ROYの通算4作目となるアルバム『ラッキー』が4月3日(水)にリリースされた。

最新作『ラッキー』は、震災後に制作された初めてのアルバムということもあり、日常を立脚点とした普遍的な親しみを感じさせるポップ・アルバムとなった。本作に漂う優しく穏やかな音像と環ROYの柔らかくも力強い声は、私たちの日常の中にするりと入りこんで、気付けば異なる景色へと僕らを連れていってくれる。生活の機微の中で得られる小さな歓びを冠した、このアルバム・タイトル『ラッキー』は、環ROYの最高傑作だと断言してもいい。

同時に彼のラップ・スタイルは文字数を削ぎ、よりミニマルで多角的な意味を含んだ歌詞を携えて、更なる新境地を切り開くことに成功している。クリエイトのために問題提起を繰り返し、その壁に全力でぶつかっていこうとする彼のインスピレーションは一体どんなところからやってきているのだろうか? また、ヒップホップのフリースタイル・バトルから頭角を現し、その枠組みを超えて、数多くのアーティストと共作、共演し横断する彼のモチベーションとは? そして、自身のルーツでもあるフリースタイルとは、彼にとってどんな意味を持つのか? 他に追随を許さない、環ROYの哲学・考えがボリュームたっぷり詰まった特別インタビューをお届けしよう!

また、インタビューに際し、特別に収録させてもらったフリースタイル動画も合わせてお楽しみあれ!

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Interview:環ROY

――まずはじめに、今回取材に際してフリースタイル動画を撮影させて頂きました。環ROYさんといえばフリースタイル、という印象を持っている人も多いと思います。ご自身ではフリースタイルについてどのように考えていますか?

おお、いきなりですね(笑)。フリースタイル、即興、ですよね。一言でいうとフィジカルに近づく行為ですかね。直観とか身体性って言ってもいいと思うけど。思考というか、理論とか構造の世界ではなく、直観とかノリの世界って感じですかね。音楽を奏でるときには絶対に必要な感覚で、近代音楽の話でいうと、むしろそのノリとかフィジカルさえあればそれだけで音楽は成立するんじゃないですかね。言葉を発するにしても、ドレミを演奏するにしても、打楽器でリズムを打ち込むにしても、かならずどこかで考えたりしますよね。思考があって行動がある。でもフリースタイルって、思ってから行動までの距離を限りなくゼロにするというか、その垣根を曖昧にしていくことだと思います。

――なるほど。色々なミュージシャンとやっていますよね?

そうですね。MCバトルとかより全然楽しいって感じてます。そういうモードに入ってるんでしょうね。楽器奏者ってそれぞれ、一人だとあんまり成立出来なかったりすると思うんです。ピアノとか例外もあるけど、多くの楽器ってそうでしょ。バンドがあったりオーケストラがあったり。ってことは常に協力して奏でるってことに慣れてるというか、グルーブを共有することが前提となっている気がするんです。それがすごく心地よくて、とても楽しい。最近の活動で、環ROY×蓮沼執太×U-Zhaanっていう編成があるんですが、それは、自分達的にはヒップホップユニットとして認識してて、1時間くらい全員でスリースタイルしてるだけっていう。かなり緩い感じですけど。

――そういったアプローチがいまの環ROYさんにフィットするってことですね。

はい。いまはヒップホップ的なMCバトル、オープンマイクというより、そういう方向でやってみることが楽しいですね。

――なるほど。では、話をアルバムのほうに移させて頂きます。今回、震災後に制作された初めてのアルバムということもあり、日常生活の機微を軽やかに描いていると感じました。言葉も作詞家というか、ソングライター的になってきたような印象を受けました。

ありがとうございます。軽やかで風通しのよい作品にしたかったので嬉しいです。今回、シンガ―ソングライター的な気持ちは強いかもしれないです。以前より、ソングライター感が増したっていう認識はあります。

――聴き手の想像力に委ねるような、そういった隙間を作ろうみたいな意図はありましたか?

そうですね。色んな人の色んな境遇に寄り添えるようになれればって思っていました。

――出来るだけ広く、色んなシチュエーションにフィットできるように、といった試みですか?

うん。それはどうしたら出来るのだろうって真剣に考えてましたね。

――具体的にはどんな取り組みを?

まず、個性ってなんだろ? って考えはじめましたね。時間の上でも空間の上でも、出来るだけ尺度を広げて、なるべく総体として捉えるように努力しました。そして、総体の一部として、みんなの声に近づいていきたいって思ったんです。自分がなにものでもなくなっていく感じというか。みんなの一部としての自分、みたいな。で、理想論だけど、あらゆる人がコミットメントできる余白みたいなものを作ることが出来ればいいなって思って。ラップ音楽でどうやったらそれが出来るのかなって考えた時に、作詞が重要だなーってなったんですね。それを踏まえて日常に根差した話をしようって考えましたね。

――個人の声というよりは総体の声を表現したかったと?

