アーティスト・コラボレーションの根幹を問う作品の登場だと言い切りたい楽曲がこの世に産み落とされた。
生きるポップアートのような水曜日のカンパネラの「主演」であるコムアイが自分自身の言葉と音を表出する同士としてごく自然に共作をしたのがyahyelだったことは、今回の楽曲“生きろ。”を聴いてもらえば判然とするだろう。
1992年前後生まれという同世代感、東京という街で生きることの体感、そこから生まれるある種の違和感が動機になった今回の楽曲について。
生きていることを実感するのは、むしろ真逆の状態に直面した時だろう。でも、そんな状態や状況から隔離されているのが私たちの日常でもある。“生きろ。”はその感覚に触れさせる音楽という名の触媒ではないだろうか。
アーティスト・コラボレーションの新たなフェイズを彼らの対話から読み取ってほしい。
Interview:水曜日のカンパネラ×yahyel
——まず、コラボの経緯をお聞きしてよろしいですか?
池貝峻(以下、池貝) 去年の12月にとあるライブでばったり会って、「やらない?」って言ったのが始まりです。
——別に何のための曲というわけではなく?
池貝 はい。俺がよく覚えててるのは、最初、「作ろう」っていったときに「曲を作ったことないからどうやって作るかを知りたい」って話をしてて。
コムアイ プロセスをね。
池貝 「そんなん鼻歌で全然いいんだよ」って話から始まって、最初、僕が軽く根本を作って、「これに鼻歌歌ってみて」みたいな感じで始まったんですけど、カンパネラ仕様のコムアイは結構、(パンパンと手を叩く)こういうフロウが多いんですけど、声質的にもっと伸ばしたものの方が合うんじゃないかな? とずっと思ってて、それを意図して投げました。
——池貝さんとコムアイさんはお互いにどういうところに興味があって、コラボしたら面白いものができそうだなと思いましたか?
池貝 僕としては水曜日のカンパネラって、ポップカルチャーの最前線の位置だと思っていて、僕らは逆にそういうところから身を引いてるというか。そもそも僕、基本的に日本のポップなもの全部好きじゃなくて。ホスピタリティみたいなことがすごい嫌なんですよ。
「気を使ってポップ」みたいなのがすごい嫌だったんですけど、話してるとそういうタイプの人じゃないし、ある意味毒のある人なので、なんでそういうアウトプットになってるんだろな? ってことにも興味があったというか。そこの部分をちゃんと深堀りできたら面白いだろうなって思ってたんですよ。
(コムアイが)自分の感情がちゃんと出るような曲作りの機会があればいいなぁと思ってたし、本人も曲を作りたい、こういうことを言いたいっていうのがあったんで、そういうところをうまいこと僕らの「この人たちは毒々しくてOK」って枠組みの中で生かしました。
コムアイ ははは、確かに。
池貝 生かしてもらえたらなぁと思ってました。
——コムアイさんはカンパネラでやってることとは別にやりたいことが?
コムアイ 歌のエキスみたいなものを自分から出していくことをこの1年ぐらいは何曲かはやったんですけど、その時期はやってなくて。それでもう本当に「yahyelを借りる」というか(笑)、コラボしたらその人の印象を借りてすごく自由にできるから。
あとはみんな同世代だし、学歴とか東京にいて生きてきて感じてるものが近い感じがしました。同世代の人たちとやったことなくて、だからこういうのが歌いたいと思ったときに、「それは自分も感じてたことだ」って感じで進んでいくことが今までなかったからやりやすかったです。
——今回の歌詞はダイレクトな内容で。人身事故を思わせる内容でもあるし。
コムアイ はい。4年ぐらい前だと思うんですけど、新宿でホーム上がって見た光景を歌にしてます。人身事故から何十分か経ってて、遺体もないし現場も落ち着いた状態で、ただ血の海がずっと残っちゃってる状態で、「それは後で片付けよう」みたいな感じになってて。歩いてる人たちはみんなもう普通に「あ、あったんだ」と思って自分たちの生活のために電車に乗り込むって景色で、陽の光がすごく綺麗でした。一人、生きるのを諦めたことが悪いことのようにも思えないし、ずっとそこまでネガティブに人生に対して思ってたことがありませんでした。
魂は解放されたから、その瞬間の絵は「解放」って感じがして。死ぬことを肯定したくもないけど、人が死ぬっていうことは自然なことだと分かりました。今、私がここに飛び込めば死ねるってことが、すごくよく分かったことで安心できたんですよね。それで、「あ、もう崖っぷちを私たち生き物は全員生きていくんだな」と思ったときに、走っていこうと思えたんですね。それを朝方、急に思い出して、音をもらって「合ってるかもな」と思って作って行きました。
——それは選択できるということによる安堵ですか?
