拠点をロンドンに移し、現在は活動照準を海外に置いているDYGL。7月から全国24ヶ所にて行ってきた全国ツアー<DYGL JAPAN TOUR>が10月19日(土)の東京・EX THEATER ROPPONGIにて完遂。大盛況の中、幕を閉じた。
9月中に行われたヨーロッパツアーを間に挟み、彼ら史上最大規模の東名阪ファイナルシリーズの終着地点でもあった同東京公演は、彼ら最大規模の会場ながらチケットは早々に完売。しっかりと現行の世界照準の雄姿を確認させてくれるものがあり、加えて作品からは伝わり切れなかった、各楽曲に込めた気持ちや気概、温度感をも含め、作品とは違った側面も楽しませてくれた。

今夏に発売された2ndアルバム『Songs of Innocence & Experience』は、従来の彼らの音楽性とはまた違った側面を感じさせた作品であった。漂うまどろみのようなサイケデリック感とリバーブ感、60’sUKのR&Bバンドたちのビート全体で躍らせるあの感覚や、80’sミッドなUKインディーズ、例えばC86年的センスがそこかしこから伺えた。
そんな同作品収録の全曲のプレイも交え贈られたこの日は、これまでの彼らの音楽性と、これらの要素の邂逅も興味深いものがあった。以下はその日のドキュメントにあたる。

LIVE REPORT
2019.10.19(SAT)@東京・EX THEATER ROPPONGI
DYGL “JAPAN TOUR”

 
 
ライブレポート|海外に拠点を移したDYGLが鳴らす世界標準のロック music1023_dygl_report_8033-1440x960

背後のニューアルバムのジャケットのバックドロップが見守る、まだ無人のステージ。開演定刻を10分ほど過ぎた辺りで、C86的なジャングリーギターの場内BGMがまだ流れている最中、会場の照明がスッと暗転を始める。特に登場SEの類いもなく真っ暗なステージにメンバーのNobuki Akiyama(Vo.&Gt. 以下、Akiyama)、Yosuke Shimonaka(Gt. 以下、Shimonaka)、Yotaro Kachi(Ba. 以下、Kachi)、Kohei Kamoto(Dr. 以下、Kamoto)のDYGLのメンバーに加え、サポートのHiroto Taniguchi (Gt,Key,Per 以下、Taniguchi)の姿が現れる。東京公演としては実に約1年ぶり、ジャパンツアーの実質のファイナルにして彼ら史上単独では最大規模の会場ながら、そこに特別感や待望感をあえて抱かせず、「ただいつも通り自分たちのライブを演るだけ」と言わんばかりのスタンスが、そこからは垣間見れた。

Akiyamaによる、くぐもったリバーブのかかったギターのイントロが場内に響き渡っていく。頭はニューアルバムの1曲目でもあった“Hard To Love”が飾った。最初期のジーザス&メリーチェイン(Jesus And Mary Chain)を彷彿とさせるあえて低めに歌うAkiyamaの歌声と新作独特のサイケデリック感に場内が早くもたゆたい始める。続く“Let It Sway”に入ると、そこにボーイズサマー感が加わる。フロントピックアップを利かしたウォームに歪んだネオアコ感でライブが走り出し熱を帯びていく。

ライブレポート|海外に拠点を移したDYGLが鳴らす世界標準のロック music1023_dygl_report_2393-1440x961

「久しぶりに東京に戻ってきました。いつもの会場とはちょっと趣きも違いますが、自分たちも好き勝手に楽しくやるし、あまり縛られたくないので、皆さんもお酒でも飲みながら好きに楽しんで下さい」とAkiyama。

ライブはさらに楽しく転がっていく。“Let’s Get Into Your Car”ではドライブ感が、続く“Spit It Out”では昨今の彼らから感じられた、KachiとKamotoが寄与するビート感とサイケ感も加味されていく。そして、ライブはガレージ方面へと矛先を転換。“Slizzard”ではShimonakaのロックンロールなギターソロが炸裂し、対して、これまで縦ノリだったフロアのリアクションから“Boys On TV”に移ると、その裏打ちのダウンビートとブリティッシュレゲエ的なケミカルなダブも織り交え場内に横揺れを育んでいった。

ライブレポート|海外に拠点を移したDYGLが鳴らす世界標準のロック music1023_dygl_report_7909-1440x2164

ライブレポート|海外に拠点を移したDYGLが鳴らす世界標準のロック music1023_dygl_report_7712-1440x959

中盤にはニューアルバムの曲群が配されていた。「今の常識やルールが生きにくい環境に憤りを感じてる。だけど言いたくても言えない、声をあげたくてもあげられない人たちの代わりに演奏します! 消費税10%に憤りを持っている人に変わり演奏します!」(Akiyama)と熱いMCから入った、“Bad Kicks”では、場内もその激情に感化。演奏が醸し出す、あえて荒く激情も露わにした捨て鉢感が場内を帯電させていく。

