【インタビュー】日本語であることの可能性。環ROYが『なぎ』に込めたラッパーの在り方とは? tamakiroy_7-700x467

日本とアメリカの関係性

——でも、そうなると、詩情を犠牲にしてまで、なぜライムするんだ? ってなりますよね。

それは、みんなが、サウンド的にアメリカ音楽っぽくしたいって思っちゃうからだと思うんです。なぜなら、ポップミュージックは戦後以降ずっと、アメリカから発信されてきているから。世界中のみんなが60年くらいアメリカを追いかけている。アメリカがオリジンなので洋楽っぽく聴こえることが一つの洗練なんですよね。「洋楽っぽいね」ってなんか洗練されてるよね、って感じで使いませんか?

——なるほど。では環さんは和製漢語を使わないように意識した?

いえ、使ってます。僕も、アメリカ音楽の影響を強く受けた日本の音楽の世界にいるから。避けられないんです。避けすぎるとそれはそれで不自然になっちゃう。だから「洋楽っぽい」っていうのも大切にしたいんです。しょうがないというか、宿命的なことだと思う。でも、それとはまったく別の、日本的な、自分たちが得意とする洗練だってあるはずだって思いたい。その曖昧な、日本の立ち位置とか、アメリカとの関係性とか、そういうアンビバレンス(同一の対象に対して、相反する感情・態度が同時に存在すること)も表現したかった、アメリカ超大好きなんだけど、自分の国のことも大切にしたい、みたいな。だから、むしろ、どう使うのが適切なのか意識しながら使いました。

——和歌の引用やところどころの大和言葉も、そういう気持ちからということになりますよね。

はい。とにかく洋楽へ近づけていくことよりも、日本っぽいなにかで洗練を極めたいって思いがあって。たぶん年齢的なものもありますよね。修学旅行の時の記憶なんてなにもないのに、いまは銀閣寺で感動できるようになったり。

——ヒップホップってどれだけ渋く作ってみても、基本的にはデコラティブな意匠が柱にあるカルチャーですよね。だけどこのアルバムはその柱を取り除くというか、ヒップホップの構造だけ取り出したようなところがある。そしてガンガン攻めていくようなアグレッシブさを出しているわけじゃないんだけど、強さがあるアルバムなんですよね。ゆったりした、持続的な力の加え方がある。それが大人っぽさにつながっているのかもしれないですね。

ありがとうございます、すごく嬉しいです。日本建築とか、枯山水とか、琳派の絵画とかもそうだし。鳥獣人物戯画の奇妙なヌケ感とか、短歌の下の句を切り離して俳句になって、さらに季語を切り離して川柳が生まれたり。いろんなサンプリングソースが日本っていう地元にはたくさんあるんだなって見えてきた。そうやって地元にちゃんと向き合うようにすれば、高文脈言語って特性を活かした、日本的な、幼稚じゃない歌詞表現ができるんじゃないかなって思ってるんです。漢字から平仮名、片仮名を生み出したように、アメリカやヨーロッパからきている音楽から新しいなにかが生まれたらいいと思ってます。