――また、ラストの10分を超える大曲“Long Strange Golden Road”には近藤智洋(元PEALOUT)の“The Midnight Chord(真夜中のコード)”がサンプリングされています。14年にウォーターボーイズが<フジロック>のために初来日した際に近藤さんと直接会う機会があったそうですが、その時のことを教えてもらえますか。

トモヒロを知ったのはPEALOUTが『Fisherman’s Blues』のカヴァーをした時で、日本人の友達がそのカヴァーを送ってくれて、すごく気に入った。ヴォーカルのシャウトやエレキ・ギターの音ですっかりパンク・ロックに生まれ変わっていて、それが素晴らしかったから、彼にどれほど気に入ったか書いて送ったんだ。そうしたら彼は自分のアルバムを送ってくれて、そこで“The Midnight Chord(真夜中のコード)”のあの美しいインストゥルメンタル・パートに出会った。それから連絡を取り合うようになって、僕が14年に日本に行った時に会ったのさ。会えてとても良かったよ! 是非また再会して一緒に演奏してみたいね。春にはライヴで日本に行けるから、その時に実現することを願っているよ。

Waterboys -“Long Strange Golden Road”

――この曲にはケルアックが自身の旅をもとにして作った『路上』の一節も引用されています。曲自体も、まるであなたの人生を旅になぞらえているかのようです。

この曲を書く直前に、『路上』を読み返したんだ。あの小説にまつわる伝説の1つに、ジャック(・ケルアック)があれを一続きの紙1枚にタイプして綴ったってものがあるんだけど、07年にその「巻物」バージョンが出版されたんだ。それを07年と08年の間のツアーで再読して、すごく刺激を受けた。それがこの曲のインスピレーションになっているよ。それで、ジャックを曲にも登場させたいと思った。本人が小説の一部を朗読しているんだ。曲自体は半分自伝で、半分物語だよ。僕の実際の人生に直接的だったり間接的に関わる、あるいは中には僕自身には全く関係のないものも含めた詩の集まりと言えるね。

――ちなみに、曲の最後が日本の渋谷で終わるのはなぜですか?

うん、90年代の半ばに東京に行ったときのことをとてもよく覚えているんだ(バンドが一時解散していた頃に、ソロ名義で来日)。東京に滞在中のある日、渋谷のとあるストリートで立ち止まって、ものすごく孤独を感じたのを鮮明に覚えている――。ウォーターボーイズが、もう僕と共にいなかったからさ。特にバンドでの素晴らしい音楽的パートナーだったスティーヴ・ウィッカムとアンソニー・シスルウェイトのことを恋しく思った。道路の真ん中の安全地帯か何かだったと思うんだけど、道の真ん中に座って、強烈な虚無感を感じながら、「何が起きたんだ? あの素晴らしい友情はどこへ行ってしまったんだ? あれを取り戻すために自分は何をしなければいけないんだろう?」って考えてた。あの瞬間をいつまでも覚えているんだよ。それでその思い出がこの曲に表れてきたんだ。今ではスティーヴとはまた15年以上もパートナーとして一緒に音楽を作っているし、アンソニーとも時々一緒に仕事をすることが出来ている。あの友情をバンドに取り戻すことが出来たのさ。

――ザ・ウォーターボーイズの作品は、その時期やメンバー、録音場所などによって様々に作風を変えてきました。しかし、一貫してウォーターボーイズらしさが感じられるのも事実です。作品すべてに共通する要素があるとしたら、どんなことだと答えますか?

僕の存在が共通しているよ。僕の声に、僕の音楽に対するアプローチがあって、そして僕の感覚が曲にパワーを与えている。そしてほとんどの曲にスティーヴ・ウィッカムと彼のフィドルも存在していて、彼の機知に富んだ才気が感じられるよ。その他はアルバム毎に多様性があって、その質にもばらつきがあると思う。あとから振り返ってみると、いくつかのアルバムはその他よりも出来が良いものになっているんだ。もちろんどのアルバムも作っている時には等しく愛情を注いでいるけど、後々になって見てみるとそのうちのいくつかは、僕自身の能力を最大限に発揮できていなかったものもあるし、自分の限界までしっかり出し切ったと言えるものもある。あとはこのアルバムでは素晴らしいコラボレーターに恵まれたけど、こっちのアルバムではそうでもなかったな、とかね。

The Waterboys -“Destinies Entwined”

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