——大木さんは当日、どんなことを考えて撮影に臨みましたか?
大木 僕はちょっとふざけたいなと思っていましたね。歌っていないところで、みんなの目が他の人たちに向いているときに鼻をほじっていたりとか、そういうこともしたいと思っていて。でもそうしたら、監督さんに「あまりそういうことはやらないでくれ」と言われたのでやめておきました(笑)。せっかくVRだから、隙のようなものも見せたかったんですよ。あとは、「カメラ目線で歌う」ということですね。これは恥ずかしかったですが、今完成版を体験して、こんなに自分の方を観て歌っているように見えるんだな、と驚きました。
カタオカ そうなんですよ。これは、観る方にとってはかなり嬉しいポイントだと思います。NAOTOさんも、撮影前は「ヴァイオリンを弾きながらカメラ目線をするのは流石に無理だよ」と言われていましたけど、最終的にはめちゃくちゃカメラ目線で弾いてくださってる。
大木 そうそう(笑)。プレイヤー目線でも贅沢ですよね。僕はヴァイオリンもチェロもやっていないですけど、それでもメンバーの指の動きや体の動かし方がすごく臨場感のある形で映像化されていて、演奏をこんなに間近で見られる機会ってそうそうないんじゃないかと思いました。NAOTO QUARTETは日本でもトップクラスの演奏者の集まりなので、彼らの演奏をこんなに間近で見られるというのは、音楽をやっていない人もきっと楽しいと思いますよ。「こんな指の動きしてるんだ!」とか、色々な発見があります。
——実際、今回の映像作品を観て一番印象的に感じたのは、「ROCKIN’ QUARTET」のみなさんがお互いに息を合わせたりしながら、演奏が盛り上がっていく際のメンバー同士のやりとり/呼吸のようなものでした。それを特等席で観られるという特別感を感じます。
カタオカ そうですね。今回はそこにこだわりました。VROOMは基本的に生演奏なので、その魅力や特別さが伝わるようにしたいと思っていたので。僕らは撮影時に間近で演奏を聴いていましたけど、そのときもすごく「美しい」と思いました。
――また、音源としては滑らかに最後まで繋がっていますが、途中映像が2パターンに切り替わる演出も面白かったです。これはどんな風に実現したものだったんでしょう?
カタオカ あの部分は、実際に2パターンの映像を撮影しているんですけど、360°VRは全方位で撮るので、カット割りが難しいんですよ。これはVR撮影を行なっているクリエイター共通の課題だと思います。
そこで今回は、エフェクトでシーンを変えました。ここは監督ともかなり話し合った部分ですね。「ここは音楽的に〇秒ないと絶対におかしい」とか、かなり細かいところまでこだわって詰めていきました。最初は、たとえば布を(カメラに)大木さんにかけてもらって場面を転換するアイディアも考えたんですけど、それがなかなか難しくて。そこでエフェクトで表現したんすが、結果的にかなり上手く表現できたと思います。
これはVRのクリエイターの方たちにも参考にしていただきたい部分ですね。あと、僕らの中でもうひとつこだわったのは、星のように光っているエフェクト。あの光り方が、(曲の邪魔をせず)違和感のないように光る工夫をするのにも時間をかけました。照明も途中で変わっていくので、その辺りも観てもらえると嬉しいですね。
——これからVRを使ってどんな映像表現をしてみたいですか?
大木 今回はシンプルなものでしたけど、次はVRならではのよりぶっ飛んだものも作ってみたいですね。今はまだ難しいとは思うんですけど、(出演者以外の)背景だけがどんどん変わっていったりするVR作品も面白そうですよね。背景だけどんどん変わっていく。
カタオカ その場合、人物をトリミングして作ることも、逆にCGの大木さんを作ってしまえば出来ますよ。大木さんにモーションキャプヤーを付けて、実写の背景を変えていく。
大木 ああ、そうなんだ! じゃあそれがよかったね(笑)。
カタオカ (笑)。もちろん、かなり制作期間はかかると思いますが、一度CGの大木さんを作ってしまえば全然可能ですよ。
大木 じゃあたとえば、1番に海の歌詞が出て来るところは背景を海にして、2番に森が出てきたら森に移動するとか?
