あらゆる多様性があふれ、人と人が支えあう社会を目指すパフォーミングアーツの祭典<True Colors Festival – 超ダイバーシティ芸術祭 –>(主催:日本財団)。2019年9月から約1年間にわたってさまざまなイベントやプログラムを予定している<True Colors Festival>より、10月22日(火・祝)代々木公園野外ステージイベント広場にて音楽イベント<True Colors BEATS ~Uncountable Beats Festival~>を実施。
このイベントでは、アルゼンチンを代表する音楽家サンティアゴ・バスケス(Santiago Vazquez)がディレクターを努め、同じくアルゼンチンより歌姫フアナ・モリーナ(Juana Molina)も来日。国内からもYAKUSHIMA TREASURE(水曜日のカンパネラ×オオルタイチ)、大友良英、xiangyu(シャンユー)など豪華ラインナップが出演予定だ。
今回、YAKUSHIMA TREASUREとして参加が決まっている水曜日のカンパネラのコムアイとオオルタイチのお二人にインタビューを実施。8月に恵比寿LIQUIDROOMにて単独公演を成功させたYAKUSHIMA TREASUREだが、その実験的かつ独創的な世界観は唯一無二。ライブのたびに演出が変わるコンセプトや、YAKUSHIMA TREASUREのプロジェクトにこめる想い、<BEATS>への出演に向けて、そして<True Colors Festival>のキーワードでもある“ありのまま”、“多様性”についても話を聞いてみた。
Interview:YAKUSHIMA TREASURE
──今回、YAKUSHIMA TREASUREとして<True Colors BEATS>へ参加されますが、このユニットの結成のきっかけは屋久島でフィールドレコーディングを行い、作品を作るというプロジェクトですよね。先日も、リキッドルームで単独公演をされていましたが、そこでは“土”と“苔”を生けるパフォーマンスがあったとか……。
コムアイ そうなんです。リキッドルームの単独ライブでは、実際に私たちが屋久島で聞いた話を演出のベースにしています。屋久島は近くの火山の噴火の影響を受けていて、燃えてなくなった焼け野原に少しずつ植物が生えてくるというイメージです。その構想を空間演出をしていただいた華道家の上野雄次さんに伝えたところ、ステージに土を盛ってその上に苔を生けるという、ステージに屋久島をつくるような演出になりました。
ライブ自体は私と(オオル)タイチさんのセッションで、このライブ用に作った曲もありましたが、基本はストーリーを決めずにその場で使いたい音や、想いを組み立ててセッションをする感じでした。なので、リハーサルと本番では、私とタイチさんの出す音や揃うタイミングも違いましたね。
──ほとんどインプロヴィゼーションに近いセッションですよね。ほんとに屋久島の変容し続ける自然を想起させますね。屋久島でつくられた映像作品『Re:SET』の構想もインプロ的な発想で作っていったものですか?
オオルタイチ 事前に考えたかというと、そこまで狙いはなかったんです。限られた時間のなか、屋久島で出会った“音”に関するものを録音していきましたね。
コムアイ 屋久島のことをほとんど知らないで行ったので、コーディネーターさんが連れていってくれた海や山や神社など行った先で、自分たちが金属探知機になったようなイメージで“音”を探していました。目で気になったものなどを、自由にフィールドレコーディングしましたね。
Official Trailer | Re:SET feat. Wednesday Campanella’s KOM_I
EP 1 コムアイの原点 | Re:SET
──フィールドレコーディングを通して、YAKUSHIMA TREASUREの伝えたいことが固まっていった?
