「それぞれから生み出されるものが強いからこそキャストもポテンシャルが高くないと飲まれてしまう。そういう戦いもあったうえで完成した世界を見せられれば、と」(濱田)
——Superendrollerプロデュース作品すべてに携わっていらっしゃる渡辺さんは、3作とおして濱田さんの描く世界観をどう捉えていらっしゃいますか?
渡辺 僕と真和くん、年齢的にはちょっとだけ差があるけど世代が同じで、90年代終わりのあの全部が灰色で青い青春期っていうのにすごく共感していて。あの時代、未来も出口もなかったよね。あの虚無感って特別だったし。あれが描けている人がまず他にいないと思うし、描ける人が出てきたことをめっちゃいいなと思っていて。
濱田 あの時代にしか生まれなかったようなものや空気感には、かなり影響を受けましたね。でも僕は、当時まだ東京にはいなくて。ただ都会に憧れているだけの人間だったから、憧れたまま取り残されているのかもしれないけど。
渡辺 いや、誰も描けていないから自分が描こうと思っているんだよ、絶対。真和くんの心のなかにあるテーマがそうなんじゃないかなと思うけどね。なにに所属したらいいのかわらかない、コドモとオトナの境界をぐらぐらしている中にディストーションやディレイがかかったりして、せめぎあって人間を描いていると思うから。真和くんは何かを掴んで希望につなげようとしているのかなって。それはパーソナルな部分でいいなと思うし、この3部作で一貫しているから。うん、すごくいい。
濱田 うれしいですね。『sea , she , see』の打ち上げのときに渡辺さんが「真和くんの作品には、ストリート感がある」っていうことを言ってくれたんですよ。人から言ってもらえたのは、この世界に入ってから初めてで。自分でストリートとか言うと、ダサいじゃないですか(笑)。理解してくれる人がこんな近くにいてくれることがありがたいし、それは今でも思っていますね。それに、観てくれる人が青春性というか青くさい泥くさいところを評価してくれているというのも最近ですけど実感できてきた気はしているんです。でも、そこから抜け出さなきゃいけないとも思っているし、今回VACANTでの上演もひとまず最後にしようと思っているので、「monster & monstar」を越えて次はどうするのかというのは課題ですね。もちろん今は、次のことなんて考えられないですけど。
——お話を聴いていると、物語の世界を構成しているのは役者の演技だけではなく、関わるものすべてが「個」としても舞台上に存在しているということが改めて感じられます。
濱田 音楽にしろ照明にしろ、一度脚本を送るんですけど「好きにやってください」っていうのは必ず一言添えるようにしています。それがコラボレーションする意味だと思うし、僕の世界に僕以外の世界観が入り込んでくることが楽しいと思うので。それは、自分でプロデュースするうえで最初から意識していることだし、大前提かもしれないですね。音楽も照明も美術も小道具も衣装もスタッフも、そしてキャストも。役割が違うだけで作品の中では、すべてが対等の価値を持っているから、なにかひとつだけを立たせることはしたくないんです。ちょっとみんな自由過ぎて困るところもあるんですけど(笑)、だからこそアーティストの方々とコラボレーションしたいし、それぞれから生み出されるものが強いからこそキャストもポテンシャルが高くないと飲まれてしまうので。そういう戦いもあったうえで完成した世界を見せられればいいなと。キャストの福永マリカさんが言ってくれたんですけど、散らばっている星みたいな輝く点が作品をとおして線に繋がったときに、お客さんが感動してくれるものになるんじゃないかと思います。
——点と点が繋がる瞬間を共有できるのも舞台ならではの楽しみですね。最後に、それぞれが感じる今作の見どころと観に来てくださる方へのメッセージをお願いします。
古舘 今回の物語、登場人物の心だったり人の関係性だったりが美しいものだなって、僕は感じたんです。ただ、真和さんが僕を起用してくれた理由もそうだけど、ただ単純にキレイでは済ませない、なにかいびつなものが紛れ込んでいるなかで、世界が進んでいく。そのいびつさを感じて楽しんでもらえたらいいんじゃないかなって思います。
渡辺 いい映画観たあととか、楽しいお酒を飲んだあととか、素敵な出会いがあった後とかって、いつもの街がキレイに見えるじゃないですか。この舞台を見終わったあと、そういう感覚になってもらえればいいなぁと。これは真和くんの作品に限らず、常日頃思っていることで。たとえば、海外旅行に行ったときに景色がキレイに見えるのは、頭のなかでパーって脳内物質が出ているせいだと思うんです。そこに住んでいる人からすれば、なんの変哲もない景色なわけで。頭がパーってなるためにはすごい負荷が必要で、単に犬猫が出てくるような作品では、その負荷はかけられない。真和くんの作品には、その負荷がかけられるくらいのものがある。僕はそれに印象をつけてより強いものにしようと心がけているから、そこも観てもらえればと。帰り道に「いや〜、いいね」ってなるようなものにしたいですね。
濱田 今作は、ある意味で僕のけじめみたいなものにしたい気持ちで作り始めたものです。だからこそ思い入れもかなり強いし、自分の命くらいは懸けて、観てくれた人の世界くらいは変えてやろうって、そういう想いで作っています。世界を大きく変えることは難しいけど、観てくれた人のなかの世界を変えることは出来ると思っているので。さっきも言ったとおり、キャスト一人一人が主役になれるシーンがあって、観てくれる方にもどこか引っかかるところがあるんじゃないかと思うし、観る前と観たあとで何か少しでも変わってくれればいいなぁと。そこに尽きます。このメンバーが集まることは二度とないし、今これだけ次世代の人や、ものが集まる作品が他にあるのか、という自負があるので、ぜひ見逃さないでください。