東京(ZOZOマリンスタジアム&幕張メッセ)・大阪(舞洲SONIC PARK(舞洲スポーツアイランド))で8月19〜20日にかけて開催された<SUMMER SONIC 2023(以下、サマソニ)>。夏フェスシーズンの終盤を彩るアジア有数の大型イベントとして、数多くのトピックが注目を集めた。それはヘッドライナーを務めたブラー(blur)とケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)をはじめとしたアクトのみならず、東京会場の猛暑など、単なる音楽フェスティバルの枠を超えた複合的なものであった。
今回、Festival Life編集長の津田昌太朗にインタビューを敢行。<サマソニ 2023>の所感から自身がステージMCを務めたPACIFIC STAGEを中心とした全体の傾向、そして最近注目しているというアジアのフェスとの比較から語ってもらった。現在の<サマソニ>がどのような位置付けで、どこへ向かうのか。来年以降のフェスを占うための重要な話題が盛りだくさんだ、ぜひチェックしてほしい。
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「もう一度新しいフェス文化を作る」意気込みで取り組んでいく
──The Sign Podcastでも同様のお話をしていましたが、<サマソニ>について振り返っていきたいです。ライブについてはもちろんですが、今年は「暑さ」が話題になっていました。
自分はPACIFIC STAGE(東京会場・幕張メッセ内)のMCをしていたので、仕事の間にライブを観たりはしましたが、ZOZOマリンスタジアムには、数回しか足を運べてません。ただその数回だけでも、その後の仕事に支障が出るほどの暑さでした。
<サマソニ>は大阪会場もかなり暑い。むしろ大阪の方が日差しがキツい、逃げ場が少ないとよく言われます。ただ今年は東京会場での「熱中症が何名〜」というニュースがYahoo!ニュースにも載って目立った感じでした。今年は観測史上最も暑い夏と言われていますよね。一方で<サマソニ>の歴史だと、Festival Lifeで記事も出したのですが、気象庁のデータでは、2013年の東京で37度を超えており、この年がもっとも暑かった。でも、体感としては今年の方が暑かったような気がします。史上最速でチケットが完売して、コロナ禍を経て完全復活したフェスの熱量としての”熱さ”も話題になりましたが、同じくらい”暑さ”も今年のトピックでした。
──解決策として「日程を変えるべき」という声も上がっていましたね。
気温の上昇を受けて、夏から秋の開催になったイベントもありますが、音楽フェスに限った話だと、夏には、<フジロック>、<ROCK IN JAPAN FESTIVAL><RISING SUN ROCK FESTIVAL>、<サマソニ>が連続して開催されるような状況です。現状開催スケジュールがある程度固定されているし、特に<サマソニ>と<フジロック>は、海外の大規模フェスも踏まえた上での日程にもなっていて、来年からすぐ日程を変えるということはなかなか難しい。
<サマソニ>はコロナ禍で<スーパーソニック(SUPERSONIC)>というフェスを9月に開催した事例はあったけど、9月には台風の問題もある。それだけではなくて、9月は大規模なフェスを避けた中堅規模のフェスが毎週行われています。夏休みやお盆の関係もあって、20年以上かけて今のスケジュールに収まってるというのが実態です。一概に日程を変えればいいという単純な議論ではない。もちろんすぐにそれができるんだったらよいのだけど、様々な要素が絡み合っているから、すぐに実行できるとは思えないし、「日程変えればすべて解決」というように、そこで議論を終わらせてしまうのは違うかなと。
ライブの時間帯を変更することも解決策の一つとして挙げられていますよね。例えば、ヨーロッパで言うとスペインのフェスや、東南アジアで開催されるフェスは、開演時間が15時以降など、少し涼しくなった状態でのスタートというフェスも多いです。最近は東南アジアにもたくさんフェスがきて、毎月のように足を運んでいるのですが、もともとお昼の一番暑い時間帯に直射日光の下でイベントをやること自体が少ないように感じます。一方、日本は真夏の一番暑い時期に「高校野球の甲子園大会」のような国民的関心ごとと言ってもいいイベントが根付いていたりもする。甲子園については今年のフェスで巻き起こった議論よりもっと前から、開催日程や時間についての議論がされている。そういったところからも学べることはあるかもしれないですね。
