80年代から90年代中期の、日本のゲーム・ミュージックに影響を受けた、あるいは影響を与えたアーティストたちが一堂に会したイベント<DIGGIN’ IN THE CARTS 電子遊戯音楽祭>。1か月に渡り開催された、日本の音楽に“翼をさずける”<レッドブル・ミュージック・フェスティバル東京2017>の最終日を飾った。
本イベントは、日本のゲーム・ミュージックの歴史や、その魅力を紐解くニック・ドワイヤー監督のドキュメンタリー映画『DIGGIN’ IN THE CARTS』(2014年公開)と、その映画を発端に英国のエレクトロニックミュージック・レーベル〈Hyperdub〉からリリースされた、同名のコンピレーション・アルバムに連動する形で誕生したもの。すでにロサンジェルスでも同様のパッケージで開催され、好評を博したという。ここ東京でも〈Hyperdub〉のヘッドであるKode9(コード9)を筆頭にChip TanakaやKen IshiiといったDJ陣、古代祐三&川島基弘によるライブセットなど、様々なアクトが金曜の夜を朝まで彩った。
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19時の開場と同時に、多くのオーディエンスが詰めかける。いわゆる「ゲーマー」と思しき人たちから、生粋のクラバーまでルックスも多種多様、かつ年齢層も幅広い。普段、クラブイベントなどではあまり見かけることのない光景だ。
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2階のフロア「LIQUID LOFT」にはサブステージが設置され、ゲーム音楽史/ゲーム史研究家の harry率いるhally Presents HALLY COLLECTIVESが、DJセットとパフォーマンスを展開。ちなみにHALLY COLLECTIVESは、『SONIC WINGS』などの作曲家・細井聡司や、『Rez』などの作曲家・杉山圭一、ゲーム・ライターのローリング内沢ら、錚々たるメンツによって構成されている。
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そして、その奥のブースでは楽器メーカーKORGらが、昔懐かしいゲームをモチーフとした新商品の、体験型デモンストレーションなどを行なっており、多くの人で賑わっていた。
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1階のメインフロアへ降りて行くと、すでにQUARTA 330のDJが始まっている。チップチューン・イベント<Lo-bit Playground>を主宰し、トム・ヨーク(レディオヘッド)やフライング・ロータスをも魅了する彼のプレイは、ゲームボーイなどでお馴染み8bitのチープなシンセ音と、ファットなビートの絶妙なブレンド具合が肝。音の抜き差しによって、日本の“侘び寂び”をも表現しているかのようだ。
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続いてChip Tanakaこと田中宏和が登場。任天堂のサウンドエンジニアとして、『ドンキーコング』(アーケードゲーム)や『MOTHER』(ファミリーコンピュータ)、『バルーンファイト』(ゲームボーイ)などの音源開発に携わってきた彼は、その味のある独特な風貌によって、ゲーマーたちの間でもカリスマ的な人気を誇るゲーム・ミュージック界のパイオニアだ。
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先だってリリースされた、彼のソロ・アルバム『Django』からの楽曲を中心に、時おり彼が制作したゲーム音楽を織り交ぜたプレイ。中盤で『MOTHER』の、ボスキャラとの戦闘シーンに流れる音楽“イナクナリナサイ”がスピンされると、どよめきに似た歓声が巻き起こる。そして後半は、『ドクターマリオ』や『バルーンファイト』など超人気曲を立て続けに繰り出し、フロアは阿鼻叫喚の渦へ。気づくと周りは、身動きがとれない程のオーディエンスでひしめき合っていた。
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マルチメディアアーティストの佐藤理は、VJチームのTEAM LSDとコラボし、プレイステーション用ゲーム『L.S.D』(1998 年)のライブAVショーを展開。
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これは、事前にSNSを通じて「自国の街を歩く」をテーマに映像を募集、それにより世界中から集まった様々な素材(車窓からの眺めや寺の境内、歌舞伎町、センター街のネオンなど)をTEAM LSDがエディットし、ステージ正面だけでなく左右の壁にも張り巡らせた、巨大スクリーンに投影していくというもの。まるでドラッグ・ムーヴィーのように、サイケデリックにうごめくその映像の中に身を委ねていると、本当に異国の世界をトリップしているような気分になった。
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