アーバンな80’sサウンドに接近したブラッド・オレンジと、
敏腕プロデューサーとしての顔

ライトスピード・チャンピオンの活動と並行して、デヴ・ハインズが09年頃からスタートさせたプロジェクトがブラッド・オレンジだ(某国民的バンドのアルバム・タイトルとは無関係)。ほぼ同時期にロンドンからNYに移住していたようで、ファッションもTシャツ&キャップでストリート風にチェンジ。グリズリー・ベアのクリス・テイラーが主宰する〈テリブル〉より第1弾シングル“Dinner”をリリースすると、続くデビュー作『コースタル・グルーヴス』(11年)では、後にヴァンパイア・ウィークエンドやハイムのプロデューサーとしても名を上げるアリエル・レヒトシェイドをいち早く指名して、これまた過去の音楽性とは180度異なるグリッターな80年代風エレクトロニカを披露した。クリス・アイザック、ビリー・アイドル、プリンスといった先達を下敷きにしながら、YMO(!)にも影響を受けたというオリエンタルなビートも飛び出す折衷感の強いアルバムは、ファンや批評家からも称賛される。

ブラッド・オレンジ“Dinner”(Terrible)

見よ、同一人物とは思えないほどのルックスの変わりよう!

デヴがプロデューサーとしても手腕を振るい始めたのはこの頃だ。翌12年にはお騒がせのエレベータ ー・ガールことソランジュのEP『トゥルー』を全面プロデュースし、新世代のポップ・アイコン=スカイ・フェレイラの代表曲“Everything Is Embarrassing”をアリエルと共作。なんと、シュガー・ベイブスのオリジナル・メンバーであるムティア・キーシャ・シボーンの復帰シングル“Flatline”(13年)と、続くフル・アルバムのプロデュースも予定している。実はあのブリトニー・スピアーズにも楽曲提供する予定だったのだが、ブリちゃんの最新作『ブリトニー・ジーン』(13年)の収録曲からは惜しくもカットされてしまったようで、いつか日の目を見ることを期待。さらに、フランシス・フォード・コッポラの孫娘ジア・コッポラの初監督作品『Palo Alto』(13年・日本公開未定)ではスコアを書き下ろすなど、フィールドを問わず才能ある女性クリエイターたちを次々と惹きつけるのは、ひとえにデヴの音楽的トレンドを嗅ぎ分ける力と、フットワークの軽さがあってこそだろう。

Sky Ferreira“Everything Is Embarrassing” (Official Video)

これまた名曲! スカイちゃんは今年の<サマーソニック>に出演予定です。

最高傑作『キューピッド・デラックス』がリリース
デヴ・ハインズはプリンスの後継者となるか!?

そして、この度ブラッド・オレンジの2ndアルバム『キューピッド・デラックス』(13年)の国内盤が遂に届けられた。本国では昨年11月にリリースされるや否や、ピッチフォークで8.5というハイスコアを叩き出し、主要メディアのアルバム・ランキングでも軒並み上位を記録したデヴの最高傑作とも言うべき1枚だ。アーバンでメロウなミドル・テンポと、余白を残したサウンド・プロダクションはそれこそ最近のインディーR&Bと共振するものだが、何よりも驚かされるのがデヴのスウィートなヴォーカルと、メロディーメーカーとしての圧倒的なセンス。

ブラッド・オレンジ“チャマカイ”

iPodのCMでブレイクしたチェアリフトのキャロライン嬢がヴォーカル参加!

ニューウェイヴの文脈から軽やかにソウル、ファンク、ヒップホップを横断し、ジャジーな管楽器まで導入した今作にはダーティ・プロジェクターズのデイヴ・ロングストレスをはじめ、チェアリフトのキャロライン・ポラチェックや、カインドネスことアダム・ベインブリッジらも客演しており、デヴが新天地NYで育んできた交友関係の豊かさもうかがえる。あの〈アトランティック・レコード〉でスタジオ・ワークを学んだ大御所エンジニア、ジミー・ダグラス(ジャスティン・ティンバーレイク、ジェイ・Z他)がミキシングを手がけている点も特筆すべきポイントだ。近年はすっかり日本から足が遠のいてしまったデヴだが、今年4月の<コーチェラ>で体験したブラッド・オレンジのライヴは、下半身直撃のディスコ・グルーヴを軸に、ジミ・ヘンドリックスを彷彿させる超絶ギター・ソロまで飛び出す素晴らしいものだった。願わくば今回の国内盤リリースが、彼の再来日実現に少しでも近づくことになれば、これほど嬉しいことはない。

様々な楽器を弾き倒すマルチ・プレイヤーでありながら、ダンサーやコミック作家など多方面の才能を持ち、プロデューサーとしても引っ張りだこ――。デヴ・ハインズの活動を追うことは、そのまま音楽シーンの未来を先読みすることとイコールなのだ。誇張抜きに、彼がプリンスの後継者として認められるのも時間の問題だろう。

(text by Kohei Ueno)

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Release Information

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