――そうして完成した作品は、「ウォーターボーイズによる現代のブルース」=『モダン・ブルース』というタイトルが似合う作品になっているように思えます。このタイトルにはどんな意味が込められているのでしょうか? 

もちろん直接的な意味でのブルース・レコードではないし、実際にブルースのリズムやコード進行を使った曲も1曲しかなくて、それすらブルースとしては変化球みたいなものさ。でも、ブルースっていうのは歌詞に対するアプローチの仕方も意味していて、「ロマンス」のことでもあると思う。そして、今回の歌詞の中にはいくつものロマンスが描かれているんだよ。例えばアルバムのタイトルを思いついたのは、“Rosalind(You Married The Wrong Guy)”を聴いていた時だった。その(曲の)短さや素早い簡潔さが気に入っていてさ。それと、その時すでにアルバムのジャケットの写真を決めていたんだけど、その写真とタイトルのミスマッチが気に入った。「どういう意味だろう? なぜ『モダン・ブルース』なんだ?」と疑問に思わせるところが良いんだよ。

The Waterboys -“Rosalind(You Married The Wrong Guy)”

――ジャケット写真はまるでヨーロッパのなまはげ「WILDER MANN」のようですね。

Tumblrで見つけたんだ。それが何の写真で、誰が撮ったものなのかも分からなかったけれど、画像サーチエンジンとかを使って、やがてそれがカーン&セレスニック(ニコラス・カーン&リチャード・セレスニック)っていう、NYを拠点にしているアーティストの作品だと知った。それで彼らに連絡をとって、ジャケットに使う許可をとったのさ。『King of Weeds』っていうタイトルの作品で、他にも同じシリーズの作品がいくつかあるんだ。これが写真なのか絵なのかすら知らないし、それを訊いたりもしなかったけど、それは謎を謎のまま残しておきたかったから。僕にとっては英国の伝承に出てくる自然の精霊、グリーン・マンを具現化したものに見えるんだ。まさに君の言った「WILDER MANN」と同じような存在だよ。

ウォーターボーイズ『モダン・ブルース』ジャケ写

――今回も曲ごとに様々なアイディアが詰まっていますが、中でも“I Can See Elvis”の歌詞はとてもユニークです。この曲にはエルヴィス・プレスリーを筆頭に様々なアーティストが登場しますが、どんなアイディアで思いついたものなのでしょう?

7年くらい前に、ショウの後のバンドのメンバー達との会話の中で、臨死体験の話題が出たんだ。その当時オーストラリア人のデイモンがドラマーをやっていたんだけど、彼が冗談好きな奴で、その時もふざけて臨死体験をしている男の真似をしだした。その男がトンネルの中を光に向かって歩いていて、やがて光の中に出て天国に着いたとき、「I Can See Elvis(エルヴィスが見える)!」って叫んだのさ。それが面白くて、その言葉が妙に頭に残ったんだ。それで僕の歌詞やタイトルのアイディアを書き留めているノートにそれも書き込んだ。それから5年ほど経ってからこの曲を書いたんだよ。

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