い嗅覚と審美眼で、次々と個性豊かなアーティスト/バンドのリリースを仕掛けている、今もっとも信頼できる東京発のインディペンデント・レーベル<タグボート・レコーズ>。先日の特集記事でも紹介したように、去る8月17日には注目株の海外アーティスト3組(アンナ・アッシュ、ディオン、ドリームス)による最新作3タイトルを同時リリースするなど、その快進撃は留まることを知らない。

まだまだ若く謎の多いレーベルではあるが、Webサイトのアーティスト・ラインナップを見ればわかるように、そのこだわりと熱意は半端ではない。自ら海外現地のシーンに赴くフットワークの軽さと、SNSなどのネットワークを駆使した膨大な情報力は、世界中のどんな有名レーベルと比べても遜色ないだろう。この度Qeticは、おそらく今後のインディーズ・シーン、および日本の音楽業界におけるキーパーソンとなるであろう<タグボート・レコーズ>の代表、小山田浩さんにインタビューを試みた。奇しくも代表、ライター、編集者の3名が20代という共通点もあってか、話題はカジュアルなものからシリアスなものまで様々。以下のインタビューで<タグボート・レコーズ>に興味を持ってくれた読者は、ぜひ所属アーティストたちの音源もチェックされたし。

Interview : Hiroshi Oyamada(Tugboat Recordsレーベル代表)

まず純粋に、彼らの「ファン」だからリリースしたい

――まず小山田さんの経歴と、何がきっかけで自ら音楽レーベルを立ち上げるに至ったのかを教えてください。

大学を卒業した時のひとつの選択肢として、やはり「音楽業界」というのは早くから考えていました。もちろん一般的な企業への就職の道もあったんですけど、日本で洋楽のインディペンデントを扱っているところで勉強したいなと思っていたら、<P・ヴァイン>がアルバイトを募集していたんですね。それで応募してみたら受かったので、今思えばそこがすべての入口だったのかもしれません。

――なるほど、最近になって組んだというよりは、ずっと<P・ヴァイン>で働いていたということですね。今現在、<タグボート・レコーズ>は何名ぐらいで運営されているのですか?

普段はほとんどワンマン体制なんですけど、来日イベントの時なんかにはどうしても人手が必要になってしまうので、レギュラーで関わっているのは3人ぐらいですね。常に試行錯誤しながらやってます。

――「タグボート」という名前の由来を聞かせてください。僕は広告の勉強をしていたので同名の代理店が先に思い浮かんでしまうのですが、「引船(ひきふね)」という意味がありますね。その名の通り、まだ無名なアーティストのデビューを後押しする存在になりたかったのですか?

と言ってしまいたいとこなんですが、それは後付けですね(笑)。正直、あんまりレーベル名というか名称というものにこだわりは無くて、信頼の置ける人におまかせできれば良かったんです。当初は単純に「ボート」とかが候補にあったんですけど、すでに同名のバンドがいますからね…。それで紆余曲折を経て<タグボート>になったんですが、僕の大好きなギャラクシー500に“Tugboat”という楽曲があることもあって、すごくしっくり来ました。もちろん広告会社さんのことは知っていましたけど、「レコーズ」と付けることによってひと目で音楽レーベルだとわかってもらえるので、世間にしっかり浸透するまではこの名前でやっていければと。

――まだラインナップは20組に満たないですけど、音楽性も国籍も見事にバラバラで面白いですよね。どのようにして彼らを発見し、日本展開にこぎつけているのですか?

まず純粋に、彼らの「ファン」だからリリースしたという点がありますね。たしかに音楽性とかはバラバラかもしれないですけど、実際に並べてみると統一性はある。それがなぜか? っていうのはちょっと説明がしにくいんですけどね…。僕もすべてのアーティストを見られているわけではないんですが、「ライヴが上手い」というのは前提条件かもしれません。あとは、ちょっとカラフルな雰囲気があるものを無意識に選んでいるのかも。「艶やかな音楽」とでも言うんですかね。

――ドリームスなんかはアートワークからしてカラフルですもんね(笑)。今後は国内のアーティストやバンドと契約する予定もあるのでしょうか?