カタオカ そうですね、出来ます。それこそ、ACIDMANがワールド・ツアーをしているときに『ミュージックステーション』に出なければいけなくなった場合、そのモーションを乗っけて出演することも出来ますよ。これから誰もやったことのないことをバンバンできると思うので、VRだけではなくAIも連動させたりしながら、面白いことをやっていきたいです。
僕はACIDMANの音楽もたくさん聴いてきた世代で、“ある証明”の符点のディレイとかを、それこそめちゃくちゃ聴いてきた世代で。「日本の音楽×テクノロジー」のアイコンという意味でも、ACIDMANさんと一緒にまた何か出来ればと思っていますね。
大木 僕も最新技術は好きなので、セブンと一緒にどんどんやっていきます(笑)。
カタオカ たとえば、大木さんって宇宙が好きじゃないですか? リアルの世界で僕らが宇宙に行くためには、まだまだ訓練が必要な時代です。でも、CGのACIDMANにリアルな月に行っていただくことは可能なので、そういう意味でも、現実と頭で考えていることの境目って、いい意味でなくなっていくと思うんですよね。
——様々な技術を駆使すれば、ACIDMANの宇宙空間や月面でのライブも実現可能になる。
カタオカ それって最高ですよね。「HMDをつければ、月に行ける」と。そもそも宇宙って、ACIDMANの音楽にも合うと思いますし。
大木 今話をしていて思ったんですけど、「VR=仮想現実」というのは、現実とはまた違うエンターテインメントなんですよね。現実が10、想像上の映像が1としたときに、VRは(その中間を取った)5ではないという。たとえば実際に宇宙に行く前に、VRで宇宙体験をしたら、実際に宇宙に行ったときにその感動がプラスされるものになりえると思う。
——「VRでの宇宙体験」と「実際の宇宙旅行」は、それぞれ別の魅力を持ったエンターテインメントになりえる、ということですか?
大木 そうそう。今回の企画でVRを試していたときに、宇宙のものも観てみたんですよ。そのときは大気圏までのものしかなかったんですけど、それでもすごく感動してしまって。これと実際の宇宙旅行は、また違うものとして考えた方がいい気がする。
カタオカ その通りだと思います。たとえば今回は「ROCKIN’ QUARTET」のVR映像を撮らせていただきましたけど、これと混同してほしくないのは「MV」なんですよ。2Dの映像とVR映像を比べられることがすごく多いんですが、この2つは実はまったく別の体験を提供するものだと思っているんですよ。
——MVとVR映像も、どちらもアーティストの魅力を補完するものになりえる、と。
カタオカ そうですね。言ってみればロックとカルテットが集まった「ROCKIN’ QUARTET」のような関係性なんだと思います。そもそもが全然違うものという意味で。
——なるほど。今回の「ROCKIN’ QUARTET in VROOM」は、お2人にとってどんな体験になりましたか?
大木 本当に貴重な体験をさせてもらいました。実際に体験させてもらったうえで、「こんなに面白いものなのか」とすごく実感できました。このVRを体験してもらうことで、「ROCKIN’ QUARTET」の実際のライブもより面白くなると思うので、このコンテンツを体験してからぜひ来てもらいたいですね。
カタオカ 去年の「ROCKIN’ QUARTET」のライブは、1回300人×2公演で合計600人の方しか観ることができなくて、僕も観られなかったひとりだったので、その魅力を多くの人に伝える場所を作れたことが嬉しかったです。
また、ライブを実際に観た方も、VRという形で改めて観ていただくことで、また違った体験ができると思います。最近はVRがメジャーな場所でも話題になりはじめていますけど、僕は色々なものを発信するアーティストさんたちに体験してもらうことで変わる部分があるんじゃないかと思っているんです。
アーティストの方に一度経験してもらい、「こんなことがたい」というアイディアが出てきたら、それを一緒に実現していきたい。これはユーザーやお客さんもそうです。ですから、これからも色々なVR作品を体験してもらう機会を作っていきたいと思っています。
EVENT INFORMATION
JALCARD presents ROCKIN’ QUARTET TOUR 2018
2018.02.08(木)
1st OPEN 17:30/START 18:30
2nd OPEN 20:30/START 21:15
名古屋ブルーノート
¥8,400(tax incl.)
大木伸夫(ACIDMAN)/NAOTO QUARTET
2018.02.15(木)
1st OPEN 17:30/START 18:30
2nd OPEN 20:30/START 21:15
ビルボードライブ大阪
サービスエリア ¥8,200 /カジュアルエリア ¥6,700(tax incl.)※SOLDOUT
大木伸夫(ACIDMAN)/NAOTO QUARTET
2018.02.20(火)
1st OPEN 17:30/START 18:30
2nd OPEN 20:30/START 21:15
ビルボードライブ東京
サービスエリア ¥8,200 /カジュアルエリア ¥6,700(tax incl.)※SOLDOUT
大木伸夫(ACIDMAN)/NAOTO QUARTET
text by 杉山仁
photo by 横山マサト