――さて、今回の新作はナッシュヴィルでレコーディングされていますが、あなたがもともとかの地に憧れていたということをプレス資料で拝見しました。この辺りについて詳しく教えてもらえますか。
えーっと、本当のところ、今回行くまでナッシュヴィルのことはよく知らなかったんだ。でもそこがアメリカの音楽の中心地の1つになっていたことはもちろん知っていたよ。ナッシュヴィルはカントリー・ミュージックにおける重要な場所だったし、今もそうだけど、最近はもっと様々な音楽が生まれていて、沢山のトップレベルのミュージシャンがそこにスタジオを構えたり、色々なレーベルの本拠地にもなっている。今のウォーターボーイズのマネージャーのルーシーはアメリカ人なんだけど、彼女が「ナッシュヴィルには沢山の良いスタジオがあるから、そこでレコーディングするべきだ」って提案してくれたんだ。ヨーロッパのほとんどの都市では、以前と比べてスタジオの数がすごく減っている。でもアメリカは違っていて、とくにナッシュヴィルには今も40や50ものトップレベルのスタジオがあって、大きなレコーディング・ルームや、自分の仕事を熟知していてライヴ演奏のレコーディングが出来るエンジニアが沢山いる。過去じゃなくて、今のナッシュヴィルに必要とするものがあったから行ったのさ。今回のアルバムに参加しているミュージシャン達の何人かもナッシュヴィルに住んでいるから、それも助けになったしね。
――ジャック・ホワイトやブラック・キーズといった、ナッシュヴィルを拠点に活動するあなたより若い世代のアーティストに刺激を受けた部分もあったのでしょうか。
間違いないね。彼らのレコードは大好きだし、彼らと同じ街でレコーディングが出来たことは楽しかったよ。まるで彼らと競争しているような感じで――多分彼らはウォーターボーイズと競争をしているなんて思ってはいないどころか、存在すら知らないかもしれないけど――僕は彼らのことを知っているし、彼らと同じくらいかそれ以上に良いレコードを作りたいと思った。そういう気持ちは僕自身にとってとても助けになったよ。
――他に若手アーティストで好きな人はいますか? 13年の取材では、ショヴェルズ&ロープ、フリート・フォクシーズ、ミッドレイク、ジョアンナ・ニューサム、ローラ・マーリングなどを挙げていました。
その質問はよく聞かれるんだけど、いつもとっさに思い出せないんだ。ちょっと待って、今iTunesを見てみるから……(しばし沈黙)オーケー、最近の音楽だね。ビング・アンド・ルースっていうエクスペリメンタル・バンドはなかなか好きだね。夫婦でやってるデュオみたいな名前だけど、NYの男性2人のグループで、アンビエント・ミュージックをやってる。それとジョン・スティール・シンガーズ。AJローチっていうアメリカのシンガー・ソングライターも好きだね。既に挙げているけどローラ・マーリングも本当に素晴らしいよ。彼女の歌声は実年齢より遥かに大人びて聞こえる。彼女の歌を聴いていると、ボブ・ディランやジョニ・ミッチェルとかの、60年代や70年代にまだ当時20代なのに、まるで世界の全てを知っているような歌を歌っていたミュージシャン達を思い出すんだ。彼らが当時どれほど若かったかを考えて、今のミュージシャン達を見てみると、例えばオアシスのノエル・ギャラガーはブレイクした時30近かったけど、ビートルズはその前に終わっていた。ローラ・マーリングの音楽にはそういう頃のミュージシャンのような、若さと思慮深さのバランスがあるんだ。
Laura Marling -“Short Movie”
――なるほど。今回、現地でナッシュヴィルの音楽シーンに触れる機会はありましたか?
現地のミュージシャンと沢山一緒に仕事をすることは出来たけど、あまり出かける時間はなかった。滞在中ショウに行けたのも2回だけだったしね。でも、ナッシュヴィルで沢山の音楽的なプロジェクトが起きているっていうことで、自分があらゆることの中心地にいるような感覚があった。それが制作したアルバムに、この世界のものであるという感覚を与えていると思う。僕がこれまで作った作品の中には、アイルランドの西端やスコットランドのフィンドホーンといったとても変わった素晴らしい場所で作られて、異世界的な感覚のものがいくつもあるけど、今回は、この世界の色々なもののただ中で作られたものにしたかったんだ。
――そう思ったのはなぜなのでしょう?
僕の人生には人里離れた変わった場所に住みたい時期が時々あって、これまでにもさっきも挙げたスピリチュアルなコミュニティがある場所に住んだことがある。そういうことをしたあと、多分振り子が振れるみたいな感じで、ここ数年はずっと都市部にいて沢山の物事の真ん中であらゆることを吸収したいという欲求があったんだ。今はNYに小さなアパートメントを借りていて、時折ロンドンに滞在することも楽しんでいるし、自宅はアイルランドの一番大きな街であるダブリンにある。今は都市の真ん中にいることが刺激になるのさ。