作曲と共同プロデュースにチャレンジし、音楽ファンからも高い評価を得た前作『Coffee Bar Cowboy』から約2年。藤井隆のニューアルバム『light showers』が再び高い完成度を誇る仕上がりを見せた。

今回は先行公開された90年代のCM風動画がそのこだわりと当時を知る者にはクスッと笑える細部へのこだわりで注目されたが、アルバムのテーマも「90年代の音楽」。

藤井隆 “light showers” CFまとめ

NONA REEVES、宇多田ヒカル、サカナクション、FPMらのレコーディングやライブツアーに関わって来た冨田謙が前作に続きプロデューサーを務め、EPO、YOU、堂島孝平、西寺郷太(NONA REEVES)、葉山拓亮(Tourbillon)、シンリズム、RIS、澤部渡(スカート)、ARAKI(BAVYMAISON)、そして冨田謙という多彩な作家陣を迎えた本作。

どこか懐かしい90年代テイストでありつつ、今のファンク〜ダンス・ミュージック・テイストに更新されたサウンド、藤井魅惑のバリトン・ボイスもさらに磨きが。

しかし本人には歌手の自覚はないという。徹底したプロデューサー、そして芸道にも通じる職人気質はどこから生まれるのか? 新作を軸に藤井隆という稀有なエンターテイナーの軸に迫る。

Interview:藤井隆

【インタビュー】藤井隆、「芸人」という核を持ちながら音楽でも才能を発揮するエンターテイナーの魅力に迫る takashifujii_1-700x467

——前作『Coffee Bar Cowboy』が11年ぶり、しかも初のセルフプロデュースで。完成度の高さを気に入ってらして、「棺桶に入れて欲しい」とまでおっしゃっていて。

はい。最初に西寺郷太さんに「棺桶に入れるつもりでやってください」って言われたんで。

——それだけ気に入った作品の後の作品ってハードルが一つ高くなったのかな? と思いまして。

いや? そもそもの話になって来るんですけど、私は吉本所属なのでCDをリリースしないといけない理由は無いんです。そんな中、「CD買いますね」って言ってくださる有難い方達の存在の数である、分母を僕は理解している上でやらせていただいてます。CDのデビュー当時っていうのはタレント業の中の一つのやり方として、当時のレコード会社の社長さんや関わって下さった皆さんがテレビに出ながら歌うってことの意味をチャレンジさせてくださったと思うんです。

で、そこから時を経て、非常に大切なアイテムを僕はいただけてたんだとわかりました。それはテレビ出てるだけじゃ会えなかった方とか、テレビを見て歌の方に来てくださったとかあるんですよ。

一方で、やっぱり僕には好きな先輩方というのは、寛平師匠もそうですし、きよし師匠とか三枝師匠(現:文枝)、さんま師匠、ダウンタウンさん、今田さんも、それぞれのタイミングでレコードを出されてるんですよね。

そういう方たちがいてくださるから、僕も機会をもらえたと思ってますので、歌手ではもちろんないし、卑下してるわけでもなんでもなくて、立場としてね。人様に見てもらうためのアイテムの一つ何ですよ。なので最初にいただいた質問の「前作を超えるプレッシャーが」というのは今言われるまで何も思ってなくて。

——あ、そうなんですか?

もちろん『Coffee Bar Cowboy』はちょっと思い入れがある一枚では確かにあるんですけど、そうなって来ると最初のアルバムは松本隆先生ですし、そう考えると怖くてそんなことそれ以降できなかったと思うので(笑)、当時からそういうことは感覚としてなかったかもしれません。

——前作では作曲もされていましたが、今回は歌い手として注力された印象があります。

そう言っていただけるとありがたいですけど、実はあんまり自覚がなくて。『Coffee Bar Cowboy』の時に兼重哲哉さん(本作も同様)というエンジニアの方に音を録っていただいたんですけど、兼重さんのおかげで客観的になれるというか、ボーカル録りの最中は照れ臭かったりするんですけど、それが終わったら兼重さんのエンジニアリング力で他人事になれる(笑)。だから歌い直してる時も意味がわかりますし、変な言い方になりますけど、「ここがいいんだよ」って言われると、「あ、そうですね」って思えるぐらい他人事になれるんです。文字になると怖いんですけど、自分のボーカルにはさほど興味がないんで(笑)。

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——意外です。明確にあったテーマというのは、「90年代的なCM」のイメージなんですか?

あ、断然。わかりやすく言うと「タイアップ・ステッカー貼りたかったんです」っていうのが一番にあって、あともう一つ、CMソングが子供の頃からずっと好きなんです。CMソングは企業がキャンペーン期間中、すごい予算を使って制作に携わって、しかも曲には商品名が入ったり入らなかったりとか、で、CMでは商品名入ってるけど、レコードには入ってないとか、そういう熱量の高いCMソングみたいなことをやってみたかったんだと思うんですね。

——あの時代はCMのための制作があった、その膨大なエネルギーに影響されていたと。

そうですね。じゃあ80年代のCMソングとの違いは? と聞かれたら、好きなので困るのですが、自分自身が90年代に一番テレビやCMで音楽を観て聴いて、そしてバンバンCDを買っていたので愛着があるのだと思います。80年代の「CMソング」と90年代の「タイアップソング」という呼ばれ方の違いといいますか、タイアップソングから感じる「歌の強さ」みたいなのをやってみたかったのかもしれません。

商品や出演者、コピー、映像に完全に寄り添うだけじゃなくて、中には先ず楽曲ありきのような採用のされ方をしてるCMや、楽曲が強すぎてなんのCMか一回では分からなかったりするCMもあって、楽しかったんだと思います。

——だから不思議な体験なんです。映像を見るとオマージュでもありある種パロディにも見えるんですが、音源だけで聴くと明らかに今の作品になっているところで。

それはすごく嬉しいお言葉です。プロデューサーの冨田さんにご相談して受けていただいたのは——冨田さん、キーボーディストなので、90年代のそういうシンセサイザーだったり、音を使うとかはあるはあるんですけど、そこにこだわってるわけではなくて、最初に「せーの」って手を引く時の合言葉として「90年代のCMソング」っていうのがあっただけで、そういうふうに聴いていただけたらほんとに嬉しいです。

——今回も多彩な作家の方が参加してらっしゃいますが、どんな基準でどんな曲をどなたにというビジョンはありましたか?

それはほんとにケース・バイ・ケースなんですけど、基本的には冨田さんに相談しました。別にCMも決まってないんですけど、そういうことにご興味を持ってくださったり、理解を示してくださる方で、別に「そういうことは架空なのでできません」って断られたことは無かったと思います。

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