平岡 そうそう。
――なるほど! それでこのユニークな歌詞カードが生まれたわけですか。
コムアイ このアイディアは、最初から白玖さんがやりたいって言ってくれていて。
白玖 ゴリ押し、みたいな(笑)。
コムアイ 結構形は違いますけど、(参考になった)蛇腹で出てくるタイプのアートワークがあったんです。白玖さんは変わったジャケやアートワークの超マニアで、本当にすごいんですよ。段ボール何箱分みたいな感じで持ってきてくれて、毎回色々見せてもらうんですけど、全然終わらない……(笑)。それが博物館みたいですごく面白くて。その中に、薄めの紙でパタパタパタって出てくるものがあって、「おおー!」って思ったんです。インパクトもあるし、テーマにも沿っているなと思ったんですよね。
――僕も最初に見させてもらった時に、「何だこれ!」と本当に驚きました。で、この絵を描いた上岡さんは、本当に大変だったと思うんです。
上岡 そうですね、すごく大変な絵でした(笑)。でもこれに関しては白玖さんのアイディアがあって、そこはもういい意味で「汲み取らな」という感じで。
白玖 歌詞面の表紙に関しても参考資料があるんですけど……僕らが見せた指示書みたいなもので。江戸時代、1800年ぐらいに「折り変わり絵」と呼ばれるものがあったんですね。浮世絵師たちが遊び絵として作ったものだったんですけど。それから、1925年にシュールレアリストのマックス・エルンストたちが、その影響を受けたのかどうかは分からないですけど、『甘美な死骸』っていう作品で同じような遊びをしていて。今回の僕らは「折り変わり絵」から着想を得たんですけど、1枚の紙から同時に、異なった2つの絵を変容させて出現させるという意味で、このギミックで落とし込めると思ったんです。それでゴリ押ししました(笑)。
――上岡さんはこの歌詞カードのイラストは、どんな風に考えていったんですか。
上岡 困った時は歌詞があったんで、たまに歌詞をみながら連想したりして。肉とかはそうですね。そういうのをさりげなく(10曲目“マッチ売りの少女”の歌詞《肉肉肉肉肉肉 肉料理》のこと)。あとは、「戒」の字は2曲目の“猪八戒”から引用したりだとか。
コムアイ お相撲さんとかも超かわいい。この歌詞カードの色味とかも、きっと(CD帯の)ジパングが金色の字じゃないですか、だから背景は黒にしようと思ったんだと思うんですけど、それが絵にすごくいい影響を与えているような感じがしますよね。黒バックで、行灯みたいな光になっていて。じゃないと、こういうものって出てこなかったと思うんですよね。それに、ジャケットがあって、中までカラフルだとトゥーマッチになっていたと思うんですけど、その抑え方もすごく難しかったと思うんですよ。
――オタミラムズさんも、歌詞から影響を受けてデザインした部分はあったんですか?
白玖 それは面白い話があって、僕らはケンモチさんの歌詞にゆだねるような形で文字組みも用意していたんです。それである日見せたら、「いや、今回はこういうのはナシで。川の流れのようにしてほしい」って言われたんです(笑)。それこそ(最初に話に出てきた)化粧室で(笑)。
コムアイ そうなんですよ(笑)。“ラー”のMVを撮っている日活の撮影所まで来てもらって……。
水曜日のカンパネラ – “ラー”
平岡 クレオパトラっぽくメイクしてるコムさんと打ち合わせながら(笑)。
コムアイ (メイク時の様子を再現しながら)スタイリストさんに「あ、もうちょっと右で」とかいいながら、これ以上ないくらい偉そうな格好で……(笑)。
全員 ははははは(笑)!
白玖 その時に、ちょうど上がって来たタマちゃんの歌(“西玉夫”。「西玉夫(にしたまお)」は多摩川に出現したあざらしタマちゃんが横浜市から住民票を与えられた際の登録氏名)があるんですけど、そこからの着想だったみたいで。
コムアイ なるほど。私、それで思いついたのかもしれないです(笑)。
白玖 この曲は歌詞もコムさん(+ケンモチさん)のクレジットやもんね。それで、そこからガッと組み直したんです。川の感じを表象できる文字組みに。つねに上下(天地)の要素を意識していたんで、歌詞面にも上岡さんの要素をちりばめられたらと思ったんですよ。そこで、上から天女が肉やらの色んなものを振り落としていて、最終的に最下の便器に全部流れ落ちていくっていうレイアウトを施しました。
――うわああ、ものすごいですね。本当に細かいところまで考えられていて。
コムアイ イェーイ!
白玖 そうやって川の流れを表現したんです。
コムアイ ガンジス川の上流でヨガをしている人と、下流でウンコしている人がいて、死体も流れてくる、みたいな? 面白~い!
白玖 あとは上岡さんとコンタクトを取りながら、お互い「黄金の国ジパング」っていうイメージがあったんで、金色を意識的に多用しました。
コムアイ この特色のところ……(と言いながら歌詞カードの金色をなでる)。刷ってある銅みたいな、赤金っていう色なんですけど。
――こうやってお話を訊いていると、それぞれが発想を繰り広げて、それが集まって当初とは違うものになっていく、ということが本当によく分かりますね。コムアイさんは3人が出してきたアイディアを受け取る側として、どんなことを感じていましたか。
コムアイ よくてよかったな、ということですよね(笑)。だって、悪かったら大変じゃないですか。でも、来るものを手放しで喜んで、楽しみにしていられたのが本当によかったと思っていて。色んな人と仕事をしていたら、何でこうなるんだろう? とか、汲んでくれると思ったら汲んでくれなかった、みたいなことっていっぱいあるんですよ。でも全部お任せして、自分の想像の範疇を超えていいものになっているっていうのは、もうほんとにアーティスト名利に尽きると思いますね。
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