死によって始まるものがある。残された者の人生だ。
これまで表現の世界でも喪失により巡り始めるドラマは数えきれないほど扱われてきた。
2014年に自身の活動発信の場である“Superendroller”を立ち上げた脚本家・演出家の濱田真和も、自らの実体験を昇華し、Superendrollerプロデュース過去2作品『sea , she , see』、『blue , blew , bloom』では、一貫して“残された者”を描いてきた。
そして、3月24日からの4日間、原宿VACANTにて上演される今作『monster & moonstar』もまた、兄の行方不明により一人残された人生を歩むことになる女子高生の多難な人生が描かれている。
地方で暮らす女子高生・彗(樋井明日香)と兄・恒(濱田真和)。
——「あの兄妹は不幸を呼ぶ」。両親の死をはじめ、兄妹に降り掛かる数々の不幸から生まれた噂は、彼らから人々を遠ざけていった。
暗闇にいた2人の日々に、一筋の光が射し込む。
太陽のように明るい笑顔を向けてくれる輪(小川紗良)との出会いだった。
しかし、その輪にさえも不幸が訪れ、そのことを機に恒は行方不明に。
たった一人で生きていくことになった彗が、歩む先に見るものとは?
渚(椎名琴音)をはじめ彗を取り巻く人々との狭間に浮かび上がる、人間が抱える心の矛盾を描き出す物語。
「『人の命』を扱うなかで、絶望を描くなら、愛とはなにかを考えよう」。
今作の稽古が始まるにあたり濱田からキャストに向けられた言葉だという。
その言葉を作品として結実させるべく今回舞台に上がる、主演の樋井明日香と椎名琴音、小川紗良、そしてキャストも務める濱田真和の4人に、それぞれの視線の先にある『monster & moonstar』について語ってもらった。
Interviw:樋井明日香/椎名琴音/小川紗良/濱田真和
by 野中ミサキ(NaNo.works)
「この役を私以外の人が演じるのはイヤだなと」(樋井)
「これはもうやるんだ!って覚悟を決めました」(椎名)
「逆のベクトルに行くチャンスなのかもしれないって」(小川)
——このインタビュー時点で、稽古も折り返し地点だそうですね。まず、それぞれ最初に脚本に目を通したときの印象って、覚えていますか?
樋井明日香(以下、樋井) 私、脚本を読んですぐマネージャーさんに「絶対にやりたい!」って言いました。この役を私以外の人が演じるのはイヤだなと思って。最初は自分がいただいた彗のところだけ声に出してなぞっていたんですけど、読んでいるうちに涙が止まんなくなっちゃって。初めだけじゃなくて2回目、3回目も大号泣で。もちろん自分の役に感情移入しているところもありますけど、単純に読みものとして毎日の楽しみになっていましたね。
椎名琴音(以下、椎名) 私は、これまで舞台をやってこなかったんです。小さい頃から演劇は大好きなんですけど、舞台で演技することにニガテ意識もあって。だから、今回お話をいただいたときも脚本読むのが少しイヤだったんです(笑)。だけど、そんなことは関係なくすごくおもしろかったし、いただいた渚の役がすごく魅力的で、自分に近いんだなって気づいたらイメージも湧いてきて、すごく演じたい!って思いました。あとは、役者として共演させていただいたことがある古館佑太郎さんが今回音楽を担当されるというのも大きかったですね。古館さんの音楽はもともと好きだったので、「彼の音楽が流れている舞台ってすごく素敵だろうな」と思って。そういう想像も脚本を読みながらたくさん想像しているうちに、「これはもうやるんだ!」って覚悟を決めました。
——お2人は初見の段階で没頭されたみたいですけど、小川さんはどうでしたか? 物語に大きな転機をもたらす重要な役どころですが。
小川紗良(以下、小川) うーん……そのときの精神状態とかもあったかもしれないですけど、私は正直2人ほどそこまで作品に入っていけなくて。ただ、これを書いた人にはどういう意図と想いがあってこの作品をやろうとしているのかっていうところには興味がありました。それから、私のいただいた輪っていう役が天真爛漫で明るい子なんですけど、そういう役を今までいただいたことがなくて。ほとんど影のある役ばかりだったので、「これは逆のベクトルに行くチャンスなのかもしれない」と思ってオファーを受けさせていただきました。実際、やればやるほど自分とは真逆だなと思うので難しいんですけど、日々やっています。
——稽古が進むにつれ、第一印象とはまた違った視点で作品や役柄を捉えられるようになってきたのではないかと。現在進行形では、どうですか?
樋井 今日初めて全シーンを通してやったんですけど……しんどいです(笑)。私自身ちゃんとした舞台は2回目なので、いろいろ課題もあって。しかも結構ツライ役だから、全然楽しくない。
濱田真和(以下、濱田) そう? 楽しそうだけどね?
樋井 いや、全然! 稽古の反動で終わったあとのテンションが高いだけ(笑)。序盤の演技はすっごく楽しいんですけどね! まだ割とハッピーなときの。一人で台本を読んでいるときと実際に他の役者さんを相手にするのとでは役の見方が全然違ってくるし、自分が予期せぬところで響くことがあったりして、まだまだ発見ばっかりです。
椎名 樋井さんはいろんな人と関わる役だから、なおさらそうかもね。私、シャイだから最初はみんなとワイワイできる自信がなくて。「私の役って会話するのはほぼ彗とだけだから、樋井さんと仲が良ければいいか。」とか思ったりもしたんですけど(笑)、実際稽古が始まるといい人ばっかりで自然と馴染んでいけて。こんなことって本当に普段ないんですよね。映画とかだと仲良くなっても早ければ一週間くらいで解散するし、そこで終わることも多いけど、舞台は違うんだなって感じています。すごく、みんなで作っているっていう感じがする。
——映像と違って編集が出来ないからこそ、普段の役者同士の関わり合いや空気感をもって、役が人格が育ってくるような面もあるのかもしれないですね。
樋井 それもあって私、普段から(濱田)真和には敬語使わないようにしているんです。兄妹だから、崩していかなくちゃって。「これからタメ口でいきますね」って、おことわりして(笑)。
濱田 おことわりされるちょっと前からタメ口でしたけどねぇ。
椎名 (笑)。今回、みんなでお互いの役についてディスカッションする時間もあって。普段は人や自分の役についてなにか意見したり疑問に思うことなんて絶対ないけど、無理なくそれができる空間で。共演者とそこまでの関係性になれるのもなかなか難しいから、すごいことだなって思うんですよね。特に樋井さんは稽古中もハッキリ意見を言うよね。みんなが言いやすいような空気を作ってくれているし、陰ながらカッコいいなって思ったり。
樋井 え? なんか言ってるっけ?
椎名 「出来ない・言えない・わかんない」って(笑)。最終的には濱田さんに「やれよ!」って言われてるし(笑)。濱田さんを見ていると大変そうだなって思います。恒として座ってるのに「よーい、スタート」って言うときの気持ちとか、すごい苦しいだろうなって。
濱田 うーん、それはこの2年間Superendrollerの作品を作っていくうちに慣れてきたかな。『あさつゆ』(小川紗良監督作品)の予告映像のラストで、芝居をしている小川さんが「はい、OKです。」って自分で言うんですけど、それに全てが詰まっているなって感じたんですよね。オモテとウラ。どちらもやることに意味みたいなものがあるのかなという気がしています。
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