「私たちは脚本があって演技をしているけど、それを越えた本気の部分でぶつかり合う瞬間っていうのが稽古でも何度かあって。それがこの舞台にはすごく詰まっていますね」(椎名)

——小川さんは先ほど、最初あまり台本に入り込めなかったとおっしゃっていましたが、稽古が進むにつれてなにか変化などありましたか?

小川 輪っていう役の根の明るさだったり、普段よく歌ったり……私、普段全然歌わないっていうか鼻歌を歌うのも怖いくらいなんですけど、ボイトレ行ったり一人でカラオケ行くようにしたりしています。……ごめんなさい。

樋井 紗良、夏ぶりに泣いたね。稽古でも泣かないって言ってたのに。歌うことに抵抗があるの? それとも役?

小川 うーん……歌もそうだし、笑うこととかにもコンプレックスがあって。本当に、輪ちゃんのやることなすこと、私のやらないことで。でも、「陰だけじゃなくて、ちゃんと陽の役もやれるようになりたい。」というのは、ずっと思っていたことなので、毎日自分の幅を広げていくつもりでやっています。

【インタビュー】「愛は大怪物」新鋭のキャストが絶望と愛を描く。「愛とは何か?」全てそこから始まった舞台『monster & moonstar』 MIKA7562-700x525

——そういう真逆の人間を演じることで生まれるようなほんの少しの違和感が観ている人たちを引き込むんじゃないのかと思うので、私は余計に楽しみです。しかし今作、一筋縄ではいかなそうですね。

樋井 もう……本当にそうなんですよ。

小川 でも、2人(樋井・椎名)の役は、本当にぴったり合ってる。

濱田 普段から仲が良過ぎて、稽古帰りに歩くとき腕がぶつかってるもんね(笑)。ちょっと安心しすぎだなとは思いますけど。

椎名 確かに、完全に安心しきってる(笑)。でもやっぱり、たとえ役の上では対立関係だったとしても、実際は信頼できていないと自分を預けられないし出せなくなっちゃうから、普段からしっかり会話したり触れ合ったりするのはすごく大事だなって思いますね。私たちは脚本があって演技をしているけど、それを越えた本気の部分でぶつかり合う瞬間っていうのが稽古でも何度かあって。それは表現の世界を越えた感情をともなうものなんですけど、それがこの舞台にはすごく詰まっていますね。だからこそ、ツラいこともあるんですけど。

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小川 ここの2人(樋井・椎名)の掛け合いは、本当にそうだと思う。

樋井 終わったあと毎回酸欠状態になる。本当に思い出しただけでも、しんどくなるんですよね。今日初めて、一回もやったことないラストシーンをぶっつけ本番でやったんですけど、もうダメでしたね。全部セリフが飛んじゃって。

椎名 あのシーンの難しさを知っていたから、もし樋井さんが感情を越えてセリフが飛んだときに助け舟が出せるように手元に台本を用意してたんですけど、いざ始まると1p分くらいドン!と飛ばしてたから「あ、言うことないな」って(笑)。

小川 でも、実際ああいうことが起きたら、なんにも言えなくなるだろうなって、今日見ていて思った。

濱田 なんにも出てこなかったけど、それでも伝わるものはあったよね。よりリアルというか。ラストを一言で言うなれば「愛は大怪物」。これまで描いてこなかったようなものになっていて、今までの僕だったらその手前で終わらせていたんですけど、その先が描けたのは自分でも大きな変化だと感じています。さっき小川さんや椎名さんが話してくれたように、キャストにも「変わりたい」っていうエネルギーがあって。今回出ていただくフカツさんも、そういう心意気に惹かれて一緒に舞台を作りたいと思ったキャストの一人です。

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――ONE OK ROCKの“アンサイズニア”で<MTV Video Music Awards JAPAN>の「最優秀ロックビデオ賞」を受賞するなど、数々の賞を受賞している映像監督のフカツマサカズさんですね。

椎名 フカツさん、お芝居するのは今回が本当に初めてらしくて。映画でもたまにあるんですけど、役者じゃない方がお芝居をするときって謎の緊張感があるんですよね。ガチ照れされると、なんかこっちも演じていることが恥ずかしくなっちゃうというか。

樋井 あるある。しかも、フカツさんも難しい役なんですよね。でも今日とか、めちゃくちゃ良くなかった? セリフも長くて大変そうだけど、最高だった。フカツさんがモンスターだよね(笑)。

椎名 うん(笑)。帰り道、ずっとフカツさんの話をしてたよね。もうフカツさんのことなんとも思わなくなってきた。

濱田 変わってきてるのは、ある種当たり前だと思います。よく役者さんが「憑衣型」みたいなことを言われますが、僕はそれがあまり好きじゃなくて。ただ役者が、真剣に目の前のキャラクターの事を突き詰めたら、稽古前と千秋楽後に、その役者自身が変わっていないと、その一ヶ月はウソだと思うし、そこまでできないと伝わらないと思うんです。だからこそ、変わりたいっていうエネルギーがある人と一緒に作りたいって思うところはあります。