きっと、この日のライブレポートやアプリ実装についての事細かな記事はすでに沢山記され、発表され、みなさんもその幾つかは目にしたに違いない。ここでは、あえてそれらと重複する事柄は避け、代わりに私のあの日の体感記を残すとしよう。

「言葉」について、「その使い方」について、「思っていることを全て口にするのは正しいことなのか?」、「ボタンの掛け違い」について、「美しい言葉」や「汚い言葉」について、「自治」について、「統制」について、「制御」について、そして、「暴走」について……。

ライブの帰路、非常に色々なことを考えさせられる体験であった。それも含めて、まだまだこの「新言語秩序」の物語は、今度はそれを委ねられた「私たち」の中で戦い続けていかなければならない問題であることを、あの日のライブは諭してくれた。

Live Report:amazarashi Live
朗読演奏実験空間“新言語秩序”

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11月16日に行われた、amazarashi Live<朗読演奏実験空間“新言語秩序”>。これは彼ら初の日本武道館公演であった。これまでこの日に向け、アプリ、ニューシングル、ポップアップショップ、MV等で、この「新言語秩序」への対抗運動の準備をしてきた私たちだった。

だがしかし、この日、自身のスマホを使ってのライブへの参加をはじめとして、当日施され、用意されていた仕掛けは、軽く我々の想像を凌駕しており、我々はスマホを片手に、それに飲まれ、身を委ね、言葉ゾンビ=新言語秩序からの解放同志として運動に参加してく体となった。

この日は、会場フロアの中央に配された4面の巨大な透過性のスクリーンの中ステージが組まれていた。いわゆるフロアライブ形式だ。以前、幕張で行ったライブの際と同様のスタイルではあったのだが、その各種との連動性が全くその際とは異なっており、前回がいわゆる受動的で一方的に浴びるしかないものだったに対して、こちらももちろん圧倒的な世界観の中、佇むしかない場面が多々ありながらも、押しなべてどこか、掲げられた「抵抗運動」への参加感覚があった。

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そして、その演奏は、朗読や間(ま)も含め、全てが物語を紐づけていく為に重要なツールとなっており、終演後にはそれらの打たれた点がキチンと線を結び、我々が次に動くべく地図となっていた。

対抗運動に参加すべく、すでにアプリをDL済のスマホを手に、この日のライブ会場に入った我々は、まずその参加準備の為、アプリ内に自身の座席番号を入力した。それが結果、ライブ中にかざしたスマホのライトと連動。ライブの演出の一部として、コントロールされているように自然と各々が光り出し、それが特定の楽曲の際にはページェントや模様、はたまた流れや広がり等として、会場全体を使った巨大な演出へと繋がっていった。

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ライブはまさに言葉ゾンビと新言語秩序の推進派とのいたちごっこであった。曲毎に四角いステージを囲む4枚のスクリーンにリリックや言葉が、Twitterや動画共有サイト、FacebookやInstagram等々、コメント欄やリプライ欄も交えた各種SNSを彷彿とさせる映像に現れる。

しかしそれらは、「不適切」な言葉と目され、ことごとく黒べたで修正と称した上塗りがされ、それは新曲のみならず、かつての歌のリリックにも規制がガンガンにかかっていく。その解除の際に用いたのが先のスマホであり、アプリであった。

また一方で、解除アラートが表示されたり、リリックが現れたり、またかざしたスマホライトが自然と光ったりと、いつの間にか携帯が何者かによって支配されているかのような感覚に陥っていた、当のスマホ。コントロールしていたはずが気づけばコントロールされていた。それこそ今回の施策の根本とも言えるトリロジーを身を持って体感することが出来た。

またこの日は、ライブや映像だけの内容ではなかった。すでに発表されている物語の各章が、ライブのブロック、ブロックで次章に進むかのように、秋田ひろむ本人による、時々の物語の朗読も挟まれ、あの独特の物語をストーリーテリングする、あの声で伝えられた。

