ーーでは、そのポップ感のあるレコードという本作の方向性はどのようにして固まってきたんですか?
このバンドには、2つの側面があるんだ。ポップからの影響と、パンク・ロックからの影響。俺たちが作っているのはそのコンビネーションで、その中を色々他の要素を加えながら自由に行き来したサウンドを作ってる。で、今回は、〈Wichita〉という長い間ずっといたレーベルを出てから初めてのレコードでもあったし、コンピレーションの『ペイオラ』を出した後だったし、新しいスタートということで、まず自分たちの基盤となる側面を見せたらいいんじゃないか、ということになったんだ。
ーークリブス史上最もヘヴィなアルバムだった前作から逆の方向にいきたい、という意図もあったのかな?と思ったのですが。
『イン・ザ・ベリー・オブ・ザ・ブレイズン・ブル』は確かにヘヴィでもあるけど、同時にすごく開放感のある作品でもある。ただヘヴィなだけじゃなくて、沢山の種類の曲やセクションがあるし、バラエティのあるアルバムなんだ。あのアルバムを作っていた時はすごくクリエイティヴだったし、プロセスをすごくエンジョイすることが出来た。でも今回のレコードでは、沢山の種類の具材を使って凝った料理を作るより、シンプルでわかりやすい、素材の引き立つ料理を作りたかったんだ。クリブスのベーシックな要素が表に出てくるようなレコードを作りたかった。だから、色々な要素を詰め込むよりも、歌詞とメロディといった基本的な要素フォーカスを置いた作品を作りたかったんだ。
ーーなるほど。
スタジオに入る前からなるべくサウンドをシンプルにしようと心がけた。レコードの殆どがライブ・レコーディングだし、期間は3週間。ライブ且つ短い期間だったから、今回のレコードにはあまりエクストラの要素は入っていない。とにかく必要なものだけを残したんだ。それはすごく良かったと思ってる。レコーディング期間が短かった分、“瞬間”をサウンドに捉えることが出来たからね。短い期間だとわかっていたから、スタジオに入る前のリハーサルもバッチリで、曲のことも熟知していた。そのおかげで、今回はサウンドがすごくダイレクトになってる。その瞬間のエナジーをみごとに捉えたサウンドをレコーディングすることが出来たんだ。新作のプロデューサーはリック・オケイセックなんだけど、彼も良い仕事をしてくれた。彼は、一番ふさわしいテイクを使う事に凝っていたからね。ファースト・テイクを使うこともあったし、4、5テイクのものを使うこともあったけど、彼はとにかく一番エキサイティングなテイクを探そうとしていた。パーフェクトである必要はなくて、エキサイティングということが大切だったんだ。
ーーそのリック・オケイセックですが、彼にプロデュースをやってもらうことになったきっかけは?
リックは理想のプロデューサーの一人だったから、彼と仕事したいっていうのは、俺たちの中に常にあったアイディアだったんだ。彼には素晴らしいポップのセンスがある。彼が手掛けるのはただのポップ・ミュージックではなくて、色々な音楽の視点からみられたポップ・ミュージックだからね。俺たちが好きな音楽も、他の色々な変わった要素から出来ているポップ・ミュージック。だから彼は適任だったんだよ。
ーー彼は本作にどんなサウンドをもたらしてくれたと思いますか?
まずはさっきも言ったように、一番エキサイティングなものを探し出すてっていうところが良かった。あと良かったのは、彼がすごく熱意のある人で、バンドのことを熟知していたこと。すごく愛が感じられたし、彼の意見には心から納得することが出来たんだ。それくらい彼を信用出来て、尊敬していたということ。彼がそれがベストテイクだと言えば、素直にそれに同意することが出来た。それに、彼は俺のヴォーカルをすごく良くしてくれたと思う。いつもだと、俺はパッションが全てだったから、パーフェクトではなくても、とにかくスピード感があって自分が気持ちよく歌えればいいと思っていた。でもリックは、ここの歌詞はディープだからこういう風に歌ったほうがいいとか、俺のヴォーカルを大分改善してくれたんだ。俺はヴォーカルのトレーニングを受けたことがあるわけではないけど、彼のお陰で今までで一番のヴォーカルが録れたと思ってる。すごく協力的だったし、良い仕事をしてくれたね。
ーーヴォーカルを改善するのは難しかったですか?
全然。彼は自分の意見をいいまくることは決してなくて、ミュージシャンの立場になって色々と考えてくれるプロデューサーだった。だから常に俺たちの背中を押してくれたし、すごくやりやすかったんだ。
ーーレコーディング自体は昨年秋にスタートしたそうですが、レコーディング自体の進め方、また、考え方は、たとえば前作と比べてどんな変化がありましたか?前作はデイヴ・フリッドマンとスティーヴ・アルビニとのセッションを2カ所で別に行ったそうですが。
このレコードはさっき話したように、すごく早く出来上がったんだ。前のアルバムは3つの違うスタジオを使ったし、全ての曲に沢山の種類のセクションがあったし、プロデューサーのデイヴ・フリッドマンが色んな音やキーボードを試したりっていう感じだった。前回はもっと革新的なレコードを作りたかったから、それが必要だったんだ。でも今回はシンプルだったからレコーディングはすごく早かった。ギターを重ねたりハーモニーを重ねたりはしたけど、レイヤーもあまりない。もっと瞬間的なレコーディングだったね。
ーーそのレコーディングにおいて何か決めたルールはありましたか?
今回特別に何かっていうのはない。バンドでいつも決めているのは、ライブでレコーディングするということ。基本的にクリブスにとって一番重要なのは、正直なサウンドであること。サウンドの裏で何かトリックを使ったり、隠したりはしないってことなんだ。ルールはそれだけ。
The Cribs – “Burning for No One”