昨年の<FUJI ROCK FESTIVAL’19>で初ライブが実現、2019年11月にリリースされたファーストアルバム『VANTABLACK』以降、そのダークなサウンドが徐々に波紋のような反響を巻き起こしつつあるTHE ALEXX。
SMASH代表・日高正博が立ち上げたレーベル〈REXY SONG〉初の日本人アーティストでもある彼らは、杉浦英治(Programing)、tonton (Vocal)、筒井朋哉 (Guitar)による3ピースバンドだ。
Electric Glass Balloon からSUGIURUMNを経てバンド/DJとして長いキャリアを経てきた杉浦を中心に、ニューウェーブ、ダブ、トリップホップ、サイケデリック、エレクトロなど様々なユースカルチャーの系譜を踏まえつつ、新たな形の陶酔感をもたらす楽曲を生み出している。
彼らの新曲“Outsider”は初の日本語詞による一曲。「反逆者」という楽曲のモチーフはレーベルヘッドでもある日高氏なのだという。バンドの成り立ちについて、新曲について、そしてこの先に見据えるものについて、3人に話を聞いた。
Interview:THE ALEXX
━━最近、コロナ禍で家にいることが増えたのもあって、自宅にいいスピーカーとサブウーハーを導入したんです。それで改めて実感したんですが、THE ALEXXの低音の鳴りは素晴らしいです。ここ最近のトラップにありがちな凶暴なサブベースというよりも、奥行きのあるダブやクラブミュージックの低音が鳴っている。
杉浦 英治(以下、杉浦) ありがとうございます。なにしろエンジニアのzAkさんのミックスはすごいですから。
━━改めてTHE ALEXXの成り立ちから聞ければと思うんですが、これは杉浦さんからはじまったプロジェクトなんですよね。
杉浦 そうです。
━━SUGIURUMNとは別の表現方法を必要としたということでしょうか?
杉浦 もっと違うことをやってみたかった、という感じです。やっぱり、僕も今の世の中に対してやりたいことが沸き上がってくるタイプなので。もちろんSUGIURUMNを辞めるつもりもないけれど、それとはレーダーが違う感じだったんじゃないかな。
━━筒井さんとtontonさんとの3人組になった由来は?
杉浦 最初は別の子をヴォーカルにたててやっていたんです。でも、その子は素晴らしい才能のある子だったんだけど、もっとインプロビゼーションみたいな感じでやっていきたいから同じ曲を何度もやるのはちょっと無理ということになりました。レコーディングも終盤だったから「え? 今!? どうしよう?」となって、tontonに声をかけたんです。
━━筒井さんはElectric Glass Balloon時代からということなんで、杉浦さんとは長い付き合いですよね。
筒井 朋哉(以下、筒井) 会ってからは一番長いですね。でも、連絡を取り合っていない時期も結構長かったです。
━━筒井さんとしては、杉浦さんから声をかけられて、どんな第一印象だったんでしょうか。
筒井 嬉しかったですね。6年前ぐらいにSUGIURUMNのアルバムにギターで僕が参加したことがあって。その時にも杉浦くんが書いた曲にギターを乗せる作業をしたんですけど、すごくしっくりいったんですよね。昔一緒にやっていただけあって、気心が知れた中でやっているので、やりやすいですよ。
━━tontonさんもSUGIURUMNのいろんな曲にヴォーカリストとして参加してきたわけですよね。
tonton はい。いろんな曲で参加させていただいていたので、杉浦さん節は染みついています。プロデュースもしてもらったことがあるので。
杉浦 結果、気心の知れた3人になって、よかったなと思っています。
━━THE ALEXXは去年にデビューアルバム『VANTABLACK』をリリースしたわけですが、その手応えや反響はどんな感じでしたか?
