実にネクスト・フェーズへと歩みを進め、ヴァンパイア・ウィークエンドは約3年ぶりの新作となる『モダン・ヴァンパイア・オブ・ザ・シティ』で他のバンドの追随を許さない圧倒的な飛躍を遂げた。ボーカルのエズラはメディアに対し、新作について「過去の自分たちにサヨナラするアルバム」だと語っている。変化の内容は大きく2つ。一つは「オーガニック」で「シンプル」なサウンドの追求。そして二つ目は、作品の主題が「自分自身より大きな何か」というやや哲学的なテーマに移ったこと。インタビュー後に提供されたプレス・リリースでも、本作のポイントとして「年齢を重ねること、成長すること、時間(ageing,growing,time)」、「アメリカ」、「宗教、信じる気持ち」の3つが挙げられおり、1つ目と2つ目は本インタビューでもやはり触れられている。

サウンドについて言えば、これまでの彼らを「インディー・ギターロックにエレクトロニクスをブレンド、アフロ・ビートとバロックの味付けを少々」とまとめるとしたら、本作は「60年代のオーガニックなギター・サウンドを基礎にした、モダンなプロダクションによるバロック・ポップ」と表現出来るかもしれない。かといって、これまでの作品と全く連続性がない訳ではなく、得意なアプローチをしっかりアップデートし、モノにしたという印象だ。またとにかくリズム以上に歌、メロディの力強さが印象に残る楽曲が揃っていることも特徴の一つ。シンプルな構造ながらコーラス・ワークを巧みに用いてじっくり歌を聴かせる“ステップ”や“ヤ・ヘイ”といった曲で端的にその特徴を感じることができるはずで、全体を通しエズラが言う「一聴したシンプルさの裏側にある複雑さ」を備える素晴らしい完成度だ。

また、アルバムには西アフリカのポップ・ミュージックの影響を久々に感じる部分もあり、ロスタム(Key/G)曰くイラン音楽の影響もあるとのことで、インタビューにも出てくるサイモン&ガーファンクルも含め本作に散りばめられた数多くのモチーフを探しながら聴くのも一つの楽しみ方であり、これまでの彼らの「踊れる即効性」だけでなく、ヘッドフォンで「じっくり聴き込む」喜びも与えてくれる、そんな作品だとも言えるだろう。

以下に、2月に開催された<Hostess Club Weekender>に出演した際にメンバー(エズラとクリス)に行ったインタビューを掲載する。ちなみにインタビュー後のライブでステージの横断幕に使用されていた絵はメトロポリタン美術館の永久収蔵品でもある「デラウェア川を渡るワシントン」という作品。描かれたジョージ・ワシントンはいわずもがなアメリカ初代大統領でもあることから、エズラが挙げる新作のポイントの2つ目「アメリカ」とどう考えても関係してそう! インタビューでこの点も聞けていたら要点全てに触れられたのに! と悔しい限りなのですが、とにかくまずはインタビューを読んで来るべき新作を心待ちにしてほしい。

Interview:Vampire Weekend(Ezra Coenig:VO&G/Christopher Thomson:Dr)

ヴァンパイア・ウィークエンド“ダイアン・ヤング”日本語字幕付き

――つい先程新作から5曲だけ聴かせてもらいました(取材用に試聴が出来た音源は“アンビリーバーズ”、“ステップ”、“フィンガー・バック”、“ドント・ライ”、“ダイアン・ヤング”5曲のみ)。第一印象として、「シンプル」、「オーガニック」、「オーケストラル」というキーワードが挙げられるかなと思ったんだけど、これらは新作をレジュメするものになりうるかな?

エズラ・クーニグ(以下、エズラ) 基本的にはそれらが新作のサウンドを示唆する表現になっていると思うよ。僕らは今回、何よりもソングライティングにフォーカスしたんだ。勿論、リリックにもプロダクションにも気を使うのは当たり前なんだけど、偉大な曲というのは常に極めてシンプルだと思っているんだ。シンプルである裏側に複雑さが備わってはいるんだけど、必ず聴いてすぐに覚えられるメロディがあって、すぐに聴き手に伝わる何かがあるんだよね。だから今回僕らはよりダイレクトな方法で感情にコミュニケートしようと思っていた。

――これまであなた達は「一度やったことは繰り返さない」という信条を持っていて、ファーストでもセカンドでも明確なアイデンティティのあるレコードを作ってきたと思うんだけど、今作を制作するにあたってもそういう意識を持って臨んだ?