コムアイ そうですね。選択できないことによる安堵かもしれない。下手したら突き落とされるかもしれないし(笑)。自分で決められるか決められないかも分かんないけど、一つの要素だと思って、ちょっと安心した。死をなるべく見ないように遠ざけて生きてくってことは、文明が発達していくときに起こることだと思うんですけど、そうすることで不安の形がわからないみたいな感じになってると思うんですよ。その正体が突き止められたときに安心するっていう感覚です。
——コムアイさんはライブで鹿の解体など、生き物の命に向き合ってきた経緯があるから。
コムアイ ははは。『もののけ姫』みたい。ただ、東京で生きてきただけですけどね。
——池貝さんはコムアイさんの日本語の歌詞がある上で、自分のパートの歌詞を書いたんですか?
池貝 僕も最初はある程度テーマをセットしようかなと思ってたら先にやられちゃったんですよね(笑)。もうほんとに朝方で僕らも訳わからない朝の4時とかに連絡取るときもあるんだけど(笑)。
コムアイ そう。「ガイ(池貝峻)くん、なんか思いついた!」みたいな感じで連絡したら、だいたい変な時間に起きてるんですよね。
池貝 「何やってんだ、俺は」と思いながら起きてて、そのときに今のテーマの部分とか、なんでこうなったかみたいな話が送られてきて、ちょうど朝日が差し込んでる状態で、街も道には誰もいなくて。なんかそういう瞬間って東京で生きてるとありません? 人がいなかったりとか。そういうことに実は一番リアリティがあるというか。それをもってその歌詞で僕がやるべきことは、逆に言ったら非日常以外のところがいかに不自由か? っていうことを僕のパートの歌詞ではやりたいなと思っていました。
——自発的ではない?
池貝 生きる・死ぬみたいなことって実はそんなに選択肢はなくて、追い詰められた人は追い詰められてるし、考えもしないと思うんですよ、生きようと思う人は考えようともしないし、死ぬときは死ぬじゃないですか。それがリアリティで、それに気づけるってこと自体がすごく東京って限られてるなと思って。
それ自体がすごく不自由なことだし、それ以外の非日常の部分って生かされてるっていうか、その矛盾を認知しないまま、なんとなく進んでいくことって逆に言ったらすごく辛いことであるっていう部分を僕の方の歌詞では書こうと、これを聴いて思ったんですね。リアルだったんですよ、ちょうど送られてきた時間と「この東京のリアリティを感じられる瞬間って確かにこの瞬間だよね」っていうのは、なんかすごいピンときたところはありましたね。
——なるほど。コムアイさんと池貝さんが共有していたことについてはメンバーは逐一わかっていくわけですよね?
篠田ミル(以下、篠田) いや、ある程度コム(コムアイ)ちゃんの歌詞まで固まった段階で、僕にパスが飛んできて。聴いてみたら、飛び込んで血の海で蒸発してみたいなことで。ただ、コムちゃんもさっき言ってたんですけど、自殺するみたいなことが絶対的にネガティブでもないみたいな描かれ方がしていて、それこそ例えば日本社会に生まれたら、学校行って就職して、いい会社行って、働いて結婚してって、一見自分で選択してるようで選択しないで生きてるみたいな生き方の中で、例えば自分で死を選ぶって、自分の意志でできる決断かもしれないじゃないですか。
そういう自殺を選ぶことのポジティブさみたいなものがあるなっていうのがあるなって。もちろんディストピア的な東京のリアリティみたいなのがテーマなんですけど、でもそこの中で死を選ぶって一見ネガティブなことが実はめちゃポジティブみたいな、ひねくれた開放感みたいなものをどう活かそうね? っていう話をずっとMONJOEとしながら、トラックを詰めていきました。なので、例えば冒頭の呪術的、トライバルなビートであったりとか、兵隊が足を鳴らして歩く音のサンプルを取ってきたりして、そういう集団社会感みたいなものを出しつつ、最終的に最後のヴァースのところで、解放していくドロップができるみたいな展開をモン(MONJOE)ちゃんにシンセ組んでもらったりして詰めて行きましたね。
——これはたまたまかもしれませんがyahyelの“TAO”もオリエンタルなサウンドで、カンパネラも最近、山田さんがMVを撮られた“かぐや姫”の世界観も意識としては繋がって見えたんです。