杉浦 まずマイナス面から言うと、去年の<朝霧JAM 2019>が台風で中止になってしまって、今回の<フジロック>も延期になってしまったので。僕らだけじゃないんだけど、初っ端からバンドを知ってもらってステップアップしていく機会である大きなイベントがなくなっちゃったというのは大きかったです。ただ、Electric Glass Balloonからこれまで、THE ALEXXのここまでダークな音楽性みたいなものはやっていなかったので、確実に世界は広がりました。
VANTABLACK – THE ALEXX
tonton 私にしても、今まで自分の中になかったものなので、周りからもすごく好評ですし、今までにない可能性を感じています。いろんなことをやっていいんだって、すごく楽しく向き合える音楽ですね。
筒井 僕はずっとギタリストとしてやってきたわけですけれど、THE ALEXXは今までやってきたこととは違う空気感を封じ込めるような作り方で。それが僕としてはチャレンジだったし新鮮でした。そうやって作ったアルバムをいろんな人が聴いてくれて、褒めてくれたり、認めてくれたのは、とても嬉しかったです。自信になりましたね。
杉浦 曲を作る時に、アイディアを持ち寄らない、手癖を使わないって決めていたんです。本当にゼロから、瞬間のひらめきから作っていく。だから、どんな音楽ができるかもわからないし、曲によってはリズムから作ったり、持つ楽器を変えてみたり、これまでとは全然違うやり方でした。うまく言えないですけど、きれいな水だけで作ろうとしたというか。そういう瞬間を見逃さないように作った感じです。
━━THE ALEXXの音源を聴いてライヴを観たときに感じたのは、ダブやトリップホップやサイケデリックロックのような今に至るまでのロックやクラブミュージックから陶酔感、トリップ感を抽出して構築しているような感覚だったんですね。杉浦さん自身いろんな文脈を通ってきているとは思うんですが、そういったカルチャーとのリンクは意識していましたか?
杉浦 もちろん、たとえば「チャラい奴はやらない」とか、当たり前に決めていたことはあったんですが、曲ができてみて初めて感じたことはめちゃくちゃあります。でも作っているときは、最初から引き出しを広げて始めたわけじゃなかったんです。むしろ偶然とかハプニングがきっかけで、その後の引き出しが増えてくるような感じだった。5個サイコロを振って同じ目が出ないようなのと同じで、もう一回最初から同じものを作れないことをやってるなって思ってました。
━━新曲の“Outsider”はどういうところから制作がスタートしたんでしょうか。
杉浦 “Outsider”に関しては、原石のようなものがTHE ALEXXをやる前からあったんです。もともとは僕とtontonでやろうとしていた曲があって、それを筒井くんにも聴かせたら「これ、いい曲だよ」って。そこから膨らませていった感じです。
━━THE ALEXXとしては初めての日本語詞の曲になるわけですけれど。
杉浦 僕たちが所属しているのは〈Rexy Song〉という日高さんと豊間根(聡)さんのレーベルなんですけど、去年の<フジロック>が終わってアルバムを出した後くらいに日高さんから「なんで日本語でやんねえんだよ」って言われて。
僕が今までの人生で出会った人間で一番すごい人って日高さんなんですけど。『ONE PIECE』の伝説の海賊王みたいな迫力のある人、いわゆる神が言うんだからそれでやるしかないだろうって思いました。で、この曲は日高さんに捧げる曲にしようと思って、それで“Outsider”というタイトルにしたんです。アウトサイダーというのは、要するに反逆者。だから、筒井くんが弾いたギターとか、上モノは全部逆回転にしたんです。
━━逆回転になってるんですね。
杉浦 やっぱり反逆者だからね。
筒井 どんどん音を入れていってたんですけど、途中で「これ、逆回転したらどうなのかな?」って杉浦くんが言って。そうしたら思いのほかよかった。そこから全部逆回転にしようという話になりました。風景のバックに何かが流れているみたいな感じの音になっていると僕は思っていて。結果よかったなと思っています。僕ひとりならそういうアイディアは出てこないんで。
━━歌詞は杉浦さんが書いたんでしょうか?
tonton そうですね。杉浦さんが日高さんを思い浮かべながら書きました。
杉浦 『やるかFuji Rock 1997-2003』(日高正博による著書)を机に置きながら書きました。でも、捧げている対象は日高さんだけど、それだけじゃないところもあって。やっぱり音楽をやるというのは、根底に世界をひっくり返してやるんだという気持ちがないと、とてもできないことだと思うから。こんなにいい音楽がいっぱいあるのに自分たちがやるっていうことは、多かれ少なかれ、そういうことだと思うんです。特に今は、時代的にも「夜明け前感」みたいなものがあるから、そういう感じが出てきている曲だと思います。
━━THE ALEXXはダークでトリッピーですけれど、根底のところにパンクから来ているレベルミュージック感があるような感じがします。
杉浦 ありがとうございます。あと、tontonの日本語がいいよね。
tonton 英語で歌うのも好きなんですけど、やっぱり日本語だと言葉のきれいさもあって、歌っていて気持ちがいいですね。言葉も、杉浦さんの歌詞が素晴らしいので、歌っていてもスーッと筋が一本通っている感じがします。「英語じゃないの?」みたいな感じもなく、すっと入ってくるし。あの曲はお気に入りですね。
THE ALEXX-Outsider
━━6月には”Something Great”もリリースされていますが、コロナ禍のここ数ヶ月はどんな風に活動されていましたか?