そして、それを一度クールダウンさせるが如く次曲のメローな“Only You(An Empty Room)”では、元々同曲が擁していた沈殿感や深海感と共に場内を心地よくたゆたわせていった。ここではKachiもあえて休符を多く起用。独特の余白や隙間、行間がオーディエンスに更なる自由さを寄与していくのを見た。

ニューアルバム同様、彼らの骨太さが味わえたのは“An Ordinary Love”であった。Taniguchiもグロッケン的な幻想的な音色を加え、同曲が元々擁していた生命力を更に高めていく。同曲ではKachiとKamotoが生み出すファンキーさが場内に躍動感を与え、終曲時には完全に光に包まれ至福に浸っている自分と出会えた。続いては、Kamotoがスティックからマレットに持ち替え、“Behind the Sun”がゆったりと流れ出していった。合わせてShimonakaのリバーブの深くかかったまどろみ感のあるメローなトレモロギターが会場にドリーミーさを寄与していく。

ライブレポート|海外に拠点を移したDYGLが鳴らす世界標準のロック music1023_dygl_report_8351-1440x959

ライブレポート|海外に拠点を移したDYGLが鳴らす世界標準のロック music1023_dygl_report_8157-1440x959

ライブレポート|海外に拠点を移したDYGLが鳴らす世界標準のロック music1023_dygl_report_8359-1440x959

「東京は昨年末以来。本当は1年前に今回のアルバムを出す予定だったんだけど、ちょっとこだわりすぎて思ったよりも時間がかかった。今回のアルバムは自分たちでも以前と違い、今の時代もあり自分たち以外の楽器もあえて取り入れた」とAkiyama。「進歩するが故に最初の足元を見失うこともある。どんな時でも自分の無垢な部分があるんじゃないか。自分のその無垢な感覚が自分を結果的には導いてくれるんじゃないかと信じている」と続け、そんな気持ちを込めて作ったとされる、こちらもニューアルバムからの曲“A Paper Dream”がジャングリーなギターに乗り現れる。

ポップで大合唱を起こさせる曲は続く。次曲“I’ve Got to Say It’s True“でもサビの部分は会場の大合唱が成立させた。また、Akiyamaがアコギに持ち替え歌われた”As She Knows“では場内に牧歌的かつ弾んだ雰囲気を広げ、次曲の”Thousand Miles“ではゆったりとしたアーシーさも加わり彼らのダイナミズムな面がアピールされた。

“Waste of Time”を皮切りにラストスパートに入ると新旧織り交じり、各曲毎に違った生命力や活力を場内に与え始める。“Nashville”が、ゆったりジワジワながらもこの日最大のスケール感を寄与すれば、“Come Together”では、Shimonakaもマニュアルでエフェクターをいじるシーンも交え、まるで包まれていくかのように神々しい光が会場中をここではない何処かへと誘ってくれた。

ライブレポート|海外に拠点を移したDYGLが鳴らす世界標準のロック music1023_dygl_report_8696-1440x2160

ライブレポート|海外に拠点を移したDYGLが鳴らす世界標準のロック music1023_dygl_report_8625-1440x959

ライブレポート|海外に拠点を移したDYGLが鳴らす世界標準のロック music1023_dygl_report_8962-1440x959

本編最後に入る前のAkiyamaのMCは、これまでの想いが堰を切ったかのように、とてもエモーショナルであった。それらを私的に要約するとこうだ。「世の中、どんどん内側に向かっていき、分断が深まっている気がする。自分もそれを見て見ぬふりをすることがあるけど、社会的、政治的なものに限らず、世界中がおかしな方向へと向かおうとしている。自分はこの先も風通しの良い文化を目指していきたい。音楽は自分にとってセラピーでもある。自分は自分にとって歌いたいことを今後も歌っていく!」。そう熱く長く語り、本編ラストの“Don’t You Wanna Dance In This Heaven?”へ。ループするシューゲイズ的なKachiのベースラインの上、音が感情となり熱を帯び、とてつもないエネルギーが放出されていく。場内もそれらに感化され起爆。まさに、シーンがエクスペリエンスからエモーションへと移りゆく様を見た。そんな中、プレイし終えた彼らはショートディレイによるフィードバック音を残し袖へと消えた。