コムアイ 私、チャントみたいのをすごい聴いてて。
yahyel – TAO (MV)
水曜日のカンパネラ『かぐや姫』
——世界の祭祀というか祈りですよね。
池貝 僕の個人的な感覚では、そういうテーマを持ってくるときに思うのは、人を煽るとか盛り上げたいみたいな浅はかな音楽だったら、別に4つでキック打ってればいいと思うんですよ。ただ僕らが進む感じって、もっと個人の中でその気持ちをどう回して行くかってことをテーマにしたいから、視点が個人なんですよ。
だからチャントとかそういうものが合うような気がする。祈りって本来超個人的なことじゃないですか。願い的にも個人で祈る社会になったらいいなと思うんですよね。個人が思ってることが実現して、みんなが意志を持ってしてることがみんなの願いになるってことが、ほんとは社会として健全な気がするんですよね。その自分に内包して考えて欲しいっていう雰囲気づくりみたいなものがチャントっていう気がするんですね。
篠田 なんかサウンド的な話に関わらず、ペルソナみたいなものが、ある種二人とも宗教者的だなと思っていて。池貝はどちらかというと禅の修行僧みたいなタイプで、内面で禅問答してるみたいな。コムアイちゃんはどちらかといえばシャーマンみたいだなっていつも見てて思ってて。なんかいろんな霊、降霊させてるよね。
——山田(健人)さんはカンパネラのMVも撮っていますけど、ディレクションしやすいアーティストですか?
山田健人(以下、山田) 撮りやすいか撮りにくいかでいうと撮りやすいです。単純に好みっていうか、音とか全体的な世界観っていうのは第一にあります。水曜日のカンパネラの皆さんはとは、コミュニケーション取れるからいいです。会話もできるし、会話する機会もいただけるから。でもあのMVは自信があるし面白いし最高。
コムアイ “かぐや姫”?
山田 今日、全然言葉が出てこないな(笑)。いつもちゃんと喋れるんですけど。
——(笑)。コムアイさんが山田さんに言わずもがなを感じるのはどういうところですか?
コムアイ 例えば私が、“かぐや姫”ってタイトルだから私が姫になるの嫌だなとか(笑)。私は「かぐや姫」は宇宙人みたいなイメージなんですよね。だから自分という意識は全然なくて、MVの中でヒロインみたいなのは超恥ずかしいんですよ。照れはすごいあって、それを「いややっぱりあんたの音楽だしそれはやるべきだよ」っていうのはダッチ(山田)はわかって、照れなくてできるようにセットしてくれたっていうのはありがたかったです(笑)。
山田 姫感はあんまりないですよね。宇宙人みたいな共通認識はあったし、そういう話し合いを経てきたから。
——じゃあ日本の東京というところで活動していることについてお互いどんな感覚でいますか?
コムアイ 確かにそれをyahyelはどう思ってるんだろう? 東京にずっといるのってきつくないのかしら、と思うんだけど。
池貝 僕は個人的には普通に辛いっす。でも辛いからどうっていうのはおかしいかなと思ってて。辛いのがなぜかを定義するのが仕事だと思ってるので。それを音楽を通してやっていきたいです。いずれにしても海外で音楽をしたいって次元の話と、この日本が辛いって話は別の話で。
海外に行きたいってこと自体は、日本の音楽シーンの中で単純に「前の世代と同じことをやらなくていいんだよ」ってことを僕らが新しく定義する方法として、僕らが海外に行くっていうこと自体がすごく意味のあることで、これからの広がりができてることだと思うんです。我々にしかできないことがあるってことを僕らは言ってるだけで、それと日本が辛いってことは別の話かな。日本は辛いですよ。
コムアイ 日本嫌いになりたくないから旅行を自分でいっぱいしてる(笑)。いっぱい旅行して帰ってきたら、ご飯が美味しいなとか思えるので。ただしばらくいると、今中国から帰ってきてるから古い国に帰ってきた感じがすごくあって。国全体のフィーリングが40代、50代、60代ぐらいの感じがして。
池貝 それわかるな。
コムアイ 中国行ったら、全員年齢関係なく20代30代ぐらいのマインドで未来を感じてるっていうのはあって。私たちは20代で、全然未来に関して自分で作って変えていこうってことは自然に思えるけど、だんだんそういうのってなくなってくる。でも中国行ったらそうじゃないんじゃないかなと感じました。街の年齢みたいなのってあるなって感じました。
