
Seiho そうやって「役割が与えられる」ということが、今回のリリパのテーマとしては重要だと思いますね。交換できない役を与えていく、というか。そして、僕らにとって一番大事なのは、当日が終わって現実に帰ったときに(自分たちや来場してくれた人々の)「あしたからの食卓がどう変わるか」ということなんです。
EVENT INFORMATION
Sugar’s Campaign単独公演『あしたの食卓
2016.08.25(木)
OPEN 18:30/START 19:30
心斎橋SUNHALL
ADV ¥3,000/DOOR ¥3,500
2016.08.26(金)
OPEN 18:30/START 19:30
代官山ユニット
ADV ¥3,000/DOOR ¥3,500
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photo by Kohichi Ogasahara