様々な音楽性を取り込むフレキシブルな姿勢。現在のロックフェス・シーンに順応させたかのような、リズムを多様に展開させていく楽曲構成。そこはかとない一体感や共有感の保有。そして何よりも作品全体にみなぎる若々しさ……。
果たして、全く何の予備知識もなく今作を聴いた人は、これが東京スカパラダイスオーケストラ(以下、スカパラ)の最新アルバムだと気づくだろうか……? いや、気づくだろう。それは、従来の彼らとはまた違った側面を更に伺わせ、意外なフィーチャリングを含めた新機軸を多数擁しながらも、今作にも、そこはかとなく「スカパラならでは感」が溢れ、滲み出ているからだ。
今年もこの時期、スカパラからニューアルバムが届けられた。タイトルは『GLORIOUS』。まさに彼らのこれからの黄金期の幕開けを示しているかのような楽曲がズラリと並んだ1枚だ。
ここ最近傾倒しているラテン色を更に強めながらも、彼らのこれまでの作品中、最も若々しく、瑞々しさに満ちた今作。それを基に、全楽曲が完成した翌日にトランペットのNARGO、テナーサックスのGAMO、キーボードの沖祐市の3人に話を訊いた。
斬新なアプローチや意外なマッチングも含め、新要素がたっぷりながらも、結果、スカパラ然とした作品に仕上がった妙。その深意を探る!
Interview:東京スカパラダイスオーケストラ(NARGO、GAMO、沖祐市)
「東京スカの地盤確立の自負の下、“もっとラテン的な要素を取り入れても大丈夫”と確信できた」(NARGO)
——今年もこの時期、こうしてニューアルバムが届きましたが、例年通り、みなさん年末年始の多忙中での制作もあり、今回も音の到着がギリギリで(笑)。この取材までに間に合うのか?心配でした(笑)。
NARGO 毎回、ご迷惑をお掛けしてます(笑)。今回も、それこそ昨日の夜中まで作業をしてましたから。もう、出来立てのホヤホヤです。
——各人あれだけ多忙ながら、キチンと最後にはスケジュール通り仕上げてくる様には毎年驚かされます。
NARGO もう、これはみなさん(ファンも含め新作を楽しみにしている方々)との約束ですから。これでも年末の全国ツアーの合間合間を始め、全力で制作に取り組んだんですけどね……。間に峯田くんとのシングル“ちえのわ feat.峯田和伸”の制作も入ったり……。
——早速、作品内容に移りますが、やはり今作は予想通り、ラテンの要素が色濃いアルバムになりましたね。
NARGO そうですね。これまで以上にかなりラテンの入った作品になったかなと。その辺りは去年の9月、10月に中南米にライブで行ったことも大きく寄与していて。そこで得たエネルギーやムード、感じたカッコイイ部分を自分たちなりにサウンドに注入してみました。
——サルサ、サンバ、メント等の南米の音楽性を上手く採り入れ、みなさん特有の“東京スカ”とのブレンドには斬新さすらあります。
NARGO それらに関しては、「更にもっと踏み込んでみよう」との気概もありました。それも自分たちの中で、きちんとしたスカパラの地盤が確立しているとの自負があって出来たことで。「ここでもっと(ラテン的な要素を)取り入れても大丈夫だろう」と。
GAMO ラテンの音楽って、どれもパワーがありますからね。生半可に取り込むと逆に飲み込まれちゃう。それもあり、これまでなかなかチューニング出来なくて。
NARGO やはりこちらの音楽のプロフェッショナルたちにはかないませんからね。でも、実際に現地に行ってみて、色々なものを見て、感じて、それが変わったんです。ブラジルで物凄い演奏を見たり、メキシコで色々なことをこれまで感じてはきたんですが、今回は更にチリとコロンビア、アルゼンチンと、これまで行ったことのない土地にも行くことが出来て。それでよりそれらがリアルに血肉となり、「やはりこのジャンルをもっとやってみたい!」との気持ちに至ったんです。
GAMO ヨーロッパには以前からよく行ってましたが、メキシコ等は2011年頃から行き始めて。そこを皮切りに他の中南米でもライブをやったり、作品がリリースされ始めたりしていたんです。だけど当初は、向こうで流行ってる音楽の良さが全く分からなくて(笑)。行くうちに段々と分かってきたんですよね。
沖 サルサやラテンの音楽って伝統があるし、そこに入るなら、どうしても一からやりたいって気持ちもあって。だけど、実際に現地でライブを何度かやってみて、向こうの方々に受け入れられたり、喜んでいただいている感触が凄くあったんです。それには自分たちとしても驚きでしたね。
——その要因はなんだったんでしょう?