池貝 さっきミルが言ってたことはすごく芯を食ってると思ってて、要するに日本は「こうあるべき」という型が強すぎるから、単純に「自分はどうしたいの?」っていう(笑)。あなたの意志はどこにあってどうやって生きて行きたいのか? っていうエネルギーがすごくない感じはしますね。これって言い古されてることで僕らがあえて今言うことでもなくて、なんでそれが変わんないんだろうって言うのが、もっと芯の問題だと思うんですよね。海外との違いはわかりやすくていいですね、みんな確かに年食ってる感じすんなっていうのはある。
篠田 上海すごかったね。
池貝 上海の人たちは本当すごいです。意志しかない。
篠田 なんか上海ALLっていう上海のクラブシーンの中心があって。外にたむろしてる子供たちの服装がSF映画みたいなファッションしてました。「みんなどこで服買ってんの?」 って聞いたら全部オンラインだって言ってて。個人で若者たちがやってるプライベートブランドみたいなのがいっぱいあって、そこで買えるんだって話が面白かった。
コムアイ 日本に帰ってくるのも、「京都行こう」ぐらいの感じになったらいいんじゃないかなぁと。
池貝 個人的にはその方が楽だよね。僕は逆に「そう思わないですか?」って聞きたいんですよ。逆にみんな(日本)「心地いい?」みたいな。
——杉本(亘)さんと大井(一彌)さんが寡黙ですけど(笑)。今回のコラボレーションに関して言っておきたいことがあればぜひ。
杉本亘(以下、杉本) いや、本当さっき言った通り自分が手を加えた段階ではもう完全にイメージが出来上がってる中で、「ダメ押しで点決めて」みたいなところでパス渡された感じだったので、自分としては素晴らしい作品にしてくれてありがとうございますって感じですね。
コムアイ ええ? それ他人事だね(笑)。モンちゃんてあれなのかな、仕上げて聴けるものにするというか、トゲが耳に刺さらないようにするというか(笑)。聴けるトゲにするというか。
杉本 ありがとうございます(笑)。
池貝 じゃ、一彌は?(笑)
コムアイ 一彌くんはもうグッドバイブス。今はクールな顔してますけど、「コムちゃん最高だったよ〜!」って言ってくれるのが私は超嬉しい(笑)。
大井一彌(以下、大井) 最高です。今回の”生きろ。”に関して僕がやったことは、ラスト後半のビートが入ってからのハイハットのフレーズと、そのスウィングの値を決めることだったんですよ。ケンモチ(ヒデフミ)さんのトラックをいくつか聴いて、彼の使ってるグルーヴの値みたいなものがなんとなく統一したものを感じたので、その辺を意識して設定してみました。
——技術的な側面ですね。
大井 ケンモチさんのハットの裏みたいなものがすごくいいなと思ったので数値的に立ち上げました。ライブしても普段あの修行僧の声で音楽やってるので、女性のシャーマンの声が入る4つ打ちっていうものはすごく新鮮でした。全く違ったグルーヴが生まれて。すごく新しかったです。
コムアイ タイトルについても話した方がいいかも? まず死に寄せるか生きるに寄せるかが考えどころで。
池貝 死ぬ方を書いてるじゃないですか。それでも結局それって俺ら「生き延びろ」ってことが言いたいんだよね、最終的にはっていう話をしたね。
コムアイ そうそう。私がタイトルつけるんだったら、曲が言ってる通りのことを探してたんですね。でもガイくんが「生きるのがいい」って言ってて、『もののけ姫』のコピーで「生きろ。」っていうのがあって。
——ああ、まさに。
コムアイ 歌だけ聴いたら「生きろ。」って思い浮かばないかもしれないんだけど、私たちが思ってることは「生きろ。」だから。
EVENT INFORMATION
ガラパゴスツアー
2018.11.07(水)
東京・STUDIO COAST
START 19:30
¥4,500
2018.11.10(土)
北海道・サッポロファクトリーホール
START 18:00
¥4,500
2018.11.30(金)
大阪・味園ユニバース
START 19:00
¥4,500
2018.12.08(土)
沖縄・ナムラホール
START 18:00
¥4,500
詳細はこちら