僕が危惧していることは、いわゆる「本当のアーティスト」がいなくなっちゃうこと

――国内・海外を問わず、情報収集に役立っているWeb媒体ってありますか?

ウチのファン層や扱っているジャンルからいっても、やはり『ピッチフォーク』はマストですね。あとはちょっと細かいんですが、LAのローカル・シーンが盛り上がっている時は『ロサンゼルス・タイムズ』Web版のコラムでミュージック・カルチャー欄とかをチェックして、そこで地元のライヴ・レポートなんかが載っていると参考にしています。

――バスのインタビューも掲載された『PRIVATE DUB』の更新終了はとても残念でしたね……。日本のWebマガジンって紙媒体と比べて軽く見られがちというか、まだまだ広告出稿も少ないし、プレスリリースのコピペに過ぎなかったり、ボランティア前提のメディアみたいになってしまっています。どうすればアーティスト、レーベル、メディア、そしてリスナーが良好な相互関係を築けると思いますか?

なかなか難しいとは思うんですけれども、ある程度の「緊張感」というか、そういうものはしっかりと持ったほうが良いかなと思いますね。けっこうツイッターでの生の声は参考にしてるんですけど、バスの招聘の時には彼がキャラクター的に面白いこともあるので、周りの意見も積極的に取り入れました。ライヴ会場の物販にあったトートバッグも、実はイベントを手伝ってくれた女性スタッフからの意見だったんですよ。やっぱり女性にとってはTシャツって部屋着になっちゃうことが多いし、それだったら普段持ち歩けるものが良いんじゃないか? って。それをデザインと一緒にバス君に提案したらもう大喜びで、「いつ完成するんだい?」って急かされるぐらいノリノリでしたね(笑)。

Tugboat Records Presents Baths Live in Tokyo 2011

――そんなツイッターなどのSNSが普及したことで、今やメディア主導ではなくアーティスト主導で情報を発信できてしまう時代になっています。そして、これからは小山田さんのような審美眼をもつ“個人”が、キュレーターとして世の中に色んな音楽を紹介していくケースが増えていくのではとも確信しています。小山田さんのようにインディーズ・レーベルを立ち上げようと夢見ている若い読者にメッセージがあればいただけますか?

僕が個人的に危惧していることは、いわゆる「本当のアーティスト」がいなくなっちゃうことですね。メディアをうまく駆使・利用できるような人たちだけが残っていっちゃうのはけっこう怖いなって感じていて…。極端に言うと、アーティストはモノを作るのが原点だと思うんですよ。伝えるのが上手いのは良いことなんですけど、一番大事な音楽とは別の部分でそれが必要になりつつある状況には、ちょっと違和感を覚えています。それこそ僕らレーベルとかメディアの役割だし、何でも個人でやれるのなら、周りの人たちはいらなくなってしまいますよね。

――日本のインディーズ・レーベルっていうのは、これからも増えると思いますか? やっぱり普通の職業よりは不安定というか、浮き沈みのあるものだと思うんですけれども。

わからないですねー。ただ、音楽的にはすごく面白くはなってきているので…。

――A&R(アーティスト&レパートリー)の仕事って、自分が心底惚れ込んでいるアーティストに自由にやらせてあげたい部分と、ビジネスとしても成り立たせなきゃいけないので、若干もどかしい部分があると思うんですよ。この仕事をやっていて一番の「やりがい」って何ですか?

やっぱり着実に“浸透”していく感じを体感した時とかですよね。最近だと、ちょうど3組のアルバムが同時リリースしたわけですし、CDショップに出向いた時にそれ(作品)を手にとったり試聴してくれているお客さんを見かけると無条件で嬉しい。営業さんとか、プロモーション担当の方も含めてすべてが集約された瞬間でもありますからね。ライヴの現場もそうですけど、ショップの店頭は自分のやってきたことが目に見えてカタチになる場所だと思っています。

――店の人が考えてポップを書いてくれるのも、けっこう嬉しいですよね。

ですね。

――以前<4AD>のA&Rであるサイモン・ハリデー氏が来日した際にもインタビューしたのですが、彼は良きレーベルであるためには「自分が『最高』だと思う音楽を提供し続けるしかない」とおっしゃっていました。では、今後<タグボート>がレーベルとして掲げる目標を教えてもらえますか?

うーん、かなりサイモンさんと近いかもしれませんね。「良い」と思えるというものは前提でありますし、後はとにかくリスナーさんに聴いてほしいですね。まだウチのアーティストやバンドを知らない人に聴いてほしい…そういう強い想いはあります。「Soundcloud」やユーチューブもそうですが、今って音楽を聴ける環境はものすごく整っていますから。

若いリスナーにこそどんどん発信してもらいたいですね

――今活躍している人とか、有名な人でも良いんですけれど、自分のレーベルでやれたら感無量! っていうアーティストはいますか?

ニール・ヤングとか…ですかね。意外かもしれないですけど(笑)。あとはデヴィッド・バーンとか、ケイト・ブッシュとか、ディアンジェロとか。

Qetic編集部: 私は今、まさに音楽を勉強しながら編集をやっている部分もあるんですね。ジャンルとかもまだまだ知らないことばかりだけど、音楽が好き、興味がある…という人たちには何を受け止めてほしいですか?