そうです。そもそも個性って色々な人がいるから成り立つお話しで、無人島に1人しかいなかったら性格とか個性とかもないわけですよね。個性って相対化でしか見えてこない。じゃあみんながいないと俺も困るなーってなるわけです。みんなの中にいてはじめて自分を認識できる、その時に見えてきた自分なりの言葉を使って、みんなが歌える歌、っていうのも極端だけど、だれが歌っても成立しやすい歌を歌いたいなって考えました。あとは、行間や余白を感じてもらえるように、構造をしっかり作ることにも努力しました。簡単なところだと起承転結とかの話です。時間とか空間を整理したり操作したりして、詞の中に一本の軸みたいなものが作れるように頑張りました。

――では次に、隙間のある歌詞、歌い方が特徴的だと感じました。どんなことを意識していましたか?

前提として、わかりやすいものにしたいなって思ってました。パッと一回聴いてなにを言っているのか聴きとれるようにしたかったですね。それを考えてたらシンプルに、言葉数を減らしていこう、ってなりました。あと制作しながら気付いたことは、日本語って表意文字だなってことです。それってつまり、情報を削ぎ落としていくことが言語の内部にプログラムされている、って考えました。もっというと日本語って言葉数を減らしていくことに一つのクリエイトがある言語なのかもって思いました。そういうことが影響してると思います。

――文字数を減らすことによってなんか障害とか出てきたりしなかったんですか? 単純に、ラップって文字数減らすと難しそうなイメージがあります。

ラップの体を保つってことはしたかったので色々考えました。韻を踏むっていうのも凄く重要で、もっともっと踏みたいんですが、別の角度からみて発見したのは文字数でした。短歌、俳句とかに出てくる五文字と七文字の世界。あとその間にある六文字。この数の音節で刻んでいくと、現在の一般的な口語表現、発音から、あまり逸脱しないままでも音楽的にシュっとするっぽいぞ、っていう。そんなような手がかりが見えてきて、それを実践した感じです。

――そこはやっぱり環ROYさんじゃなきゃ出来ない部分ですよね。シンプルな言葉で数少なく、ちゃんとグルーブもある、凄いと感じました。

ありがとうございます。そうなってたら嬉しいです。発声もなるべく喋ってるテンションとほとんど同じになるように努力しました。普段喋ってる感じで歌うことが出来たら、これほど伝わりやすいことってないんじゃないかなって思いましたね。そういうところがラップのいいところだと思ったので。話している感じにしたかったです。音楽的に複雑なことをするっていうよりはシンプルにするために簡単なことの強度を上げていくというか、なんかそんな感じでしたね。

――徹底して聴き取りやすさを追及していると感じました。

ラップってきっと言葉が主体の音楽なので、できれば一回で聴きとらせたいって考えてます、いまはそういうモードですね。影響でいうとA-THUG さんとかERAさんとかT.O.P.さん(サグファミリ―)とか、あとはKREVAさんとか。みんないつもの喋り口調っぽくて歌詞がバンバン入ってくるんです。けどFla$hBackSや5lackのラップも、音としてめちゃくちゃ面白くて気持ちいい、大好きです、そういう影響も受けて.ます。あとは聴きとりやすいからこそ、聴いた時に軸のしっかりある、なんというか、物語がちゃんとある詞を書けるように努力しましたね。その物語は単純でもよくて、そういう例え話のレイヤーの下に、自分の思っていることや伝えたいことを忍ばせる、みたいなことを頑張った感じです。

――確かに物語っていうのを感じました。曲ごとに別々になってるんじゃなくて、曲と曲がリンクし合っているっていうのをこの作品感じました。あとは、都市生活者のサウンドトラックっていうイメージを受けたんです。個性を取っていくっていう作業をした上で選んだ舞台が日常的な街なのかなって。

なるほど。実際、自分が東京に住んでるから、そのまま反射しているだけって部分が強いかもですね。どんどん俯瞰して総体で見るように努めると、表現者なんてただの鏡みたいなもんかもって思ったりしてて。さっきの話に繋がるけど、今回の自分のモードは固有性とか個性とかを排していく方向にあると思うんですよね。鏡でしかないっていうか、鏡であればいい。いま、ここに住んでいる人としてありのままを出力するって感じですかね。その時に、勝手に自分のフィルターは通っていくと思いました。

★インタビュー、まだまだ続く!
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