もちろん興味はあります。もうちょっと時間がかかるとは思いますけど。

ドリームス『フォガットゥン・ソウツ』

ディオン『エルピー』

アンナ・アッシュ『ディーズ・ホリー・デイズ』

まずは興味を持ってもらわないと始まらないですから。

――日本では欧米ほど「インディペンデント・レーベル」って根付いていなかった気もするんですよ。でも最近は、<4AD>のイベントも大盛況だった<コントラリード>や、mooolsでお馴染みの<7e.p.>みたいに、ディストリビューションから来日公演まで両立させているインディーズ・レーベルが着々と音楽ファンの支持を集めています。やはり彼らのような先輩からインスパイアされることは多いですか?

そうですね。<コントラリード>さんってWebサイトの構築からしてカッコいいし、招聘しているアーティストもギャング・ギャング・ダンスとか、ベイルートとか、とにかく洗練されているじゃないですか。そういう意味でも刺激的ですし、個人的にもよくライヴに足を運んでいるので勉強させてもらっています(笑)。

――では、国内外問わず小山田さんが理想としているレーベルってあります?

やっぱり<DFA>や<4AD>は素晴らしいですよね。あと、最近面白いのは<100% Silk>、<TRI▼ANGLE>とか。10年後はどうなってるか読めない部分もありますけど。

――話は変わりますが、<タグボート>が紹介しているアーティストって、みんなアー写とかアルバムのアートワークにも強いこだわりを持っているであろう人たちが多いですよね。これはたまたま?

それもたまたまだと思います。言い方が悪いかもしれないですけど、けっこう気難しいアーティストが多いですね…(苦笑)。というか、みんな強い「こだわり」があるんで。

――簡単には自分の意志を曲げない感じ?

ただ、それでいいじゃんと思っていますね。日本で紹介する時のアーティスト写真なんかは、僕のほうで意識的にコントロールさせてもらってる部分もあります。まずは興味を持ってもらわないと始まらないですから。

――ディオンなんて、相当な変わり者でしょうね。

そうですね(笑)。ルックスといい、サウンドといい、その通りだと思います。ただ、彼のツイッターなんかを見てみると、日本でアルバムがリリースされることをすごく喜んでくれているようですね。英文をそのまま翻訳ソフトで日本語にしたような文章で、「日本で買えます!」みたいな内容をツイートしてたり…。けっこう面白い人なのかもしれませんね。

――去年のBaths(バス)の来日イベントで<タグボート>の存在を知ったリスナーも多いと思います。実際、あのイベントを振り返ってみてどんな経験でしたか?

彼はこれまで2回日本に来ているんですけど、実は一番最初に来日する予定だった時、ドクターストップで急遽キャンセルになってしまったんですよ。我々にとってもはじめて招聘する来日イベントでしたし、押さえたライヴハウスのリスケであったり、チケットの払い戻しであったり、それはもうドタバタで…。でも、(公演会場だった)新代田<FEVER>の方が「そういうことならしょうがないですよ」と言ってくれて、色々な面で配慮してくれたんです。すごくありがたかったですね。

――次に来日を計画しているアーティストがあれば教えていただけますか?

実はレーベル設立時のコンセプトとして、リリースだけではなく「来日」までを1つのセットで考えていた部分があるんです。ただCDを出すだけでは、アーティストの本当の魅力が伝わらないですしね。とはいえ予算的にも、アヴァ・ルナとか大所帯のバンドは難しくはなってしまうんですが…。バスの時は体調面の懸念もあって<アンチコン>のレーベル・マネージャーのShaun Koplowが帯同しましたけど、ソロでやれるアーティストは呼べる可能性が高いことは間違いないです。あとはオーストラリアなどのツアーが決まったタイミングで、連携して日本にも呼べると良いですね。

★インタビューまだまだ続く!
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