杉浦 バンドはずっと途切れずに動いてます。スタジオに入ったり、集まって作り続けたりもしていたので。
━━3月には青山にある犬のペットサロン「Dogman Aoyama」で無観客ライブをやっていましたが、あれはどういうアイデアだったんでしょうか?
杉浦 あれも、実はコロナでこういう状況になるからやったわけじゃなくて。なにか面白いことをやろうというので始まった企画だったんです。そうしたらみんな無観客ライブの配信を始めちゃって。最初に思いついていたのに、時代に追い抜かされちゃいました(笑)。
THE ALEXX DogMan Live -episode1-
━━犬だけが観客という不思議なライブ映像になってますね。
杉浦 卓球さんが言っていたんだけど、ジョイ・ディヴィジョン(Joy Division)の最初のライブのお客さんって人間2人と犬1匹だったらしくて。「犬の数ならお前らが勝ってたな」って(笑)。
━━今後のTHE ALEXXとしての表現方法や活動については、どんなふうに考えていますか?
杉浦 とりあえず、いい曲を作ることですね。みんながびっくりするような、目が覚めるような曲を作りたい。まずはそれですね。もちろん今年の<フジロック>を目標に頑張ってきたので、それがなくなっちゃったのはショックではあるけれど。
━━tontonさん、筒井さんはどうでしょう?
tonton 私も杉浦さんも1人でずっと音楽をやっていたので、こういう3人、仲間がいると、コロナ禍でも楽しく音楽ができるし、すごくありがたいなって。本当に音楽が楽しく感じます。
筒井 やるたびに発見があるし、新鮮でフレッシュなんですよ。よく話すんですけど、引き算の美学というか、大事なものだけ音に込めるというのをTHE ALEXXは大事にしているので。
━━杉浦さんとしても、THE ALEXXでやれることがどんどん広がっている感じはありますか?
杉浦 なんでもできますね、この感じは。強力な3人だとは思っているので。完全に僕はこっちにシフトしちゃってます。本当に次が楽しみで仕方ないです。バンドを始めて、家で聴く音楽もコロナ禍とか関係なしに完全に変わってきているんです。最近はThe 1975ばっかり聴いてたんですけど、DJだけやっていた時には聴いてなかったものも含めて、いろんな音楽を聴くようになりました。
━━“Beatwave”は石野卓球さんのリミックスバージョンもありましたけれど、逆にTHE ALEXXが誰かの曲をリミックスするのも面白そうですね。
杉浦 そういうのもやりたいですね。ほんとにこのバンド、なんでもできちゃうんですよ。例えば“Something Great”のダブミックスもバンドで作ってるし、“Outsider”もライブではもっと長いバージョンでやっているので。すごく自由な感じです。
Text by 柴 那典
THE ALEXX
tonton (Vocal)、筒井朋哉 (Guitar)、杉浦英治(Programing)による3ピースバンド。
音源リリース前のFUJI ROCK FESTIVAL’19にて初ライブを披露したのを皮切りに活動をスタート。
2019年9月にデビューシングル『Beatwave』、11月にファーストアルバム『VANTABLACK』をリリース。
2020年5月に配信限定でリリースした『Beatwave (Takkyu Ishino Remix)』はSpotify、Apple Music等各種配信サービスに特集され、緊急事態宣言下の東京で撮影された同曲のMVも話題となる。
その他にもバンド初のライブ映像作品「DogMan Live」episode 1からepisode 3をYouTubeで公開する等、2020年代の日本の音楽シーンで異質とも言える独特な世界観を多角的な手法で展開し続けている。
RELEASE
INFORMATION
Outsider
2020.08.21(金)
配信限定
THE ALEXX
ファーストアルバム『VANTABLACK』以降も『Beatwave (Takkyu Ishino Remix)』や
9分47秒の大作『Something Great』のリリースで注目を集めてきたThe Alexx。
今作『Outsider』は6作目のシングルにして初の日本語詞による楽曲となった。このビートから伝わってくるのは、2000年以降のダンスシーンを生き抜いてきた彼らの原風景であり、終わりのない旅の途上に現れたいくつもの夜明け。走り続けたからこそ響かせることのできるストーリー、その背景まで描いた5分間のロード・トリップ。丁寧に作りこま れた緻密なサウンドと儚く浮遊感に満ちたボーカルは今作もリスナーの耳を心地よくダークなアレックスワールドに引き込んでゆく。