クリス・トムソン(以下、クリス) そうだね、毎回作るからには違うことをやろうという思いは今回もあったよ。同じ事を繰り返すのは自分たちにとってもファンにとっても退屈だし、必ず質的な劣化は起きるものだから。毎回、新しいアイデアを見つけるよう自分たちをプッシュするし、今回も新しい方法で新しいアイデアを表現しようとした。

――今作を聴いてちょっと連想したのは、サイケデリック時代におけるサイモン&ガーファンクル(以下、S&G)みたいなポジショニングを意識したのかなということ。

エズラ&クリス (質問中に遮って)おっ、面白い質問だね。

――というのも、NYにはアニマル・コレクティブやティーヴィー・オン・ザ・レディオみたいにサイケデリックな素晴らしいバンドが沢山いる中で、自分たちはより間口の広い音楽を届けようという意識は常にあるのかなと思ったんだよね。

エズラ (エズラのiPodに入っているS&Gの『明日に架ける橋』を筆者に見せながら)良いアルバムだよね! つまり僕らが60年代のS&Gのポジションみたいだってことだよね? それは面白い質問だと思う! クリスとも二人でそういう話をしたんだ。僕らって60年代の終わり頃のS&Gみたいじゃないかってね。サイケ時代にサイケ以外でもっと時代にフィットするサウンドを作るっていう意味で。というのは、僕は実験的な音楽は好きだし、シュールリアリズムも好きだけど、サイケデリックな音楽はそんなに好きじゃないんだ。アシッドとかマッシュルームとかサイケ・ドラッグをやったことはないけど(笑)、時々思うんだよね。そういうサイケな体験をした人がどうして同じイメージや同じサウンドの音楽をやるんだろうって。例えば君のおじいちゃんがアシッドをやって音楽を作ったら想像もしてないものが出来る気がするんだけど(笑)。それにサイケデリック・ミュージックにはある種閉塞的というか自己完結的な世界観があると思う。でも現実の世界は、十分に奇妙で興味深いんだよ。S&Gのレコードだってよく聴いてみると、例えば“シシリア”(前述の『明日に架ける橋』収録)なんてすっごい奇妙なサウンドで、めちゃくちゃクールなんだ。つまり、サイケデリックにならずともリアルでありながら、奇妙でシュールリアリスティックな音楽になれるんじゃないかっていうアイデアが僕らの中にはあったんだよね。

――ポール・サイモンのソロ作である『グレイスランド』はポップ・ミュージックとして初めてアフリカ音楽を取り入れた作品だけど、彼のそうしたルーツ・ミュージックへと回帰していったプロセスにもインスパイアされた部分はあるのかな?

エズラ 『グレイスランド』は最も素晴らしい作品のうちのひとつだし、僕自身コネクトしているけど、僕らは他のタイプのアフリカ音楽からも影響を受けているからね。まんま『グレイスランド』っぽいサウンドを再現したいということはなくて、自分なりのアフリカ音楽の要素とのコンビネーションを見つけるうえでのインスピレーションになっているとは思う。

クリス 実はポール・サイモンとは「サタデー・ナイト・ライブ」(米の人気トーク&音楽番組)で会ったことがあるんだ。その時にロスタム(Key/Vo)が、僕らがS&Gと比較されるという話をして、サイモンが「同じタイプの音楽からの影響を引き出しているけど、結果はとても違っている」と言っていたんだけど、正にその通りなんじゃないかな。

エズラ 僕らのほうが「パンクだ」って言ったよね(笑)。

――これまで意識的にエレクトロニクスとオーガニックとか、実験的であることとポップであることとか二項対立で語られる要素を上手く折衷して「ポップ・ミュージック」に昇華させてきたよね? 今回もそのアプローチって変わっていないと言えるかな?