沖 一概には言えませんが、音楽以外にも日本のアニメを始め、それらを通し日本人に凄くシンパシーを持ってもらえているからかも。それから、ネット等で僕たちの音楽をダイレクトに楽しんでもらっているのも関係しているのかなって。向こうで色々なフェスやイベントに出させてもらったんですが、その度に今のラテンの盛り上がりの凄さを実感するんですよね。
——それは例えば?
沖 いわゆる「ラテンオルタナティブ」という、オーセンティックなものとはまた違った、ロックやジャズ、ヒップホップやラップ等々他ジャンルとのミクスチャーやブレンドされた音楽なんですが、そのアーティストたちの活躍も目立つんです。それが、けっこうラテンという敷居が高いイメージを壊してくれて。逆にとっつきやすく感じさせてくれましたね。
——それは、どういったところから表れる親しみやすさなんでしょうか?
沖 ひとつはリズムの構築の仕方だと僕は考えていて。リズムの形態がパッパッパッと目まぐるしくチェンジしていくのも特徴的なんですよね。僕らの今作も、その辺りも採り入れられてます。
GAMO 特に去年の中南米ツアーでは、他のアーティストのライヴを観る機会を多く得られて。観るたびに、“すごい!”ってなりましたから。これらをなんとか自分たちのフィルターを通して、何かやれたら面白いんじゃないか?と。それが今作に結びついてるんです。
——おっしゃる通り、そのまんまではないですもんね。いわゆる“東京スカ”とのブレンドを凄く感じます。
NARGO そのさじ加減はありますが、やはり僕らの中にスカは基盤としてなくてはならないものですから。いかにその範疇で遊べるか、これまでと違うことが出来るか、が僕らの音楽の醍醐味でもあるし。
「意外なアイデアを実際に試して、“いいね”“面白いじゃん”ってなることも多々あった」(GAMO)
——それから今作では、単に東京スカにラテンを融合させるだけでなく、例えば、それらに更にマカロニウェスタン性を加えたり等、その他にも様々な音楽性をそこにブレンドさせているところも耳を惹きました。
沖 今回はラテンの人たちがやっているメタル風の曲“The Battle of Tokyo”もありますからね。それも向こうのCDでメタルを取り入れたものを聴いて、これ面白いなって取り組んだものだし。
GAMO あの曲はラジオでかかっててタクシーの運転手さんが盛り上がってるイメージで作ったからね(笑)。
——あの曲のハードエッジさには驚かされました。
GAMO なんかあったんですよね、血がより騒ぐ感じだったりとか。ラテンの人たちの気質的にある、「いけー!」みたいな。ラテンって実はスカとも相性がいいんですよ。
——スカもラテンも根底には、どこか哀愁的なメロディを宿しているからでしょうかね?
沖 そうそう。哀愁のメロディなんだけど、ラテンの方は、その中でも明るいのが特徴かも。
NARGO お腹いっぱいでも更にてんこ盛りにしちゃうところがラテン音楽ですから(笑)。
——そのトゥーマッチさも、そう感じさせない粋なアレンジに仕上げちゃうのも、スカパラの凄さかなと。
NARGO 毎度、その部分が制作では面白いんです。何でもありなんだけど、キチンとどの曲でも自分たちらしさやアイデンティティ、オリジナリティを出したり、残したりしたい。それがスカパラなんです。一応、思いついたアイデアは全部試さないと気が済まないメンバーばかりだし。
GAMO それもあり、制作がいつもギリギリになっちゃう(笑)。だけど、その意外なアイデアを実際に試してみると、「いいね」「面白いじゃん」ってなることも多々ありますからね。
——今回も一般的にはオーソドックスに響くところも、スカパラがやることでオリジナルに変貌する楽曲も多々ありました。中でも驚いたのは、“Glorious”で。あれは、いわゆる一般的には今や懐かしさすら感じる、スカコア・タイプの曲調じゃないですか。
NARGO この曲が今作中、最も若いかも。でも、こういった曲こそ、今このスカパラがやるから意味のあることで。今の時代、逆に新鮮でしょ?
——新鮮でした。
NARGO こういったタイプの音楽は、これまではあえて手を出すのをやめていたんです。でも逆に、いま演ったら面白いだろうって。今の時代、こういったサウンド、あまり聴かなくなったじゃないですか。
——ですね。でも今の時代に演ることで逆に、現代ならではの共有感や一体感に結びつかせた部分が興味深かったです。
沖 自然でしたよ。スタジオでも凄く楽しかったし。おかげさまでこの曲はスムーズに録れました。