話はそれましたが、開演時間の話題で言うと、時間をズラすという解決策は一見シンプルだけど、例にあげたスペインや東南アジアの遅い時間から始まるフェスは、往々にして深夜までやっている。例えばスペインの<プリマヴェーラ・サウンド(Primavera Sound)>は深夜2〜3時にヘッドライナー級のアーティストがたくさん出ます。で、昼間はみんな休んでいる。そもそもそういう設計でフェスが作られていったんです。しかしながら、現在のいわゆる「夏フェス文化」のベースになっている<フジロック>は1990年代後半、そして<ロック・イン・ジャパン>、<サマソニ>は2000年代前半から始まり、特に後者二つは昼から夜のスケジュールで会場と契約をして開催しています。野外で遅くまでやるというのは、騒音の問題もあり、都市型フェスであれば不可能に近い。
Primavera Sound 2023 Barcelona Madrid Aftermovie
例えば<サマソニ>が「来年からはメインステージは15時開演にする」となると、単純にアーティストの数は減ることになる。どういうアーティストをブッキングして、どこのステージに、どの時間帯で出演してもらうべきか。集客面だけでなく、事故やトラブルが起きないような予想を立てつつ、すべてのアーティストにとっても、お客さんにとっても最適なステージを用意する。アーティストによっては、コロナ禍でいくつかの邦楽フェスが導入した前方エリアの抽選制のようなことも検討すべきかもしれない。様々なリスクとエンターテイメントとしての満足度のバランスをこれまで以上に判断していかなければならない時代になったのかなと。
先ほど紹介した記事でも、関西国際大学・准教授でフェス研究者の永井純一さんが自身の経験から書いてくれていましたが、会場内での「水」は夏フェスでは死活問題。ステージ前方での無料配布や会場内の給水スポットの拡充など、日程や時間の調整に比べたらすぐできることはある。企業と連携するのもよいかもしれません。とにかく何かが起こってからでは遅いので、サマソニだけでなく、各フェスが早急に取り組むべき課題だと思います。
──今年は日本のフェスの多くにとって「完全復活」の年とも言われ、これまであまりフェスに参加していなかった「新しいお客さん」も多かったという印象でした。
特に今回の<サマソニ>に関しては、例年のラインナップに比べ<サマソニ>初出演組も多く、たくさんのファンを抱えるアーティストも多数出演していました。中には開催前日から並んでいるファンの方たちもいたようです。熱中症で搬送された方がいたという報道もあってか、自分が見ていた限りでは、東京1日目に比べると2日目のお客さんの方が対応できていたように感じました。それでもライブを見るまでに炎天下の中数時間も待たなければならず、人によっては夜通し外で過ごしてかなり体力を消耗した状態でライブの開演を迎えたわけです。ちょうど救護で運ばれてくる人の導線上でライブを観ていたので、熱中症の怖さを目の当たりにしました。自分のステージに戻った際のMCではかなり具体的に熱中症対策について繰り返しアナウンスし続けました。
スタジアムのグラウンド内に持ち込める飲み物の制限(水、お茶(無糖のみ可))についても議論になりましたが、何度か<サマソニ>に足を運んだことのある人はなんとなく知ってることなのかもしれないけど、初めて参加した人で知っている人はほとんどいない。ステージ上から手を挙げてもらってわかったことですが、今年はコロナ禍を経て初めてフェスに来た人、久しぶりに<サマソニ>に来たという方が多かった。運営側としても、お客さんに改めて注意事項をアナウンスする必要がありましたし、お客さん側も学んでいかなければいけないことも多かったはずです。それは<サマソニ>だけではなく、どのフェスも新しいお客さんが増えているのが今のフェスシーンの現状。ここ数年まともにフェスが開催できなかったわけで、新しいお客さんがいるのは当然。フェスの開催状況や環境を来場者の誰もが理解できているわけではありませんから、運営はもちろん、僕たちメディアも「もう一度新しいフェス文化を作る」という意気込みでフェスに挑まないといけないと思います。
フェスで何か起きたときにありがちなのですが、夏のうちはみんなの関心ごとなんだけど、秋以降になると議論されなくなり、また次の年に持ち越されてしまうことが多い。だからこそ、こうやってメディアで語ったり、自分のメディアでも発信し提言することで、来年以降状況を改善できるようにやれることをやっていくしかない。実際に<サマソニ>を主催する清水代表にも話を聞けたのですが、やはり今年の暑さに関してはかなり危機意識を持っていて、すぐに来年に向けて対応を考えていくと言っていました。<サマソニ>だけでなく、日本の夏フェスで大きなトラブルや事故が起こらないように、関係者やメディアが意識的に取り組んでいくことが大事だと思います。
アジアのフェスシーンの発展
──The Sign Podcastでも近いテーマで、新しいフェスの時代が来たとおっしゃっていました。ステージからMCとして見ていて、時代の移り変わりを感じたことはありましたか?