オオルタイチ 屋久島でのレコーディング中、イメージを固める発想は全然考えられなくて、とにかく好きなように動いてレコーディングに集中していましたね。何も考えずにやってみて、こんなふうに成り立つものが作れるんだって改めて気付かされました。もちろん規定はあるけれど、実験しながら作っていけたのがすごく楽しかったですね。
コムアイ そうだね。屋久島のことをわからず始めたけど、出来上がったものは間違いなく屋久島に影響を受けている……。屋久島は水の島で、土が深いわけではないんです。とにかく雨がたくさん降る島で、斜面を雨が流れて、苔が生えて、シダが生えて、木が生えてできた島なんです。楽曲にも水の音が多用されています。
あとは中間集落っていうところがあって、そこに集まるおばあちゃんたちがいるんです。秋の名月に綱引きをやる集落で、綱引きのときにおばあちゃんたちが掛け声のような合いの手をいれるんです。それがすごく可愛くて、実際に曲のなかにもおばあちゃんたちの合いの手の声を入れています。YAKUSHIMA TREASUREで作った作品は、屋久島の音であり、人の魂が色々なところに飛んでいって人の生と死になる、次々と生まれ変わって色んな生き物になっていく……そういう感覚の音源になっていると思います。
──YAKUSHIMA TREASUREからみなさんの感じたいろいろな屋久島が聴き取れるわけですね。
コムアイ この音源を好きになったから、屋久島に必ず行かなきゃ、というものでもなくて。作品の中からすでに何かを発していると思いますし、むしろ知らず知らずのうちに耳をすませるってこともあるんだと思います。
あとは行ったことのない場所やすでに亡くなっている人の作品に対して、それを観たり読んだり、イメージをすることで、そこから発しているものを受けとることができると思うんです。ミュージックビデオからもそれを感じられるんじゃないかな。
水曜日のカンパネラ『屋久の日月節』 | Re:SET EP 7
──このプロジェクトはお2人にとってすごく大きなインスピレーションとなっているように思えますね。ライブでもそれを感じることができそうです。
オオルタイチ このプロジェクトの始めに「歌の原点に戻る」ってことをテーマにしたいと水曜日のカンパネラのディレクター福永さんから聞きました。僕にとっても同じテーマはあったんです。自然の中で声を出すということ、これは以前から考えていたことだったので、まさにそのタイミングが来たなと思いました。でも、実際やってみたら自分が想像していたことと違う体験が多くて。何度もやっていくなかで、「歌の原点」というものを感じられてきていると思います。その感覚はいまでもライブをしながら続けられていますね。
コムアイ 確かに「歌の原点」ですね。散歩していて鼻歌をうたう時とか、小躍りしちゃう時とか。誰かに聴かせたり見せたりするのではなくて自然に出てしまうものに憧れます。ふっと湧きでる瞬間。自分がこれまでずっと、出来あがったポップソングを多く歌ってきたからこそ思うことかもしれないですが、YAKUSHIMA TRASUREは本当に即興が多いんです。ふっと湧いてきたら、それをそのまま出す。
──ここから<True Colors BEATS>についてのお話を聞かせてください。このイベントの主体となっているプロジェクト<True Colors Festival>ですが、“ありのまま”・“多様性”という言葉がキーワードとなっています。お二人にとって“ありのまま”を体現するうえで大切と思うことはなんでしょうか?
オオルタイチ “ありのまま”ですか……深く考えたことないかもしれないですね。真っ白の自分というより、“ありのまま”に出来ないことも自分のなかであると思うので、それも含めて自分自身を受けいれるってことなのかなと。
コムアイ それいいですね。
オオルタイチ やっぱり屋久島のプロジェクトを通して、それを感じたかな。自分でやってやるぞという気持ちに少し距離をおいて、流れていくといいますか。起きていることを受け入れてやっていくやり方もあるんだと思いました。それまでは自分が進めていると思わないと進んでいかないような意識があったんですけど、それだけではないんだってことに気付きましたね。
──コムアイさんにとっての“ありのまま”とは?
コムアイ ライブをやっていて一番難しいところが、自分の心をおっぴろげにすることだと思うんです。ライブ中に、無意識に色んなことを気にして周りに合わせようとしているときがありますが、自分そのものを受け入れられていない、と感じているんじゃないかと。その状態から一皮むけて自分を存在させることは簡単なことじゃないけれども、私としてはライブ中にその様を見てもらうっていう、修行のような感覚でいますね。
──ライブを通して“ありのまま”の自分を知る?
