高岩遼がともにジャズを学んだ学生時代の仲間と結成し、成り上がるためにロックンロールを選んだNEW SAMURAI ROCKNROLLバンド、ザ・スロットル。彼らが最新作『A』を完成させた。リズム&ブルースやロカビリーを筆頭にロックの古典に影響を受けたヴィンテージ感溢れる音を鳴らしていた過去2作に対して、新作ではロック・バンドとしての体裁を保ちつつも、ヒップホップ、ニュー・ウェイヴ、アニソン、スタジアム・ロックなど現代的な要素をブレンド。時計の針を一気に進めつつも一筋縄ではいかない、彼ら特有のユニークなサウンドを広げている。果たしてこの新作はどんな風に生まれたものだったのか? メンバー5人に訊いた。

Interview:ザ・スロットル

【インタビュー】高岩遼率いるザ・スロットル。ヒップホップ、アニソン、ニュー・ウェイヴ…最新作にして問題作?『A』を徹底解剖 thethrottle_qetic5-700x467

——新作『A』は大胆に音楽性が変わっていて本当に驚きました。これまで「ザ・スロットルはこんな音楽をやる人たちだ」と思っていたイメージは、バンドが持っている音楽性の一部でしかなかったんだな、という雰囲気で。

高岩遼(以下、高岩) (メンバーと顔を見合わせながら)ああ、嬉しいですね。

成田アリサ(以下、成田) うん、嬉しい。

——リリースしたばかりの今、どんな気持ちでいますか?

成田 前のアルバムを出したときは頻繁に路上ライブをやっていて、ファンの方と話す機会がかなり多かったんですよ。だから、当時は私たち自身がどんな風に捉えられているのかが分かりやすかった部分があって。でも、今は路上ライブもやっていないし、ライブもまだ2本しかないので、まだどんな評判なのかが分からない状態ですね。

熊田州吾(以下、熊田) だから「まずは出せた」というところで。自分たちとしては、後で話すことになると思いますけど、ギャグも交えたりしつつ、でも今スロットルがやるべき音楽に真剣に向き合うことができたので、いい作品ができたなと思っているところです。

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——ザ・スロットルはもともとジャズを学んでいた人たちが、成り上がるためにロックンロールをはじめたバンドで、「ロックンロールを客観的に見られる人たち」でもあると思います。そう考えると、今回のように変化したのも自然なことなのかもしれないですね。

高岩 そうですね。面白いのが、俺たちは生き方がロックンロールなバンドではないんですよ。むしろ、生き方はジャズでありたい。これはメンバーみんなに共通することだと思っていて。たとえば、ロックンロール・バンドの中には、ギターウルフさんのようにずっと変わることなくひとつのことを突き詰めていく美学もあれば、ずっと変わり続けていく美学もありますよね。これはどっちも勇気のいる選択だと思うんですけど、音楽の演奏方法のひとつとしてのジャズも、演奏を多角的に見ていく必要がある音楽で。

最初にスロットルをはじめるときは、「ジャズを学んだ自分たちが、憂歌団のようなブルース・バンドをやろう」というアイディアだったんですよ。それこそ、ここ(取材現場となったキネマ倶楽部)に初めて来たのは近藤房之助さんを観るためだったんで。おっしゃる通りで、俺らとしてはかなり幽体離脱してロックンロールを見ている感じだったんですよね。

熊田 僕らは全員ジャズの大学に通っていましたけど、ジャズはすごく練習が求められる音楽で。そういう音楽をやっている人間がロックのような3コードの音楽を見たときに、どこか小馬鹿にするような風潮があるんです。ただ、僕らはもともとそういう音楽にもリスペクトを感じていた人間で、ギターウルフさんもニートビーツさんもマックショウさんも、やっぱり凄いと思うんですよね。

「コード進行知ってるよ」とか「ここのスケールがこうで……」と言っているジャズ研の人間よりも、明らかに音楽的だと思う。だからこそ、僕らがスロットルでロックンロールをはじめたときは、あえてそういうところにどっぷり浸かってみようと思ったんです。

——ジャズを学んだからこそ、理論を越えて来るような音の魅力を突き詰めてみたい、と。

高岩 そうですね。州吾の言った通りだと思います。

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——とはいえ、そこから今回の方向性に至るまでには、色々な選択肢があったと思います。今回の『A』のようなサウンドは、どんなアイディアで出てきたものだったんでしょう?