自分がMCを担当していたPACIFIC STAGEはアジアのアーティストが中心に出演していたステージ。もちろん日本のアーティストもいるし、欧米のアーティストも出ていますが、タイや台湾、韓国のアーティストも多いんです。去年も同じステージだったので、<サマソニ>に集う人たちがアジアのアーティストに高い関心があるのはわかっていたけれど、今年明らかに違ったのは、アジアからの参加者が増えたこと。去年はコロナ禍で日本に来ることができなかったこともあると思うけど、中国語や韓国語、タイ語が聞こえてきても何の違和感もないような状況。もともとアジアからの来場者はいたけれど、10年前の<サマソニ>と比べると完全にフェーズが変わった気がします。
──<フジロック>でも海外のお客さんが多かったですね。
そうですね。東京だと街を歩いていてもそう感じることが増えたけど、フェスでもインバウンドのお客さんが多かったように思います。特に<フジロック>と<サマソニ>は、インバウンド需要の可能性を十分に見せたと思います。海外のお客さんがたくさん来るし、日本在住の外国の方も見たいと思うようなアーティストがたくさん揃っているのが、この二つのフェスだなと。<サマソニ>に関してはアジアが1つのテーマだったと思います。コロナ禍に入る前から、アジアのフェスに行く回数を増やしているんですが、参加してみて感じることは、それぞれの国にあるフェスに参加している音楽好きやフェス好き、さらにアーティストにとって、日本のフェスは一度は体験したい憧れの存在でもあるということ。他のアジアのフェスでは体験できないことが体験できる装置としてすごく機能しているんです。だからアジアからもたくさんのお客さんが来てくれていたんだなと思います。<サマソニ>は多様なラインナップが特徴だし、<フジロック>にはまた違う魅力がある。さらに、国内勢のみの<ROCK IN JAPAN>や<RISING SUN ROCK FESTIVAL>もあれば、各地方にも個性的なフェスがたくさんありますからね。改めて日本のフェス文化は面白いと実感した夏でした。
──<サマソニ>ではMCをされていたのであまり他のステージに行けていないとは思いますが、津田さん的ベストアクトは誰でしたか?