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それらを繰り返していくうちに、舞台は最終的には某月某日の首相官邸前に。2万人の志を同じく集う者たちの中に私も居た。頭の中でではあったが、私もかつて狩られた言葉を殴り書きしたプラカードと、言葉を取り戻せとのシュプレヒコールの中、粗末なステージの上の「希明(きあ)」の歌を待っていた。そんな中、新言語秩序推進派の一人の女性がそのステージにまるでさらされるように引きずり出され挙げられた。希明に促された、その「実多(みた)」という女性は、まるで堰を切ったように“独白”を始めた。……そして、そこで歌われたのが、ニューシングルのM-3に入ってはいたが、検閲済と称され、歌がスクランブル処理やエフェクトされており、全く判別が出来なかった、その歌“独白”であった。

疾走感があり、最後に向けて昇華やカタルシス、そしてシフトアップ感を魅せるそのサウンドに乗せ、まるでこれまでため込んでいた、自身のトラウマや想い、気持ち、フラッシュバックや想い出の数々から、どうして自分が今のような人間になってしまったのかをサウンドに乗せ、まるで堰を切ったかのように、次から次へと言葉として吐き出され、放たれていった同曲。中にはあえて一般的や道徳観的に使ってはいけない言葉を交えた激しくもインパクトのある言葉たちも交え、吐き出され、それが完成を見せた同曲は聴く者にまことにカタルシスを与えてくれるものがあった。

そして、この曲は、当日、解放運動に参加した者に、アプリの中にまるでご褒美のようにダウンロードされ、楽しめるようになっていた。

この日は結果として、言葉を私たちの手の中に取り戻すことが出来た。そこには勝利的なもの、自由になれた感、解放感や正義を手に入れた感に満ちてはいたものの、どこか会場を出て、振り返ると考えさせられるものがあった。そんな秩序や道徳観、倫理観を問うプロジェクトであった。

そして、この日のラストにamazarashiのボーカル&ギターの秋田ひろむが朗読の最後の章で語った中のセリフ、「思っていることを全て口にするのは正しいことだとは私は思わない」について、色々と考えさせられた。きたない言葉、人を傷つける言葉。言葉は時として毛布にもなるが剣山にもなる。そして、そこまでを伝える目的がこのライブにあったことに、ここで改めて結実的な想いがした。

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結論は出ていない。結論はこれからの我々の行動や言動、過ごし方や気の使い方によって変わる。誰しもがあの最後の曲“独白”を、あの場で聴いた際に感じたはずだ。何もあえてあんな言葉を使わなくてもいいのに……と。そうあの言葉は、あの日、あの場所でしか存在しなく、音源からも歌詞カードからも抹殺されている。だがしかし、私の鼓膜の奥ではしっかりと今でも強く残っている。面白いものだ。

そして、この運動参加のご褒美と、言葉を取り戻した勲章の代わりに、後日この日のライブ写真と、前述の“独白”がストリーミング&歌詞が見られるようになっていた。ちょっとした、この日に参加したご褒美やお土産チックな感じだ。

結論を言おう。前回私は、「amazarashiを称するのに、『世界観』に変わる言葉をこの日のライブまでに見つけたい」と締めた。

しかしあの日、最後、燃え上がるような真っ赤に包まれたステージの上、何度も繰り返し、秋田が叫んだ「言葉を取り戻せ!!」のフレーズ。あの瞬間を称するのに、当日はやはり適当な言葉が浮かばなかった。

いや、正確には逆に様々な言葉が浮かんだ。浄化、昇華、成仏、漂白、色々と言葉を当てはめてはみたものの、どれも帯に短し襷に長しでもの足りない。何百語費やしてもやはりあの場を私は「世界観」以外に言い当てられる言葉を見つけることが出来なかった。

いや違う。やはり「セカイカン」で良かったと今は思っている。ただし、その「セカイカン」は「世界観」のみならず、「世界感」であり「世界完」であり、「世界間」や「世界勘」、「世界歓」もあれば、「世界甘」もあった。とにかく、改めてあの日のライブを観て確信した、amazarashiは、「圧倒的なセカイカン」を持つバンドであることを。

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「新言語秩序」/amazarashi

RELEASE INFORMATION

『リビングデッド』

2018.11.07(水)
<収録曲>
1.リビングデッド
2.月が綺麗
3.独白(検閲済み)
4.リビングデッド -instrumental-
5.月が綺麗 -instrumental-

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