高岩 さっきの話とも繋がることなんですけど、たとえば、リーゼントでテッズ(テディボーイ)っぽい感じでやっていたら「ロカビリーだね」と思われるし、革ジャンを着ていたら「ラモーンズ好きなの?」と思われてしまう。そういうものって僕らはファッキンな文化だと思っていて。

でも、俺らの場合は、路上でのライブをやりすぎたことで、もちろんいいこともたくさん経験しましたけど、ある意味では「そういうバンドだ」というパッケージができてしまった部分もあったんですよ。その結果、ザ・スロットルとしては、スタンダードなロックンロールしかやらない俺らがいて。もともとはそれを選択していたはずなのに、いつしかそれがアイデンティティだと勘違いされるようになってしまった。

——なるほど。

高岩 それが嫌だという話をしていたんですよ。それでレーベルとも話していく中で、「じゃあ、何のジャンルも関係なく、完全に裏切ることをしよう」という話になりました。今回メンバー・チェンジもあったんで、これが本当の名刺代わりというか、ようやく「0」から「1」に変わる瞬間がこのアルバムだ、という気持ちで作りはじめた形ですね。

【インタビュー】高岩遼率いるザ・スロットル。ヒップホップ、アニソン、ニュー・ウェイヴ…最新作にして問題作?『A』を徹底解剖 thethrottle_qetic2-700x467

——メンバーが変わったことで、編成としても出来る音楽が広がっていますよね。

熊田 確かにそうですね。今回の『A』のサウンドは、本来ならもっと早くやりたいと思っていたものだったのかもしれないです。イメージの定着が邪魔をした部分があったのかもしれないですけど、こういうことをやりたい気持ちはずっとあって、ロックンロールはあくまで「ひとつの手段」という考えだったので。そこに(菊池)藍と(飯笹)博貴が入ってきて、ようやくやりたいことが形にできるようになってきたのかもしれないです。

飯笹博貴(以下、飯笹) 僕らは僕らで、もともと路上でライブをしていたときのイメージを持っていたんで、たぶん世間の人と一緒で、ザ・スロットルはスタンダードなロックンロールをやるバンドだと思っていて。音色もピアノとヴィンテージ・オルガンの音があれば大丈夫かな、というイメージでした。だから、今回入ってからビックリしたんですよ(笑)。

熊田 (笑)。そういうイメージを持ってバンドに入ってきた博貴が、「30万ぐらいするけど、ハモンド(オルガン)買っていい?」と聞いたら、遼が「買えよ」って言ってて。

飯笹 でも、こんな音楽性になるなら買わなくてよかった(笑)。最初イメージしていたものとは全然違う音楽をやることになったんです。

菊池藍(以下、菊池) 僕の場合は、彼らと一緒に大学でジャズを学んでいて、そのかたわら路上でロックンロールをやっているという話を聞いて驚いて。それで冷やかしのつもりで観に行ったら、意外とロックじゃない要素も感じたし、とにかくパフォーマンスがすごくて、そこからファンになりました。その矢先に誘われたので、「ロックンロールをやるんだ!」と意気込んで加入したんですけど、いざ『A』の制作がはじまったら、「いや、何をやってもいいよ。テーマはあってないようなもんだから」と言われて……。最初は正直戸惑いました(笑)。

——リスナーだけでなく、最初はメンバーも驚いた、と(笑)。

菊池 でも、遼は何でもできる人で、音楽もそうだし、音楽以外のことも引き出しが本当にたくさんある。だから、大変ではありましたけど、充実した制作期間でしたね。

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——このメンバーでやってみて、これまでとはどんな違いを感じました?

高岩 確かに違いは感じました。バンドというのは結局、音楽が上手い/下手以前に、集まった人間と人間の凸と凹とが合わさった結果でしかないと思うんですよね。メンバーがガンッと集まったときにどんなグーができるか、ということが一番大事で。だから、前のメンバーの向後(寛隆)さんや(田上)良地さんのことはリスペクトしていますけど、逆にあのメンバーだったから今回の『A』のような作品にはならなかったんだと思います。

それからメンバーが変わって、スロットルの設計図自体が変わった。これは俺が舵を取ったわけでもなくて、もともといた3人と(『A』の制作期間まで活動を共にした)向後さんとの間でそういう話になったので、そう考えるとすごく面白いですね。その化学反応のようなものって。

熊田 プレイヤーとしての違いで言うと、藍は今回の“Horror”のような曲を持ってくるタイプなのに対して、前の良地さんはめちゃくちゃ硬派ですごく昭和な……「ザ・日本人」という感じの人でした。切腹の真似をさせたら右に出るものはいない。座右の銘が「LOVE IS 忍耐」ですから。「どんだけ日本人なんだよ!」っていう(笑)。