想像力で聴いてもらうものにしたかった

——今回の数少ないゲストの人たちは、どんな風に選んでいったんですか? 

sugar meさんはファーストの頃からずっと好きで聴いていたんですけど、この人って「英仏日の3か国語を使い分けられる」と書いてあるのに、日本語の歌って全然出てなかったじゃないですか? それが、去年“夜明けのうた”(岸洋子のカヴァー)を聴いて、「日本語の曲もやるんだ」と思ったのがオファーに繋がりました。YOUNG JUJUの場合は、同じ〈ワーナー〉所属なんで制作中にボツになったデモを聴かせてもらったら、そこで披露していたオートチューンを使ったラップがめちゃくちゃよくて。KANDYTOWNではやりにくいなら、こっちでやってもらったらいいんじゃないかな、と思ったんです。結果、ちゃんと打ち返してくれて、いい形で収録することができました。一緒にillicit tsuboiさんのスタジオに入って、俺はそのときも「いいやん」と思ったんですけど、本人的にしっくりこなかったみたいで、JUJUはもう一度tsuboiさんのスタジオに向かって録り直してくれたみたいで。すごく真摯にやってくれるんだな、と思ってイメージが変わりましたね。

tofubeats –“LONELY NIGHTS”

——また、これまでの作品は、「こういう音が流行っているからこの要素を入れよう」というものがはっきりとありましたよね。でも今回は、そういうことでもないんだな、というのが全編を聴かせてもらった最初の感想でした。

今回は、色々目配せはしているんですけど、そのままにはなっていないという感じですよね。それに、今回は前回みたいに「短期間でエイッ!」みたいな感じではなくて、外仕事をやりながら毎日2~3時間調整していった感じで。だから、マスタリングも一週間ぐらいかけて6往復ぐらい気長にできたし、取捨選択する時間がこれまでよりもたくさんあったんです。そういうこともあって、「アルバムを作る」ことが目的じゃなくて、「いいアルバムを作る」ことに意識がいったんだと思います。あとは、全編を聴いてもらうときに、パワーを積み重ねていくんじゃなくて、想像力で聴いてもらうものにしたかったというか。それが『FANTASY CLUB』というタイトルにも繋がると思うんですよ。1曲聴いただけでは、全体像が分からない。

——実際、曲順もかなり考えられていますね。

今回の場合、“CALLIN”や“OPEN YOUR HEAT”“FANTASY CLUB”みたいな曲はもともと流れで入れることを決めていて、その前に入れようと“LONELY NIGHTS”を作ったり、“WHAT YOU GOT”と“THIS CITY”を繋げるために“WYG(REPRISE)”を作っていったという感じです。最初から全体の流れがあって、その流れに当てて曲を作っていったということですね。“STOP”も、“WHAT YOU GOT”と“FANTASY CLUB”を繋ぐために作った曲だったりするんで。

——そういう意味でも重要なのは最初の“CHANT #1”と最後の“CHANT #2(FOR FANTASY CLUB)”だと思うんですが、この2曲はどんな風に考えていったんですか?

これまではゲン担ぎじゃないですけど、最初のトラックにはライブ・レコーディングで締め切りに一番近い日のライブの音源を入れていたんです。『First Album』のときは<ROCK IN JAPAN>での音だったし、『POSITIVE』のときは〈マルチネレコーズ〉の10周年イベントの音で。でも今回は自分のボーカルが増える作品になるとわかっていたので、フィールド・レコーディングした音を入れるのは最後にして、1曲目の“CHANT #1”では自分の声を積んで、「今回はほぼ自分の声でいきます」ということを最初に言おうと思ったんですよ。最初に「すいません、今回はこんな感じで行きます」って(笑)。

今のtofubeatsが思うポップ・ミュージックとは?『FANTASY CLUB』インタビュー interview_tofubeats_3-700x467

——そして最後の“CHANT #2(FOR FANTASY CLUB)”は、曲が終わったあとにフィールド・レコーディングの音が入っていて、よく聴くとクルマのドアがバタン! と閉まったあとに、船の汽笛が聴こえます。自分も神戸出身なので、そこで「神戸やん!」と(笑)。

今回は時間があったので、一週間ぐらい色んな音を録りに行く時間があったんですよ。それに、今回はガッと聴いてもらうと疲れるんじゃないかなと思ったんで、最後は開放感のある感じにしたくて。今回、アルバムをチェックするのによくクルマを使っていたんですけど、今って家でスピーカーで聴くのってちょっと難しかったりするじゃないですか。だから、大音量で聴いてもらうにはレンタカーやカーシェアリングで聴いてもらうのがいいんじゃないかな、と思って。クルマのドアの音はそれもあって入れることにしました。あとの音は自分が神戸や兵庫県の中で好きな場所でたくさん音を録ってコラージュすることで、ユートピアじゃないですけど……「(クルマのドアを)開けたら解散!(=現実に戻る)」みたいにしたかったんですよ。

——『FANTASY CLUB』だけに、ですね。

それで、自分が家の近所の公園でパンを食べたりしている音を録ったりして(笑)。僕は神戸の山側に住んでいますけど、神戸って山側でも汽笛が聞こえますよね。今回「そういうことって忘れてたな」と思い出したりもして。他にもそういうことをたくさん掘り起こしていきました。一緒に入っている教会の鐘の音は、うちの近くに教会があるんですけど、オールナイトのイベントに行って朝寝ると8時ぐらいに鐘の音がうるさくて起こされる、みたいなことがあって(笑)。そういうことを音を録ってみて改めて思い出したりしましたね。淡路島にも行きましたよ。あと、クルマの扉の音は、中にレコーダーを置いてたんで、「バンッ!」ってドアを閉める音が鳴ってますけど、それってクルマの中の音なんですよね。その後歩いていく足音が聞こえるのに、「実は外に出てねえじゃん」っていう(笑)。ドアを閉める音はクルマの中で、そこに外の音をコラージュしたんですよ。実は芸が細かい(笑)。

——なるほど(笑)。

今回は9曲目の“WYG(REPRISE)”でも、途中からマイクで録った音に入れ替えたりしました。僕の音楽はデジタルなものだけど、そうすることで空気感を入れたいと思ったんです。だから、1曲目“CHANT #1”の追っかけのコーラスも、1回テープを通した音源を使っていたりして。今回はそういう異物を入れることで、空気感を閉じ込めるということを意識していましたね。人に買ってもらうものではありますけど、音楽って自分にとっては日記のようなもので、自分のために残すものでもあって。だから、(家を建てた際に)定礎の箱に設計図を入れるような感じで、今ここに住んでいる自分をちゃんと残しておこうと思ったんです。僕がいつも、(自分が出演する)イベントの様子を撮影しているのも、結局はそういうことなんですよね。特に今回のアルバムは、人がどう思うかというよりも、自分が好きなものを大切にした作品なんで。まぁ、あとは単純に、「今はそういうのがオシャレやなぁ」と思ったというのもありますけど……(笑)。