00年代末にオーストラリアから登場し、映画『(500)日のサマー』にも採用された“スウィート・ディスポジション”を筆頭に各地でスマッシュ・ヒットを飛ばしたザ・テンパー・トラップ。かねてからサポートを務めていたジョセフ・グリーアが正式メンバーになって以降、13年にギターのロレンゾの脱退を経験し4人編成になった彼らが、通算3作目となる最新アルバム『シック・アズ・シーヴズ』をリリースしてまた日本にやってくる。
デビュー作『コンディションズ』でのタイトなバンド・サウンドから一転、前作『ザ・テンパー・トラップ』ではエレクトロニック・ミュージックの要素を大々的に導入し、新機軸を披露した彼ら。しかしバンドが制作したデモをもとに様々なコラボレイターと作業を進めた最新作『シック・アズ・シーヴズ』に詰まっているのは、新たな要素と初期の頃を思わせる雰囲気が同居した、スケールの大きな王道ギター・サウンドだ。
直前に迫った来日公演を前にして、ヴォーカル&ギターのダギー・マンダギと、キーボードのジョセフ・グリーアに、ライヴのことを想定して作られた『シック・アズ・シーヴズ』の制作背景を訊いた。
『シック・アズ・シーヴズ』ジャケット
Interview:THE TEMPER TRAP
(Dougy Mandagi[vo、gt]Joseph Greer[key])
――前作『テンパー・トラップ』のリリースから4年の間に様々なことがあったと思います。何が一番大変でしたか、また、それをどうやって乗り越えましたか。
ダギー・マンダギ(以下、ダギー) やっぱり、一番大きかったのはまたアルバムを作ることに対するプレッシャーをどう乗り越えるか、ということだったんじゃないかな。13年にギターのロレンゾが脱退したことも僕らにとっては大きな出来事だったけど、それはむしろバンドの結束を強めてくれた。そこから視野がクリアになって、自分たちのやりたいことがはっきりしたように思うんだ。だから、僕らがバンドとしてどんな作品を作るかということが一番大変だったと思うよ。
――大型フェスに出演したりと、素晴らしい経験も色々あったと思います。その中でも印象に残っていることを教えてください。
ダギー そうだね。一度メキシコでライヴをしたことがあったんだけど、あれはすごく感慨深い出来事だったよ。そもそも出演前、僕らはメキシコに自分たちのファンがいるなんてまったく想像もついていなかった。「誰も聴いてくれる人はいないんじゃないの?」と思っていて(笑)。でも、当日は何万人もの観客が僕らの楽曲で合唱してくれたんだ……。あれは本当に素晴らしい瞬間だったよ。そうやって色んな場所でライヴをして考えてきたことが、今回のアルバムに繋がった部分もあると思うしね。
――今回の最新作『シック・アズ・シーヴズ』では、多くのコラボレイターと一緒に楽曲を制作していますね。このアイディアはどんな風に出てきたものだったんでしょう?
ダギー 最初に行なったのはマレイ(フランク・オーシャンの作品など)との作業で、13年の8月にスタートしたんだ。彼は僕らの楽曲のファンでいてくれたみたいで、僕らももちろん、彼が手掛けてきた作品の大ファンだった。そういうこともあって、彼とは“サマーズ・オールモスト・ゴーン”を一緒に作ったんだ。これまで、僕らは基本的にメンバー間だけで作業をして楽曲を作ってきたわけだけど、今回は様々なスタジオで、色んな人と楽曲を制作することによって、「他の人がどんな風に曲を作っているか」ということを学ぶことができた。それが今回、僕らの作曲方法に新しいものをもたらしてくれたと思うんだ。
The Temper Trap – Summer’s Almost Gone
ジョセフ・グリーア(以下、ジョセフ) 作り方は、コラボレーションした相手によっていろいろだったよ。基本的に、まずはバンドで楽曲を用意して、それをダギーが共作者と一緒に詰めていくこともあれば、他のメンバーが加わることもあったんだ。
――中でもハイライトを挙げるなら?
ダギー やっぱり、マレイとの作業かな。彼はフランク・オーシャンの作品も手掛けていて、ヒップホップのルーツを持っている人だよね。そういうところが僕らのようなロック・バンドにどんな風に作用するのかを見るのはすごくいい経験だった。彼は“サマーズ・オールモスト・ゴーン”にユニークな音をもたらしてくれた。ほとんどの曲をプロデュースしてくれたダミアン・テイラー(ビョーク他)も本当に素晴らしかったよ。彼は「これどう?」っていう風に色んなことを試して、サウンドの幅を広げてくれるタイプの人なんだ。彼のアイディアで楽曲が変わった瞬間も結構あった。一方で、リッチ・クーパーと作業した“ロスト”と“フォール・トゥギャザー”のアプローチも新鮮だったな。彼はすごくシンプルなやり方を持った人。もちろん、パスカル・ガブリエルやベン・アレンとの作業も素晴らしかったよ。
The Temper Trap – Lost
――多くのコラボレイターと仕事をしたことで、逆に自分たち自身の個性が客観視できるような部分もあったと思いますか?
ダギー まぁ、基本的には僕らが最初に曲を全部用意していたから、もともとどの曲も僕らの個性に基づくものではあるんだけど。ただ、色んなコラボレイターと作業をしたことで、「僕らがもともとどういうバンドなのか」ということに意識が向いた部分はきっとあったと思う。
――実際、完成したサウンドは、エレクトロニック・ミュージックに接近した前作よりも1作目に近い雰囲気で、ギター・サウンドが戻ってきていますね。正確に言えば、1作目と2作目の雰囲気がうまく混ざっているような雰囲気です。
ダギー そう、まさにそれがやりたかったことだね。バンド・サウンドであることが重要だったんだ。
ジョセフ 前作はシンセをたくさん揃えたのもあって、新機軸をいろいろ試していったような感じだったんだ。それはすごく楽しい経験だった。でも、あの作品は僕らにとっては思い入れの深いものだったにもかかわらず、世の中の人々には期待していたほど受け入れられなかった作品でもあって……。
――確かに、たとえばあなたたちのライヴでの姿とは違うレコードだったかもしれません。
ダギー そうだね。僕らのライヴはかなりエネルギッシュだと思うし。たぶん、僕らはずっとそのエネルギーを作品にも閉じ込めたいと思ってきたんだよ。バンドの魅力が最も伝わるのはライヴの現場だと思っているから。でも、そのエネルギーって、レコードに反映させるのはすごく難しい。1枚目はそれがある程度できていたと思う。2枚目はスタジオでのプロダクションを工夫することは出来たけど、一方でライヴのエネルギーを表現するということからは離れてしまった部分もあった。だから、今回は「4人のミュージシャンが演奏しているような雰囲気」を、音からも感じてほしかったんだよ。ビッグなサウンドで、ライヴで観客のみんなと高揚感をシェアできるような音楽というか。それで結局、1枚目と2枚目のいいところが両方入ったような作品になったんだと思う。
The Temper Trap – Fall Together
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