僕も「ジャンル」で聴くっていうことはほとんど無くて、今だとフランク・オーシャンなんかロック・リスナーにもすごく受け入れられていますよね。そうやってジャンルの垣根を超えて交わるような感じは体感してもらいたいですね。まあ、ディオンも曲によってはテクノとか、歌ものもあるじゃないですか。あとはロゴやマークと言いますか、「一定基準」を提示できたら良いなと。<4AD>ぐらい歴史のあるレーベルだと、「4ADからのリリースなら間違いない!」っていう暗黙のルールみたいなものが出来上がっていますよね? もちろん<DFA>も。そんな道標となれるようなレーベルにしていきたいです。

――まさに<タグボート(引船)>じゃないですか!

これも後付けみたいになっちゃうんですけど(笑)。今ってネットだと「タグ付け」が当たり前ですよね。ジャンルはもちろん、レーベル名のタグとかもしょっちゅう見かけます。特に「Sound Clond」ではアーティスト自身も自分でタグを付けられますし、一種の「探しやすさ」、「検索性」みたいなものは大事なのかもしれませんね。

――「タグ」とうまいこと繋がりましたね(笑)。たしかに、「このレーベルだから買う」っていうのは僕もよくあります。

P-VINE菅村: これまでも色んなディレクターを見てきましたけど、その中でも小山田くんってちょっと特殊なのかなって思いますね。音楽1本じゃなくて、ものすごくチャンネルが多い。ある意味オタクではあるんですけど(笑)、そのチャンネルが色々なところにアンテナを張っている。今って、国内のメジャーレーベルでもリリースに二の足を踏むじゃないですか。すでに海外で大きなバズが起こっているのに、それをリアルタイムで汲み取れなかったり…。そんな時代で、「CDが売れない」とかを考える前にアクションを次々と仕掛けていくのが素直にすごいなと思ってます。「売る」「売らない」というよりも、まずこれを出したい。そんな本質的な部分にも返っているような気がしていて、それに続く下の世代にも大きな刺激になっているんじゃないですかね。全然畑は違うんですけど、90年代に裏原宿のムーブメントがあったように、今後何かが起こりそうな予感はしています。

――そこからNIGOさんみたいなスターが生まれたわけですからね。それじゃあ小山田さんも音楽業界を担うカリスマになっていただいて…。

まあジャンル云々言いましたけど、ウチでやってることはまだまだ「インディ・ロック」的な範疇を出ませんからね。でも、インディ特有の閉鎖的な状況だけは絶対に避けたいと思ってるんです。ライヴに行ったらいつも同じ顔ぶれのお客さんしかいないなんて、つまらない。

――閉塞感ありますよね。

「またかよ!」っていう(笑)。固定ファンはもちろん大事だしありがたいんですけど、やっぱり若い人たち…大学生だったり、あるいは高校生にも届けていきたいですね。実際、さっきのバスのライヴってキャンセル前はデイタイムのイベントだったんですけど、リスケしたことでオールナイト公演にせざるを得なかったんですよ。そしたら18歳未満の高校生のお客さん3名ぐらいから「チケットを買ってしまったんですけど、どうすれば良いんですか?」って問い合わせがあって…。本当に申し訳なかったなって気持ちと同時に、高校生にまでバスの音楽が届いているんだ! って、すごく嬉しくなっちゃって。自分で言うのも何ですけど、めちゃくちゃニッチなところじゃないですか(笑)。それで急遽<Hotel CLASKA>を借りて、年齢制限の無いプレ・パーティー(*)も開催しました。きっとその高校生のコたちは、学校の友達にも「バスっていうのが良いんだぜ」って薦めてくれてるのかな~とか考えるとワクワクしますね。ただ、インディ・キッズってツイッターでも「お気に入り」はしてくれるのに、RT(リツイート)はしてくれないんですよ。

*Baths – “Plea” Live in Tokyo 2011 PRE-PARTY

(儚い世界観が表現されている歌詞にも注目!)

――(一同爆笑)。良いものは自分の中に留めておきたいというか、やっぱりそういう年頃なんですかね?

嫌いなものやマイナスなことを言うわけじゃないんだし、好きなものは堂々と言ってくれると嬉しいですよね。まあ、自分も若い時はそういう部分があったのは確かだし、そんな僕がこんなこと言うのはズルいんですけど…(笑)。そこから思いがけないものに繋がる可能性だってあると思うんですよ。だから、若いリスナーにこそどんどん発信してもらいたいですね。

(Interview & text by Kohei Ueno)

★<タグボート・レコーズ>より3枚同時リリースされた個性豊かなのアルバムも紹介中!

インタビューにも出てきたバスのトートバックをQetic読者5名様にプレゼント!
今年3月の単独公演でライブ会場のみで販売されたトートバックが奇跡の復活! ボディは<anticon.>や彼の出身でもある、LAを拠点としたAmerican Apparelのものを使用しています。物を沢山入れてもヨレにくい、とてもシッカリとした作りで、使い勝手の良いサイズ。ち、ち、超可愛いーー! バスくんも完成時には「adorable!! so so cool :)」と叫んだとか!!
これはもう叫びながら応募するしかナイ!