エズラ そうだね。アルバムを全部聴いてもらえばわかると思うんだけど、「オーガニック」なサウンドっていうのが今回の僕らにとって新しい方向性なわけだけど、と同時に新しいシンセ・サウンドにもチャレンジしているんだ。勿論、60年代のサウンドをそのまま繰り返すってことはしていなくて、そのオーガニックなサウンドをいかにモダンに響かせるかってところが新作の一番クールな部分なんだ。僕らはそうしていつも何かしらの要素をネクスト・レベルに持って行こうとトライしているから。

――今作は初めてNY以外でレコーディングして、初めてプロデューサーを迎えたわけだけど、この環境の変化が何かアルバムに直接的な影響や何か変化のきっかけになった側面はある?

エズラ 答えとしては「イエス」。ただ、変化の最大の要因というのは「時間」なんだ。時間が過ぎ、僕らも変わり、音楽も変わったということ。LAでプロデューサーと一緒に作業したのは、どちらかというと、サウンドを変えたいからではなく、アルバムをフィニッシュさせる必要があったからなんだよね。ブートキャンプ的なものというか。

――歌詞についてだけど、これまでの2作ではエズラの歌詞はあらゆる事象に対して分析的、批評的な俯瞰した視点があったと思う。それに比べて今回は、内向的というかパーソナルな視点があったように思うんだけど実際はどうかな?

エズラ まず個人的には今回ではよりロマンティックで、より情熱的にしたかったんだ。当たり前だけど俯瞰的な視点だとそうした感情は表現しにくいんだよね。距離を保ったアプローチだと人々は愛とか落ち込んだ感情とかを感じ取りにくいんだ。僕としては、自分の内側にある感情にフォーカスして、語るアプローチのほうがしっくりきたんだ。

――その変化には具体的な背景って何かある?

エズラ う~ん、そうだな…。(しばらく考える)

――自然に変化したことなのか、敢えて違うアプローチを取ろうと思ったのかでいうとどうなのかな?

エズラ 勿論、プロダクションやサウンド、ライブでのアレンジとか含めすべての面で新しいことにトライしたいというのはあったよね。それは歌詞についても同じで、何か新しい主題を見つけたかった。音楽というのは、なんていうかより大きな感情というか、宗教的な感情を扱っていると思う部分があって、歌詞についてもそれに対応させたかったのかもしれない。

――別のアングルでいうとセカンドのヴァンパイアって「スノッブな連中が高尚な音楽をやってる」というバックラッシュ、批判に対する内なる怒りとか証明しようという想いがあったと思うんだよね。ただセカンドでの音楽的な成長と商業的な成功を実現したことで、そうした意識は薄らいでより内的な視点に移り変われたのかなという気もしたのだけど。

エズラ 多分、君が言うように自分たちを理解してくれない人たちに対して怒りを感じていた部分はある。でも僕らも歳を重ね、成功をしたことで成長したということだと思う。もう少し他の人の意見を受け入れられるようになった。僕らにはファンも居るし、どうやったって僕らを嫌う人も居る。それは仕方ないし、それにいちいち反応するのも下らないしね。そうやって段々よりパーソナルなこと、ちょっと宗教的なこと、例えばバンドに居る意味だとか、何が僕らを幸せにするのか、みたいなよりスケールの大きな視点でものごとを考えるようになったんだ。そんな変化が僕らが「ネクスト・チャプター(次章)」に到達したと思った理由なんだよ。

Interview&text by Keigo SADAKANE

★最後にQetic読者へのコメントもゲット! 2人は宇宙を漂っている・・?

Event Information

FUJI ROCK FESTIVAL’ 13
2013.07.26(金)27(土)28(日)@新潟県 湯沢町三国202「苗場スキー場」
★ヴァンパイア・ウィークエンドは28日(日)出演!

Release Information

2013.05.08 on sale!
Artist:Vampire Weekend (ヴァンパイア・ウィークエンド)
Title:Modern Vampires Of The City(モダン・ヴァンパイアズ・オブ・ザ・シティ)
XL/ Hostess
XLCD556J
¥2,490(tax incl.)

Track List
01. Obvious Bicycle
02. Unbelievers
03. Step
04. Diane Young
05. Don’t Lie
06. Hannah Hunt
07. Everlasting Arms
08. Finger Back
09. Worship You
10. Ya Hey
11. Hudson
12. Young Lion
13. Ya Hey(’Paranoid Styles’Mix)※
14. Unbelievers(’Seeburg Drum Machine’ Mix)※
※日本盤ボーナストラック