ライブレポート|海外に拠点を移したDYGLが鳴らす世界標準のロック music1023_dygl_report_8651-1440x959

ライブレポート|海外に拠点を移したDYGLが鳴らす世界標準のロック music1023_dygl_report_8564-1440x959

ライブレポート|海外に拠点を移したDYGLが鳴らす世界標準のロック music1023_dygl_report_2422-1440x961

ライブレポート|海外に拠点を移したDYGLが鳴らす世界標準のロック music1023_dygl_report_2496-1440x2160

アンコールは2曲。それぞれ彼らの出自的なものを感じた。上半身裸のShimonakaも突如MCをふられ、「感慨深いツアーだった」と、今回のジャパンツアーを振り返った。そんなShimonakaのギターも特徴的な力強く感情が込もりエモさのある“Don’t Know Where It Is”では会場から無数のコブシが挙がり、それに感化されるようにShimonakaもKachiもステージ狭しと動き回りながらプレイ。最後はニューウェーブ的な歌い方に、前のめりでツッコミ気味のKamotoのドラミング、そしてロックンロールリバイバル的な“All I Want”が誇らしげに鳴らされ、とてつもない熱さを場内に生み出し、フィードバック音と、「凄かった……」の観後感を残し5人はステージを去った。

今後も彼らは22日(火)にはUSツアーを、11月5日(火)には今回のツアーのエクストラを渋谷CLUB QUATTROにて行い、その後、アジアツアーへと向かう。きっと今後も彼らは国内外を問わず、世界を照準にみた日本発のロックバンドの音楽を放ち、魅了していくことだろう。次にまたこの日本で逢うときは、もっともっと大きくスケール感豊かな彼らと出会えるに違いない。これからの彼らの飛躍がますます楽しみになった一夜であった。

ライブレポート|海外に拠点を移したDYGLが鳴らす世界標準のロック music1023_dygl_report_9283-1440x960

Live Photo by Yukitaka Amemiya
Text by 池田スカオ

SETLIST

01. Hard To Love
02. Let It Sway
03. Let’s Get Into Your Car
04. Spit It Out
05. Slizzard
06. Boys On TV
07. Bad Kicks
08. Only You(An Empty Room)
09. An Ordinary Love
10. Behind the Sun
11. A Paper Dream
12. I’ve Got to Say It’s True
13. As She Knows
14. Thousand Miles
15. Waste of Time
16. Nashville
17. Come Together
18. Don’t You Wanna Dance In This Heaven?

Encore
En-1. Don’t Know Where It Is
En-2. All I Want

ライブレポート|海外に拠点を移したDYGLが鳴らす世界標準のロック music1023_dygl_report_ap-1440x1853

DYGL

DYGL(デイグロー)は2012年結成、Nobuki Akiyama(Vo,Gt.)、Yosuke Shimonaka(Gt.)、Yotaro Kachi(Ba.)、Kohei Kamoto(Dr.)の4人組バンド。2017年4月にThe StokesのギターのアルバートハモンドJrのプロデュースで1st Album『Say Goodbye to Memory Den』をリリースし、日本を皮切りに、台湾、タイ、マレーシア、インドネシア、韓国とアジアツアーを敢行。その後、FUJIROCK FESTIVAL’17のREDMAQUEEのステージで5000人を集めてパフォーマンスを行うなど注目を集める。2018年に活動の拠点をイギリスに移し、精力的にヨーロッパツアーなどを行いながら、日本でも12月に行った東名阪札福ツアーはすべてソールドアウト。2019年1月にはアメリカのBAD SUNSとのヨーロッパツアーを成功させ、3月にはSXSW2019にて8公演を行う。今回約2年ぶりの2nd Full Album『Songs of Innocence & Experience』を7月にリリースし、FUJI ROCK FESTIVAL’19でのライブも国内外から高い評価を受ける。
現在アルバムツアー中。北米、EURO、アジア(日本を含む)で全52公演を敢行する。

HPTwitterInstagramFacebookSoundCloudYouTubeApple MusicSpotify

EVENT INFORMATION

DYGL “JAPAN TOUR EXTRA SHOW”

ライブレポート|海外に拠点を移したDYGLが鳴らす世界標準のロック music1023_dygl_report_japantour
2019.11.05(火)
OPEN18:00/START 19:00
東京・SHIBUYA CLUB QUATTRO
TICKET:SOLD OUT

ライブレポート|海外に拠点を移したDYGLが鳴らす世界標準のロック music1023_dygl_report_tour-1440x2028

US TOUR

2019.10.24(木)
The Wayfater コスタメサ
2019.10.25(金)
UNCOOL FESTIVAL V @ The Hollywood Palladium ロサンゼルス
2019.10.26(土)
UNCOOL FESTIVAL V @ The UC Theatre バークリー
2019.10.28(月)
No Fun ポートランド
2019.10.29(火)
The Sunset シアトル
2019.10.30(水)
Biltmore Cabaret バンクーバー

ASIA TOUR

2019.11.2(土)
Dudesweet バンコク
2019.12.04(水)
Clapper Studios 台北
2019.12.05(木)
This Town Needs 香港
2019.12.07(土)
Hou Live 深圳市
2019.12.08(日)
Mao Livehouse 広州市
2019.12.10(火)
Nu Space 成都市
2019.12.11(水)
Vox 武漢市
2019.12.13(金)
Vas Live 上海
2019.12.14(土)
Mao Livehouse 杭州市
2019.12.15(日)
Omni Space 北京

詳細はこちら