スタジアムにはほとんど行けてないのですが、NewJeansはこのタイミングで観れてよかったなと。幕張メッセ内で一番大きいMOUNTAIN STAGEはかなりライブを観れたのですが、海外勢では、ノヴァ・ツインズ(NOVA TWINS)やウィロー(WILLOW|ウィル・スミスの娘、ウィロー・スミス)のライブが素晴らしかった。ウィローは、アメリカでものすごく人気なのは知っていたけど、日本でもここまで人気があるのかと驚いたし、発見でした。兄のジェイデン(Jaden|ジェイデン・スミス)もサプライズゲストで出てきたんですが、コラボ曲1曲を歌うために日本に来ているわけで。これはまた違う視点だけど、それぐらい日本に来たいということかもしれませんよね。Festival Junkie Podcastで<サマソニ>代表の清水さんが話してくれたんですが、ザ・キッド・ラロイ(The Kid Laroi)は最初のオファーで出演が決まらなかったんだけど、しばらく経ってから「日本に行きたくなった」という本人の心変わりもあって出演が決定したそうです。洋楽シーンが元気ないという話を聞くことも多いけど、ノヴァ・ツインズとウィローのライブはそんなことを完全に忘れさせてくれる時間でしたね。
WILLOW – hover like a GODDESS – Live at Lollapalooza【2022】
The Kid Laroi – Stay(Live at SITW 2023)
──日本の人気という話で言えば、ロザリア(Rosalía)も日本に観光でたびたび訪れていて、日本でのライブが待ち望まれていますね。
ロザリア、来年の<サマソニ>出演あり得るんじゃないですか? 何の権限もないので、無邪気にこういうところで願望を言っておこうかなと(笑)。今年の<サマソニ>はヘッドライナーに相当な予算をかけたと思うんですが、それは2022年にソールドアウトして成功したから勝負できたんだと思うんです。それを考えると、来年のヘッドライナーも自然と期待が高まりますよね。
今年はトラヴィス・スコット(Travis Scott)もタイまで来ていたし、グリーン・デイ(Green Day)の来日公演は延期されたままだし、個人的にはラナ・デル・レイ(Lana Del Rey)を日本で観てみたいし。日本人だと宇多田ヒカルの<サマソニ>もいつか観てみたい。この時期は好き勝手妄想して、来年に思いを馳せてます(笑)。
ROSALÍA – TUYA(Official Video)
──なるほど。ちなみに、2023年に開催されたフェスのなかで津田さんのベストアクトは誰でしたか?
ひとつに絞るのが難しいので、いくつか挙げさせてもらうと、まずはボーイ・ジーニアス(boygenius)。ノルウェーの<オイヤ・フェスティバル(Øyafestivalen)>とスウェーデンの<ウェイ・アウト・ウェスト(Way Out West)>の2カ所で観たんですが、当初ノルウェーだけで観る予定だったにも関わらず、もう一度観たくなってしまって急遽夜行バスを押さえて、スウェーデンに向かいました。多忙な3人だけど、そろそろアジアも回ってくれると期待しています。あと同じフェスで観たスウェーデンのパンクバンド、バイアグラ・ボーイズ(Viagra Boys)は新たな発見という点でこの夏一番の衝撃でした。ぜひ<サマソニ>に呼んで欲しいです。
あと今年PACIFIC STAGEに出た落日飛車 Sunset Rollercoasterのライブも素晴らしかった。今年は<コーチェラ>にも出ていたけど、アジアの中でもっとも成功しているバンドのひとつだと思います。日本のアーティストだと、<サマソニ>で観たYOASOBIも良かったです。去年はコロナに罹患してしまい、出演できなかったんですが、今年の出演はその伏線を回収するようでしたし、過去に小さなステージや「出れんの!?サマソニ」に挑戦したというストーリーが二人にはあった上で、MOUNTAIN STAGEのヘッドライナーとして登場し、満員の観客の前でパフォーマンスしたわけです。去年の年末にYOASOBIの初海外ライブを<Head In The Clouds Festival>で観たのですが、その時はまだ“アイドル”をリリースしていませんでした。“アイドル”という最強の武器を手に入れたYOASOBIはまた一味違いましたね。
boygenius – Live From Brooklyn Steel
Viagra Boys – Research Chemicals(Glastonbury 2023)
YOASOBI「アイドル」Official Music Video
──今名前が出たような、世界的に人気のあるアジア発のバンドを中心に観れるフェスってなかなかないですよね?
そうですね。<サマソニ>と香港の<クロッケンフラップ(Clockenflap)>はアジアのアーティストを昔からいち早くフックアップしています。12月の<クロッケンフラップ>ではYOASOBIがヘッドライナーに決まったのも歴史的な出来事だと思います。他にもたくさんのアジアのアーティストが出演するので要注目ですね。アジアのフェスにおいて、欧米勢のブッキングももちろん大事だけど、そこにいかにアジア発のアーティストを組み込んでいくか、抜擢していくか。そうやってフェスが育てていくみたいなこともアジアのフェスシーンの発展にとってとても重要なことだと思います。