コムアイ 即興のライブをやってみて感じることがあります。今年の8月に<DOMMUNE SETOUCHI(瀬戸内国際芸術祭内にある宇川直宏氏のサテライトスタジオ作品)>に出演したんですが、1日目は商店街のど真ん中、2日目はサテライトスタジオで即興のライブをやったんです。「即興ってどうしたら良いかな」と思ったときに、一緒に出演したアーティストの藤田陽介さんに「吐くだけの感覚だとできなくなるよね」って言われて。これは、息を吸うことと吐くことがキレイに繋がっていると自然に呼吸ができるのと一緒かなと思ったんです。ライブでいうと、お客さんに「聴いて」って気持ちが強くなると、必死になりすぎちゃう。だから、耳もしっかり開いて、空気中からお客さんが感じていることをスーッと吸って、そのまま吐くというか。その瞬間のインプットとアウトプットが重要なんだって思ったんです。伝えようとするというより「飛ばす」っていう感覚なんですが、呼吸に色が乗るように、音がだしたい。それは、自分がその周りの環境すべてに受け入れられていて、自分はそのままでいいんだよって言われているように思える感覚で作ることができる音を目指しています。
オオルタイチ うん、それは思うよね。多くを考えるより耳で聞くだけで自然な音が出てくる。
コムアイ その姿だけで、音楽になったりしたら究極ですよね。
──<True Colors Festival>にあるもうひとつのキーワード“多様性”についてはどうですか?“多様性”を受けいれる、その広がりや可能性についてお二人の考えを聞かせてください。
オオルタイチ 日常において、ちょっとドキッとするような人たちはたくさんいると思います。自分が住んでいる周りでも色々な人たちがいる。日本の社会での広がりははっきりわからないですが、色々な人たちがいる環境自体を楽しめたらいいなといつも思っていますね。
コムアイ 自分が関東育ちなのもあって、ユーモアが足りないなと思います。例えば、変だなと思うことを、人にちゃんと突っ込むと面白くなる。東京にいると「これはないな」と思ったら、サーっと引いちゃうことが多いから。それが切ないなと思いますね。
オオルタイチ でも突っ込むこともできないことってありますよね。生活の中で起こると笑いにできないことも多いので、自分がいる生活の周りに対してもっと目を凝らした方がいいんだろうなと思いますね。それをどう面白くしていくか。
社会でも、1つの集落だったとしても、一定の枠組みの中で暮らしてはいるけれど、わりと独自のルールの中で動いている気がします。それを垣間見るときにドキッとする自分もいるんです。独自性というか、そういうものをもっと歓迎できるようになれると良いかなと思います。それができるところが音楽の場でもあるのかもしれない。
コムアイ 人のことを、自分が知っている面と人から聞いた面とで重ね合わせて、理解できるときもあれば、乖離するときもあったりしますよね。結構、人間は揺らいでいるものだと私は思うんです。こうして話をしているなかで自分も“TRUE COLORS”の“TRUE”って言葉を本当に理解しているかピンとこない部分がある。色自体が揺らいでいるもので、日々違う。寝て起きたら気持ちが変わったりするし、考えていることを忘れることもありますよね。逆に、確固たるものがあるって思い込むことが、危ないことなのかなと思いますね。
──なるほど。人それぞれカラー(色)があることが大事で、1色だと思っていることが正しくないときもありますよね。
コムアイ YAKUSHIMA TREASUREをやっていて、「これとこれは別物」っていう考えよりは、全部一緒だって考えでやっているような気がします。生き物の種別にしても音楽のジャンルにしても。だから、いろいろな色があったとしても「カラーが違う」ってことを先に意識して何かを始めること自体が、“多様性”を受けいれることと遠い考えなのかなと思います。
障害や性別がどうこうってことを先に意識するのではなく、例えば、音楽が先にジャンル分けされているわけでないのと一緒で。色んな人の違いが、なんとなく渦になっているということが良いなって思います。YAKUSHIMA TREASURE は、違いを気にしないことであって、全部一緒だという考えが前提にあるので、もしかしたら“多様性”に対して暴力的な考えなのかもしれないです。でも、“多様性”というものに対して囚われすぎないでというか、そう生きていけたらいいなって。
オオルタイチ なるほど、確かに。
コムアイ 普通に接することが重要だと思うんです。違いを決定せずに、それが難しくて、ついつい相手を決めつけてしまいますが。
──最後に<True Colors BEATS>に向けて、どんなパフォーマンスになりますか? 当日ライブにくるお客さんに向けてメッセージをお願いします!
オオルタイチ すごく昔ですが、サンティアゴさんが来日したときに共演したことがあるんです。その時は、サンティアゴさんがバナナの葉を持ってきていて、ライブ中にそれを使っていました。実験的なことをされている方なので、サンティアゴさんのライブはすごく楽しみですね。
コムアイ YAKUSHIMA TREASUREのライブ、頑張ります! いまは色々と試していて、おそらく直前までどの曲をやるか考えると思いますし、気になっていることをライブに向けてやってみたり。衣装や美術もその時々で変えているので、まだ決まってないですが楽しみにして欲しいです。あとはちゃんと本番、その場で受けたものをライブのなかできれいに転化できるようにしたいです。
Photo by 横山マサト
Interview by Kamaya Norihiko
Edit by Kenji Takeda
EVENT INFORMATION
True Colors BEATS ~Uncountable Beats Festival~
2019.10.22(火・祝)
マーケット:12:00〜18:00
ライブ:14:00〜18:00
代々木公園野外ステージ・イベント広場
▼UPDATE
※明日10月22日(火・祝)代々木公園野外ステージ・イベント広場にて開催を予定しておりました『True Colors BEATS』は、台風20号の接近に伴う大雨の影響により、安全な状況での開催準備が難しいため、残念ながら中止となりました。
これに伴い、日本財団ビル8Fにてライブパフォーマンスの公開撮影および動画配信が行われます(飲食物も含めたマーケットおよびワークショップの実施は一部を除いて中止となります)。ライブのタイムスケジュールは当初の告知通りとなります。
日本財団ビル8F(〒107−8404 東京都港区赤坂1丁目2番2号)
観覧無料、申し込み不要
LINE UP:
イベント・ディレクター サンティアゴ・バスケス
ゲスト・アーティスト(ワークショップ参加者とともにワークショップ、フェスティバルに参加)
ermhoi(エルムホイ)、xiangyu(シャンユー)、岩崎なおみ、大友良英、角銅真実、勝井祐二、コムアイ(水曜日のカンパネラ)、高良久美子、芳垣安洋、フアナ・モリーナ、ミロ・モージャ
ゲストバンド:
YAKUSHIMA TREASURE(水曜日のカンパネラ×オオルタイチ)、Monaural mini plug(モノラルミニプラク)
ゲストDJ:岸野雄一
ゆずりあいエリアあり(車椅子をご利用の方、体の不自由な方、聴覚障害のある方、視覚障害のある方、補助犬を利用している方、小さなお子さまをお連れの方などのエリア)・インフォメーションでの手話通訳あり・筆談ボードあり・多目的トイレあり・有料駐車場あり・会場案内スタッフあり
マーケット
ちきゅうすくい、アーティストによる似顔絵コーナー(堀広道、しまおまほ、霊界似顔絵師境みなと、後藤友香、BZ Joint)、Gemarris Jewelry、ZAPOTECOほか
※雨天決行、荒天中止
ワークショップへ応募はこちら<True Colors BEATS>の詳細はこちら<True Colors Festival>特設サイト
Beat Compañero/波動の交わり
2019.10.23(水)
OPEN 18:30/START 19:30
渋谷WWW X
ADV:立見 ¥5,000/指定席 ¥5,800(1ドリンク別)
DOOR:立見 ¥6,000/指定席 ¥6,800(1ドリンク別)
LINEUP:
YAKUSHIMA TREASURE
サンティアゴ・バスケス
フアナ・モリーナ
ミロ・モージャ
TICKET
主催:株式会社つばさプラス
制作:SALMONSKY
後援:TRUE COLORS FESTIVAL
協賛・協力:QETIC
お問い合わせ:WWW X 03-5458-7688
YAKUSHIMA TREASURE(水曜日のカンパネラ × オオルタイチ)
2019年4月にYouTube Originalsで発表された、水曜日のカンパネラと屋久島のコラボレーションを試みる作品 Re:SET。
この作品を通し一枚のEP「YAKUSHIMA TREASURE」が誕生した。
島のカエルの鼓動や木々をうつ雨、岸壁の風、波の音に耳を澄まし、村のおばあちゃんたちとうたい、あの手この手で採集された音をもとに様々な曲が制作された。
屋久島の自然を壊滅させてしまった縄文時代の鬼界カルデラ噴火を題材にした「屋久の日月節」をはじめ、水曜日のカンパネラとオオルタイチが屋久島と取っ組み合い、紆余曲折を経て生み出したタカラのような曲たちをライブセットで披露する。
コムアイ
アーティスト。1992年生まれ、神奈川育ち。ホームパーティで勧誘を受け歌い始める。「水曜日のカンパネラ」のボーカルとして、国内だけでなく世界中のフェスに出演、ツアーを廻る。その土地や人々と呼応して創り上げるライブパフォーマンスは必見。
好きな音楽は民族音楽とテクノ。好きな食べ物は南インド料理と果物味のガム。
音楽活動の他にも、モデルや役者など様々なジャンルで活躍。2019年4月3日、屋久島とのコラボレーションをもとにプロデューサーにオオルタイチを迎えて制作した新EP「YAKUSHIMA TREASURE」をリリース。同名のプロジェクト「YAKUSHIMA TREASURE」として各地でライブやフェスに出演中。
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オオルタイチ
1999年より活動を開始。『漂流する内的民俗』をキーワードに電子音と非言語の歌が融合した音楽を展開。The Residents、Puzzle Punks、Aphex Twin等の音楽に影響を受けながら、当初は即興演奏を軸に楽曲制作を行っていたが、90’ダンスホールレゲエとの出会いによりトラック制作を本格的に開始。かねてより衝動的な即興表現として用いられていた声の要素はパトワ語の響きに触発され、さらに歌のようなものへと変化を遂げ、現在のスタイルが形作られた。ソロ名義以外にバンド・ウリチパン郡やYTAMOとのユニットゆうきなどでも活動。近年では水曜日のカンパネラへの楽曲提供や、舞台音楽の制作なども手がけている。
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RELEASE INFORMATION
『YAKUSHIMA TREASURE』
水曜日のカンパネラ&オオルタイチ
M1. 地下の祭儀
M2. 島巡り
M3. 殯舟
M4. 東
M5. 海に消えたあなた
M6. 屋久の日月節